◆野党共闘の枠組みから飛び出る

4月1日、山本太郎参議院議員(自由党共同代表)が新たな政治団体「れいわ新選組」を届け出、10日の記者会見で発表した。

最大のポイントは、アベノミクスに対抗して「反緊縮」の経済政策を前面に押し出したことにある。

その目玉は、消費税廃止。現職の国会議員を要する政治団体が初めて消費税の制度そのものを廃止する公約を掲げた。4月15日現在、消費税廃止を主張する政党は他にない。

いまのところ現職の国会議員の参加は山本議員ひとりであり、政党要件を満たしていないので「政治団体」だが、実質「新党」結成と表現していいだろう。

2015年夏の安保関連法制反対運動の挫折から、共産党からの呼びかけもあり安倍政権を打倒するために「野党共闘」が叫ばれてきた。

統一地方選前半戦の結果を見ても、野党共闘しても自民・公明に勝つのは難しいことを改めて示した。

たとえば、北海道知事選挙。自民・公明・大地から推薦を受けた鈴木直道氏が約162万票、立民・国民・共産・自由・社民から推薦を受けた石川知裕氏は約96万票。与党系候補が圧勝したのは象徴的だ。

山本太郎参議院議員

◆党名の裏にひそむ150年ぶりの政権交代の夢

「れいわ新選組」という党名が発表されてから、党名に対して賛否両論があり、違和感や疑問を呈する意見もインターネットなどに出ている。

筆者も、最初に党名を聴いたとき違和感を覚えた。しかも記者会見の前日4月9日のテレビ朝日の報道によれば、表記する文字が「新撰組」と表記されていた。

新選組は、江戸末期の江戸公儀(徳川政府)の武装警察組織として尊王攘夷派などを取り締まった。とりわけ尊王攘夷派の中心になった長州藩士らを弾圧した。

4月10日の記者会見で、新撰組は権力側についたのではないかとの質問に山本代表は、「新『選』組は、あたらしい令和という時代に選ばれれる人々。そして今の権力とは主権者・国民です」と答えている。

つまり、国民を守る意味だということだ。さらに、「党名にはアイロニーが込められており、解釈は各人の自由です」という趣旨の発言もしている。

アイロニーとは、表面の意味と逆の意味を込めた表現であり、、皮肉であり風刺でもある。新元号の令和を私物化するかのようにパフォーマンスを演じた安倍首相への痛烈な皮肉という見方もできる。

筆者の解釈はこうだ。

戊辰戦争の勝利により、尊王攘夷派が明治国家をつくった。間もなく尊王攘夷派内の長州が実権を握り、手を変え品を変えて、第二次大戦敗北後はおろか、現在まで”長州尊王攘夷派”的なレジーム(思想・政治・体制)が続いている。

現在の安倍政権は当然、長州の流れである。「新撰組」の最大の敵は長州尊王攘夷派だった。

つまり、新選組ならぬ「れいわ新選組」を結成したということは、1868年に長州らにお奪われた政権を、奪還すること。言い換えれば約150年ぶりの政権交代を実現しようという意味合いが党名に秘められているのではないか。

◆新政府八策とは?

旗上げ記者会見では、「政権を奪ったらすぐ実行します」と8つの政策を発表した。

(1)消費税廃止
(2)最低賃金全国一律1500円(政府が補償)
(3)奨学金徳政令(奨学金返済チャラ)
(4)公務員を増やす
(5)一次産業個別所得補償
(6)トンデモ法の一括見直し・廃止
(7)辺野古新基地建設中止
(8)原発即時禁止

「れいわ新選組」の公約「新政府八策」

ひとことで言って反緊縮財政の推進だ。前述したように、国会議員を擁する政治団体としては唯一消費税廃止を政策のトップにかかげている。

厚生労働省の国民生活基礎調査(2018年)で56.5%が「生活が苦しい」と答えている。また、一人暮らし女性の3人に1人が貧困であり、貧困と格差は拡大している。このような人々を救うための政策だ。

山本代表は、「国債を発行して財政を出動させる」と表明している。国の借金が増えて破綻するなどとありえないことを喧伝する一部の人がいるもが、自国通貨・円建ての借金だから破綻はしない。

破綻といえば、ギリシャを思い起こすかもしれないが、ユーロという”外国通貨”を借りて返せなくなったギリシャとは、まるで違うのだ。

消費税に代わる税収としては「とれるところから取る」(山本議員)という。消費税がなくても不公平税制を正せば38兆円の財源が生まれるとの試算もある。(「不公平な税制をただす会2018年度試算)。

◆10億円で衆参ダブル選、3億円で参議院10人候補者

今年夏の参院選挙、場合によっては衆参ダブル選挙もあり得る。当然、選挙資金が必要となるが、それは個人からの寄付に頼る。集まった金額によって戦略戦術を立てていくという。

〇衆参ダブル選で挑戦する場合、10億円が必要。

〇参院選で最大限の挑戦をする場合、5億円が必要。

〇参院選で10人の候補者を擁立する場合、3億円が必要。

無謀な挑戦にならないように、5月31日までに1億円集めることを第一目標にし、1億円集まらなければ、山本太郎議員のみが東京選挙区から立候補する。
 
◆消費税5%減税で窮地におちいるか?

ここ3年以上、野党共闘が叫ばれてきた中での新党結成になるが「別の角度からの野党共闘」(山本議員)という考えで、新党の旗を降ろす場合もありえることも明らかにした。

政策で野党が歩みよれば旗を降ろすというのだが、山本議員は、廃止までは行かなくとも消費税5%減税で野党がまとまったような場合だという。

もしそれを実行すれば、新党はおろか野党勢力・市民勢力が壊滅する可能性もある。

すでに、安倍総理は「消費減税」を訴えて衆院を解散し、衆参ダブル選挙を仕掛けてくる可能性があるという話も流れ始めているからだ。

そうなれば、5%減税などと主張していては、壊滅的な敗北になるだろう。仮に与党が消費税減税を主張しなくても、消費税存続か廃止かの二者択一を有権者にせまるほうが勝利の可能性は高まるだろう。

今回の新党結成はトレンド転換の起点となるか。5月末から6月初旬には、ある程度先が見えてくるかもしれない。

◎れいわ新選組ホームページ https://www.reiwa-shinsengumi.com/index.html


◎[参考動画]山本太郎参院議員、自由離党で新党結成へ 午後6時から記者会見(2019年4月10日)

▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

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