3月15日、社会福祉法人ピースクラブ(大阪市内)で「桜井昌司Specialday」を開催した。布川事件の冤罪被害者である桜井さんが29年の刑を終えて千葉刑務所から出所し、普通の生活を取り戻しながら再審を闘う姿を追い続けたドキュメンタリー映画「ショージとタカオ」(井手洋子監督)の上映会と、桜井さんのトークライブの2部構成。昨年秋にがんを宣告され、現在食事療法を続ける桜井さん。かなり痩せられたが、トークも歌もこれまで以上の迫力。冤罪を無くすため、全国を駆け回る桜井さんにエールを送るつもりで企画したが、逆に「もっと頑張れよ」と背中を押された1日。迫力満点のトークの書き起こしを前編・後編2回に分けて紹介します。(構成=尾崎美代子)
※字数の関係で一部削除したほか、分かりやすく加筆、訂正しています。


◎[参考動画]ショージとタカオ予告編NEWバージョン2

2019年5月27日、東京地裁で「布川国賠」で勝訴判決が下された。入廷する桜井さん

◆神様が俺に新しい苦しみを与えた

去年9月にガンとわかり、10月に医者に言われました。いきなり緩和ケアだと。何で痛くも辛くもないのに、そう言うのか!と。その後、直腸癌のステージ4で肝臓に転移していると言われました。肩から薬剤を2週間に一度入れると言われた。わたしは嫌だから「先生、何もしなかったらどれくらい生きれるの?」と聞いたら「1年だ」と。「薬入れたら何年?」と聞いたら「2年」と言われた。

なんだ変わらないじゃないかと思ってね、「じゃやりません」と言いました。すると先生が「凄いですね」という。「何が?」と聞くと、「桜井さんのように余命1年と言われ、生き生きと活動している人はいませんよ」と。私は「だってダメでもあと1年生きるんでしょ? その間に何があるかわからないじゃないですか」と言いました。

今、swingマサさんの紹介で食事療法をしています。魚、肉、小麦粉、乳製品、卵、化学調味料を一切食べない。これで治った人がいる。私も必ず治ります。いや、治してみせようと思ってね(拍手)。もし治ったら、医者なんかいらないじゃないいですか?(笑)

私は刑務所に29年間入った後、針の穴にラクダを通すくらい難しいという再審で無罪を勝った。美香さんに「桜井さんは私のヒーローです」なんて言って貰え、たくさんの人たちに希望を与えることができた。こんなつまんない男が……。で、今度は国賠裁判にも勝った。間違ったことはダメだと通った。今度がんに勝ったら俺どうなるんですか?(笑)。自分はがんになって辛いと思ってないです。新しいチャレンジを神様が俺に与えてくれた、新しい苦しみを用意してくれたと思って、今ワクワクしながら、毎日過ごしています。(「酒と泪と男と女」を熱唱)

西成の難波屋で毎月14日(矢島祥子さんの月命日)に行われる「夜明けのさっちゃんズ」ライブで歌う桜井さん

この後は、大阪でいつもピアノ伴奏してもらっているキョウちゃんの伴奏で刑務所で作った歌を何曲か歌います。刑務所で「孤独を知る時」という詞を作りました。「人は苦しみによって孤独を知るのであろうか。悲しみの深さが孤独を教えるのだろうか。僕は喜びの時、幸せな想いの時、一人きりの喜びと幸せの、その虚しさに孤独を知った」という詩です。   

千葉刑務所に入っている人は、罪を犯した人も無実でもみんな寂しいし、辛いは同じ。でも私は皆さんに支援してもらって「今日、佐藤さんのコンサートがあって、俺の歌が好評だったって」とか言っても、誰もわからない。「桜井さん頑張って」と言ってくれる人がいて、でもその喜びは誰にもわからない。幸せの時「よかったね」と分かり合える人がいることが、人間の本当の喜び。悲しみや辛さが孤独ではないと私は思いましたね。刑務所の中で、詩人だったでしょ、私(笑)。そんな中で「闇の中で」という歌を作りました。聞いてください。(「闇の中へ」を熱唱)

「親孝行したい時に親はなし」と良く言います。私は親父が1991年、お袋が1976年に亡くなりました。刑務所にいたので葬式に出れなかった。そのせいか、今でも2人が生きてる気がちょっとしている。人間って100%はないとそれで教わった。あの時、葬式に行って「亡くなったんだ」とケジメつけたかったができなかった。だから、今でも生きているんだという気持ちが少しあって、それはそれでいいと思ってます。人間どんなことでも100%はない。でもやっぱりもう一度親父とお袋に会いたかった。言いたいことは1つ。「産んでくれてありがとう。本当に幸せな人生だった」と伝えたかった……(涙)。あとは何もない。皆さん、もし親が生きていたら大事にしてくださいね。なんでもいい親孝行は、会いに行くだけでもいいから。(「鼻」を熱唱)

上映会&ライブのあとの親睦会で支援者と談笑する桜井さん

◆人の命ほど大事なものはない

自分は73歳になるとは思わなかった。人生はあっという間ですね。さっきの映画に出ていた杉山と弁護団長さんが亡くなったし、「この人も、この人も」と亡くなった人がいました。人間って本当に生きていればこそ、やり直しができる。人の命ほど大事なものはないと思っています。

善人とか悪人とか関係ない。誰でも一度きりの命だから、どんな悪人でも許して、国家は大事にしないといけない。日本という国がなぜダメかというと、悪い人は殺してもいいという人が沢山いるからです。犯罪者を隔離すればいいという考えは間違っています。覚醒剤で捕まった人を刑務所に入れても何にもならない。あの人達は心を病んでいるんだから。病人を直すところ作るべきなのに、ただ逮捕して刑務所に入れればいいという。昔から、臭いものに蓋すればいいというのが日本なんです。違うじゃないですか。間違った人を大事にする社会だったら……と思います。

残念ながら、才能の違いって世の中ある。頭のいい人も確かにいる。でも安倍さんみたいに頭の悪い人でも首相になれている(大爆笑)。はっきり言って彼は簡単な漢字も読めないでしょ。正直言ってバカが総理になったら駄目です。だから、今、こんな政治なんです。

今のコロナ対策は何ですか? マスクなんてあまりに役に立たない。コロナの菌は風邪のウイルス菌の何百分の1なんですよ。だからマスクを突き抜ける。それなのに学校を一斉に休めと。子供はまだ何でもないのに。親はどうするの? 台湾のように、学級で1人でも出たら学級閉鎖して、2人になったら学校閉鎖するとかしないと駄目。それだと安心して学校にいけるのに。ロクでもないですよ、日本は。

私はやっぱり大事にすべき命があると思っています。釜ヶ崎にいる皆さんだって、ずっとまともに働いてきた人達じゃないですか。たまたま運が悪いだけ、たまたま自分にぴったり合う才能に恵まれなかっただけじゃないですか。もしも優しさが才能だったら、釜ヶ崎の皆さんは、全員金大持ちになっているかもしれません。そうでしょ! 口だけペラペラしゃべる小泉進次郎みたいなのが、顔がいいだけでちやほやされる。本当に日本の人たちはアホが多すぎます(大爆笑)。

何でも他人事だし、何でもワーとみんなで一過性でやって、すぐ忘れる。でもそういう中で目覚めないと、この国は良くならない。やっぱり目覚めた人は声出しましょうよ。ノーと言いましょうよ。世の中を変えましょうよ。私はそう言いたい。余命1年ですけど(笑)。何度も言いますけど、私は命尽きるまで、声を上げ続けます。

◆自分の運命は自分が招く

私は余命1年と告げられて思いました。運というのは誰が決めると思いますか? 天命? そんなのありません。人間は自分の運は自分が招くんです。何かあった時に「これは天命だ」なんて思ってはだめ。何をするか、どう行動するか、自分の考え方なんです。今ここを出て右に行くか、左に行くかは、その人の生き方すべてです。それが自分の運を寄せる。ですから何か悪いことがあったら「これは天命だ」とか「自分の力ではどうにもならない」とか思ってはだめ。大切なのは自分の思考や行動を変えること。私は確信を持っています。なんか凄い話になっちゃたね(「会場から「教祖様みたい」と笑)。なんかそんな気がしてますよ。運を運命にするのは自分だと確信持っています。私はがんになって食事療法を選んだ。これで運を自分で運命にするんだと思ってます。さあ余命1年か10年か、面白いなあ(笑)。

楽しいじゃないですか。わたしの人生観は明るく楽しくです。人生は一度限り、今日は1日限りと思ったら、苦しいこと辛いことは誰にでもあるんですよ。でもどんな中でもいいことはあるんです。だったら、その楽しいこと嬉しいことを、自分で100%だと思えばいいんです。皆さんも辛いことの中から、嬉しいことを見つけてください。嬉しいことをどんどん自分に寄せていけば、きっといい人生があなたに来ますから。(完)

◎布川事件冤罪コンビ「ショージとタカオ」のショージさん、大阪トークライブ──シャバに出てきて23年、「桜井昌司」で本当に良かった!
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=34875
〈後編〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=34881


◎[参考動画]布川事件 桜井昌司氏講演会(なにぬねノンちゃんねる2018/06/02)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

最新刊!月刊『紙の爆弾』2020年5月号 【特集】「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る 新型コロナによる経済被害は安倍首相が原因の人災である(藤井聡・京都大学大学院教授)他

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 菅直人元首相が語る「東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと」他