平均寿命が延び、高齢の親御さんやご親戚家族の健康について、悩みを抱える方が多いのではないでしょうか。私自身、予期もせず元気で健康、快活だった母の言動に異変を感じたのは数年前のことでした。そして以降だんだんと認知症の症状が見受けられるようになりました。今も独り暮らしを続ける89歳の母、民江さん。母にまつわる様々な出来事と娘の思いを一人語りでお伝えしてゆきます。同じような困難を抱えている方々に伝わりますように。

朝の住宅街、デイサービスの名前が書かれた車を当たり前のように目にするこの頃です。年寄り扱いをされるのが大嫌いだった民江さんが、自分からデイサービスへ行きたいと言い出したのは、2年前87歳の時でした。他の人と交流することで少しでも認知症の進行を抑えられるのではないかという思いで、週に3日お世話になることにしました。とても気に入ったとのことで徐々に増やし、現在は週に5日ほど通っています。デイサービスは、ご高齢の方にとっても、お世話をしているご家族の方にとっても、大変有り難いものです。今日はそのデイサービス(通所介護施設)のお話をします。

◆デイサービスでの民江さんの一日

朝9時頃、スタッフが玄関までお迎えに来てくれます。何人かをピックアップして施設に到着すると、看護師さんによる体温や血圧測定などの健康チェックがあります。朝の挨拶と日課の説明が済むと、毎日まずお風呂です。スタッフはたった2人か3人で利用者は10人以上。歩行や自立が難しい方のための機械浴、感染防止のための個浴、その他の一般浴、それぞれの状態に合わせて安全にお風呂に入れていただきます。

お風呂から上がると、テーブルの上に名前の付いたコップが置かれ、スポーツドリンクが準備してあるそうです。これを飲みながら周りの方と談笑しているのかなと思います。毎日ぬり絵や漢字クイズなどを持ち帰ってくるので、これらもそんな時間にやっているのかもしれません。

運動器具を使った軽いトレーニングや指先を使う折り紙や貼り絵、日替わりのレクリエーション(ペットボトルや風船を使って体を動かす簡単なゲーム)、カラオケや映画鑑賞などのお楽しみ、移動スーパーが来てお買い物、お習字や手芸、おやつを手作りすることもあります。

昼食は月に一度はバイキング形式ですし、ちょっと豪華な日もあります。そうそう、3時にはおやつタイムがあり、食後はかならず歯を磨くようです。園児やコーラスグループなどの慰問を受けたり、車で近所の公園へ出かけたり、お誕生日会や季節のイベントなどなど……たくさんの行事が組み込まれていることが、毎月の予定表からわかります。

スタッフの方々はサンタクロースになったり、鬼になったり、法被を着たり、浴衣を着たり……これらも毎月の写真入りのお便りから見て取れます。そして夕方5時頃、玄関まで送っていただき、別途注文(希望者のみ)した夕食用のお弁当を受け取って終了です。連絡帳には、必ずその日の体温と血圧、入浴の有無とその日の様子が記されています。

平均的かどうかはわかりませんが、民江さんが利用している全国展開のデイサービスはこんな感じです。行き始めたころに感想を聞くと「幼稚園みたいだわ」とのことでした。確かにそうですね。

◆費用について

デイサービスに係る費用はいろいろな条件(介護度、地域、利用時間、収入、施設)によって変わってきます。介護サービスというのは、その内容によって単位で表され、単位数に地域ごとの人件費を調整する係数(単価)をかけたものが料金となります。介護度が高くなると手がかかるので単位が上がります。が、支給限度額が上がるので利用できる回数は増えます。

施設によって入浴や機能訓練のサービス加算が異なります。それらを合算し、利用者が支払う金額はその1割(一定以上の収入があると2割)です。支給限度額を超えた分は実費となりますが、高額になると払い戻し制度があるので、ある程度返ってきます。

さて、年金暮らしで要介護1の民江さんの場合、一日約2300円です。先にご説明した介護費用(本人負担1割)が約800円、そして食事代(昼食・おやつ・夕食)が実費1500円です。週に4回、朝から夕方までお世話になって、2食いただいて、4万円でお釣りがくるぐらいでしょうか。デイサービス以外に介護保険を利用していないので、週に4日は十分限度内で通所可能です。大変有難いです。

以上が民江さんの通うデイサービスです。

一般的なデイサービスは男女比が2:8ぐらいと言われています。中には移動や食事や排泄に必ず介助が必要な介護度の高い方もいらっしゃいます。わがままを言う人もいるでしょうし、喧嘩も起きるでしょう。現に民江さんも喧嘩をしてきています。そんな中で皆が安全に心地よく過ごすことができるのは、スタッフの方々のお陰です。

残念なことに民江さんは認知症なので、デイサービスで何をしてきたか、家に着いた頃には忘れています。帰宅すると電話がかかってきますが、いつも「お弁当食べたから寝るね」と言うだけ。せっかく公園へお花見に行っても、ゆず湯に入っても、テラスでバーベキューをしても、民江さんの口から「今日はね……」と聞いたことはありません。でも、毎日楽しみにしていることが、心地よく過ごしていることの証です。施設長のお人柄とスタッフの心配りには頭が下がるばかりです。

地域によっては施設の数が少なくて満足のいくサービスが受けられないこともあるようですが、もし利用してみようと思われた方は、まずケアマネージャーさんに相談をして、個々の希望に合った施設を探してもらってください。まだケアマネージャーさんとお付き合いのない方は、役所の福祉課や地域包括支援センターへ行き、要介護認定の申請をすることから始めることになります。

▼赤木 夏(あかぎ・なつ)[文とイラスト]
89歳の母を持つ地方在住の50代主婦。数年前から母親の異変に気付く

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