「やや日刊カルト新聞」の「総裁」にして、業界ではカルト問題取材では、超有名人である藤倉善郎さんにお話を伺った。直接的にはオウム真理教関連集会での香山リカ氏による、取材妨害が話題になったことがきっかけであったが、「カルト」や「表現の自由」についての最新の情報をお伝えいただけた。カルト取材専門家が見る「しばき隊」の問題とは? 前回に続き第3回を公開する(全4回)。

 

『カウンターと暴力の病理』グラビアより

◆リンチで一線を超えた

── カルト性の濃淡で言えば(しばき隊は)かなり濃いところに位置しているということですね。

藤倉 外向けだけであれば、僕はそこまでは言わなかったんです。たとえばレイシストの側だってかなり攻撃的な奴ら、粗暴な奴らだったりするわけですね。そいつらとのやりあいの中で過激化していくのは、たとえば幸福の科学が過激な取材妨害をすれば、こっちだってオラオラってなるわけで、そこは差っ引いて見なきゃいけないとは思っていました。
 でもリンチまで行ってしまうと一線を超えましたよね。あれが起こったことで、濃淡のかなり濃い方に入ったんじゃないかと思います。左翼の組織にもみられますが、組織防衛上のカルト性はどうにも治らないんですよ。
 それ以外の部分ではカルト的ではない団体であっても。組織を守らなければいけない時にどこまでやっていいのか。組織を守るためだって、「ここは改めなきゃダメだろう」という判断だってできるようには基本的にはならない。言っても多分わからない、「そんなことをしたら運動が出来なくなる」と本人の中で正当化してしまうわけですから。

◆「ヘイトスピーチ規制」と称して、表現規制を強いる人たち

 

2018年9月15日付け「やや日刊カルト新聞」より

── 関係者に取材すると「どうして運動に分断を持ち込むことに興味を持つんだ?」、「なぜレイシストが喜ぶようなことを取材するんだ?」と複数のジャーナリストや知識人から異口同音に言われました。

藤倉 でも、そこをちゃんとしないと運動が欺瞞になってしまうんですよね。とくに人権に関する運動ならなおのことですね。自分たちが人権を侵害する側に回る場面は、1回たりともあってはいけないと思います。間違ってやっちゃうのは仕方ないけれども、やってしまった時にははちゃんと筋を通すことをやっていかないと。単に人権を口実にして右翼を叩きたいんでしょという話になってしまう。そう言われたときに、なんの反論もできないですよね。
 僕が今怖いのはヘイトスピーチ規制と称して、表現規制を有田芳生議員などがやらせようとしているんです。有田議員は欧州に倣った基準を日本で作れと主張しています。でも欧州はナチスのトラウマがあるので、完全に表現の自由とか思想の自由を無視してナチっぽいものには自由や人権を与えません。歴史修正的な発言をするとその発言自体が犯罪になります。SNSについても「ヘイトスピーチ」だと通報があれば24時間以内に削除しないと、SNSの運営会社が巨額な罰金を払わないといけない。24時間でとなると「藤倉による批判はヘイトスピーチだ」と通報したら、24時間でどちらが正しいかなど判断できるはずはないので、批判言論を潰したい側のやりたい放題になることは分かりきっていることです。
 それをやられるとヘイトスピーチの巻き添えが大量に発生するんです。そういう規制をやれと有田議員は主張していますが、大きな動きになってくるとまずいと思います。有田議員はやしばき隊の人たちも気が付いていないのは、あのような法律で規制されるのはレイシストだけだと思い込んでいるんですね。実際にはそんなことはない。
 東京都の迷惑防止条例が改正されてだいぶ厳しくなりました。一般市民のデモも規制できるような条文になってしまったので、非常にまずいんです。これは左翼の人たちが怒りました。ネトウヨたちが「ザマーみろ」と言いましたが、右翼のデモも左翼のデモもいくらでも規制できるわけです。結局規制される法律は「どちらも規制される」ということをわかっていない。従来の左翼運動などには、そういう部分の見定めをやっていた積み重ねがあったと思います。理論武装的な話です。でも新興の運動ではそういう基盤のない人達が上の方にのっかってきているのがよくないと思います。

大学院生リンチ加害者と隠蔽に加担する懲りない面々(『カウンターと暴力の病理』グラビアより)

── 旧来の左翼は国家権力に警戒心を持っていた。間違いもたくさんあったでしょうが、それを前提に色々考えていたと思います。しばき隊をリベラル・左翼と呼ぶ人がいますが、それは違うんじゃないかと思います。ごく基本的なことですが先ほどのお話であったように「人権を守る運動が人権を蹂躙したら存在意義がなくなる」とか「権力は必ず不都合なことは、それ自身ではなく別のところから弾圧をはじめる」のはいわば歴史的事実がありますね。

藤倉 その中でも迷惑防止条例やヘイトスピーチ関連の法律は、かなり直接的な内容だと思います。特定秘密保護法でフリーのジャーナリストがモノを書けなくなる状態はないんです。得られるべき情報が得られなくはなりますが。自分が考えていることが表現できなくなるわけではない。ヘイトスピーチ関連の規制は、誰かが「ヘイトスピーチだ」と言えば、消されてしまうんですよね。神奈川県の条例も「ヘイトスピーチ団体認定」を受けたらもう集会もさせてもらえない。昔の共産党とかだったら、大騒ぎして反対していた管理社会・警察国家への歩みを着々と歩んでるだけだと思います。

 

藤倉善郎(ふじくら・よしろう)さん/1974年、東京生まれ。北海道大学在学中に北海道大学新聞会で自己啓発セミナー問題についてのルポを連載。中退後、2004年からフリーライター。日刊ゲンダイなどで記者活動を行なう傍ら、自己啓発セミナー、宗教、スピリチュアルの問題、チベット問題、原発事故等も取材。2009年ニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(所属記者9名)を創刊し、現在同紙の「被告人兼総裁」。2012年に週刊新潮で幸福の科学学園の実態に関するルポを執筆し1億円の損害賠償を求めて提訴されるも完全勝訴。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社)

◆「民-民」の表現規制への危機感

── 東京五輪に目が向いている間に規制立法、規制条例を矢継ぎ早に進めようとしているのでしょうか。

藤倉 しばき隊との絡みで怖いのが、いわゆるしばき隊と呼ばれる陣営に立つ人たちは、直接人種差別をしていない人に対しても、自分たちが批判されると「お前レイシストだ」と決めつけがちな点です。差別の中には人種差別だけではなく宗教による差別もありますから、宗教についての批判が差別だとされると、有害なものにつての批判が出来なくなる。実際僕を訴えてきた裁判の中で、幸福の科学が「藤倉が書いた記事はヘイトスピーチだ」と主張した裁判がありました。ただその時点ではヘイトスピーチ規制法もなかったので、裁判所も相手にせず判決文にですら無視されていましたが、実際に幸福の科学がヘイトスピーチという主張を裁判所でやったというケースが既に出ていること。
 それから有田議員の主張するネット規制は、警察が直接摘発するのではない、というとこが怖いんです。SNSに関しては、民間業者を萎縮させることでヘイトスピーチを無くそうとする仕組みなのです。そうしたら「クレームが来たら取り敢えず消しとけ」という社会になります。かつて表現の自由は、官憲との間の話だったのですが、「民-民」の表現規制の構図が既に作られているんです。たぶんそこが分かっていない人たちが、表現の自由の重視する人の中にもいるんですよ。しばき隊にネットリンチされると表現の自由の危機を感じるけれども、民間の業者がルールと称してやっている変なことへの危機感がない人がいます。繰り返し口に出していかないと、いざとなった時、みんな理解できないのではないかと思います。(つづく)

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(鹿砦社特別取材班)

◎カルト取材専門家が見る「しばき隊」の問題とは?「やや日刊カルト新聞」藤倉善郎総裁に聞く!(全4回)
〈1〉2018年10月11日公開 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=27899
〈2〉2018年10月16日公開 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=27942
〈3〉2018年10月18日公開 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=27952
〈4〉近日公開

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