よその国では軽蔑されることも少なくないけれども、日本には「モノマネ」を許容する文化があります。プロにも「モノマネ」を売りにしている芸人がいることからも、日本では誰かを上手に真似ることは「芸」とされているようです。

ところが、私の目から見ると、売れている「モノマネ」芸人の中でも、高評価を与えることのできる芸人さんは多くはありません。そしてもっと深刻なことは、一部の秀でた「モノマネ」芸人さんが実によくできた芸を披露しても、その面白さをわかる観衆が、限られているということです。

◆アドリブの発想力に非凡な才を持つ松村邦彦の「モノマネ」芸

私は松村邦彦の「モノマネ」を高く評価します。彼が素人でまだ体がほっそりしていたころから、彼の「モノマネ」兼アドリブの発想力には、非凡な才を感じていました。以下にいくつかyoutubeで見ることができる松村の芸を紹介しますが、はっきりいって、観衆のレベルが松村の芸に追いついていないので、本来大爆笑が取れる芸なのに、不発のような雰囲気が感じられます。


◎[参考動画]おい、貴ノ岩!松村邦洋、貴乃花他ものまねステージ。ビートたけし、達川光男、中尾彬、安倍晋三など。2016.9.10 大阪駅(keiba&heroshow 2016/9/13公開)


◎[参考動画]松村ものまね1(洋邦村松2015/7/17公開)

◆「モノマネ」芸・いくつかのレベル

「モノマネ」芸は、その内容により、いくつかのレベルに分けることができます。
一番簡単なのは「誰か有名人の形態、もしくは発言したことだけをそのまま真似る」芸です。これは「モノマネ」芸の中では一番簡単で、発展性のないものです。

次に有名人の「形態や癖を誇張して笑いを取ろうとする」芸です。コロッケや清水アキラなどがこのレベルの芸人です。この種の芸、最初は珍しさがありますが、ワンパターンに陥りがちです。コロッケは口の形を中心に顔を作るだけの芸ですし、清水アキラもセロテープで顔を造形する芸から成長はありません。

その上は形態の真似もするが、それ以上に声や語りの内容で「モノマネ」する対象との相似性を演出する芸です。古い話になりますが、かつて「サブローシロー」という漫才コンビがありました。この二人の「モノマネ」芸は、非常に高いレベルにありました。このレベルを常時軽くこなす楽しさがある漫才コンビですが早々に解散してしまったのは残念です。

「モノマネ」の最上級は、声や雰囲気で誰かを真似て、「その人が実際には話していないけども、言いそうなことを言い、観衆を笑わせる」芸です。プロでこの芸の域に達しているのは、私が知る限り松村邦彦、清水ミチコ、劇団「ニュースペーパー」のメンバー数人だけです。「モノマネ」ではなく、真似している対象の人物が、本当に語っているのではないかと思わせる、いわば「生霊下ろし」が「モノマネ」の真骨頂です。

◆「モノマネ」も演じられない議員候補たち

なぜに選挙終盤のこの時期に、政治と全く関係のない「モノマネ」を私が話題にするのか。理由があります。9割5分以上の候補者は下手くそな「モノマネ」も演じられていないからです。

私の知り合いで、硬派のライターに「モノマネ」癖のある人がいます。その人は世界中で誰も真似しないような対象の「モノマネ」を瞬時に繰り出します。昔から「モノマネ」が生活の一部だったそうです。中学の時は一人で先生全員の「モノマネ」ができたので「一人職員会議」が持ちネタだったそうです。私も聞かせてもらったことがあります。その先生たちのことは知らないのに、爆笑しました。

「モノマネ」は似ているかどうかも大切だけれども、語る内容も重要なんだなぁーと思わされました。その人は姜尚中、鈴木邦男、前田日明などあまりほかの人が真似しない対象を得意としています。「誰でも真似する有名人のモノマネやっても意味がない。むしろ、身近な人の真似をするのが楽しいんだよ」と、「モノマネ」に関してはも高邁な理念を持っているようです(いつかは「芸人としてデビューしたい」と真剣に考えているそうです)。

ここには書けないような、反原発の論客(実はほとんどの有名論客)や、しばき隊幹部の真似まで、驚くほど素人のくせに「無名人」の「モノマネ」が上手で飲み会の時はいつも楽しみにしています。

「モノマネ」に安心して笑っていられる時代は、もう終わってしまったような気もします。オウム返し、代わり映えのない政党・候補者揃いの選挙が終わったら、あの人はどんな「モノマネ」を披露してくれるでしょうか。

▼佐野 宇(さの・さかい) http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=34

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