◆安倍首相の緊急事態宣言後の経営難……

キックボクシングに限らず、多くの競技が先行き未定の興行中止や延期となり、ジムが自粛休業された所属選手は試合出場を目指して、今は出来る範囲でひたすら身体が鈍らないように自己練習に明け暮れる日々。

自粛休業も、賃貸で経営するジムは家賃・光熱費が大きな負担となってくるので、経営難に陥るジムも出てくることが懸念されています。

昭和50年代後半のキックボクシング低迷期、国内で興行予定が立たない団体と各ジムは、香港でのキックボクシングブームに乗って選手の遠征試合を重ねました。また時代を問わず、選手個人はタイへ修行に出掛け、たとえタイの田舎の無名なリングでも勧められれば臨んで出場していました。でも現在は、タイに入国も労働許可証を持った者のみと制限されている上、どこの国にも遠征することも難しい現状です。

◆原点に返ったストリート練習

選手によっては感染拡大前から危機を感じて地方の実家に帰省する選手もいたようです。 そこでロードワークや近所の公園でダッシュの走り込み等の基礎トレーニングをして、そんな練習風景を見た地元の小中学生が興味を示し、勿論、密集・密接を避けながら一緒に練習に参加して、思わぬコミュニケーションとキックボクシングの知名度アップにも繋がっている話がありました。

首都圏で自粛生活をするしかない選手も大半ですが、選手同士が公園や路地でキックミットを持ち合い、交替で蹴りの練習をするというジム設備を持てなかった時代のような原点に返っている話も聴かせて頂きました。

ストリートジムのイメージ画像(昔の実際の練習風景)(1981年12月27日撮影)

この新型コロナウイルスによる影響により、選手らはまた必ず近いうちに興行が再開されると信じ、ひたすら自分との闘いとなって、諸々の生活事情も重なって心折れて気持ちが引退に傾くか、怪我の回復と筋力アップに力を注ぐチャンスと考えた、何でもプラスに捉えるようにする心の持ち方が、今後の人生に大きく影響していくでしょう。

そんな今、ジムに於いてトレーニングを実践、それを撮影し、インターネット等で一般会員練習生に配信し、テレワーク型指導でトレーニングを促すジムもあるようで、今の時代にあった工夫も活かされているようです。

プロ野球やサッカーも開催が延期されていますが、格闘技においてはタイでよくある王宮前広場での興行のように、屋外で開催されれば密閉だけは避けられるので、屋内より開催され易いかもしれません。プロレスやキックボクシング創生期は、かつて駐車場や空き地を借りての興行も多く、「雲行き怪しい中、客席に席番貼り付ける作業しながら雨降らないこと祈りつつ、何とか乗り切った!」というある会長も居ましたが、そんな時代も懐かしいものです。

無観客となっても外部へ配信も出来る時代(2017年7月2日撮影)※スクリーンはイメージ

◆タイの現状

日本は規制が緩過ぎで感染者が増えている状況に対し、タイは下降線の様子です。
タイは実質軍事政権で、こういう緊急事態の際には統制がしっかり取れて、感染者がタイ全土で1日30人程まで下がり、当初の100人超えた頃から日毎に減っている模様。タイの非常事態宣言は4月30日まで規制が掛かっており、夜間は完全な外出禁止令が発令中、見つかれば逮捕されます。その後の延期は今のところ発表されていない様子(4月20日現在)。

多くのムエタイ選手やトレーナーは、田舎に帰省し農作業して、それが専門誌のFacebookに掲載されたりもしている模様で、山中慎介や佐藤洋太と対戦した元・WBC世界スーパーフライ級チャンピオン.スリヤン・ソー・ルンウィサイや、2年前、梅野源治の挑戦を退けた当時のルンピニー系ライト級チャンピオン.クラーブダム・ソー・ピヤックウタイもその話題の人です。

タイ社会がいろいろと厳しくなり、政府の支援金を受けられず、失望して自殺したというニュースもあるといいます。

タイの王宮前広場での観衆、密集・密接だが密閉だけは避けられている(2000年12月5日撮影)

◆中止・延期と目途が立たない再開見込み

日本は緊急事態宣言が発令され、プロボクシングも5月31日まで興行中止・延期が決定。更に後楽園ホールは政府の緊急事態宣言による要請で5月6日まで休館となり、その間に予定されたイベントは全て中止。

キックボクシング興行は無観客試合も自粛となり、3月末までは強行された興行も、今はどこも開催中止や延期に陥っています。

ジャパンキックボクシング協会は5月10日に後楽園ホールで予定された興行も中止決定。4月24日から、その5月10日枠に延期したREBELSも興行中止決定。

6月に入ると14日に後楽園ホールに於いて予定されるニュージャパンキックボクシング連盟興行、6月20日の日本キックボクシング連盟(NKB)興行、6月21日の市原臨海体育館でのジャパンキックボクシング協会興行等は今のところ、開催予定としていますが、まだ新型コロナウイルス感染影響の下降も終息も見込めないと判断する団体と各プロモーターは多く、今後も政府の要請によって6月以降も影響が出ることが予想されます。終息に2年は掛かるという専門家の話が事実とすれば経済への影響も懸念されるところ、今更遅いですが、タイのような迅速な対応が安倍首相と政府に求められています。

もう少し密接を避ければ開放的で暴動も避けられそう(2000年12月5日撮影)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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