体罰。

一見、理がありそうで生徒・児童に何らかの教育的効果が期待できそうな響きを持つ倒錯。

わたしは教育機関におけるあらゆる「体罰」を全面的に否定する。高校・大学の運動部においても同様。わたしがこれまで体験してきた「体罰」は、生徒・児童の不適切行為に対する教師の、やむにやまれぬ選択であったことは一度もない。

逆だ。極めつけは「お前のその目つきはなんじゃ!」と、その筋の人間まがいの言いがかりをつけ、柔道で国体に出場経験のある教師が、生徒を投げるは蹴るは(木製タイルの上で)。その行為をわたしたち間では「殺人フルコース」と呼ばれていた。

◆生徒の鼓膜を破っても無罪放免だった中学教師の「狂乱」

不良なんか一人もいないおおらかな中学だった。だからその教師の「狂乱」が発生すると授業中のほかのクラスにも教師の怒鳴り声と、生徒の悲鳴が拡散する。心ある教師たちは、その悲鳴を聞いて「困った……」表情を隠しはしなかった。鼓膜を破られた生徒もいたがなぜか問題にされなかった。

柔道やボクシング、空手経験者が暴行傷害で検挙されると、通常人の行為よりも重く罰せられると聞いたことがあるが、その教員の過剰な暴力を校長も、他の教師もPTAも問題にはしなかった。彼らの言い分は「熱心な先生だから」。

馬鹿を言え!と言いたかったが、わたし自身もその教員に暴力を食らったことがあり(しかもその理由は極めて陰湿かつ政治的なものだった)中学生の頭脳と語彙では対抗することができなかった。歴史や文化の浅い街「ニュータウン」では、一般的な地域よりも権利意識が希薄であり、保護者連中も総じて教師に傅いていた記憶がある。

そしてこれは経験上の法則であるが、「暴力」教員を放置する学校では、もとは「暴力」を振るわなかった教員の「暴力」が蔓延する。「あの人もやっているから大丈夫なんだ」と思うそうだ。卒業してから20年ほどして暴力に手を染めた教員に感想を聞いた。無責任であるし、言語道断だと思う。

◆2012年「反原発」集会で目の前に現れた「高蔵寺高校分会」の組合旗

2012年東京。大規模な「反原発」集会とデモが行われていた。わたしはそこで腰を抜かしかけた「高蔵寺高校分会」の組合旗を目にしたからだ。そこそこベテランと思われる「高蔵寺高校分会」の旗を持った、おじさんに声をかけた。

「先生は高蔵寺高校の方ですか?」
「そうです。ここにいる3人は分会のメンバーです」
「わたしは高蔵寺高校の卒業生です。わたしが生徒だった頃は、組合に入っていた先生は一人しかいなかった。そしてひどい学校でした」
「開校当初の入学ですか」
「そうです」
「あの頃は酷かったでしょうね。声も出せなかったからね」
「いま、組合の先生は何人ほどいらっしゃるんですか」
「分会には20人近くいますよ」

光陰矢の如し、である。もちろん30年近い時間が経過しているのだから、変化は当然にしても、数万人集まった集会の中で、目の前に忘れようにも忘れられない「授業料を払いながら通う『刑務所』」の組合旗が現れたのは、表現するのが難しい感覚だった。

校長公認で学校ぐるみで生徒への暴力を推奨するのが、わたしが通っていた「授業料を払いながら通う『刑務所』」こと愛知県立高蔵寺高校であった(いまでは当時のような無茶な教育は行われていないと聞く)。

◆「東郷方式」という犯罪的教育ファシズムの嵐

1980年代。愛知県内では新設校で「東郷方式」と呼ばれる、犯罪的教育ファシズムの嵐が吹き荒れていた。愛知県立東郷高校ではじまった、この教育に名を借りた犯罪は、たとえば、学校には文化祭、生徒会、修学旅行、などは一切なし。高校は勝手に「集団行動訓練」と呼んでいたけれども、実質的な「軍事教練」が日々行われる。

毎日2回ある掃除の時間には生徒が、受け持ちの場所に走ってゆき教員に「点呼報告」を行う。

「報告します総員〇名、現在〇名。以上ありません」
「よし」(教員)
「お願いします」

これで掃除が始まるのだ。掃除の終了時には再び点呼報告がある。
「報告します総員〇名、現在〇名。以上ありません」
「よし」(教員)
「ありがとうございました」

いったい、1日に2回の掃除を強要されて、誰に「お願い」したり「ありがとうございました」という必要があるのだ。と、いう疑問をもってそれを発露すると大変なことになる。わたしは愛知県立高蔵寺高校在学中に、市来宏、冨田正二、英語担当の山本某、体育の佐治某など数えきれないほどの教員から個別に、あるいは集団暴行を何度も受けた。

ある時は現代国語の試験に「何でもよいから短歌をかきなさい」という設問に短歌を創作したら「その内容がけしからん」と職員室に呼び出されて暴力を振るわれた。

◆教師の8割以上が「日本教育会」の構成員だった

冨田正二は非常に悪質な音楽の教師であったが、暴力高校の屋台骨を背負っていた感がある。この男には音楽の時間に校歌ばかり歌わせられた。そういうくだらない授業に辟易していたので、3年生で非常勤の音楽の教師が「どんな授業を受けたいか書いてください」と4月の初めにアンケートを配布された際「1年生の授業はつまらなかったので、楽しい授業をお願いします」と書いたら、そのアンケートをどういうわけか冨田が見ていて(!)またしても職員室に呼び出され、顔や腹を殴られた。

また冨田は「日本教育会」という、当時は統一教会との関係も取りざたされた団体のリクルーターだった。「授業料を払いながら通う『刑務所』」に在籍していた当時の教師の8割以上は「日本教育会」の構成員だった。

◆「『申し訳ございませんでした』と学校に詫びろ」と罵声を浴びせる英語教師

愛知県立高蔵寺高校では、受験成績を上げるために、文系志望の比較的成績の良い生徒には、愛知大学と南山大学を受験するように強要が行われていた。わたしを含む学校にまったく好感を持たない生徒は愛知大学・南山大学の受験を拒否したが、そうすると保護者にまで電話を掛けたり、通知書に「どうして愛知・南山を受けようとしないのでしょうか」などと平然と書き込む馬鹿教師もいた。

3年生の時担任であった国語の中村某もその一人だ。中村は地頭が悪く、少しでも議論になると頭の整理がつかなくなり、破綻して現場を逃げ出すか「俺にも家族がある」と情けない言い訳をするどうしようもない教師だった。

だが中村以上に悪質で、特筆すべきは英語担当の山本某と市来宏だ。山本は45分間の授業の間に、毎回最低30回以上わたしを指名し、回答をさせた。わたしのクラスは30数人いたと思う。その中で私だけが毎回30回以上指名されるのだ。45分間に30回以上、多いときは40回以上回答を求められるので、好意的に解釈すれば「個人指導」を受けているようなもの(笑)だが、回答を間違えようものなら「ほらみろ! お前はいつまでも学校に反抗的な態度をとっているから、間違うんだ! 『申し訳ございませんでした』と学校に詫びろ」という罵声をあびせられるのだから、山本の行為はいじめといって過言ではなかったろう。

山本から罵倒された数は記憶できる範囲を大きく超えている。しかも山本は愛知大学・南山大学の受験を拒否する生徒に「受験料は先生が出したる」と授業中に公言し、実際に2万5千円(受験料相当額)を友人に無理やり受け取らせようとしていた。暴力教師の間では「自分の高校の生徒何人を愛知大学・南山大学に合格させたか」が競争のバロメーターになっていたのであろう。何たる貧弱な発想。迷惑な行動だろうか。

◆生徒に散々暴力を振るい、校長にまで出世した市来宏はしらを切る

市来宏は生徒に散々暴力を振るい、校長にまで出世して、退職後は馬を飼い、それが地元のテレビ、新聞で「美談」かのように報じられたが、とんでもない。この男ほど暴力の常習者はいなかっただろう。ちなみに市来宏はその話を『愛馬物語―クラリオンと歩む北の大地』として出版している。

竹刀を短く作り替えた「暴力専門」の棒を常に持ち歩き、少しでも気に入らない生徒の振る舞いがあれば、何の躊躇なく暴力を(しかも道具を使い)振るう。言葉での恫喝は趣味だったようで、こいつにはサディストの気があったのだろう。

数年前に市来に電話をして、「どうしてあなたはあのように暴力を振るったのか? わたしにどうして執拗に嫌がらせをしたのか?」と聞いたところ市来は「そんなことはしていない」と開き直った。ちなみにわたしの成績証明書は改竄されている。当時社会科の「倫理社会」は必須科目だったが、わたしたちの学年は教科書だけ買わされて、一度も「倫理社会」の授業を受けたことがない。にもかかわらず成績証明書には評価がつけられている。

その理由を市来に聞くと「知らない」としらを切る。何をいっているんだ! 学年主任だった市来が知らないところで成績の改竄が行えるわけがないじゃないか。自分に都合の悪いことは「知らない」癖に「あの頃の高蔵寺高校はどこよりも自由だった」と、腰を抜かしそうなことを言う。

電話をかけた当時市来は(現在は知らないが)痴呆だったわけではない。自分に都合の悪い質問は、言葉巧みにかわそうとしていた。わたしたちの学年の国公立大学志望者は、全員防衛大学の受験が強要された。この件は朝日新聞の社会面で報道されたが、その件を市来に聞いても「そんな事実はない」ととぼける。このような人間は本来、教育にかかわってはいけないのだ。(つづく)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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