反社会勢力、すなわち暴力団と政治家の関係は、集票とカネ(利権)という政治の根幹にかかわるゆえに、本質的に切れないものである。
「いい人だけ付き合ってるだけじゃあ選挙落ちちゃうんですよね」
これはたびたび引用することになるが、2016年1月に辞任した甘利明社会保障・税一体改革担当大臣の辞任会見での発言である。URへの口利きのあっせん利得として、事務所(秘書)が建設会社から1200万円を受け取っていた責任をとって、辞任した一件だ。この「いい人だけ」の裏側には「悪い人と付き合う」が含意され、そこにはパーティ券の購入や資金援助、ブラックな人脈との付き合いが政治家の本質だと暗喩されている。
それがただの暗喩ではないことを、今回の改造内閣はわれわれに明示している。すでに派閥均衡(ただし反主流派は除外)の順送り人事であるがゆえに、70歳をこえた老害政治家や、とうてい大臣の任にたえない新閣僚を本欄で紹介してきた。9月18日の記事参照。
◆経済ヤクザは、かならず政治家と結びつく
今回は単に能力がないだけではなく、暴力団と密接な付き合いがある新閣僚を紹介することにしよう。しかし、それを単なるスキャンダルとして突き出すつもりはない。反社会勢力というレッテルも暴力団という概念も、警察官僚が作り出した法律用語にすぎず、かならずしも実態を反映していないからだ。
たとえば警察官のなかに圧倒的に性犯罪が多いのは、抑圧された階級組織に特有の病理である。だからといって警察官が全員性犯罪者とはいえないし、警察組織を犯罪組織とみなすこともできない。ヤクザ(任侠)組織も同様に、犯罪を是認している組織は存在しない。建前だけとはいえ、任侠道はまっとうな人の道を説いている。ヤクザに暴力事犯が多いのはケンカのプロという側面からある意味当然だが、それはカタギ(一般市民)に迷惑をかけてはいけないという組織の規律に担保されている。そして経済のグレーな部分を担う経済ヤクザは、かならず政治家と結びつく。それは政治家とヤクザの関係の本質なのである。
だが大臣となった以上、警察官僚が決めつける反社会勢力との密接交際は許されないことになる。いわば本質と建前のあいだで、政治家は集票力とカネを大臣職と引き換えに返上するシステムになっているのだ。したがって本来はスキャンダルではないはずのものが、閣僚になることでマスコミの標的にされることになる。甘利氏が言うとおり、政治家は矛盾した存在なのだ。そんな新閣僚が、今回の改造内閣でも浮上してきた。
◆田中和徳復興大臣 よく調べてみると、無能だった
「産経新聞」2011年10月22日ウェブ配信から引用しよう。復興大臣に就任した田中和徳氏(70歳)である。※引用の肩書は当時。
【自民党の田中和徳(かずのり)元財務副大臣(62)の政治団体が、平成18年に開催した政治資金パーティーで、指定暴力団稲川会系組長が取締役を務める企業にパーティー券を販売し、40万円を受領していたことが21日、産経新聞の調べで分かった。パー券販売は財務副大臣在任中で、暴力団側から政治家側への直接の資金提供が判明するのは極めて異例。暴力団排除条例が全国の自治体で制定されるなど「暴排」の動きが加速する中、国会議員と暴力団側の関係が発覚した。政治資金収支報告書や関係者によると、パー券を購入していたのは東京都品川区に本社を構える企業。設立は昭和62年で、法人登記では「日用品雑貨の販売」「金銭貸付業」などとなっている。捜査関係者によると、同社は暴力団のフロント企業として認定されているという。稲川会系組長は、設立当初は代表取締役を務めていたが、平成4年からは取締役に就任。同社が長年にわたって暴力団の影響下にあり、資金源となっていたことがうかがえる。】(2011年10月22日付け産経新聞)
すでに8年前の件でもあり、本来ならば問題視すべきではないことかもしれない。しかし暴力団との結びつきを暴露されるということは、ある意味で無能の証明でもある。そしてこの人物が大臣不適格なのは、あまりにも職務に不勉強であるからだ。9月12日に、田中復興大臣は福島県庁を訪れ、内堀雅雄知事と会談している。
ところが、この会談では官僚のペーパーを棒読みするばかりだった。記者会見でも避難者の住宅問題などには何も答えられなかった。取材者や県職員からは資質を疑問視する声が上がったという。
「民の声新聞」発行人の鈴木博喜氏は、退出する田中大臣に「自主避難者追い出し訴訟議案」(国家公務人宿舎に入居している避難者5世帯が被告になる)について「福島県が福島県民を訴えるなんて事が良いと思いますか?」と尋ねたが、「いや、これはちょっと私も……」と、しどろもどろの返答なのである。鈴木氏の記事から引用させていただく。
【事務方が「新幹線の時間がありますから」と制する中、筆者は「大臣の所管する話ですよ」、「勉強不足ですよ」と続けた。田中大臣は小さな声で「勉強不足って言われても……」とつぶやきながら会見場を後にした。】(2019年9月13日付け民の声新聞)
勉強不足だと思えば、その場で詳しく聞けばよいだけの話だ。質問の要旨をメモにとって、事務方に調べさせればよいのだ。それすらもできない大臣は、必要ないのではないか。
◆武田良太国家公安委員会委員長 さすがに暴力団からカネをもらったのはマズいだろう
つぎに「朝日新聞」(2019年9月13日付け週刊朝日)から引用しよう。
【2010年11月に公表された、武田氏の政治資金管理団体「武田良太政経研究会」の収支報告書によると、09年4月に開かれた政治資金パーティー代として、東京都のA社が50万円を献金している。また、11年11月公表の収支報告書では、A社の実質的な代表であるI氏が10年4月の政治資金パーティー代として70万円を支払っている。実は、このI氏、警察当局が指定暴力団山口組系の組員ではないかと当局からマークされ、裁判で素性が明かされた人物だった。
08年12月、東京地裁で開かれた刑事事件の法廷。上場会社E社の創業者のH氏が、暴力団関係者に脅迫され、金銭を要求された恐喝未遂事件の裁判で、被害者として証言に立ったが、本誌が入手した裁判資料によると、I氏についての以下のような記述があった。
弁護士 E社はA社と業務提携なさいましたよね?
H氏 はい
弁護士 Iさんが元暴力団の構成員だというのもご存じですよね?
H氏 知りませんでした。はじめは
弁護士 知った後、あなたはどういう対応を取りましたか?
H氏 契約の解除に動きました
ここで出てくる、「Iさん」こそ、武田氏に多額の献金をした人物と同一なのだ。】
政治家と暴力団の蜜月は、集票とカネ(利権)にかかわる本質的なものだと、わたしは冒頭で定義した。しかし、大臣は国政の責任を負う存在である。ましてや、警察機構を統括する国家公安委員長が、過去のこととはいえ暴力団から政治資金パーティーの代金を受け取っていたのである。
武田氏は13日の記者会見で「個別の報道には答えを差し控えたいが、政治資金は法令に基づき適切に処理されている」と説明した。もはや論評は不要であろう。警察庁を所轄する大臣が、適切に処理されていれば暴力団から献金を受けても良いと明言したのだ。
◆組長と仲良く写真を撮っていた竹本直一IT担当大臣
最後は本欄ですでに、ハンコ文化を大切にする新IT担当大臣として紹介した竹本直一氏(78歳)である。同じく「朝日新聞」からだ。
【閣僚名簿で「グレーな交友」を疑われたのが、科学技術担当相に起用された衆院当選8回の竹本直一氏(78)。SNSに、18年8月、花火を見物している竹本氏と記念写真に一緒に写っている角刈りの男性の姿がある。指定暴力団山口組系組幹部だったX氏である。同年3月に、竹本氏の後援会が開催した新年賀詞交歓会のパーティーで、X氏と岸田氏が親しそうに写真に納まっている写真が、写真週刊誌「フライデー」にも掲載された。
「X氏は長く幹部である組の顧問を最近までやっていたようだ。昔から、資金力豊富だと有名だった。岸田氏や竹本氏との写真は、箔(はく)をつけるために撮ったのでしょうね」(捜査関係者)そして、宏池会所属のある議員はこう話す。
「(フライデーに写真が出た時から)竹本氏は相手が暴力団関係者であることがわかっていたはず。岸田会長も、あの報道には激怒していましたよ。なぜ、竹本氏はSNSの写真を削除させなかったのか? こんなわきの甘さでは、大臣が長く務まるとは思えないですね」(2019年9月13日 週刊朝日)】
よくわかった。この人(IT政策担当大臣)はハンコをこよなく愛しているが、パソコンはたぶん自分で使えないのだろう。ホームページが「なぜかロックされている」のは既報のとおり、SNSも自分で管理できないから暴力団組長との記念写真を削除できなかったのであろう。
▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。