あえて「戦争で失われた領土は、戦争でしか取りもどせない」という暴論にも、政治の真理があると評価しておこう。元維新の会、衆議院議員の松山穂高の発言である。「戦争で」という発言も、ある意味では正しい。領土交渉で相手国に遅れをとる政治家を、国民はけっして許さない。外交的な方法でおこなう領土交渉では、絶対に何も解決しないからだ。

例外的にあるならば、ヒトラー執政下のドイツがチェコのボヘミア地方をスデーテンとして割譲した、いわばドイツ系住民の民族自決権行使がある。それ以前にも、オーストリア併合がある。現在のロシアによるクリミア併合問題に見られるように、大陸は多民族が混住するがゆえに、民族問題と領土問題が不可分なのである。


◎[参考動画]「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか反対ですか」維新・丸山議員の音声データ(朝日新聞社 2019/5/13公開)

 

丸山穂高議員のHPより

◆平和憲法の否定

しかし、日本の領土問題は島嶼である。領土それ自体が意志を持っているわけではなく、住民の意志であれば北方領土はロシア人のものだ。そこで、ロシアの混乱につけ込んで四島を取りもどしてしまえ、戦争でしかどうにもならないですよね。ということになったわけだ。そしてその言動が、平和憲法にそむく。したがって、国会議員にふさわしくないものであるのは自明だ。

丸山穂高は稚拙なその意図はともかく、戦争という外交手段を扇動することで平和裏にすすめられてきた日露交渉、積み重ねられてきた経済交流を破壊しようとしたのだ。維新の会が即座に除名処分としたのは、至極当然の話である。もしも過去の砲艦外交や領土問題の困難で戦争に言及するのなら、紛争島嶼の共同統治論(過去に本欄で筆者が提言した)を考えてみるべきであった。

除名された丸山議員はしかし、野党の辞職勧告決議案を批判し、徹底抗戦のかまえを見せている。それはそれで、政治家の出処進退はみずから決すると、ある意味では思想信条は譲らない見識というものかもしれない。しかしながら、その丸山議員に不正蓄財の噂があるのだ。

◆通信交通費を政治団体に還流か?

政治家がなかなか議員辞職をしないのは、辞職が失職を意味するからだ。失職するのは、ひとり議員だけではない。3人いる公設秘書、すくなくとも数人はいる私設秘書も、同時に失職するのだ。歳費は年棒だが、支給は月単位である。丸山議員およびそのスタッフは、辞表した翌月から給与がなくなるわけだ。

 

日刊ゲンダイ(2019年5月18日付)より

そしてそれ以上に、丸山議員を執着させているものがあるようだ。日刊ゲンダイが報じるところを紹介しよう。

問題ではないかとされているのは、月額100万円支給される「文書通信交通滞在費」である。日刊ゲンダイ(2019年5月18日付)によれば「丸山議員は15年10月から毎月74万~90万円の幅の文通費を『資金管理団体の繰入(寄付)』として計上。主な内訳は『事務所賃料』『駐車場代・複合機リース費・等』と記載している。ところが、丸山議員の資金管理団体『穂高会』の政治資金収支報告書のうち、現在閲覧可能な15~17年分をどれだけめくっても、『複合機リース費』なる支出は一切、出てこない」というのだ。日刊ゲンダイの云うところをつづけよう。

「報告書に計上されている月々5万円の『事務所賃料』と月々1万6,000円の『駐車場代』を差し引くと、15年10月~17年12月の27カ月間で総額2,016万9,676円の税金の使途が『宙に浮いている』状況である」という。2年3カ月で2,017万円、つまり月額約75万円をプールしているのだ。これを不正蓄財と呼ばずして何であろう。

日刊ゲンダイの調査によると、資金プールには穂高会が利用されているようだ。上記の架空の「複合機のリース料」などとして蓄財されるにつれて、穂高会の繰越金が多くなっている。

「穂高会の収支報告書をチェックすると、新たに不可解な点が浮かび上がった。穂高会の収入が14年末からの3年間で急増しているのだ。15年分の収支報告書を見ると、『前年からの繰越額』には約374万円と記され『翌年への繰越額』には、約1,709万円と記載があった。それが16年末には約2,989万円となり、17年末は約3,701万円に。3年間で10倍近くに膨れ上がっている」というのだ。

◆ツィート(つぶやき)だけではなく、記者会見を

辞職勧告が「この国の言論の自由が危ぶまれる」「言論府が自らの首を絞める行為に等しい」(丸山議員のツィート)というのなら、テレビでもラジオでも、あるいはネットメディアでも「北方領土問題についての意見」を堂々と論じればよい。じっさいに「議員辞職勧告」に対しても「言われたまま黙り込むことはしない」と言うのだから、記者会見を開くべきであろう。そのさいに、歳費の政治資金への流用、および使途不明金についての質問がおよぶのは間違いないと指摘しておこう。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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