この間、公開書簡の形でやり取りをしている前田朗教授が「お詫び」ブログ
https://maeda-akira.blogspot.com/2019/06/blog-post_13.html
を公開されました。
前田教授の『救援』紙に公表された2つの論評は、教授の良心が現われている名文です。前田教授にはリンチの情報が伝わっておらず蚊帳の外に置かれていたようですが、これを私たちが作った本で知られ、教授の懸念と警告が、はたして加害者とこの周囲、神原元、上瀧浩子、師岡康子弁護士らに伝わったか疑問です。
少なくとも前田教授が、くだんの『救援』の2つの論評を書かれた際には、このリンチ事件に対して怒りと運動への懸念があったことは事実でしょう。
ならば、私(たち)からの質問には真正面から答えていただきたかったと思うと残念です。6月13日の通信でも述べていますが、私の一連の通信は前田教授と論争し教授を論破しようということを目的としたものではありません。「お詫び」なんて要りません。真正面から〈対話〉し、このままでは社会運動や市民運動への悪影響は否めませんから、なんとかこれを回避したいと思ったのです。前田教授の見識や立場からすれば、教授が意欲的にリンチ事件の本質的解決・止揚の作業に取り組まれれば、社会運動や市民運動への悪影響を阻止できると考えていました。
今回で、私とのやり取りも「終了」ということですが、読者の皆様方は、どう思われますか? 私の個人的意見としては、「お詫び」なんていらない、私からの質問にお答えいただくことを望むばかりです。そうでなく「終了」すれば、回答に窮し逃げたとの印象を読者の皆様方に与えかねないので、ヘイト研究の第一人者の前田教授にとってもマズイと思うのですが……。
◆リンチ事件訴訟、加害者に約115万円の賠償金支払い確定のM君勝訴!
先週12日、リンチ被害者M君が加害者5人を訴えた訴訟の上告が棄却されたとの報せがありました(正式決定日は11日)。直接の加害者の2人に約115万円ほどの賠償金支払いが確定しました。賠償金も、一審の80万円から増額になっています。当初の願望が大きかったこともあり不満が残る内容ではありますが、M君の勝訴です。もっとレベルアップした内容を求めて上告しましたが、これが棄却されたということです。不満が残る内容があるとはいえ、勝訴は勝訴です。私は長年多くの訴訟を経験しましたが、裁判とはこういうものです。完全勝訴など、ほんの一部です。M君や弁護士の先生、支援していただいた皆様――マスコミも完全無視するなど圧倒的少数派の中で頑張りました。彼らがよく使う言葉〈マジョリティ―マイノリティ〉の力学では、M君や私たちのほうが圧倒的にマイノリティで、マスコミや多くの知識人らを味方にした李信恵氏らのほうが圧倒的にマジョリティでした。
しかし、M君勝訴をかき消そうとしているかのように、加害者側代理人・神原弁護士や李信恵氏らはリンチ事件を「でっち上げ」と言い狂喜乱舞しています。当の加害者側の李信恵氏や野間易通氏らは大学院生M君の実名を出して攻撃しています。M君はまだ学生、日頃「人権」という言葉を口にしているのなら、いささか配慮がないんじゃないでしょうか。敗訴して狂喜する神経も理解できませんが、はたしてこのリンチ事件は「でっち上げ」なのでしょうか? 被害者M君が何の目的で「でっち上げ」ないといけないのでしょうか? リンチ事件(加害者らはリンチという言葉を殊更嫌うようですので集団暴行事件と言ってもいいでしょう)があったことは、私たちの綿密な調査・取材によって明らかになっています。フェイクではありません。これを私たちは5冊の本にまとめ世に問いました。これに対する加害者側からの反論本などは一切出ていません。「デマだ」「でっち上げだ」と鸚鵡返しにツイートするばかりです。
リンチ(集団暴行)があったことは裁判所も認定しており、激しい暴行は李信恵氏がM君の胸倉を掴んだことが口火になったことも認定されています。李信恵氏は決して清廉潔白ではなく、リンチの最中も、悠然とワインをたしなみ、これをインスタグラムで配信するという神経、さらには瀕死の重傷を負ったM君を師走の寒空の下に放置して立ち去ったという非人間性――到底理解できるものではありません。さらには、いったんM君に渡した「謝罪文」を一方的に反故にし活動再開したことも、人間としていかがなものでしょうか?
◆私たちがリンチ問題に関わった3年余り前を想起する──
2014年12月以来1年以上も経った2016年2月末に、私はこの事件を知りました。被害者M君は村八分にされ、一部の方(一般には無名の普通の市民)のサポート以外には孤立していました。「いくらなんでも、それはないやろ」という素朴な義憤から、まずは被害者救済/支援のために、M君の話をしっかり聞き資料を精査しようということで、最後までご尽力いただいた当社顧問の大川伸郎弁護士と共に面談しました。2016年3月はじめのことです。慎重な性格の大川弁護士は当初難色を示されましたが、鹿砦社の顧問弁護士でもあり、私が押し切る形で受任いただきました。大川弁護士は、ある事件で国選弁護士に就き、それが敗訴し容疑者が実刑になった際に、「自分の力不足で実刑になり申し訳ありませんでした」と容疑者に土下座して謝ったということを、その容疑者本人から聞き驚きましたが、大川弁護士への信頼は、この事例に基づいています。
◆鄭玹汀さんの本質を衝いたコメント
折りに触れて私のFBにコメントを下さる鄭玹汀さんは今回も次のようにコメントされています。──
「以下の記事(引用者注:6月14日、本通信に先立って公開された私のFBの記事)で取り上げられている問題は、今後の日本社会の人権運動において非常に重要です。しかし、関連記事や本を読まない限り、この投稿だけでは理解するのが難しいと思います。
特に、ヘイト問題研究の第一人者の前田朗氏がこれまで、リンチ事件の主犯について批判してきたのに、その態度を急に変えて、むしろこれまで複合差別と闘ってきた人だと弁護するようになったのは、決して看過することのできない問題だと考えています。
私はこの問題について、周りに関心を呼びかけても、ほとんどの方々が自分には関係ないことだと見做していたので、内心驚きました。
これは日本社会を覆う暗雲といっても決して言い過ぎではありません。」
こうした方がおられるのにはとても勇気づけられます。鄭玹汀さんのような方は現在少数派ですが、こうした方の声が徐々に拡がっていくことを望んでいます。