◆前回のあらすじ
現代は西欧文明の衰退により、中国やロシア、イスラームなどがその存在を主張し、国際秩序が再編されつつある。そのような変動に関わらず、相変わらずアメリカに身売りして「日米同盟はゆるぎない」と繰り返すことは時勢に対して鈍感である。最近、日本でインドネシアなどからムスリムが増え、その存在はもはや無視できない。しかし、多くの日本人はイスラームに対して「不可思議な宗教」という印象を持っている。しかし、今後はイスラームと日本の同盟に視野に入れるべきである。戦前の日本は国家を挙げてイスラームに友好的だった。
◆アメリカの「下僕」としての日本 日本政府・公安当局のムスリム敵視政策
話を今の日本に戻そう。国際政治学者のサミュエル・P・ハンチントンによると日本は、「日本文明」という独自の文明圏に属すという。この文明は、2世紀から5世紀にかけて中華文明から独立して成立した文明圏であり、日本一国のみで成立する孤立文明である。また、一国だけの文明でありながら複数の国で構成される大きな文明(中華文明や西欧文明など)と同等であるという。
しかしながら、今の日本は西欧文明のアメリカに服属する「朝貢国」「下僕」「臣下」である。米軍基地への「思いやり予算」や東京上空の飛行規制、辺野古移設の問題など、全く主体性は見られない。また日本政府も公安当局も「主君」であるアメリカ政府の「ご意向」に忠実に従い、国内のムスリムを敵視している。私の日本人ムスリムの知り合いから聞いた話であるが、2018年8月22日に京都市国際交流会館(京都市)で開かれた「犠牲祭」(アラビア語でイード・アル・アドハー。ラマダーン明けの祝祭の1つ)の会場には私服警官と見られる人物が会場周辺を徘徊していたという。また2010年10月には、警視庁公安部外事三課のデータファイル114点がネット上に流出、これによって公安が、在日ムスリムの尾行、モスクの監視、家族関係の調査、使用している金融機関などの民間情報の取得など、違法と言える捜査を行っていることが明らかとなった。
このように今の日本当局はイスラームを敵視しているのである。先ほど言及した戦前の、政府を挙げてイスラームを支援していた時とはまるで正反対である。2014年にイスラーム国に戦闘員としてシリアに渡航しようとした北大生が警視庁から事情聴取を受け、それをサポートしたとして日本人ムスリムでイスラーム学者のハサン・中田考氏も同様に事情聴取を受けた。中田氏は現在、公安の監視下にあるとされる。中田氏の本望とは異なるだろうが、もし戦前の軍部であったならば、世界のムスリムとネットワークを持つ中田氏を重用したかもしれない。今の日本当局のように敵視政策はとらなかった可能性が高く、中田氏が今のように冷遇されることはなかったかもしれない。
◆日本が知らぬ間に進むイスラームの復興運動 トルコ・インドネシア・インドでの動向
しかしこのような行いは、日本の外交的な選択肢を狭め、その将来を不安定にさせるだけである。衰退を続けるアメリカではなく、イスラームに目を向けるべきである。
近年、ムスリム諸国ではシャリーア(イスラーム法)に基づく政治を求める声が高まっている。その背景には、アラブ諸国に見られるような独裁政権による抑圧といった現状への不満がある。多くのイスラーム諸国では西欧式の近代化が成功せず、イスラームへの回帰を志向する声が強い。
その中心にいるのが、親日国のトルコである。その大統領であるエルドアンはイスラーム政党出身であり、ネオ・オスマン主義を採用している。ネオ・オスマン主義とはかつてのオスマン朝の伝統を再評価し、オスマン朝の中心地であった中東を21世紀のハートランドの中核とする考えである。オスマン朝のかつての支配地域である中東諸国、さらには民族主義の観点から同じチュルク系の中央アジア諸国や新疆ウイグル自治区も連携の視野にいれる。270万人に及ぶ(2016年地点)シリア内戦の難民を受け入れたことで、トルコはその地域での存在感を強め、さらに南アジアやインドネシアでもエルドアンを支持する声が高まっているのである(ただし、エルドアンは2016年の軍の一部の反乱を鎮圧後、強権的になりジャーナリストの投獄や自分の親族に官職を与えるなど、問題がないわけではない)。
例えば、インドネシアでは「Sahabat Erdogan」(インドネシア語で「エルドアンの友人」)というfacebookグループが存在し、その投稿にはエルドンを支持するインドネシア人がエルドアンの写真の隣でポーズを決めている。実際、私が知っている京都在住でインドネシアのマカッサル出身の男性は、エルドアンを評価していた。インドネシアは世界で最もムスリム人口が多く、2億人を超えている。また近年、急激に経済成長していることもありその存在感は極めて大きい。2007年にはジャカルタで国際カリフ会議が開催され、そこでは前述の中田氏がアラビア語と日本語で演説している。
◎[参考動画]国際カリフ会議で演説するハサン・中田考氏。動画の2:00から8:00が日本語での演説である(『INTERNATIONAL KHILAFAH CONFERENCE (Prof. Hasan Ko Nakata)』2019/2/10閲覧)
インドでも近年ヒンドゥー・ナショナリズムが高まっており、それに危機感を持つムスリムが外部に支援者を求めるようになってきている。その支援者としてトルコが選ばれ、ここでもやはりインドのムスリムとトルコとの間にはネットワークが形成されている。インドではかつて、反英闘争の中でヒンドゥー教徒がカリフ制を支持したことがある。
また、イスラームの学術界ではアラビア語に次いで英語が第二公用語となっており、インド亜大陸からは英語が堪能なムスリムが数多く輩出されていることもあり、インドのムスリムは国際的なイスラーム運動の中で大きな役割を担っている。
ムスリム人口数としても、少数派でありながらインドには1億7200万人以上(2011年インド国政調査)もいて、それはサウジアラビアやトルコ、イラン各国の人口よりも多い。インドもイスラーム世界で存在感は大きいのである。(つづく)
◎日本とイスラームの同盟 文明間の国際秩序再編の中で〈1〉
◎日本とイスラームの同盟 文明間の国際秩序再編の中で〈2〉
◎日本とイスラームの同盟 文明間の国際秩序再編の中で〈3〉
▼Java-1QQ2
京都府出身。食品工場勤務の後、関西のIT企業に勤務。IoTやAI、ビッグデータなどのICT技術、カリフ制をめぐるイスラーム諸国の動向、大量絶滅や気候変動などの環境問題、在日外国人をめぐる情勢などに関心あり。※私にご意見やご感想がありましたら、rasta928@yahoo.ne.jpまでメールをお送りください。