『紙の爆弾』5月号は、久々の「特集」となった。総合雑誌ならワンテーマの特集が編集になじみやすい。とはいえ、本誌のように政治・芸能・経済・社会全体をカバーする「暴露雑誌」「批評雑誌」の場合は、時事的なテーマの煮詰まりが特集内容を決める。それほど「新型コロナ危機」が日本社会にとって喫緊のもの、いや全世界的・人類的な危機をもたらしている、ということになるのだろう。
とりわけ大言壮語のいっぽうで、危機管理にからっきし弱い安倍政権のもとでは、その対応を批判するのみならず、防疫の道筋を提案することが、われわれ国民の「生き延びる権利」となる。どの記事も誌面に惹き込む力をもっているが、例によって筆者の好みで紹介していきたい。
◆安倍晋三の元ブレーン・藤井聡が主張する
「新型コロナウイルスによる経済被害は安倍首相が原因の人災である」(構成・林克明)
まずはリフレ論者で、MMTの推進派として安倍政権の元ブレーンでもある藤井聡氏(京大教授・「表現者クライテリオン」編集長)のインタビュー。林克明さんがやってくれた。
最初に藤井は、安倍政権が1月末にいたるまで「多くの中国人の皆さまが訪日されることを楽しみにしています」(在中国日本大使館)と、中国人感染者を招き入れていたことを指摘する。インバウンドを期待した、安倍政権の浮かれた経済重視がウイルスを招き入れたのだ。ちなみに、武漢が閉鎖されたのは1月23日である。じっさいに、春節期の中国人来日者数は、前年比で22.6%増の92万4800人だった。水際で止めていれば、日本にコロナウイルスが上陸することはなかったのだ。
その後、専門家の意見を無視したパフォーマンス的な休校要請、中途半端なイベントの延期や中止要請で、自粛劇を蔓延させてしまった。藤井は計量経済学も守備範囲なので、消費税のよる経済変動についても、数値を挙げて解説してくれる。結論から言えば、やはり消費税は上げるべきではなかったのだ。
いま、経済対策として必要なのは消費税ゼロ、所得をうしなった人々への補償、そして思いきったリフレである。藤井はさすがに書いていないが、財務省を中心としたプライマリーバランス論者の「宗教」(藤井)を打破することこそ、日本経済救出のカギであろう。
◆フランスからの視点
「フランスから見た安倍政権の異常性」(広岡裕児)
フランス在住のジャーナリスト、広岡裕児さんがコロナ対策の日仏比較で警告を発する。フランス政府の徹底した情報開示、大統領と首相が国民に語りかける危機管理能力にたいして、安倍政権はいかにも鈍重である。とくにフェイクニュース「人から人へ、次から次に感染が広がるわけではありません」(1月段階)と語っていたのだ。事態はまさに、安倍総理の言明とは正反対になった。これが戦争であると明言したフランス政府の機敏な対応に対して、わが安倍政権はようやく本日(4月7日)、緊急事態宣言を発する。
これら安倍政権の対応の遅れ、危機管理の甘さは法整備にも顕著である。民主党時代に成立していた「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の発動の遅れ、改正法「新型コロナ特措法」の遅れに結果した。
しかも安倍政権は「緊急事態条項」を盛り込むことで、改憲へとみちびく意図が入っていると、足立昌勝さんは指摘する(「新型コロナ特措法と自民党改憲『緊急事態条項』」)。この期におよんでも、安倍総理はウイルスとの戦いを政局寄りに展開してしまうのだ。フェイクによる政治的パフォーマンスと政権維持のための国会対応、法整備、そしてマスク2枚という漫画的な防疫対策。これではウイルスに勝てないだろう。
「『ダイヤモンド・プリンセス』号 乗客に聞く『14日間』」は、編集部による乗客インタビューをもとにしたドキュメントだ。監禁された人々の切羽詰まった状況が、苛酷な船内風景とともに、いま明らかになる。乗員や救命スタッフの献身、人身御供にされた乗客の声を聴け。
コロナ特集はほかに「感染拡大で露見した日本社会が抱える弱点」(森山高至)、「内閣記者会は『安倍独裁』の共犯者」(浅野健一)、「野党第一党の弱腰で“大政翼賛会”の危険性」(横田一)、「安倍政権の『責任逃れ』でアジアで進む『日本離れ』」(片岡亮)など。
次号で、ウイルス封じ込めに成功した台湾の事例を、誰かレポートして欲しいと、編集部にリクエストしておこう。民主化運動で誕生した政権は、人材登用にしても政策運用においても、じつに手際が良い。
◆連載「NEWSレスQ」から
警察と住吉会の蜜月から、とんだ下半身スキャンダルが露見した。警視庁組織犯罪対策本部の警部補(51歳・第3課)が、住吉会の幹部と会食後に、幹部が紹介した女性とラブホテルに出入りするところを「フライデー」に撮られたのだ。
記事中でジャーナリストの中東常行さんが語っている通り、この叩き上げの警部補は、対立組織にハメられたのかもしれない。
警察官が暴力団関係者と密接交際するのは、親密に付き合わなければ情報が取れない、という表向きの理由だけではもちろんない。カネとオンナが付いてくる交際に、何のためらいがあろうか。警察官にかぎらず、官僚・役人というのは昇進・昇格によって生涯賃金がほぼ完全に計り出せる。そうであるがゆえに、出張費や諸手当、相手の心づけに弱いのである。暴対法・排除条例は警察官僚(警察庁)のものであって、そもそも警視庁の末端には及ばない法規なのである。
もうひとつ、「NEWSレスQ」から。「このハゲー! ボケー!」の豊田真由子元議員がタレント(ワイド番組)に転身とのこと。真由子サマのイメチェンが好評らしい。藤村太蔵元議員のタレント的な成功は周知のとおり、政界専門家としても、イジリやすいキャラとしても元議員は受ける。
夫の宮崎謙介元議員の浮気発覚の余波で、自らも落選した元衆院議員の金子恵美も芸能事務所に所属し、本格的にタレント活動を始めた。ほかに上西小百合(元維新)なども期待されるところだ。政治をお茶の間の話題にという意味では、民主的な政治におおいに貢献するのではないか。
◆東陽片岡の「シアワセのイイ気持ち道講座」
店(経営するスナック)の現状と引きこもり生活を活写。これはいよいよ、絵の吹き出しにあるベーシックインカムへの道か。本気でAIとベーシックインカムを議論する時代が来そうだ。
◆市民が阻止した天皇“奉迎”児童再動員(永野厚男)
2019年4月、昭和天皇陵における平成上皇の「退位報告」のさい、八王子市教育委員会が児童を「奉迎」に動員した。12月3日には令和天皇の「即位の報告」が予定されていたところ、八王子市民の粘り強い取り組みで、児童の動員を阻止したレポートである。
このような具体的な活動によって、われわれは天皇制イデオロギーの支配に抗することができると証明された。地域の粘り強い活動こそ、万言を擁する論評よりも強い、天皇制廃絶への道である。
◆巻末には松岡利康本人による圧巻の「創刊15周年記念」追想レポート
昨日の本欄で、松岡利康みずから触れた「本誌創刊15周年記念」の記事「『紙の爆弾』が創刊された二〇〇五年に何が起きたのか?」圧巻の追想レポートである。読みごたえがある。
とくに個々の局面で、誤ってしまった判断、同業雑誌関係者をふくむメディアの反応。絶望的な状況にもかかわらず、獄中(拘置中)での思いが伝わって興味ぶかい。
逮捕から三か月も接見禁止(ふつうは、23日間の取り調べが終われば接見禁止は解かれる)には、あらためて驚かされた。黄色の上質紙に印刷された本稿は、永久保存版である。
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。