原発事故後に設置されたモニタリングポストが「数値を外から確認出来ない問題」に直面している。

福島県の中で会津地方や中通り、いわき市の避難指示が出されなかった地域に設置されているモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム、以下リアモニ)の撤去計画が白紙撤回されて5月で1年。

住民説明会では「万一の事態が起きた時に、放射線量を一目で確認したい」と設置継続を求める声が相次ぎ、撤去を進めたい原子力規制委員会を押し切った格好だが、一方で保育所や学校などに設置された一部のリアモニが敷地の内側を向いており、外から数値が確認出来ない状態になっているのだ。外から数値が見えるように180度動かすにしても専門業者の力が必要で、国も福島県も市町村もそのための予算措置などしていない。

昨秋の「10・12水害」で水没、故障したリアモニの建て替えも進んでおらず、住民が望んだ形とは異なる姿で「当面の間」の設置継続だけが続いている。

保育所や学校に設置されたリアモニの中には敷地外から数値を確認出来ないものも少なくないが、今のところ外側に向きを変える計画は無い

◆「外から数値が見えないリアモニって、確かに意外と多いんです」

「外から数値が見えないリアモニって、確かに意外と多いんです。そういう視点で街を歩いてみると気付くと思います。しかし、じゃあ向きを変えっぺと、人が何人か集まれば動かせるというような代物ではありません。仮に向きを変えるのなら重機が必要だから専門業者に頼まなければいけない。それはやはり、設置者である国の責任でやるのが筋なのではないでしょうか。国の責任で住民の要望に応えるのがあるべき姿だと思いますよ。でも、現実問題として国が予算措置しているのは、あくまで『維持管理費』です。向きを変えるような工事費用は盛り込んでいません。もちろん、県にもそんな予算はありません」

福島県放射線監視室の担当者は、ざっくばらんにそう語った。原発事故後、学校や保育所、集会所や公園など、子どもたちが集まるような場所を選んでリアモニが設置されたが、「職員や教師、保育士がまず真っ先に数値を確認する」との趣旨から、施設の内側に向けて設置されたものも多い。県民からは「外から数値を見えにくくするために意図的に内側にしている。〝汚染隠し〟ではないのか」との指摘もあるが、そうでは無いという。福島県中通りのある保育所長は「そんな悪意はありません」と話す。

「そもそもリアモニを設置したのが、歩いている人に数値を知らせるのでは無くて園児や保護者、保育士に見せるという趣旨だったのです。そういう意味ではリアモニの役割が変わってきているのかしれませんね」

県民からは「外から数値を見えにくくするために意図的に内側にしている。〝汚染隠し〟ではないのか」との指摘もある

◆リアモニを設置し続けること自体が「風評被害」を招く?

リアモニの撤去計画は2018年3月20日の原子力規制委員会(http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-237.html)で浮上。避難指示が出された12市町村を除く約2400台を2021年3月末までに撤去し、避難指示12市町村に配置し直すという計画だった。年間5億円とも6億円とも言われる維持費用のほか、空間線量の下がった区域にいつまでもリアモニが設置されていると特に海外からの観光客に被曝リスクが存在すると誤解を与える(風評被害を招く)という理由もあった。

2018年6月から11月にかけて福島県内15市町村で開かれた住民説明会では、撤去に反対する意見が大多数を占めた。母親たちの市民グループ「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会」が結成され、会津若松市や福島市、郡山市、いわき市などで地元市長に対して撤去に反対するよう求める要望書が提出された。複数の市町村議会が継続配置を求める意見書を国に送った。廃炉作業が何十年にもわたって続く中で、万一の事態が起きた場合に数値を確認する機会を奪わないで欲しい、というのが撤去反対の主な理由だった。

リアモニ撤去への反対意見が続出した住民説明会。多くが「万一の事態のために、数値を確認出来る機会を奪わないで欲しい」という切実な声だった

◆「そんな事ばかりやっているから福島は駄目なんだ」とまくし立てた田中俊一前原子力規制委員長

一方、リアモニ撤去の〝言い出しっぺ〟である原子力規制委員会の田中俊一前委員長は取材に対し「あんな意味の無いものをいつまでも設置し続けたってしょうがない。数値がこれ以上、上がる事は無いのだから、早く撤去するべきだ。廃炉作業でどんなアクシデントが起こるか分からない?そんな〝母親たちの不安〟なんて関係無いよ。そんな事ばかりやっているから福島は駄目なんだ」とまくし立てていた。

福島市の木幡浩市長(元復興庁福島復興局長)も、設置継続を求める母親たちの声に理解を示しつつも「風評」を何度も口にし、「そもそも米の全量全袋検査が良いのかという議論の中で、検査をする事自体が『福島の米は危ないのではないか』という事を示してしまっているという意見も現実にある。将来的なリアモニの集約というか、どの程度設置するのが良いかという議論はあり得るでしょう。今大きく減らすべきだと言うつもりは無い。ただ、僕らは『風評』と『自分たちの気持ち』の両方を常に考えなければならないと思う」と将来的な撤去に含みを持たせていた。

最終的には福島県民の願いが通じ、原子力規制委員会は2019年5月29日の会合で「当面、存続させる」事が決まった。長年「原発が事故を起こすなんてあり得ない」と〝安全神話〟を信じ込まされた挙げ句に原発事故の被害を受けた人々が、「廃炉作業で万一の事態が起きても中通りにまで影響が及ぶ事は無い」と事故後の数値確認機会まで奪われる最悪の事態は回避された。

◆リアモニ撤去の機会をうかがい続ける国の思惑

しかし、県職員も認めているように、国は撤去方針そのものは捨てていない。しかも中には一見して数値を確認出来ないリアモニもある。せめて施設外から数値を確認出来るように向きを変える事は出来ないかと原子力規制庁に確認をしたが、監視情報課の担当者の答えは「NO」だった。

「今のところ、その後の具体的な動きは全くありません。仮に向きを変えるとしたら県や市町村と相談してやることになると思いますが…。現時点では『当面、設置を維持する』というところから何も進んでいません。最近ではむしろ、中通りにある私立幼稚園などから『邪魔だから早く撤去して欲しい』という声が複数寄せられているくらいですから、向きを変えるという発想などありませんでした。もちろん、そのための工事費用を捻出する予算など確保していませんし…」

危機を脱し、リアモニ撤去計画を口にする人も少なくなった。国も福島県も話題にしなくなった。それにはこんな裏事情もあるという。

「『配置見直し』という国の基本的な考え方は変わっていませんが、水害が起きて33台がやられた。韓国が『日本はまだ汚染されている』と騒いでいる、『聖火リレーはこのまま実施して良いのか』などいろいろな外圧が起きています。そういった状況の中で、積極的に配置見直しを言いにくい事態に陥ってしまったのが現状です」(福島県職員)

じっと身を潜めながら撤去の機会をうかがっている国。当面の存続は決まったものの、本来の目的を果たせないものもあるリアモニ。「外から数値を確認出来ない問題」は解消されないまま、とりあえずの存続だけが続いていく。

国は撤去方針そのものは捨てていない

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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