かぜをひいたり、体調が悪くなって、近所の診察所に行くと「とりあえず3日分の薬と、熱さましを出しておきましょう」とお医者様から言われた経験はないでしょうか。ほっと一息ついて会計を済ませ処方箋をいただき、薬局に行きます。処方箋にはお薬の名前ではなくて、成分の名前が書かれているので、素人にはどんなお薬が頂けるのか、薬局に行くまではわかりません。
それで薬局に着いて、処方箋をお渡しします。しばらくすると名前が呼ばれて「このお薬、『ジェネリック』もあるのですが、どうなさいますか?」と薬剤師さんに聞かれます。
「『ジェネリック』と普通のお薬はどう違うのですか?」と伺うと、「お薬の効用は同じです。特許が切れたお薬は安くなりますから同じ効果で『ジェネリック』は安いですよ」と説明されました。同じ効果で安いのなら「ジェネリック」でいいや。と「ジェネリック」を選択なさった方も多いのではないかと思います。普通ですよね、この感覚。
でも、私の友達に、もう10年以上睡眠薬を常用しているひとがいます。彼女が「いままでは、○○という睡眠薬でよく眠れてたの。でも薬局で『ジェネリック』のほうが安いよ、と言われて先月からお薬を変えたら、いままでみたいに寝付けないのよ」というの聞いて、私にも似た記憶がありました。
主人が急性の腸炎にかかったときに、整腸剤と下痢止めを処方されて帰ってきました。主人は「これは効くかなぁ?」と不思議なことを言います。「なんで? あなた薬剤師だからお薬のことは詳しいんじゃないの?」。
実は主人は薬剤師として大学病院に勤務しています。主人の話では「『ジェネリック』とそうでない薬は、『効果は同じ』と説明することになっているけれども、薬の主成分の量は先発薬とジェネリックで同じであるが、錠剤は主成分の効果を効率よく発揮させるために補助的薬剤に差異があります。これは各社ノウハウとして表にだしていません。きょうもらった薬のことは知らないからわからないけど、先発薬と後発薬は同じではないのが、薬剤師の世界の常識」ということでした。
どうしてもっと早く教えてくれないの!とちょっと腹が立ちましたが、腸炎で苦しんでいる主人を責めることもできず、「へー、そうなんだ、これからはちょっと注意しよう」くらいに、頭の隅にこのことは残っていました。
ところが先月自宅の固定電話にびっくりする電話がかかってきました。
「アメリカでは今ゲノム分析への投資が、トレンドです。日本ではまだあまり知られていませんが、これから必ず火が付くでしょう。実は既に、日興アセットマネジメント会社が『グローバル全生物ゲノム株式ファンド』と呼ばれる投資信託が始めています。投資先は、現在のところすべてアメリカです。いま株や国債に投資しておられるのはもったいないです。元本保証の商品もありますし、私の証券マンとして長年の勘からも、間違いない商品です。私たちの世界には『アメリカで流行したものは5年後日本で流行する』という格言があります。全部ではありませんが、私の見るところ、金融商品に関しては間違っていません」
こう一気にまくし立てたのは、もう20年以上お付き合いのある、証券会社の営業の方でした。これまでも誠実に接してくださり、その人柄や知識は夫婦ともども信用していましたので、主人が帰宅後その話をしてみました。
その電話がまさか、これからお話しするような世界や、命を巻きこむ展開に繋がっていくとは、私たち夫婦も予想しませんでした。「ジェネリック」が「ゲノム」にそれから「万能細胞」の世界まで、私たちを連れてゆく旅路の出発点だったのです。
▼赤木 夏(あかぎ・なつ)[文とイラスト]
89歳の母を持つ地方在住の50代主婦。数年前から母親の異変に気付き、本通信で「老いの風景」を連載中。