いまから20年ほど前のことだ。九州の2人の大ほら吹き(実際には大風呂敷)というコンセプトで、日経新聞系の記事をまとめたことがある。いずれも福岡県出身者で、ふたつの業界に打って出たばかりの若手社長である。ひとりは玉木康裕、タマホームを立ち上げたばかりの頃だ。もうひとりは孫正義、言うまでもなくソフトバンクの総帥だ。まだソフトバンクが港区のあまり大きくないビルの一角を占めていた頃で、ゲームバンクでの失敗なども話題になっていた。

いずれにしても、両社とも業界のトップグループに座を占めるようになったのだから、当時の日経担当者は慧眼というほかない。ソフトバンクのほうが世界的企業に発展し、タマホームも今後の10年をグローバルに展開するということだが、両社に差があるのは業態の違いであって、ゼロからの成功に変りはない。

今回は孫正義のソフトバンクとトヨタ自動車が提携した新会社について。そう、自動車のAI化とライドシェアに関して触れておこう。モータリゼーションで成長してきたわたしたちの社会が、今後どう変っていくのか。ここがAI化社会を占なう上で、最もわかりやすい素材だからだ。

 

自動運転車の安全技術ガイドライン(2018年9月国土交通省自動車局資料より)

◆どこまで進む? 自動運転

まず、何をもって自動運転というのか。である。運転状態をあらわすSAE(自動車技術会)のレベルで、0が運転手による操車、ふつうの自動車である。加速と操舵、制動のいずれか1つを自動化したものがレベル1。現状の自動ブレーキスステムがこれに当たる(単一の制御)。これが複数になるとレベル2。高速でのステアリング、速度の加減などが加わるとレベル3。ただし、レベル3は自動運転の継続が困難になった場合は、運転手がハンドルを握る。レベル4が高度運転自由化で、ただし運転領域が限定されるもの。高速道路に限定とかになる。そしてレベル5にいたり、運転領域も予備対応においても完全に自動運転(利用者の対応が期待されていない状態)ということになる。現在は各社レベル2の段階で、高速での運用が可能なレベル3~4が当面の目標とされている。

◆法的な障害はこえられるのか?

その昔、筆者がソフトバンクを取材したころは、道路の中央ラインにチップ(磁気マーカー)を埋めて、それを指標にステアリングを制御するという方法が採られていた。高速道路限定ならばそれも可能だが、一般道すべてにチップを埋めるのは不可能である。そこで自立型の自動運転のなり、制御チップをコクピット内の各計器に装着する方法となったのだ。すでに現在位置と目標案内で効果が確認されているGPS(衛星)の基本に、カメラとセンサーで周辺の確認、これらの情報をもとに人工知能による処理と命令が行なわれる。GPSとセンサーからの情報は、ダイナミックマップと呼ばれる高精度3次元地図となる。ここでは、すでにイスラエル軍で運用されているロボットカーの技術が突出しているようだ。ようするに無人兵器の応用である。自動運転はその意味では、すでに技術的にはほぼ完成している。あとは兵器とちがって、生身の人間を乗せる安全性だけなのだ。

とはいえ、法的な問題がある。一般人が公道で走行できる完全な自動運転車は、ジュネーブ道路交通条約で常時人間の運転が必要であると定義されている。万一事故が起きた場合の法的な責任はどうなるのか。議論はまだ始まったばかりだ。あるいは、人工知能はコンピューターだから不正アクセスされる怖れもある。ペーパードライバーが利用した場合の、緊急時の運転技能に問題はないのか。ペーパードライバーは乗ってはいけないとは、条例化できないであろう。またその技術力を判定する指標もない。

◆身体工学的な無理も

それよりも何よりも、運転という身体工学はどう考えられてきたのか。たとえば電車の心地よい振動で眠たくなるのと同様に、クルマの心地よい振動で助手席や後部座席の乗員は眠くなる。コクピットでも同じことが起きるはずだ。そもそもステアリングを握り、アクセルを踏み込むドライビングの快感によって、運転手はクルマと一体化する快適を感じる。人工知能が故障するのではないかと、不安を感じながらのドライブが愉しいのだろうか? こうしたことは何ら考慮されてこなかったのではないか。

文中に出てきた「ライドシェア」については別記事に改めたいが、簡単に触れておこう。文字どおりの意味で、相乗り(プールライド)である。なかなか日本人には馴染まない、初対面の人と乗り合わせるのは難しいとされてきた。これをアプリにしてビジネス化しようというのが、孫正義とトヨタの合作ということになる。トヨタはさすがにリーディングカンパニーで、自動車の売り上げが確実に落ちる、このライドシェアに乗り出すのだという。そういえば、同社が自転車活用のために社員を警視庁に出向させ、未来の交通システム(自動車と自転車の共存)の研究をさせているのを、筆者は知っている。内部留保などせずに、どんどん社会のためにおカネを使ってもらいたいものだ。


◎[参考動画]2018年10月4日【トヨタ・ソフトバンク共同記者会見】スペシャルトークセッション(トヨタグローバルニュースルーム2018年10月5日公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)

著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

衝撃満載『紙の爆弾』11月号! 公明党お抱え〝怪しい調査会社〟JTCはどこに消えたのか/検証・創価学会vs日蓮正宗裁判 ①創価学会の訴訟乱発は「スラップ」である他

横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)