魅力的な女性、といえば、どのような人物を思い浮かべるだろうか。個人的には、自らの価値観にしたがい、誰より自由で、大事なことを見失わない、そんな女性に惹かれる。
最近、試写で観た2人の女性に魅了されたので、今回はあわせて紹介したい。そして、2人をとおし、社会変革を導く人物像について考えることとする。
◆『金子文子と朴烈』──人間は恋と革命のために生れて来た
わたしは月刊誌『紙の爆弾』 2017年11月号の特集「小池百合子で本当にいいのか」で、関東大震災の朝鮮人虐殺について寄稿。その際、10冊弱ではあるが文献をあたり、真実に近いと思われることについてまとめた。そこに、「三・一運動後の朝鮮総督府では、水野錬太郎が行政・立法・司法の実務を統括する政務総監を務め、赤池濃が内務局長や警察局長を務め、独立運動を弾圧していた。そして八月二十六日に加藤友三郎首相が死去した直後に震災が起こったため、水野は内閣に引き続き内務大臣として陣頭指揮をとり、赤池も当時は警視総監として対応」などと書いた。この水野らが近代史を超越して暗躍するのが、劇映画『金子文子と朴烈』だ。
そして今回、魅力的な女性として1人目に挙げたいのは、大正時代のアナキスト・金子文子。複雑な生い立ちを経て朝鮮へ渡る。彼女も、のちの連れ合いである朴烈(パクヨル)も、1919年の三・一朝鮮独立運動後、日本に渡り、社会主義の運動にかかわるようになった。2人はアナキストの同志として出会い、恋仲となってともに暮らし、「不逞社(「不逞鮮人」を逆手に取ったグループ名)」を設立。だが、1923年の関東大震災後、2人は皇室の人間の殺害を計画した、これは大逆罪にあたる、と起訴される。26年に死刑判決、その後、無期懲役に減刑されるが、金子文子は獄死。経緯はいまだ不明のままだ。
このような史実をもとにした『金子文子と朴烈』では、金子文子が朴烈や仲間とともに生き、獄中でも闘いを貫くさまが描かれる。作品は、戒厳令下の朝鮮人大虐殺を隠蔽すべく、2人は標的とされたというストーリーになっている。金子文子が魅惑的で、日本人ながら帝国主義・植民地主義に抗し、朴烈との間に結ぶ約束も心地いい。「一、同志として同棲すること。 一、わたしが女性であるという観念を取り除くこと。 一、いっぽうが思想的に堕落して権力と手を結んだ場合、直ちに共同生活を解消すること。」。チェ・ヒソの演技がまた、表情、言葉の発し方、仕草など気っ風がよく、チャーミングだ。
革命を志す仲間たちが「インターナショナル」を高らかに歌うシーンも印象的。だが実は、生き延びた朴烈のその後の人生は複雑なものだった。それは本作には描かれない。だからこそ余計に、金子文子の魅力が強く印象づけられ、2人が心を1つにした時間が尊く思われるのだろう。
自らの命やちっぽけなプライドよりも、信念を貫く。太宰治の「人間は恋と革命のために生れて来たのだ」をまさに体現した、その姿がまぶしい。2人の「あの」写真に関する象徴的なエピソードも登場するので、楽しみに作品をご覧いただきたい。
ちなみに、配給・宣伝の太秦の社長は、ネトウヨさんたちによってインターネット上に名前や顔写真をさらされているのだとか。わたしは「おめでとうございます」とお伝えしておいた。これはヒットの予感、前触れ!? と考えていたら、実際にヒットしているらしい。
◎[参考動画]映画『金子文子と朴烈』本予告編(太秦宣伝部 2018/12/25公開)
◆『沈没家族 劇場版』──穂子ちゃんに教えられること多すぎ
もう1人の魅力的な女性は、「沈没家族」の加納穂子さんだ。「沈没家族」とは、1995年、シングルマザーの穂子さんがビラ配りから始めた共同保育。ドキュメンタリー映画『沈没家族 劇場版』は、ここで育てられた穂子さんの息子である土くんが監督・撮影・編集を手がけた作品だ。
「沈没家族」にかかわった知人が多くいるわたしも、その先駆性に惹かれていた。「男女共同参画が進むと日本が沈没する」という政治家の言葉を逆手にとった命名からも、朴烈と金子文子たちの「不逞社」同様のレジスタンスの精神とセンスを感じる。また、移転先のアパートも「沈没ハウス」と名づけられ、複数のシングルマザーと子ども、そして子どもたちを共同保育するメンバーによって成り立つ。
作品中、「変なオトナとばっかり絡めて申し訳ないなってのは思わなかったの?」という土くんの問いに、穂子さんは「それはまったくないね。だって変なオトナって……わたしはそれぞれの人に魅力を感じてたし、そういう関係じゃなかったからね」と応える。また、「手放すことで出てくるものがあるんじゃないかな」と語る。さらに、当時の穂子さんへのインタビューで、彼女は「土も、割と自分なりに保育者との関係を作ってるじゃない。あとは土とその人に任せるっていうか」と話していた。言葉を抜き取るだけで穂子さんの魅力を伝えるのは難しいが、金子文子同様、信念があり、達観している部分もあって、言葉が一般論や揶揄にゆるがないようなところがある。
プレスシートに目を通せば、加納土監督の言葉も魅力を発する。「沈没家族」はシングルマザーの母子と若者とがサバイブするためのものであり、「母が沈没家族を始めたのは、大人一人子一人という状況で閉ざされた環境になったら自分が楽しくないし、自分が楽しくない状況で子どもと過ごしていたら、それは子どもにとってもよくないからという思いが強いと思います」「彼女の場合、懐の深さというのはすべてを受け入れるってことではなく、いやなことに対して、はっきりいやだと言える強さがあるところなんですけど。だから、ずっとカメラを向けていて僕がおぼえた感情というのは劣等感でしたね。僕はここまでできねえな……という悔しさ」「誰にも強制していないというか、ただそこに在るっていうことで全然いいんだっていう。『一致団結』してないんです」「沈没家族は『排除しようとする社会』からのシェルター」と語っていた。ちなみに、「沈没家族」に参加していた高橋ライチ(しのぶ)さんは、「支援・被支援の関係でなくもっと相互的に、ただともに生きる、ということは可能なのだ」と記している。
ちなみに試写当日のメモにわたしは、「旧来の共同幻想は共有される範囲にしか通用しないからこそ、常にマイノリティはちからをもたぬまま模索する。そのいっぽうで、従来の家族についても考えさせられ、そのうえで人間についても考えさせられる展開であり、想定以上に深い作品だった。あと現代において、『悪くない』というのは最上級の肯定ではないか、などとも。そしてもちろん、穂子ちゃんに教えられること多すぎ。同世代。MONO NO AWAREとそのメンバー玉置くんの音楽もよかった。そうか、八丈出身なんか」と書いていた。
◎[参考動画]映画『沈没家族 劇場版』本予告編(ノンデライコ製作・配給 2019/02/14公開)
自らの価値観にしたがい、誰より自由で、大事なことを見失わない、そんな女性を描く映画2作品。ぜひ、ご覧ください。
※『金子文子と朴烈』は東京シアター・イメージフォーラム、大阪シネマート心斎橋、京都シネマにて上映中。ほか全国順次公開予定。詳細は下記公式サイトでご確認ください。
公式サイト:http://www.fumiko-yeol.com/
※『沈没家族 劇場版』は2019年4月より東京ポレポレ東中野にて公開、ほか全国順次公開予定。ほか全国順次公開予定。詳細は下記公式サイトでご確認ください。
公式サイト:http://chinbotsu.com/
▼小林 蓮実(こばやし はすみ)
1972年生まれ。労働運動等アクティビスト兼フリーライター。映画評、監督インタビュー、イベント司会なども手がける。韓流ドラマ&K-POPファンでもあり、ソウルを1回、平壌を3回訪れたことがある。『紙の爆弾』『NO NUKES voice』『現代用語の基礎知識』『週刊金曜日』『情況』『救援』『週刊読書人ウェブ』『現代の理論』『教育と文化』『neoneo』ほかに寄稿・執筆。
●『紙の爆弾』4月号「薔薇マークキャンペーン 新自由主義に対抗する『反緊縮』という世界の潮流」
●『NO NUKES voice』Vol. 19「インタビュー:淵上太郎さん(「経産省前テントひろば」共同代表)民主主義的観念を現実のものにする」
●『流砂』16号「憲法が奏でる『甘いコンチェルト』──『ソロもあるのが協奏曲』または『同意』」(入手のご希望あれば、Facebookのメッセンジャーなどで、小林蓮実に連絡ください)