滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、男性患者(当時72)の人工呼吸器のチューブを抜いて殺害したとして、殺人罪で懲役12年が確定し、服役した元看護助手の西山美香さん(39)=同県彦根市=が申し立てた再審請求で、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は、裁判のやり直しを認める決定をした。3月18日付で検察の特別抗告を棄却した。裁判官3人による全員一致の結論で、事件発生から16年を経て再審開始が確定した。


◎[参考動画]「無罪判決に向け頑張る」 再審確定で西山さん涙(KyodoNews 2019/03/19公開)

最高裁での再審開始決定は、西山さんが冤罪被害者であることを、無実であることを明かすことになるだろう。このようなケースに接するたびに、ひとりの人間を犯罪者と決めつけ服役させたり、場合によっては死刑を言い渡した裁判官や検事、警察官の個人としての責任は問えないものか、といつも疑問がわく。職務として合法的な手段により無辜の市民に刑事罰を押し付ける。こんなことをされたらたまったものではない。仕事でひとを「罪人」と決め付けるのは「犯罪」ではないのか。

鹿砦社代表の松岡が、本人のFacebookで取り上げているが、アルゼ(事件当時、現在はユニバーサルエンターテインメント)により刑事告訴され、逮捕後神戸拘置所に192日も勾留された事件が、他人事ではくその恐ろしさを示している。

◎アルゼ(現ユニバーサル)岡田和生と私の15年戦争(2017年7月3日付デジタル鹿砦社通信)

◎【緊急NEWS!】私を嵌め逮捕―長期勾留―有罪判決を強い、鹿砦社に壊滅的打撃を与えた旧アルゼ創業者(元)オーナー・岡田和生氏の逮捕に思う(2018年8月9日付デジタル鹿砦社通信)

名誉毀損とされた書籍を読んでも、市民感覚からすれば「どこが名誉毀損になるのか」まったくわからない。松岡が書いている通り、アルゼの経営者には警視総監など警察関係者が天下りで就任していたので、実は警察に喧嘩を売っていたのが実情だったのが、逮捕勾留の理由だったのではないか。にしても出版による名誉毀損で逮捕をしなければならない理由がどこにあるというのだ。逮捕勾留は、証拠隠滅や逃亡の恐れがある場合にのみ認められる。松岡の場合、証拠は既に出版した書籍だから隠滅の手段はないし、会社の代表だから社員を放り出して逃げることもないじゃないか。

◆「りんご箱から腐ったりんご」を取り除く井戸謙一弁護士

西山さんの「冤罪」問題を井戸謙一弁護士から聞かされたのは、2年ほどまえだっただろうか。まだどのメディアもこの問題を取り上げておらず、本コラムでさまざまな事件についての取材を執筆している片岡健氏だけが追いかけていた。

◎滋賀患者死亡事件 西山美香さんを冤罪に貶めた滋賀県警・山本誠刑事の余罪(2018年2月16日付デジタル鹿砦社通信)

「実刑判決を受け服役中なんです。あとしばらくしたら満期です。田所さんも是非取材して書いてくれませんか」と井戸弁護士から説明と依頼を受けた。当時わたしは「M君リンチ事件」の取材に忙しく、残念ながら西山さんの事件には手付かずだった。あれから不思議なご縁で、井戸弁護士とはたびたび取材者として、関係者としてお目にかかったり、連絡をさせていただいたりするご縁をいただいた。

井戸謙一弁護士

3月20日、朝日新聞ほか多くの新聞の一面トップは西山さんの再審決定を報じている。19日の午後、井戸弁護士は西山さんの記者会見やその後の取材対応で忙殺されていたに違いない。その真っ最中に滋賀医大附属病院係争関係で、重大な事項が生じた。関係者が井戸弁護士に急報を告げると超多忙のなか「5分だけなら」と井戸弁護士は相談に応じてくださった。夜、関係者及びわたしが送ったメールへも短時間で返信いただいた。西山さんの再審決定の美酒に浸る猶予もなく原発事故被害者、冤罪被害者、刑事被告人、滋賀医大問題関係者……想像を越えるだろう数の人びとの相談に井戸弁護士は瞬時に判断を下す。

弁護士のなかには「かみそり」なんとかと持ち上げられたり、「人権派」と自他称し・されながら、その実暴利を貪り、あるいは「どうしてこんな事件のこんな当事者の弁護に就任するのか」と首を傾げたくなる言行不一致の人物が少なくない。裁判官時代に志賀原発の運転差し止め判決、住基ネット差し止め判決を下した井戸謙一弁護士は、法廷の中だけを見ている弁護士ではなく、事件や争いの本質がどこにあるのか。問題の核心はなにか。そのためにはどのような論理構成が必要で可能かを依頼者の立場で考え、アドバイスを与え、冒頭の西山さん冤罪事件を立件前の証言の変化から緻密に解き明かし、再審を勝ち取った。

たくさんの事件を受任しながら、井戸弁護士は滋賀医大附属病院問題に必ず、法を駆使した「メス」を入れるだろう。そのことが滋賀医大附属病院の腐敗解消の端緒となり、患者の命が救われると同時に、滋賀医大附属病院に勤務する、真面目で誠実な関係者への激励と名誉回復にも繋がるだろう。「悪貨は良貨を駆逐する」が「りんご箱から腐ったりんご」を取り除くことも可能なのだ。


◎[参考動画]〈湖東記念病院事件・再審確定〉元看護助手・西山美香さん会見(shiminjichi second 2019/03/19公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号!

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

日本人がアジアや欧米、南米で強盗や盗難、誘拐される事件は年に何度か報道で伝えられる。日本人がこれらの犯罪のターゲットになるのは「日本人=金持ち」だとの加害者側の意識があってのことでことだ。貧乏人を狙っても金品は盗めない。80年代から今世紀の初頭まで日本人は確かに、世界基準からすれば裕福な収入を得ていて、海外で犯罪被害のターゲットとなりうるだけの資格と名声を有していた。

◆「安すぎる日本社会」の誕生と「中流」の消失

 

◎カンボジアでハイヤー運転手を刺殺か 日本人2人逮捕(2019年3月18日朝日新聞/ハノイ=鈴木暁子)

さて、お蔭様とはいわないが、消費税が導入されて以来、日本は長らくデフレが続いており、大企業を除いて賃金は上がらず、非正規雇用労働者が爆発的に増えたことにより、決して「裕福」な国民が多数を占める国ではなくなった。

80年代にも安価な衣料品店がなかったわけではなかろうが、いまはユニクロで下着からジャケットまでをそろえても選び方次第では一万円でお釣りがくる。こんなに安く衣服を揃えることが80年代には一般的にはできなかった。庶民にとっても衣服はもっと高価だった。100円ショップがあちこちに開店し、幅広い品揃えで低所得層だけではなく、多くの人々が安価に商品を購買することができるようになった。

モノが安く買えるのはありがたい。けれども30年前と比べて同じものの値段が変わらないのは、総体として経済が成長していない(萎縮している)、賃金が上昇していないことの副作用でもある。だからかつてはオセアニアの国々を訪れると、土地からファーストフードまでが日本の物価と比較して、大雑把に半額程度であったけれども、豪州もニュージーランドも30年前から毎年着実に経済成長を続けているので、いま日本人がこれらの国を訪れたら、決して物価が安いとは感じないだろう。

6年前にニュージーランドを訪れた際にUSBメモリー(4ギガか8ギガ)を買おうと物色していたら、たしか4000円か5000円ほどの値段だった。あまりに高いので店員に「もう少し安く買える場所はないだろうか」と聞いたら「ない。ここはアジアじゃないから物価は安くないんだ」といわれた。完全にかつての「世界で2番目の経済大国」であった時代は過ぎ去り、日本は「アジアの一員」に収まるべくして収まったのか、と感慨を覚えた記憶がある。


◎[参考動画]カンボジアでタクシー運転手殺害か 日本人男ら逮捕(ANNnewsCH 2019/3/18公開)

◆「新自由主義」が生み出した「階級社会」の残酷

 

◎日本の年金生活者が刑務所に入りたがる理由(2019年3月18日BBC NEWS JAPAN/エド・バトラー)

わたし個人は経済成長至上主義者ではまったくないので、日本が分不相応に「金持ち」であった時代の矛盾(アジアをはじめとする諸国への経済侵略と搾取)に目を向ければ、現在の日本の下降傾向はある意味当然の帰結とも考えることができよう。ただ、問題であり、度外視できないのは、多くの国民が等しく収入の非上昇を被っているのではなく、一部にはめちゃくちゃに儲けている少数者の層が出来上がり、それ以外の人々との乖離が甚だしく拡大していることだ。「一億総中流」との言葉が20世紀のある時期、当たり前のように語られていたが、いまでは誰もこの国が「総中流」だなどとは感じていないだろうし、「中流」に至ることができない低所得者層がどんどん増加している。

このような所得を基準にした、国民の経済的状態の分布は自然に生じたものではない。逆進性元凶(金持ちほど優遇され、貧乏人ほど厳しい状況におかれる)消費税の導入とその税率の相次ぐ引き上げと、相反する所得税の累進税率緩和(高所得者にかけられる税率の低下)と法人税の引き下げ。そして何よりも「雇用の自由化」とのことばで示される「雇用主側の裁量の拡大」(派遣労働の解禁、ホワイトカラーエグゼンプション・実質残業代ゼロ)といった政策が、所得中間層を減らし、低所得層を増加させ、一部に特権的な趙富裕層を生み出してきたのだ。

このような政策の総体が「新自由主義」と呼ばれるものであり、「新自由主義」は現在も進行中であるので、これからますます日本では所得格差が広がり、分かりやすい「階級社会」が深刻に進行する。

 

◎[参考音声]Japan's Elderly Crime Wave(2019/01/31BBC音声レポート) https://www.bbc.co.uk/sounds/play/w3cswf65

「資本主義」自体はもともと「イデオロギー」があって、それを達成しようとする思想・行動の帰結ではなく、産業発展とともに貨幣経済が年々成長を遂げないと維持できない、いわば「状態」をあらわす概念ではないかと、わたしは考えている。「社会主義」や「共産主義」、「社会民主主義」は思想と到達目標を持つ「イデオロギー」を政策に反映させ、経済至上が必ず孕む「資本主義」の問題を解決しようと、考え出された「人為的」営為だ。「社会主義」・「共産主義」を標榜する国の多くは、権力独裁が産む問題の数々により、終焉を迎えたが、かといって放置すれば必ず「儲け第一」だけで暴走する「資本主義」が中長期的に見て社会的・世界的に優位かといえば、そのようなことはまったくない。

「資本主義は状態だ」と私見を述べたが、「資本主義の最終形態は新自由主義」である。「新自由主義」にも思想はない。大企業・多国籍企業や富裕層の所得・利益を最大化すること。それが最大のテーゼである。総合的な社会観や社会保障への考慮などは「新自由主義」のうかがい知るところではない。わたしたちが生活している「いま」はそういう時代の真っ只中であることを認識しておけば、政府が提供してくる政策の意図や、企業活動の将来がおのずから理解されるであろう。

「新自由主義」の被害者たちは、以下のようにここが先進国か、との疑問を呈せざるを得ないほど追い込まれる。カンボジアで日本人が殺されることはあっても、殺す側に回る日が来るとは衝撃であるし、年金で生活できない高齢者が自ら犯罪を犯し進んで服役を望む。ふたつの記事は「新自由主義」の社会がどう暗転するかをわかりやすく示している。

◎カンボジアでハイヤー運転手を刺殺か 日本人2人逮捕(2019年3月18日朝日新聞/ハノイ=鈴木暁子)https://www.asahi.com/articles/ASM3L3RGYM3LUHBI00M.html

◎日本の年金生活者が刑務所に入りたがる理由(2019年3月18日BBC NEWS JAPAN/エド・バトラー)https://www.bbc.com/japanese/47453931

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号!

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

日本国内にいるとそれほど気にならないことも、隣人には敏感に受け止められているようだ。隣人とは韓国の人々である。いま日本人は、意識的に米韓関係の危機を煽っているようだ。言い換えれば、アメリカに忠実なポチであることで日米同盟を誇ろうというものであろうか。隣人の云うところを聴こう。

「毎日東京の空気を吸いながら取材していて、このところ『韓米関係に問題がある』という発言をよく聞く。2月、かつて北朝鮮の核問題に関する6カ国協議の日本側首席代表を務めた藪中三十二・元外務次官の講演会に行ったが、ここでも韓米関係についての質問が出た。南北関係が進展したら在韓米軍の大幅削減や撤収が既定の事実となるのではないか、というもので、韓米関係に対する不信に根差した質問だった。同じく2月に慶応大学で開かれた北東アジア情勢に関する討論会でも、同様の言及があった。」(朝鮮日報)おそらく意識的に、日本の保守層が発信していることを、韓国のジャーナリズムは敏感にキャッチしているのだろう。


◎[参考動画]6カ国協議(ANNnewsCH 2017/09/19公開)※2年前の動画

◆アメリカのポチを競い合っていた日韓両国なのに

オバマ政権時代の朴政権下では、韓国の保守(反共・親日)系の論壇や報道で、日韓のどちらがオバマと親しいかという記事が中央日報や朝鮮日報の紙面を飾っていた。保守系各紙では、オバマの滞在時間が日本のほうが長かったこと、あるいはオバマが寿司を残したことなどもニュースになっていたものだ。基本的に反日ではあるが、韓米同盟を最重視し、いっぽうでは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との関係では日本も「友邦」であるという立場だった。

朴槿恵前大統領は父親ゆずりの親日家でありながら、反日を装うことで政権の求心力を維持してきたと言われている。いまや態度は180度変わった。朝鮮日報の云うところをさらに聴いてみよう。

「日本では、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は北朝鮮との関係ばかりを重視し、米国のトランプ大統領は全てをカネでしか勘定せず、同盟は危険水位に達しているという認識が広がっている。合同演習の中止で『カカシ』と化した韓米同盟の次の動きは在韓米軍の削減および撤収、と予想している。日本のある月刊誌が2月号の記事に付けたタイトルが、こうした雰囲気を象徴的に示してくれる。「韓国が壊す『アジアの秩序』:日米韓同盟『空洞化』の代償」」だと云うのだ。

アメリカとの親密さを韓国と競っているのは、日本も同様である。反韓・嫌韓の空気は、それをいっそう助長してきた。書店ではいまだに反日本や反中本が、その無内容な罵詈雑言のボルテージだけで売れているのが現状だ。そして韓国にたいする日本の優位の証しとして、アメリカとの親密な同盟関係が挙げられてきた。これは安倍政権の外交政策の基本路線である。安倍政権の支持率は虚構のアベノミクスとともに、この日米同盟の「揺るぎなさ」にあると言えよう。

しかしである。日本がアメリカとの同盟を誇れば誇るほど、東アジアにおける孤立は明らかである。今度は労働新聞(朝鮮労働党機関紙)の云うところを聴かないわけにはいかない。米朝首脳会談(トランプ・金)の決裂を受けての論調である。

「(米朝の)新しい関係を樹立して朝鮮半島に恒久的で強固な平和体制を構築し、完全な非核化へと進むことはわれわれの確固とした立場」としたうえで、共同声明も合意書も成らなかったことについて「唯一、日本の反動層だけはまるで待ち焦がれていた朗報に接したかのように拍手をしながら小憎らしく振る舞っている」「島国野郎たちは実に憎たらしく、ビンタをくらわせたい輩だと言わざるを得ない」と云うのだ。周知のとおり、わが安倍総理は米朝首脳会談にあたって、トランプ大統領に「拉致問題の解決を」議題にするよう電話で懇願した。


◎[参考動画]韓国・文在寅大統領と圧力強化で一致(ANNnewsCH 2017/11/23公開)

◆そして完全に孤立してしまった

「日本の反動層」が米朝会談に反対しようがしまいが、アメリカ政府の判断は変わらなかっただろうが、少なくとも日朝首脳会談などというものが、絵にかいた餅以前の課題であることは明らかになった。アメリカにすり寄り、ポチのように振舞うことによって、日本はますますアジアでの孤立を深めてしまうのだ。

朝鮮半島が分裂国家であるうえに、韓国もまた「反共」と「反日」の政治的分裂国家である。左派にかぎらず、右派にかぎらず、政権が代わるたびに元大統領が訴追され、あるいは暗殺・処刑される政治的分裂国家なのだ。いまその韓国文政権は、校歌や国家まで親日分子が作ったもの排除するという親日粛清、および「アカ」という言葉の追放に踏み込んでいる。

文大統領は三・一運動100周年の記念演説において歴史戦争に火をつけた。「日帝が独立運動家にレッテルを張った言葉」である「パルゲンイ(アカ=共産主義者)」という用語を「一日も早く清算しなければならない代表的な親日の残滓である」と云うのだ。

日本の報道機関は文大統領が「日本との新しい関係」に言及したことを奇貨のように報じたが、内容をまったく誤読している。行き詰った日韓関係は、歴史戦争の決着をぬきに一歩の前進もないことを、肝に銘ずるべきであろう。鳩山友紀夫前総理のように、従軍慰安婦像に額ずけとは言わない。少なくとも訪韓の努力をするふりくらいは、見せてもいいのではないか。東アジアに緊張感をつくり出し、それを政権維持の動力にするのは、いかにも危うい。


◎[参考動画]斎木外務次官続投へ(ANNnewsCH 2015/09/19公開)※4年前の動画

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

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殺人事件の現場というのは、そうだと知らなければ、何の変哲もない場所や建物にしか見えない場合がほとんど。そんな中、いかにも殺人現場らしい不穏な雰囲気を漂わせていた場所もある。

たとえば、2011~2012年頃に話題になった尼崎連続変死事件の現場がそれである。

◆灰色にくすんだ街並み

事件の発覚は2011年の秋だった。主犯と言われる角田美代子(当時63)らに監禁されていた女性が警察に駆け込んだのをきっかけに、尼崎市の貸し倉庫から女性の母親の遺体が発見された。さらに翌年10月には、平屋建ての民家の床下から3遺体が見つかり、大量変死事件として騒がれた。

美代子は複数の家族と同居し、虐待や殺人を繰り返していたとみられ、死者・失踪者は10人を超すと伝えられる。逮捕された美代子が留置場で自殺し、事件の全容解明は困難になったが、共犯者らの裁判では、髪をバーナーで焼いたり、タバコの火を押しつけるなどの凄惨な犯行が明るみになっているという。

筆者がこのおぞましい事件の現場に足を運んだのは、2015年の初夏のことだ。最寄り駅の阪神電車・杭瀬駅に降り立ち、関係現場を訪ねて回った。そしてまず感じたのは、街並みが灰色にくすみ、いかにも怪事件の現場らしい雰囲気だということだ。こういうことは珍しい。

◆3遺体が見つかった民家は更地に

そして駅から歩くこと数分で、3人の遺体が発見された平屋建ての民家があった場所に到着した。が、問題の家はすでにない。家の建物は跡形もなく取り壊され、更地になっていたためだ。

3遺体が見つかった民家は取り壊され、更地に

ただ、隣家のトタンの外壁が何やら異様な雰囲気を醸し出している。ふと見ると、更地に衣装ケースが置かれているが、それもまた不気味に見える。フタをあけると、ゴルフシューズなどが詰め込まれていたが、なぜ、こんなに場所にこんな物が・・・・・・と不思議な思いにさせられた。

一方、ベランダに「監禁部屋」と呼ばれるプレハブ小屋があった美代子宅のマンションは、この更地から歩いて数分の場所にある。

マンションから出てきた住人の男性に話を聞かせてもらおうと思い、話しかけたが、「その事件ならここやけど、話すことはないで」と冷たくあしらわれた。マンションの他の住民たちにとって、あのおぞましい事件はもう思い出したくないことなのだろう。

最上階に暮らしていた美代子宅を見上げると、ベランダの「監禁部屋」は撤去されていた。ただ、この強烈過ぎる事故物件に、他の誰かが再び暮らすことは無さそうに思われた。

最上階の左端がかつての美代子宅。ベランダの「監禁部屋」は撤去されていた

◆ドラム缶の遺体があった貸し倉庫も不気味な雰囲気

このマンションからさらに徒歩で数分の場所には、もう1つの遺体発見場所である貸し倉庫があった。この倉庫は、公園のすぐそばにあったが、外壁は錆びたトタンと黒ずんだコンクリートで、いかにも不気味な雰囲気だ。

現場の1つである貸し倉庫。遺体がドラム缶にコンクリート詰めされた状態で見つかった

この倉庫では、警察に駆け込んだ女性の母親の遺体が、ドラム缶でコンクリート詰めにされた状態で見つかったと報じられたが、いかにもそういうことがありそうな場所に思われた。

街を歩いてわかったことだが、この界隈はトタンの建物が非常に多く、街全体が時代の流れから取り残されているような印象だった。この街で暮らす人たちには失礼な言い方だが、尼崎連続不審死事件はこういう街だからこそ起きた事件だったような気がしてならなかった。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。新刊『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)が発売中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号!

◆タイ滞在の最後に

ノンカイに行く予定は、せっかくだからラオスまで足を延ばすかもしれない。メコン河を挟むと向こう岸に行きたくなるような気がした。有効期限が残る現在のビザが勿体無いが、タイ滞在に必要なお金の工面が都合つく範囲で出来ることをやっておきたい。念の為、ラオスビザは申請しておいた。

ムエタイ関連の仕事があってノンカイ行きは3月初めとなった。今度は全くの一人旅。比丘だったら移動手段において大概のことは優遇されるが、立ち振る舞いに気をつけねばならない。俗人となってはすべて自由だが、何ごとも自力で乗り切らねばならない。今回はすでに一度訪れている土地ばかり。どうにもならない事態にはならないだろう。

再びノンカイにやって来た。ワット・ミーチャイ・ターの門

仏門に居た試合ブランクも問題無く勝利したグルークチャイ

◆グルークチャイの出家

出発前日にグルークチャイが「ハルキがまた出家するなら俺と一緒にナコーン・シータマラートでやるか」と言っていた。彼も近く出家するんだな。アナン奥さんにも「ハルキ、また出家したいならグルークチャイと一緒にやる?」と言われる。聞くところによると、グルークチャイが行く寺はタイ南部の彼らの出身地であるナコーン・シータマラートにある、戒律に厳格な少数派タマユットニカイ、私が行ったワット・タムケーウは庶民的で大多数派のマハーニカイで全く格式が違う。タマユットニカイの寺にヒベのような下品な奴はいないだろう。“ニカイ”とは“派”と捉える解釈が分かりやすい。

いずれも私がやる訳ないだろうと見切っての誘いだろう。得度式は本当に自力で問答に応えねばならない。そしておそらく、副住職か10パンサーを超える役職に着くベテラン比丘による面談がある。私は希望しても入れないだろう。人格品格語学力、とても太刀打ち出来ない。

以前、藤川さんが言っていた話に、
「タイ仏教は日本とは違った宗派があって、ひとつは森林派で原始仏教に近い形で、世俗との関係を出来るだけ避け、森に篭り、己の成仏の修行に励む所と、本当に仏教を学びたい僧の為、勉強に力を入れる寺がある。あとは我々が居るような街へ降りて来て、もっぱら日常の宗教活動を行なうだけの寺に分けられるんや。格式のある寺は、なかなか他所者を入れてくれんが、タイの仏教では日本と違ってどこで修行しようと一度出家してしまえば、どこの寺でも泊めてくれるし、修行させてくれるから自分の意志でどこでも行けばええ。その修行寺によっては、托鉢で受けた食材はバーツの中に全部空けて、混ぜて食べるところもある。修行僧は、その日の修行の為の命を保てばいいだけや。料理を味や目で楽しむといった贅沢は無視や。ワシらにしたら味が混ざって食えたもんじゃないはなあ」

剃った眉毛はまだ薄く、精悍な顔つきのグルークチャイ

格式高い寺には刑務所より厳しそうな環境もあるようだ。タマユットニカイにも格差はあると思うが、私ではこれらの厳しい寺には行きたくないと思ってしまう。今更ながら、アナンさん宅は格式高い一族であると感じ取れた。

その一族であるグルークチャイの出家は1週間ほどだったようだ。一日の様子を聞くと、朝4時に1時間程の読経があり、托鉢に向かい、朝食後9時に短めの読経と学習、昼食後は自由時間だが、夕方に掃除があり、終わってまた1時間弱の読経、更に就寝前の夜9時に短めの読経があるという。その内容は聞いただけでは把握できないが、私の居た寺とは厳しさが違う赴きである。グルークチャイは和尚さんから、雨季のパンサー明けまで務めるよう勧められたが、「試合があるので戻らねばなりません」と言って当初の予定どおり還俗したようだ。

帰って来たグルークチャイの頭髪は元々短髪だから、剃った後でも違和感は少ないが、眉毛が薄いことだけで怖い顔つきに見えた。試合が終わって数日後の出家。そして寺に居た約10日間に関係なく次の試合が組まれていた。彼ら殿堂スタジアムの第一線級選手は3週間から4週間の間隔で試合が組まれていたが、還俗後バンコクに戻って2週間後に試合。プロとしてのブランクは空かないのだった。

◆貧乏旅行者として

それに対して私の呑気な旅は、とりあえずカメラバッグを担いで出発。バーツと合体出来る大きめの頭陀袋は比丘にとっては便利な袋だったが、カメラバッグとしては不便だった。アナンさん宅を出て、ノンカイに到着するまでは仏門とは関係ない貧乏旅行者の旅である。

フアランポーン駅から乗った夜行列車は、やっぱり比丘の巡礼とは違う雰囲気。プレッシャーの無いのんびりした旅の中だった。向かいの席に若いスペイン人男性が座って「これからラオスやカンボジアを回って日本にも行く予定なんだけど、どこが面白いですか?」と問い掛けられた英語を何とか解読できたぐらいの苦労しかない。観光地を巡るだけなら感動の発見は少ないかもしれないな。私がタイに居て一般の観光客とは違った体験が出来たのは、当初からムエタイジムに長期滞在したこと。直接本音の選手や近隣住民と接する毎日だった。これは仏門でも同じだった。

このスペイン男性も日本のどこか田舎でホームスティでもして、農家や牧場の生活を体験すれば面白いと思うが、まず私は英語がほとんど出来ない。相手が日本語が出来るなら、藤川さんだったら次から次とお勧め話や勧められない話がドンドン出てくるだろう。今後も英語をしっかり勉強するとは思えない私ではあるが、言葉と社交性は大事だなあと思う。

終着、ノンカイ駅に朝7時20分に着いた。この日はなんとこの列車の窓越しまでトゥクトゥクの客引きがやって来た。スペイン人は「これからラオスに向かう」と言う。私は歩いて数分の寺に行くだけだからトゥクトゥクは無視する。でも運ちゃんらはとにかくしつこい。歩いて進むとトゥクトゥクの方から止まって問いかけてくる。「もうすぐそこの寺だ!」と何度言ったことか。前回着た時よりしつこいな。思えば前回は黄衣、今回はシャツとズボンだからこれが当たり前なのか。

再びノンカイ駅の最先端に立つ

◆反省を持ってワット・ミーチャイ・ターに向かう

ワット・ミーチャイ・トゥン側の看板とノンカイ駅最先端の路地入口

改めて思う、安易に出家などしてはいけなかった。「何も覚えなくていい」と言われても必要最低限の常識を知っていないと対応を間違え、寺に迷惑が掛かる。私の考えも甘かったが、導いてくれた藤川さんには感謝しなければならない。藤川さんに出会わなかったら、出家してノンカイにまで来ることはなかっただろう。寺で過ごす考え方が違っていたと思うが、このノンカイに来た時のようにもっと藤川さんとは笑い話がしたかったし、細かい注意をして欲しかった。

私の前に新たに日本人出家志願者が現れたら、私がやって欲しかったこと細かな指導をしてやりたいと思う。黄衣の纏い方、在家信者さんとの接し方、バスの乗り方、飛行機の乗り方、街で国歌吹奏に出くわした場合の対応、一人で食事しなければならない時、他所の寺に泊まりにお願いする時など、日常起こり得ることの対処法は教えておくべきだろう。

今回は比丘ではなく呑気な旅行者ながら、また寺に泊めて貰えるならば、プラマート和尚さんには今後のことも相談してみたい期待を持ってワット・ミーチャイ・ターの門を潜ることになる。

トゥクトゥクの客引きは相変わらず煩いが、乗る側は便利で助かる地元の足

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

衝撃最新刊!月刊『紙の爆弾』4月号!

上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

JOC会長竹田恒和の退任がどうやら確実になったようだ。「東京2020年」欺瞞の根源がいよいよ正面から問われる局面を迎えた。さて、この重大事態に竹田氏以外の関係者はどう弁明するだろうか。どう身を処すか。主たる関係者を挙げてみよう。

森喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長、同委員会名誉会長御手洗冨士夫(日本経済団体連合会名誉会長、キヤノンCEO)。同委員会の理事には、アイドル商法の頭目、秋元康の名前が目に留まる。その他多くの元スポーツ選手が名を連ねているが、彼らを責めるのはやや気の毒な面もあるだろう。

逆に絶対に忘れてはならないのは「2020東京五輪招致演説」で「過去も現在も未来も放射能はブロックされていて健康被害は皆無だ」と言い放った、常習虚偽発言癖の安倍晋三の責任である。そして「スポンサー」として「東京2020」に名を連ねる大企業群と全国紙を初めとしたマスコミ。ボランティアという名の「ただ働き」に学生を誘導する、文科省とそれに諾々と応じる大学たち。その他全ての官庁、行政組織が「東京五輪」の神輿担ぎに分担された役割を着々とこなしている。


◎[参考動画]安倍晋三総理大臣のプレゼンテーション IOC総会(ANNnewsCH 2013/09/08)

◆「欺瞞だらけ、嘘だらけ、欲得だらけ」の象徴

あちこちが尖っているので、触ると切り傷を負いそうな「東京五輪」のシンボルマーク。東京五輪は「欺瞞だらけ、嘘だらけ、欲得だらけ」を象徴し、その本質に触れようとすると怪我をするように、あえてあのように刺々しい意匠が準備されたのだろうか。護身体勢で丸まり、敵に触れさせまいとする「針ねずみ」のように「本質を尽かせない」精神的効果を狙った防御的武装形状をあのデザインから感じ取る感性は、過敏すぎか。その意図は大筋で成功しており、「復興」と何の関係もない「東京五輪」があたかも、被災地になにものか有益をもたらすような誤解と世論誘導は、マスコミ上で抜かりなく展開されている。


◎[参考動画]原発事故に関する安倍総理の答え IOC総会質疑応答(ANNnewsCH 2013/09/08)

ところがスポンサーに名を連ねる朝日新聞が被災地のひとびとを対象におこなった世論調査では「五輪は復興に結びつかない」と感じている人が過半数を越えている、との報道がある。表面上は繕えても、真実は変わらないのだ。どれほど熱心に空疎な言葉を日々流し続けても、被災地で生活苦に直面している方々にとっては、「復興五輪」などとの枕詞は現実とまったく結びつかない。事故前の原発立地などとは異なり「交付金」などで、恒常的に中毒性の「うまみ」があるわけでもない。

利用しようとしているものたちと、無自覚に利用されているひとたちを除けば「復興五輪」など、言葉を尽くして糾弾すべき道義的犯罪であり、経済的詐取である。当の被災地のひとびとは肌身にしみてそれを実感しているのだ。

私は「東京五輪」へ向けた準備が着々と進行し続けても、この道義的大犯罪への糾弾を変更したり、撤回するつもりはまったくない。騙す側は財力が豊かで、組織力も権力も有し、系列企業に勤務するひとびとの口封じを無言で強制する。純粋な競技としての「スポーツ」を纏うことにより、本音である「金儲け」、「総動員体制の強化」、「常時管理・監視社会の完成」を目的とする推進者たちの本音は、濃霧のかなたにおぼろげにしか確認できない。

美辞麗句(復興)、非政治性(スポーツ)を最大限活用しながら総動員体制は、奴らの意図に沿いますます強化が進む。乱暴に単純化すれば「東京五輪に賛成・加担することは翼賛体制に積極的に加担すること」だと決めつけることだって、社会科学的には可能だろう。

ようやくそのことにひとびとが気づくチャンスが訪れた。日常は欺瞞によって塗り固められ、真実は隠される。悪意が「聖典」を叫んでいる。天皇制とも極めて近しい問題をはらむ「東京五輪」総体の的確な理解が進めば、推進者や賛同者に対するまなざしには変化が生じるはずだ。

竹田会長が辞任に至っても疑問を呈することができない感性であれば、それは「絶望」と同程度の惨劇に等しい。


◎[参考動画]安倍総理NYで大胆発言連発「右翼と呼びたいなら・・・」(ANNnewsCH 2013/09/26)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号!

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

滋賀医科大学医学部附属病院(以下、滋賀医科大病院)で岡本圭生医師による前立腺癌・小線源治療を受けた患者や治療の順番を待っている患者らでつくる小線源治療患者会(以下、患者会)のメンバー4人が、3月13日、国会議員と根本匠・厚生労働省に対して、それぞれ別個に2万8,189筆の署名と嘆願書を提出した。同病院が告知している岡本医師による小線源治療の中止を撤回させ、継続させる方向で、政界の支援と行政指導を求めた。

患者会が3ヶ月で集めた2万8,189筆の署名

本ウェブサイトで報じてきたように、滋賀医科大病院は、前立腺癌の治療で卓越した成果を上げてきた岡本医師による小線源治療を、今年の6月末で打ち切り、7月からは手術を受けた患者の経過観察だけに切り替える。新規の患者は受け付けない。そして今年一杯で前立腺癌小線源治療学講座そのものを廃止して、岡本医師を解雇する。

そのために岡本医師の治療を強く希望しながらも、順番遵守の原則で手術の予約ができない患者が増え続けている。すでに30名を超えている。手術を受けた患者も経過観察が受けられなくなる。患者会による今回の嘆願は、こうした事態の打開を求めて行われた。

嘆願メンバーの患者会、代表幹事・安江博さんは、次のように現在の異常事態を訴えた。

「一番問題なのは、滋賀医科大病院に対して他の病院から治療の依頼がきているにもかかわらず、治療を断り続けていることです。滋賀医科大病院には治療ができる岡本医師がいるし、施設もあります。治療を希望している患者さんがたくさんいるにもかかわらず治療を拒否しているのです」

紙の爆弾のグラビアを示し説明する安江さん

 

議員への陳情

◆死への秒読みの恐怖にたえる日々

岡本メソッドに最後の希望を託していながら治療予約のできない2人の前立腺癌患者も、みずからの胸中を議員や官僚に訴えた。このうち東京都在住の山口淳さんは、昨年10月に癌の診断を受けた。転移するリスクが極めて高い癌だった。

「医師に5年生存率を尋ねると、70%といわれました。最初、前立腺癌は慌てなくてもいい病気だと思っていましたが、調べていくうちにそうではないことが分かってきました。暗い気持になりました。将来のことを考えると眠れなくなり、食事もすすまなくなりました。体重が7キロ減りました。必死で治療できる医師を捜したところ、高リスクでも再発率が3%程度の治療をする病院があることを知ったのです。それが滋賀医科大病院でした。岡本先生による治療だったのです」

有名で人望に厚い医師なので、はたして初診を受けることができるかどうか山口さんは不安で一杯だった。しかし、メールを送ったところ、すぐに岡本医師から返信があり、11月に初診を受けることが決まった。

「その時は、本当にほっとしました。やっと死から脱出できると安堵したのです。食欲も、体重も戻りました」

ところがその後、2019年の6月以降は岡本医師の治療が廃止になると告げられた。一度は命拾いしたと確信したのに、無惨にも再び絶望の底へ突き落とされたのだ。
山口さんは、現在、別の病院でホルモン治療を受けながら、滋賀医科大病院が方針を見直すのを待っている。が、そのホルモン治療も2年ぐらいが限度だと言われている。死への秒読みが始まっているのである。

 

記者会見風景

◆「きちっと癌を治せる治療を受けさせて」

山口さんと同じく東京在住の木村明(仮名)さんも岡本メソッドを希望しながら手術予約ができない患者のひとりである。昨年の9月、4段階に分類される癌ステージの「2」に該当する中間リスクの癌と診断された。木村さんが言う。

「わたしの場合、高リスクではありませんが、確実に再発しないように癌を治したいという強い希望があり、いろいろインターネットを検索したところ、岡本医師の存在を知りました。岡本先生に直接メールを送り、10月に1回目の診察を受けました」

患者にとって治療後のQOL(生活の質)を度外視することはできない。たとえば前立腺癌の摘出手術を受けた場合、尿もれなどの後遺症が頻繁にみられる。癌そのものは征服できてもQOLのレベルが低くなることがあるのだ。木村さんは、QOLを重視して、岡本メソッドを求めたのだ。ところが予想外の展開になる。

「12月に2回目の診察を受けたときに、『申し訳ないが、自分が治療できるのは6月末までで、木村さんは間に合わなかった』と言われました。わたしだけではなく、ほかに何十人もそういう患者さんがいるとも言われました。初診すら病院側から拒否されている患者さんもいるとのことでした。6月で治療が中止になると、わたしも他の患者さんも困ります。きちっと癌を治せる治療を受けさせてほしいというのが願いです」

◆責任を問われるべきなのは泌尿器科の医師たち

滋賀医科大病院で、起きている異常実態の発端は、泌尿器科の医師による不適切な医療にある。2015年1月、同病院は岡本医師を特任教授とする小線源治療学講座とそれに併設する外来を開いた。ところが同講座を下部組織にすることを目論んだ泌尿器科が、岡本医師を頼ってきた患者の一部を泌尿器科に誘導。独自に小線源治療を計画し、手術の前段で不適切な医療を行ってしまった。医師らは、小線源治療の手術経験のない素人だった。

滋賀医科大の塩田浩平学長は、被害を受けた患者の治療を岡本医師に命じた。しかし、被害を受けた患者らは怒りが収まらずに告発の動きにでた。そこで患者の口を封じるために、病院は小線源治療学講座の終了と岡本医師の追放を計画したのである。本来、両者はまったく別の問題なのだが。

◆寒空の下の署名活動の果実

こうした実態について岡本医師の治療を受けた体験を持つ、原田勝一(仮名)さんは、次のように訴えた。

「本来、病院から排除されるべき人物は、不適切な医療を行った泌尿器科の教授らであって、被害にあつた患者さんを救った岡本先生ではありません。岡本先生こそ滋賀医科大病院に残って患者さんの治療を続けるべきですが、現実にはまったく逆で、泌尿器科の医師らはなんのお咎めも受けていません。患者を助けた岡本先生が逆に排除されようとしています。まったく非常識なことが滋賀医科大で起こっているのです。こうした滋賀医科大病院のやりかたに疑問を持った方がたくさんおられて、それが2万8,000筆を超える署名になったのです」

 

厚労省課長申し入れ

署名は患者が中心になって、寒空の下、3カ月という短期で集められた。駅頭などで街宣活動を繰り返し集めたのである。

署名と嘆願書を受け取った厚生労働省の北波孝・厚生労働省医政局総務課長は、「出来ることと出来ないことがありますが、 こういう嘆願があったことは滋賀医科大病院へ伝えます」と、約束した。

なお、厚生労働省への嘆願に先立って、参議院議員会館で行われた国会議員に対する嘆願では、次の国会議員の秘書が、患者会の4人に対応した。

こやり隆史・参議院議員(自民党)
足立信也・参議院議員(国民民主党)
山下芳生・参議院議員(共産党)
三ツ林裕也・衆議院議員(自民党)
櫻井 周・衆議院議員(立憲民主党)

◎患者会のURL https://siga-kanjakai.syousengen.net/
◎ネット署名へもご協力を! http://ur0.link/OngR

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▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
フリーランスライター。メディア黒書(MEDIA KOKUSYO)の主宰者。「押し紙」問題、電磁波問題などを取材している。

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号 前立腺がん患者による“史上初”の仮処分申立て 滋賀医大病院は治療を妨害するな!他

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 総力特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

小室圭氏の母親の金銭問題は、どうやら解決しそうにない。たかが400万円、返せばいいではないかという論者もいるが、そうできないから事態は混迷しているのだ。誰かが肩代わりすればよい(漫画家の小林よしのり氏が申し出た)というものでもないだろう。借金を返さないことが問題にされているのだ。いやしくも皇族の一員となる人物の、社会的な評価が問題にされているのだから──。

 

『おめでとう眞子さま 小室圭さんとご結婚へ 眞子さま 佳子さま 悠仁さま 秋篠宮家の育み』(サンデー毎日増刊2017年9月30日号)

ひるがえって考えるに、皇籍は離脱する(平民になる)わけだし、いっそ婚姻に先立って皇族であることも否定してしまえば、ふたりは一緒になれる。そう、問題にされている「納采の儀」は皇室の伝統的な行事ではあっても、皇室典範に規定されたものではないのだ。つまり公式の行事ではなく、天皇家の私的な祭儀なのである。そうであれば、ふつうに平民としての婚約をすればいいのではないか。

いや、婚約(結納)などという形式をはぶいても結婚はできる。皇籍離脱にさいしての一時金さえ拒否すれば、税金を身勝手な恋愛に使ったという批判も形を成さないであろう。ましてや、巷間噂されている「準皇族にふさわしくない」などという批判も当たらない。そもそも「準皇族」とか「準皇室」という言葉は、皇室典範にも過去の禁裏の事例にもないのだ。皇位(王位)を拒否してまで、みずからの愛をつらぬいた例は、わが王朝が典拠にしてきたイギリス王室にはある。そう、エドワード8世である。その偉大な生涯をたどってみよう。

◆世紀の大恋愛

エドワード8世は、1894年にジョージ王子(後のジョージ5世)とメアリー妃の長男として生まれた。第一次世界大戦が勃発すると、陸軍のグレナディアガーズに入隊。一兵士として最前線に派遣するよう直訴したが、陸軍大臣であるホレイショ・キッチナーが、王位継承権第1位にあるプリンス・オブ・ウェールズが捕虜となるような事態が起こればイギリスにとって莫大な危害が及ぶとの懸念を示したことから、拒否されることとなった。

エドワードは最前線を可能な限り慰問に訪れ、これによりミリタリー・クロスを授与され、後に退役軍人の間で大きな人気を得ることに繋がった。1918年には空軍で初めての飛行を行い、後にパイロットのライセンスを取得ている。1922年に来日している。 大戦後は海外領土における世論がイギリスに対して反発的なものになるのを防ぐために、自国領や植民地を訪問した。訪問先では度々絶大な歓迎を受けた。いっぽうでは失業問題や労働者の住宅問題に関心を寄せている。国内外を問わず大変な人気者となった。

1936年にキング・ジョージ5世が死去すると、独身のまま王位を継承。即位式には既婚者で愛人のウォリス・シンプソン夫人が立会人として付き添った。王室関係者がウォリスを友人扱いしたため、エドワード8世はウォリスに対して「愛は募るばかりだ。別れていることがこんなに地獄だとは」などと熱いまでの恋心を綴ったラブレターを送った。ウォリスと王室の所有するヨットで海外旅行に出かけたり、ペアルックのセーターを着て公の場に現れるなどしている。そしてついには、ボールドウィン首相らが公人たちが出席しているパーティーの席上で、ウォリスの夫アーネストに対して「さっさと離婚しろ!」と恫喝した挙句に暴行を加えるなどといった騒ぎまで引き起こした。カッコいい。

ウォリスのほうも離婚手続きを済ませ、いつでも王妃になれるよう準備をしたが、エドワードとの関係を持ちながら、駐英ドイツ大使のヨアヒム・フォン・リッベントロップとの関係があったと取りざたされた。夫がある身で二人の恋人って、この女性もすごいね。


◎[参考動画]エドワード8世 世紀の恋

エドワード8世はウィンストン・チャーチルと相談し「私は愛する女性と結婚する固い決意でいる」と国民に直接訴えようと、ラジオ演説のための文書を作成する準備をしたが、ボールドウィン首相は演説の草稿に激怒した。首相は「政府の助言なしにこのような演説をすれば、立憲君主制への重大違反となる」とエドワード8世に伝えた。チャーチルは「国王は極度の緊張下にあり、ノイローゼに近い状態」であるとボールドウィン首相に進言したが、首相はそれを黙殺した。さらには事態を沈静化させるために意を決し、「王とウォリス・シンプソン夫人との関係については、新聞はこれ以上沈黙を守り通すことはできない段階にあり、一度これが公の問題になれば総選挙は避けられず、しかも総選挙の争点は、国王個人の問題に集中し、個人としての王の問題はさらに王位、王制そのものに対する問題に発展する恐れがあります」という文書を手渡し、王位からの退位を迫った。

この文書をきっかけに、エドワード8世は退位を決意したといわれている。正式に詔勅を下し、同日の東京朝日新聞をはじめとする日本国内の各新聞社の夕刊もこのニュースをトップで報道した。同日午後3時半に、ボールドウィン首相が庶民院の議場において、エドワード8世退位の詔勅と、弟のヨーク公が即位することを正式に発表したのである。

エドワード8世はBBCのラジオ放送を通じて、王位を継承するヨーク公への忠誠、王位を去ってもイギリスの繁栄を祈る心に変わりはないことを国民に呼びかけた。自分は王である前に一人の男性であり、心のままに従いウォリスとの結婚のために退位するのに後悔はないとした。在位日数はわずか325日だった。この一連の出来事は「王冠を捨てた愛」あるいは「王冠を賭けた恋」と呼ばれた。まことに、世紀の大恋愛というにふさわしい一幕ではないだろうか。


◎[参考動画]King Edward VIII’s Abdication Speech

◆禁忌の愛

このところ、女性週刊誌が「眞子さまの駆け落ち婚」という見出しを掲げて、小室圭氏との婚約・婚姻の可能性を報じている。すでに秋篠宮殿下の「二人結婚したいのなら、何らかのことをしなければ」「国民の理解が得られない」「納采の儀は行なえない」という、宮家としての結論は出ている。その意志はおそらく、天皇・皇后両陛下も同意見なのであろう。したがって小室氏と眞子内親王が皇室を離脱して、納采の儀も行わないまま「駆け落ち婚」をするとなると、これまでの皇室アイドル化路線と、天皇制(憲法第1条および皇室典範)との矛盾が顕在化することになる。いや、アイドル化という象徴天皇制のひとつの帰結が、生身の人間と国家と結びついた天皇国事行為との矛盾を顕在化させるのだ。ここはもう、個人としての眞子内親王および小室圭氏を応援したくなるというものだ。おりしも天皇代替わりの季節、ふたりから目が離せない。


◎[参考動画]眞子さま 小室圭さん 婚約内定会見 ノーカット1(ANNnewsCH 2017/09/03)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

衝撃最新刊!月刊『紙の爆弾』4月号!

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

◆京都新聞から朝日新聞に乗り換えたものの……

10年余り購読していた京都新聞から、朝日新聞へ変えた。理由は「京都新聞のレベルが低すぎる」からだ。新聞社の論調云々のはなしではなく、卑近な例をあげれば、日付と曜日を間違える。考えられないような低レベルなミスが、あまりにも多く目につき、読んでいると精神的に負荷を感じ始めたので、朝日新聞に乗り換えたわけだ。

毎日ではないが、出先や駅売りの新聞を買って読んでいる限り、朝日新聞は、「まだ読める」範疇の新聞だとの思い込みと、30年ほど前までの習慣もあり、少しはまともな新聞が読めるだろうと期待したが、これまた裏切られてしまった。

約30頁の紙面の10頁を全面広告が占めて、「新聞を読んでいる」気がしない。これは地方の特性だろうか。大都市ではこのようにけばけばしい保険や、健康サプリメント、旅行の広告などは入らないのだろうか。全誌面の3分の1に及ぶ、全面広告は、あたかも、テレビ番組で2分おきにCMが入るように、読者が「真面目に」記事を読もうとする気持ちを萎えさせる。

これでは読者が離れるのは無理もなかろう。誌面広告のターゲットは高齢者だ。当の高齢者も「これじゃあ広告の間に記事があるようなもの」とそっぽを向くのだから、総体としての紙面づくりが間違っている。値段はそのままでよいから全面広告を抜いた20頁の「新聞」を読ませてはいただけないだろうか。

◆新聞社の危機感のなさは紙面に顕著にあらわれている

新聞社の危機感のなさは紙面において顕著にあらわれている。実は朝日新聞だけではなく、全国紙も地方紙も、発行部数を年々減らしている。新聞販売店には、新聞だけではなく、家電量販店の業務兼業を進める新聞社もあると聞く。

新聞社も実は「新聞の危機」には気が付いているのだろう。そのわりには紙面の充実(権力監視や調査報道)に力が割かれている様子はうかがえず、まじめで、真にジャーナリズム魂を持った記者は、社内で居心地が悪いらしい。

新聞社という総体が希代の犯罪「東京五輪」のスポンサーに加担する道義的犯罪に手を染め、何ら悪びれた様子はない。「記者クラブ」のぬるま湯につかった若い記者は、「獲物を追う目」ではなく「そつなく仕事をこなす組織人」として振舞うことに力を注ぐ。そして知識が薄い。どっかの頓珍漢が「天皇陛下の味方です」と、聞かれもしないのに恥をさらす本音を語る題名の書籍を出していた。わたしも本音では「新聞の味方です」と言いたいし、そうであってほしいといまでも考えている。

日々目にする新聞記事の6割は、どうでもよく、2割は「なに馬鹿いってるんだ」と蹴飛ばしたい。が、残りの2割と(ここが重要なのだが)その新聞に書かれていないことから、真実や事実を推測したり、調査する動機が生まれる。わたしは、そうやって新聞を利用してきた。情報量と情報源の多様さの点で、インターネットがあれば新聞は「無くてもよい」のだが、それでも新聞紙の手触りと、その中から喚起される、注意や関心にはいまだに未練がある。

◆だからといってほかに「マシ」な選択肢があっただろうか?

このままでは新聞はなくなるだろう。読む価値がなくなってしまったから。それより早く同じ理由で週刊誌も消える可能性が大きいだろう。週刊誌を買うことはめったにないが、週刊誌の広告には、「相続の損得」や「死ぬ前にやっておくこと」、「こんな病院は疑え」、「飲んではいけない薬」とどう考えても65歳以上をターゲットにしているとしか思えない特集が並ぶ。「昭和のグラビア」で河合奈保子や中森明菜の写真を見て喜ぶ若者がいるだろうか。「死ぬまでセックス」を国民運動のように特集しているが、なんだかなぁ……。

京都新聞から朝日新聞への購読変更は失敗であった。だからといってほかに、「マシ」な選択肢があっただろうか。日刊紙の中で読み応えのある新聞は全国紙の中にはない。沖縄の沖縄タイムスと琉球新報は安心して読めるが、わたしの居住地では購読できない(ネット購読はできるらしいが)。沖縄2紙のほかにも真っ当な地方紙はあるだろうが、それらは主流ではない。

新聞も社会(どの範囲を「社会」と定義するかはデリケートな論点だが)の写し鏡だということだろうか。だとすれば、「社会」もそう遠くない将来に終焉を迎える。その兆候は皮肉なことに「新聞」の中に充分凝縮されている。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

衝撃最新刊!月刊『紙の爆弾』4月号!

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

原発事故から8年が経過した。放射能は見えない、臭いもしない……そのため自然や人々にどんな影響を与えるのか、なかなか分かりにくい。それをいいことに、子どもを中心に多発する甲状腺癌ですら、放射能との因果関係がないことにされようとしている。

 

伊藤延由さんの講演報告レジュメより

◆放射能による被ばくは本当に見えないか?
 
事故後、福島県飯舘村で野菜、山菜、空間線量、土壌など様々な放射線量を計り続ける伊藤延由さん(75才)の調査から、放射能汚染を可視化できるデータをいくつか紹介する。震災の前年、東京のIT企業の研修所の管理人として飯舘村には入った伊藤さんは、同時に2.2ヘクタール(22,000平米)という広大の田んぼで未経験の米作りを始め、村の人たちに手伝ってもらいながらおいしいコメを収穫したりした。

農作業の準備をしていた翌年の3月11日被災した伊藤さんは、事故前の1年間が65年間(当時)で一番楽しい時間だっただけに、事故後の国や県、村の対応に強い憤りを覚えたという。そのため住民票を故郷新潟から飯舘村に移し、村民の1人として村政に関わりたいと村議会に請願書や要求書を提出したり、放射能の計測・記録を続け、SNSなどで発信し続けている。自然の循環サイクルに入り込んだ放射性物質が人や動物、自然にどう影響するのかを見ていくためだ。

 

伊藤延由さんの講演報告レジュメより

◆3,100億円もの除染で飯舘村は蘇ったか?

村は2017年3月末で一部帰還困難区域を除き避難指示解除となった。しかしインフラ整備の遅れや帰還後の生活再建が困難であること、線量が十分に下がってないことなどの理由で、帰村は進まず、今年2月1日で帰村者数は878名(住民票登録者数5685名)、多くが65歳以上の高齢者である。

さて帰還に向けて2014年から始まった飯舘村の除染には、3,100億円投じられたが、結果、村はどう変わったのだろうか?

村が広報誌で公表している「村内定点観測点空間線量率の遷移」によると、除染により空間線量率は下がったものの、その後高さ地表1メートルの線量が地表1センチの数値より高い場所が増えはじめ、2019年年1月17日の計測では全38箇所中31ケ所で1センチの線量より1メートルの方が高い逆転現象が起きていることがわかった。

 

伊藤延由さんの講演報告レジュメより

村の85%を占める山林などは未除染のため、汚染された山林から風や雨などで放射能が流れてくるためだろう。伊藤さんはこれが「除染の成果と限界」だという。

土壌については国も県も村もまともに調査をしていない。伊藤さんが独自に調べた結果では、2017年10月小宮地区の山林から採取した土壌から、放射性セシウムが44,900ベクレル/kg検出された。20~30ベクレル/kgだった事故前の土壌に戻るには300年以上かかるだろうと、伊藤さんは断言する。3,100億円かけた除染でも村は蘇らないということだ。

◆ふきのとうの放射能汚染

2018年4月3日、その村で伊藤さんは8か所でふきのとうとその採取場所の土を持ち帰り、非破壊検査、破壊検査、ゲルマニウム半導体検出器の3つの方法で放射性セシウムの濃度を計った。対象8か所はすべて除染対象範囲の地域である。

村役場や道の駅などに設置された非破壊検査機は精度が不確かなため基準値を50ベクレル/kgに低く設定されているが、検査した8ヵ所のふきのとうで唯一ND(不検出)だったのは佐須地区のみで、沼平地区の14・7ベクレル/kg以外の地区では全て50ベクレル/kgを超えた。また非破壊検査で高い数値を出したふきのとうは、より精度の高い破壊検査、さらに厳密なゲルマニウム検査でも同様の高い数値であった。

 

[表01]伊藤延由さんの講演報告レジュメより

検体のふきのとうを採取した土壌の汚染度は、ふきのとうのセシウム濃度とは比例するものではないが、同じく高い数値をだしている。この表([表01])ではっきりわかったのは、空間線量率が高い地域は土壌汚染も酷く、そこで採れたふきのとうの放射線量(被曝量)がいずれも高いという事実だ。放射能以外には何がふきのとうの被曝量を高めたというのだろうか?

さらに驚くのは3,100億円かけて行われた飯舘村の除染の杜撰さだ。飯舘村ではこれまでも豪雨で除染袋を川に流してしまったり、汚染土を入れた二重袋の内袋を閉めなかったため、詰めなおすなどの杜撰さが明らかにされていたが、これが国直轄で実施された除染の実態かと呆れるばかりだ。

◆伊藤さん自身の内部被ばく

 

[表02]伊藤延由さんの講演報告レジュメより

次に図らずも被ばくの検体となってしまったのが伊藤さん自身であった。表に伊藤さんが定期的に受けるWBCを受けた際の放射性セシウムの数値がまとめられている。2011年8月14日の検査(東大の小佐古研究室)では放射性セシウム134と137の合計で2,356ベクレル/kg、翌年2012年福島市民測定所で受けた検査でも2,550ベクレル/kgと高い数値を出していた。([表02])

その後2016年以降は101、167ベクレル/kgと下がっていた伊藤さんの数値が、2017年7月の検査で突然1,844ベクレル/kgに跳ね上がった。何故かと、伊藤さんは毎日記録するノートやSNSにアップしていた自身の行動の記録などを手がかりに考えた。

 

[写真A]伊藤さんが福島県猪苗代町で食べたコシアブラ定食

するとひと月前の2017年5月24日、伊藤さんが福島県猪苗代町で食べた「コシアブラ定食」と、近くの露店で販売されていた山形県産コシアブラ(ひと山500円)の写真がアップされていた([写真A])。

これが原因ではないかと考え、2018年4月10日、県林業振興課に「猪苗代町の露店でコシアブラを販売しているから取り締まるように」と警告し、同時に獨協医科大学准教授・木村真三さんらと詳しい調査を開始した。

2018年の5月の連休に伊藤さんは木村先生、東京新聞の記者の3人で、山菜目当ての観光客が殺到する福島県猪苗代町や山形県米沢、飯豊、小国の道の駅や直売所で山菜を購入し、ゲルマニウム半導体検出器で放射性セシウムの濃度を計測した。すると苗代町の2ヵ所の直売所に売られていたコシアブラから食品基準の14倍と6倍のセシウムが検出されたのである。

東京新聞がその結果を福島県に通報、その後山菜を販売していた猪苗代町の店名なども入れたプレリリースが発表されたが、地元のローカル放送以外、報道するメディアは余りなかったという。

山菜、キノコの放射性セシウムの濃度は時間とともに減少するとは限らず、土壌の質、水分、天候などに左右され、その動向はなかなかつかめないため、福島県でも厳しい出荷制限がつけられている。山形県産と偽り、コシアブラを販売した摘発された猪苗代町の店はその後8月21日には、野生茸の販売でも摘発を受けている。
 
飯舘村の広報紙でも「村内で採れた茸や山菜を食べたり、人に譲らないでください」と書いているが、その理由を説明することはない。「野焼きをしないでください」(野焼きについては3月15日から許可となった。伊藤さんは反対の請願を議会に提出している)「村で取れた薪を燃やさないでください」も同様である。そうすることで放射性物質が拡散し、被ばくのリスクが高まることを徹底周知させることをしない限り、こうした問題は今後も続くだろう。

なお伊藤さんの体中で1,844ベクレル/kgだった放射性セシウムの濃度は約3ケ月後の10月6日には783ベクレル/kgにまで減少している。「動物学的半減期」により、約100日で半分が排出されるからだそうだ。しかしこれにも個人差は当然あるだろう。
  
さまざまな形で私たちの目の前に顕れる被ばくの実態、それは今後増えることはあっても、減少することはないだろう。村に戻った人も戻らない人も、避難を続ける人たちにも、これ以上無用な被ばくを強いてはならない。伊藤さんの続ける調査から被ばくの実態を知らされ、改めてそう痛感する。

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

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