どんな殺人事件も例外なく悲劇的だが、とりわけ小さな子供の生命が奪われた殺人事件が地域社会に与えるダメージは大きい。2005年11月、広島市安芸区で起きた小1女児・木下あいりちゃん殺害事件もその1例だ。2015年に現場を訪ねたところ、事件発生から10年も経っているにも関わらず、現地のあちこちで生々しい事件の傷跡が散見された。
◆現地の小学生たちは大勢で集団下校
被害者の木下あいりちゃん(享年7)は被害に遭った当時、市立矢野西小学校に通う1年生だった。事件の日は下校途中に失踪し、空き地に置かれた段ボール箱から遺体となって見つかった。広島県警は捜査の結果、現場近くに住むペルー人の男、ホセ・マヌエル・トレス・ヤギ(30)を検挙。ヤギはあいりちゃんの身体にわいせつ行為をはたらいたうえ、首を絞めて殺害していたが、実はペルーでも幼女への性犯罪で2回刑事訴追され、日本に逃亡中だった。
そんな事件について、マスコミは当初、あいりちゃんを匿名で報じ、性被害の報道も自粛していた。しかし、父親の要請に応じ、あいりちゃんのことを実名扱いにし、性被害の内容も詳細に報じるようになった。ヤギはその後、裁判で無期懲役刑が確定したが、事件は裁判中も大きく取り上げられ、長く社会の注目を集め続けたのだった。
筆者が2015年に現地を訪ねたところ、まず何より印象的だったのは、現地の小学生たちが大勢で集団下校をしていたことだ。道路のあちこちに大人たちが立ち、下校する子供たちを見守っている姿も見受けられた。公園の金網に「考えよう 尊い生命の大切さ」などと書かれたプレートもかけられており、同じ惨劇を2度と起こさせないため、地域をあげて、子供たちを守っている様子が窺えた。
◆遺体遺棄現場では、ボロボロになった供え物が・・・
そんな現地で、何より悲しい雰囲気を漂わせていたのは、あいりちゃんの遺体が入れられた段ボール箱が捨てられていた空き地だった。その場所には、事件の頃に供えられたとみられるカプセルトイやヌイグルミがボロボロに痛んだ状態になりながら、その場に残ったままになっていた。そばには、ドライフラワー化した花も放置されていた。地元の人も現場には心理的に近づきがたく、片付けがされないままになっているのだろう。
ひまわりの花が好きだったというあいりちゃん。事件後にその死を悼むために作られたひまわり畑も訪ねてみたが、ひまわりの木はどれもすっかり枯れていた。そばに置かれた大きなシートには、「ようこそ ひまわり畑へ」という文字と共に、ひまわりの花飾りをつけた可愛いウサギの絵が描かれていたが、このシートもかなり汚れて、物悲しい雰囲気になっていた。
小さな女の子が殺害されると、地域社会のあちこちに決して癒えない傷が残るのだ。
▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(笠倉出版社)も発売中。