安倍政権に忖度するマスコミが文在寅(ムンジェイン)政権を批判するなか、ようやく自民党内部から安倍批判が出てきた。例によって、党内非主流派ながら党員に人気の高い石破茂議員である。

朝日新聞のウェブサイト(9月1日付)から引用しよう。

【自民党の石破茂・元幹事長率いる石破派(水月会)は1日、神奈川県小田原市で会合を開いた。石破氏は記者団の取材に応じ、泥沼化する日韓関係の悪化に触れ、安倍政権の対応ぶりを念頭に、「『しばらくこのままでいくしかないね』という考えがずいぶんと広がっている」と指摘。「地域の平和と安定に決して寄与しない」と述べた】

だれもが「出口がない」と感じている日韓関係である。だれも打開の必要を述べていない中で、政治家としては当然の発言であろう。本欄で何度か指摘したとおり、安倍政権の事実上の禁輸措置に始まった日韓関係の泥沼化は、文政権の崩壊を意図したものである。しかるに、米CIAではあるまいし、安倍政権に韓国の政権を倒す工作力があるわけではない。ただひたすら、頑なに対韓外交を硬直化させるばかりだ。

◆韓国叩きに熱中するメディアの危険性

そんな安倍政権の態度を忖度するマスメディアは、文在寅大統領が法相に就けようとするチョ・ググ氏のスキャンダルを報じることに熱中している。このスキャンダル隠しが韓国政府によるGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄だと断じる報道もある。いまや、一億総嫌韓とでもいうべき報道がなされている。

問題にされているのは歴史問題なのである。いかに韓国の歴史教育が偏向していようと、史実をねじまげて歴史教育がなされているわけではない。大日本帝国による韓国併合という植民地支配の事実を変えられない以上、わが国は永遠に侵略国であり宗主国なのである。そうであればこそ、わが国は香港におけるイギリスのように、宗主国としてのふるまい、すなわち謝罪と誠意をもって両国関係を築かなければならないのだ。台湾に対しては、結果的にそのようになっているではないか。
さらに石橋氏の語るところを聴こう。安倍総理の口からは、けっして聞かれることのない内容だ。

【「これが(解決のための)考えだと言える人はいないと思う。それほど厳しい、複雑な、難しい状況にある」と説明。「日本と朝鮮半島はずっと関係が悪かったわけではない。長い歴史をみたとき、本当に修復不可能だと、努力を放棄していいんだろうか」と強調した。石破氏自身もこの数カ月、日本と朝鮮半島の歴史について勉強しているといい、「(歴史を)知ったうえで相手と相対するのと、知らないで相対するのはまったく違う」と語った】(前出朝日新聞ウェブサイト

◆歴史認識は「教養」である

歴史認識は立場によって、多面的な評価があって当然である。たとえばスポーツに例えてみよう。日本のスポーツの歴史の中で、野球の盛況は他のスポーツの低迷を招いたといえる。テニス関係者は「野球に人材を取られることで、かつての栄光の時代は終わった」と、イギリスから輸入された時期の全盛期を懐かしむ。

かつて、大学ラグビー全盛時代に見向きもされなかったサッカーは、Jリーグの勃興とともにナンバーワンフットボールの地位を築いた。ラグビー人気の柱だった早明両校の低迷とともに、ラグビー関係者は「サッカーに食われた」と、その惨状を嘆いたものだ。視点を変えることで、歴史の評価は多面的となる。したがって、日韓併合が韓国の近代化をうながしたという評価は、その裏側に他民族による支配・植民地化という、韓国・朝鮮にとっては屈辱の歴史を併せ持っているのである。この歴史観のギャップは、何度かの謝罪では済まない歴史の重みとしてのしかかっているのだ。さらに石破氏のいうところを、ブログから紹介しておこう。

【韓国政府によるGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄により、日韓関係は問題解決の見込みの全く立たない状態に陥ってしまいましたが、日本にも、韓国にも、「このままでよいはずがない、何とか解決して、かつての小渕恵三総理・金大中大統領時代のような良好な関係を取り戻したい」と思っている人は少なからずいるはずです。
 防衛庁長官在任中、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)でシンガポールを訪問し、リ・クアンユー首相(当時)と会談した際、親日家の同首相は日星安全保障協力の重要性について語った後、私に「ところで貴大臣は日本がシンガポールを占領した時のことをどれほど知っているか」と尋ねました。歴史の教科書程度の知識しか持っていなかった私に対し、同首相は少し悲しそうな表情で「更に学んでもらいたい」と述べました。意外に思うとともに、自分の不勉強を恥じたことでした】

ようするに、歴史認識というのは「知識」であり「教養」なのである。政治的な言辞を都合よく使い分ける才にばかり長けた、安倍晋三総理に「知識」と「教養」をもとめるほうが無理というものだが、この男の怖いところはその時の感情で政治を動かしてしまうことだ。いまこの瞬間にも危惧されるのは「間違って戦争を始めてしまう怖れ」である。そんな安倍総理よりもはるかに合理的な改憲派で、軍事オタクでタカ派的とすら見られている石破茂氏の、はるかに常識的な歴史認識こそ、自民党の良心といえるのではないだろうか。


◎[参考動画]軍事マニアと呼ばれても「安全保障」にこだわる(朝日新聞社2018/1/4公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

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