◆ベネッセを中心とする「教育産業」と萩生田文科相の関係の闇
文科省が導入を宣言していた、「共通テスト」で英語民間試験に続き、国語・数学の記述式についても延期することを萩生田文科相は2019年12月17日の閣議後記者会見で発表した。 「センター試験」から「共通テスト」への変更で、売り物だった、英語民間試験、国語・数学の記述式が、当面実施されないことが確定した。
何年も前から実施を宣言しておきながら、「記述式では採点の標準化が難しい」との理由で、実施直前になり「共通テスト」の内容は、大幅に変更されることになった。背景にはベネッセを中心とする「教育産業」と萩生田文科相の関係や、文科省内の不協和音などが挙げられている。
◎[参考動画]採点などの課題で「現実的に困難」 記述式見送り(ANNnewsCH2019/12/17)
◆「大学自治」自体が目に見えて崩れていく時代
入学試験は受験生にとっては、大学に入学するための「ハードル」であるが、大学にとっては「どのような学生」を大学が求めるか、を示す機会でもある。だから古くは共通一次試験に私立大学が参加(実質的には文科省のなかば恫喝による参加)がはじまって以来、私は「私立大学の共通一次利用は私立大学存立の原則と相いれない」と批判してきた。
今日、大半の私立大学がセンター試験を、何らかの形で入学試験に採用する時代となったが、この状態はかなりいびつな問題をはらみながら、私立大学がそれを注視することなく、「時勢」に乗ってきた結果である。
私立大学だけではい。国公立大学も法人化により、かつてよりも補助金では冷や飯を食わされる一方、大学運営の独自性が奪われ、学長・理事会の権限が強まる反面、教授会権限が圧倒的に制限された。「大学自治」自体が目に見えて崩れていく時代にあって、横並びの入学試験について、根底的な疑問と議論が交わされないのは、まったく不思議な事態である。
◆共通テスト実施母体の深刻な知的劣化
「記述式では採点の標準化が難しい」程度の頭脳の持ち主が、試験問題の作成や採点に関わろうとしているということは「記述式試験を行う能力がありません」と宣言しているに等しい。私立大学(あるいは、私立高校・中学・小学校)における国語の設問には、文章の大意を述べさせたり、筆者の主張についての分析のを論述式で問う質問は珍しくないが、記述式設問には「特定の箇所が記載されているか」、「鍵となる文言(複数)が回答内にあるか」など、長年蓄積されてきた採点のノウハウがある。短い記述式の採点ができないようでは「小論文」の試験など、到底実施できないではないか。
こういった、程度の低い理由で英語・国語・数学の記述問題が実施できないのは、共通テスト実施母体に「その能力がない」と認めているのと同義だ。実に恥ずかしく、深刻な知的劣化といわねばならないであろう。
◆暴論を真顔で発表する文科省は「朝令暮改無能省」
文科省をわたしは内心「朝令暮改無能省」だと思っている。国公立大学をはじめとして、私立大学も大原則に立ち返り、いっそうのこと「センター試験」や「共通テスト」から離脱して、独自の問題で入学試験を行ってはどうだろうか。文科省はしきりに「個性」という言葉を近年、通達や指導要綱で用いている印象がある。そうであるならば、建学の理念が異なる各大学は、それぞれの大学が獲得を目指す学生像に合わせた入学試験を、自前で準備して実施するのが妥当ではないだろうか。
世界各国に「共通試験」や、「センター試験」のような標準試験は存在している。国を超えての留学の際などには、たしかに利便性がまったくないわけではない。が、それ以上に、今日この国においては文教行政の度重なる政策の過ちにより、高等教育において、大幅なレベルダウンが全体に発生していることを無視してはいられまい。大学のレベル調査や論文引用件数でも、中国や香港シンガポールの大学にかなり水をあけられる状態が年々進行している。
「文系の学科をなくす」などという、暴論を真顔で発表するのが文科省である。
近く、小学校で1人1台パソコンを使わせようと本気であの連中は考えている。幼少期から玩具に液晶を利用したものとの接触が増え、思考力の低下や脳へのダメージ、視力への悪影響が指摘されるなか、小学校での「1人1台パソコン提供」には、裏でメーカーとの薄汚い利益供与関係があるのではないか、と感じるのはわたしだけであろうか。こんな連中の指示に従っていたら、生徒・学生能力は、ますます低下することが確実だろう。
財政とともに、教育の面でも共通テストの破綻が、文教行政の破綻を明示した一年であった。
◎[参考動画]【Nスタ】振り回された受験生は怒り (TBS 2019/12/17)
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。