◆「仮処分決定」で、再び強制排除されるのか!
大阪市西成区、JR新今宮駅前の「あいりん総合センター」(以下、センター)で続く「センターつぶすな」の闘いに新たな動きがあった。センターは、昨年3月31日閉鎖予定だったが、当日抗議する仲間が多数集まり、閉鎖できなかった。4月1日以降、センターでは労働者、支援者らの自主管理を続けてきたが、4月24日、国と大阪府は機動隊を使い、暴力的に排除した。しかしその後も、シャッター外に作られた団結小屋を中心に「センターつぶすな」の闘いが続いている。
そんな中、2月5日の午後、大阪府の職員と大阪地方裁判所の執行官らが警官を多数引き連れセンターにやってきて、周辺に野宿する人たち一人一人に、「仮処分決定」の書類を渡し、テント前の敷地に「公示書」を釘で留めていった。
以下の写真はその1つだが、稲垣浩氏(釜ヶ崎地域合同労組委員長)以下15名の名前が掲載されている。大阪府と裁判所は、すべてを稲垣氏のせいにする気なのか?
◆「センターつぶすな」住民訴訟で明らかになった「南海電鉄」の杜撰な安全管理
「センターつぶすな」の住民訴訟(公金違法支出損害賠償等請求事件)の第6回期日が、2月3日大阪地裁で開かれた。この裁判は、センターの建て替えに伴い、南海電鉄高架下に作られたあいりん職安と西成労働福祉センターの仮庁舎の建設費用が、適正か否かを争うものだ。原告はこれまで、仮庁舎が、安全性が保証されない南海電鉄高架下に建設されたこと、しかも工事が「入札」でなく、合理的な理由がないまま、南海辰村建設と随意契約したことの違法性などを主張してきた。
前回原告が、大地震が起きた際、南海電鉄が倒壊する危険性について主張したところ、何も答えられない被告・大阪府に対して、裁判長が「上に電車が走っているので大丈夫でしょう」などと助け船を出す場面があった。裁判長は、25年前の阪神淡路大震災で起きたことを知らないのだろうか? そのため、今回弁護団は、25年前の阪神淡路大震災で、高速道路が倒壊するなどの甚大な被害が発生したこと、その後運輸省(当時)がまとめた「緊急耐震補強計画」の提言と通達、そうした耐震工事が南海電高架下の仮庁舎でも実施されなければならなかったと主張する「第4準備書面」を裁判所に提出した。
1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災は、震度7、マグニチュード7・3、死者は6,434人にのぼった。書面には、この地震により、多くの建物が倒壊した。更に阪神高速3号神戸線の鉄筋コンクリート橋脚が倒壊したり、山陽新幹の高架橋が8ケ所、在来鉄道では24ケ所が落橋したこと、東海道本線でも甚大な被害が出たことを当時の写真とともに記されている。
運輸省(当時)は、震災の翌日、鉄道施設耐震構造検討委員会を設置し、7月26日「既存の鉄道構造物に係る耐震補強の緊急措置について」をとりまとめた。またこの方針に基づき、既存の鉄道構造物の緊急耐震補強計画の策定などを、全国の鉄道事業者へ通達し、その運用について指導した「解説」を出された。その「解説」によれば、阪神淡路大震災の被害の特徴は、高架橋の柱などが「せん断破壊」をおこし、高架橋が落橋したことにあるとして、緊急措置として、構造物の崩壊を避けるための耐震補強を行うこととした。被害の多かった京阪神地域を優先的に対処したうえで、新幹線、輸送量の多い線区(ピーク時、1時間の列車本数が10本以上の線区)などを対象にするとされ、実施期間はおおむね5年とされた。
ただし、高架下については「間仕切り壁」などの設置により耐震効果のある構造になっているものなどについては、対象外とするとされた。補強方法としては、鋼板巻き立て工法などがあげられていた。
◆なぜ、センター仮庁舎付近だけ耐震補強工事をしないのか?
では仮庁舎が入る南海電鉄高架下はどうか? 税金7億5千万円を投入した仮庁舎で、開業から2ケ月後雨漏りが始まったことは、これまでここで紹介してきた。構造物にどのような欠陥があるのだろうか?
南海電鉄は、25年前、運輸省から受けた「通達」に基づき、耐震補強工事を実施しなくてはならない線区に該当していたが、おおむね5年とされた期間を2十年近く過ぎて、最近ようやく難波駅と今宮戎駅の間や、萩之茶屋駅の南側で「鋼板巻き立て工法」による耐震補強工事を実施した。しかしその工事が、仮庁舎付近では行われていないのだ。
被告・大阪府は、その理由を「その場所は耐震補強の対象外である」と反論してきた。「まちづくり会議」で、南海電鉄の耐震性に疑問の声があがった際も、識者は「南海に確認したところ、今回仮移転の検討を進めている場所は、耐震化の対象外」と返答していた。データなどの提示を求めた委員に対して、府の職員は「南海電鉄を信用できないのか?」と言い返す場面もあった。
◆二重に危険な仮庁舎に労働者を閉じ込めるな!
何故センター仮庁舎付は対象外なのか? 25年前の通達では、間仕切り壁などが設置され、耐震効果がある場合は対象外とある。しかし、仮庁舎が建設される際、間仕切り壁は撤去されている。センター建て替えに反対し、連日工事現場を監視していた稲垣氏も、それを確認している。高架下で間仕切り壁を撤去して商店などにしていた個所は、この間順次「鋼板巻き立て工法」で耐震補強工事を行っている。
現在、仮庁舎がある高架下は、二重の意味で危険だということ。つまり、仮庁舎建設のために、間仕切り壁などを取り払ったことで耐震補強の対象外でなくなったうえに、耐震効果のない仮庁舎を建設したことで、鋼板巻き立て工法による耐震補強工事ができなくなってしまったからだ。
こうした理由からも、あいりん職安と西成労働福祉センターの仮移転先を、南海電鉄高架下に選んだことは、不適切だったことは明らかである。
2月3日の裁判では、この点について、南海電鉄に対して、調査を求めるための「調査嘱託申立書」を提出、裁判官はこの申し立てを認め、大阪府に回答を提出するよう求めた。
◆さらに秘密会議化する「まちづくり会議」
1月27日、西成区役所で再開された「まちづくり会議」(労働施設検討会議)でこんなことがあったと、委員の稲垣氏が組合ビラで報告している。「ところでこの日、全委員が受け取った資料の中に、センターつぶしに加担する学者を含め約20人のまちづくり会議のメンバー他が、今年1月8日に、沖縄県那覇市にあるグッジョブセンター沖縄(就労支援の窓口)に見学に行ったときの報告書(A4の紙の裏表に書かれたもの)がありました。見学には朝日新聞の記者まで同行していました。釜合労はそんな見学があったことを知りませんでした。
会議の終わりころになって、見学に参加した白波瀬桃山学院大学社会学部准教授がこの報告書について説明をおこないました。説明を終えた後、白波瀬氏がこれは公表しないでほしいという意味のことを言い、その理由として『相手方に了解を得ていないから』というので、釜合労稲垣は『公表できないものは受け取れない』と言って持ち帰ることを拒否しました。すると白波瀬氏が稲垣の座る席まできて、返すように言って手を差し伸べてきたので、その報告書を返し、『この会議は秘密会議ではない。公表できないなんておかしい』と強く抗議し退席しました。過去47回会議がありましたが、公表してはならない資料が配られたことは、釜合労が知る限り一度もありません」(2月3日付け釜合労チラシより抜粋)
どういう目的のツアーだったか、お金はどこから出たか、あるいは自費なのかなどは不明だが、表に出してはならないような資料が出るなど、まちづくり会議がますます「秘密会議化」していることだけは明らかだ。「誰も排除しない」ではなかったのか?
全国の皆さんには、改めて釜ケ崎がどうなっているかにご注目いただきたい!
▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。月刊『紙の爆弾』2020年1月号には「日本の冤罪 和歌山カレー事件 林眞須美を死刑囚に仕立てたのは誰か?」を、『NO NUKES voice』22号には高浜原発現地レポート「関西電力高浜原発マネー還流事件の本質」を寄稿
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58