日本国内にいるとそれほど気にならないことも、隣人には敏感に受け止められているようだ。隣人とは韓国の人々である。いま日本人は、意識的に米韓関係の危機を煽っているようだ。言い換えれば、アメリカに忠実なポチであることで日米同盟を誇ろうというものであろうか。隣人の云うところを聴こう。
「毎日東京の空気を吸いながら取材していて、このところ『韓米関係に問題がある』という発言をよく聞く。2月、かつて北朝鮮の核問題に関する6カ国協議の日本側首席代表を務めた藪中三十二・元外務次官の講演会に行ったが、ここでも韓米関係についての質問が出た。南北関係が進展したら在韓米軍の大幅削減や撤収が既定の事実となるのではないか、というもので、韓米関係に対する不信に根差した質問だった。同じく2月に慶応大学で開かれた北東アジア情勢に関する討論会でも、同様の言及があった。」(朝鮮日報)おそらく意識的に、日本の保守層が発信していることを、韓国のジャーナリズムは敏感にキャッチしているのだろう。
◎[参考動画]6カ国協議(ANNnewsCH 2017/09/19公開)※2年前の動画
◆アメリカのポチを競い合っていた日韓両国なのに
オバマ政権時代の朴政権下では、韓国の保守(反共・親日)系の論壇や報道で、日韓のどちらがオバマと親しいかという記事が中央日報や朝鮮日報の紙面を飾っていた。保守系各紙では、オバマの滞在時間が日本のほうが長かったこと、あるいはオバマが寿司を残したことなどもニュースになっていたものだ。基本的に反日ではあるが、韓米同盟を最重視し、いっぽうでは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との関係では日本も「友邦」であるという立場だった。
朴槿恵前大統領は父親ゆずりの親日家でありながら、反日を装うことで政権の求心力を維持してきたと言われている。いまや態度は180度変わった。朝鮮日報の云うところをさらに聴いてみよう。
「日本では、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は北朝鮮との関係ばかりを重視し、米国のトランプ大統領は全てをカネでしか勘定せず、同盟は危険水位に達しているという認識が広がっている。合同演習の中止で『カカシ』と化した韓米同盟の次の動きは在韓米軍の削減および撤収、と予想している。日本のある月刊誌が2月号の記事に付けたタイトルが、こうした雰囲気を象徴的に示してくれる。「韓国が壊す『アジアの秩序』:日米韓同盟『空洞化』の代償」」だと云うのだ。
アメリカとの親密さを韓国と競っているのは、日本も同様である。反韓・嫌韓の空気は、それをいっそう助長してきた。書店ではいまだに反日本や反中本が、その無内容な罵詈雑言のボルテージだけで売れているのが現状だ。そして韓国にたいする日本の優位の証しとして、アメリカとの親密な同盟関係が挙げられてきた。これは安倍政権の外交政策の基本路線である。安倍政権の支持率は虚構のアベノミクスとともに、この日米同盟の「揺るぎなさ」にあると言えよう。
しかしである。日本がアメリカとの同盟を誇れば誇るほど、東アジアにおける孤立は明らかである。今度は労働新聞(朝鮮労働党機関紙)の云うところを聴かないわけにはいかない。米朝首脳会談(トランプ・金)の決裂を受けての論調である。
「(米朝の)新しい関係を樹立して朝鮮半島に恒久的で強固な平和体制を構築し、完全な非核化へと進むことはわれわれの確固とした立場」としたうえで、共同声明も合意書も成らなかったことについて「唯一、日本の反動層だけはまるで待ち焦がれていた朗報に接したかのように拍手をしながら小憎らしく振る舞っている」「島国野郎たちは実に憎たらしく、ビンタをくらわせたい輩だと言わざるを得ない」と云うのだ。周知のとおり、わが安倍総理は米朝首脳会談にあたって、トランプ大統領に「拉致問題の解決を」議題にするよう電話で懇願した。
◎[参考動画]韓国・文在寅大統領と圧力強化で一致(ANNnewsCH 2017/11/23公開)
◆そして完全に孤立してしまった
「日本の反動層」が米朝会談に反対しようがしまいが、アメリカ政府の判断は変わらなかっただろうが、少なくとも日朝首脳会談などというものが、絵にかいた餅以前の課題であることは明らかになった。アメリカにすり寄り、ポチのように振舞うことによって、日本はますますアジアでの孤立を深めてしまうのだ。
朝鮮半島が分裂国家であるうえに、韓国もまた「反共」と「反日」の政治的分裂国家である。左派にかぎらず、右派にかぎらず、政権が代わるたびに元大統領が訴追され、あるいは暗殺・処刑される政治的分裂国家なのだ。いまその韓国文政権は、校歌や国家まで親日分子が作ったもの排除するという親日粛清、および「アカ」という言葉の追放に踏み込んでいる。
文大統領は三・一運動100周年の記念演説において歴史戦争に火をつけた。「日帝が独立運動家にレッテルを張った言葉」である「パルゲンイ(アカ=共産主義者)」という用語を「一日も早く清算しなければならない代表的な親日の残滓である」と云うのだ。
日本の報道機関は文大統領が「日本との新しい関係」に言及したことを奇貨のように報じたが、内容をまったく誤読している。行き詰った日韓関係は、歴史戦争の決着をぬきに一歩の前進もないことを、肝に銘ずるべきであろう。鳩山友紀夫前総理のように、従軍慰安婦像に額ずけとは言わない。少なくとも訪韓の努力をするふりくらいは、見せてもいいのではないか。東アジアに緊張感をつくり出し、それを政権維持の動力にするのは、いかにも危うい。
◎[参考動画]斎木外務次官続投へ(ANNnewsCH 2015/09/19公開)※4年前の動画
▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)