きょうは世界80か国以上の国が休日に定める「メーデー」だ。労働者の祭典の日であるが、実はメーデーの起源が米国であることを、読者諸氏はご存知であろうか。不勉強なのでわたしは最近まで、てっきりロシア(旧ソ連)か社会主義と関係のある国ではじまったのが「メーデー」と勘違いをしていた。


◎[参考動画]Workers Of The World Unite And Fight – May Day Explained

さて、“グローバルスタンダード”という虚構で、自国のルールを世界各国に押し付けつけることに余念のないのが今日の米国であるものの、米国では日本に比すると労組はまだ力をもっている。ストライキだってけっこう頻繁に行われるし、個人(労働者)の利益と企業の利益が必ずしも一致しない、原則が理解されている。

この大原則を大方の日本人は、認識できていない。お上に逆らわない国民性も手伝ってのことだろうか、かつての総評と同盟が合体して連合が生れてから、労働組合は企業の労務管理の手先と化した感すらある。大きな集団になればなるほど、執行部と末端構成員の利害は自然に対立する。国家でも地方公共団体でも企業でも同じである。家族経営の自営業や従業員が10名未満の中小企業では、経営者と従業員の関係が組織とはいえないような形態もあるので、そのような集団は別であるが、総じて企業経営者と労働者の利益はぶつかるのが基本である。

だからといって年から年中喧嘩をしていては、企業活動に停滞が生れるので、労働者が加入して経営者と労働条件や賃金、などを協議するシステムは世界で広く取り入れられており、日本でも憲法で労働者の権利は保証されている。明文規定は、第二十八条 《勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。》である。憲法は公布されたのが1946年だから70年以上前だけれども、そんな昔でさえ《勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利》の重要性は最高法規で明確に謳われていたのである。

ところが、2019年5月1日メーデーの日に、日本では“労働者の権利”すら知らない労働者が大半ではないだろうか。そして今年に限れば、いったいきょう、“なに”が騒がれているのだ。だいぶ前からメーデーの集会に現職の総理大臣が出席したり、連合主催のメーデー集会は、どうしよもない体たらくを演じているが、連合幹部の連中や参加の組合員の皆さんは、きょう何をしているのだろう。テレビでは何が流れている? 新聞報道はどうだ? したり顔の知識人や社会学者はなにを見てなにを語っている?


◎[参考動画]France’s Anarchists Clash With the Police on May Day(VICE 2017/05/06公開)

◆労働者の意識は100年前から進歩しているだろうか

約100年(正確には1920年5月2日)前の日本で第1回のメーデー集会が開催され、1万人が集会に参加したという。100年前にだって「労働者の権利」を認識して、活動するひとたちはいたのだ。

労働者の意識は100年前から進歩しているだろうか。労働組合は実体化されているか。春闘は形骸化され、争議やストライキではなく、首相の要請によって賃上げが実施されるここ数年の目を覆いたくなる体たらくを目にしていると、連合を筆頭とする「御用組合」の存在はかえって弊害ではないかとすら感じられる。労働者の権利や利益を代表するのではなく、企業の広報機関と化して、あろうことか原発再稼働を主張するような「御用組合」は打倒しなければならない。“組合”の名を語っていても彼らのなしていることは、大企業経営者や自公政権の「お手伝い」にほかならない。

他方、小さくともる労働者の利益と権利を守るべく、奮闘している「真っ当」な労組は、もっと評価されてよいだろう。企業に入ると自動的に組合に加入させられる「ユニオンショップ制」に縛られることなく、一人でも入ることのできる「労組」や「ユニオン」は各地に広がりを見せている。

近年は雇用の確保だけではなく、「企業を辞めたい」と思っても自分から「辞めます」と言い出せない人の代行を担う業者が繁盛しているそうだ。無茶苦茶こき使われて心身ともに疲れ果てた労働者は、正常な判断ができなくなるので「辞める」ということすら、能わなくなるのだ。

この現象を「本人に勇気がない」と簡単に片づけることはできない。憲法で保障され、労働基準法で定められた諸権利を公教育ではまともに教えることがないから、このような惨状が生み出されるのだ。「道徳」が小学校で教科にされたが、最低限生きてゆく権利を知らしめることが、公教育の果たすべき最低の「道徳」ではないか。

〈権利は教えない。強制していないようで結果として服従を強いる。〉多くの国できょう「インターナショナル」が歌われている──。同じ日2019年5月1日、この国のありさまはどうであろうか。


◎[参考動画]The Internationale sung by Cubans on May Day 2017
(Chicago Cuba Coalition 2017/07/23公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

タブーなきスキャンダリズム・マガジン『紙の爆弾』5・6月合併号【特集】現代日本の10大事態

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

« 次の記事を読む