安倍総理の「卑怯な法案」すなわち検察庁法の捻じ曲げが国民世論の前に頓挫し、その法案が意図していた黒川検事長の定年延長も、ほかならぬ本人の違法行為(賭け麻雀)でお釈迦になった。納税者が自粛を余儀なくされていたときに、公僕たる者が御用新聞記者たちと密接交遊の博打に興じていたのだ。まさに噴飯物の顛末だが、さらに追及の手を休めてはならない。


◎[参考動画]【news23】賭け麻雀 黒川検事長が辞表提出(TBS NEWS 2020年5月22日)

なぜならば、安倍政権は黒川「容疑者」を訓告(注意)処分で免罪し、6000万円の退職金で慰労しようというのだ。本来ならば逮捕・起訴処分相当の賭博罪の犯罪者にたいして、大企業並みの退職金で報いようとしているのだ。
さっそく告発の動きがあったので注目したい。

「辞職した黒川弘務前東京高検検事長(63)が知人の新聞記者らと行った賭けマージャンは賭博罪に当たり、立件するべきだとして、市民団体が26日、黒川氏と記者ら3人に対する告発状を東京地検特捜部に提出した。」(共同通信. 2020/05/26 11:42)

この告発によって、検察が黒川の逮捕・立件に動かないとしたら、この国の司法は闇である。賭け麻雀について、じつは2006年に鈴木宗男議員が外務省職員のあいだで麻雀賭博が行なわれている(週刊誌の投稿欄による)との指摘があり、その答弁で「賭博罪が成立しうるものと考える」と、安倍政権は麻雀賭博の定義を答弁しているのだ。

また、防衛省では平成26年ごろから28年ごろにかけて、陸上自衛隊青野原駐屯地内で賭け麻雀を行なった事件がある。このときは自衛隊員9人が停職処分となり、一部書類送検されている。すなわち「懲戒処分」を受けているのだ。

「週刊文春」(6月4日号)によれば、黒川元検事長は10年以上前から、新橋や虎ノ門、時には渋谷にまで足を延ばして、雀荘に足しげく通っていたことが分かった。「黒川さんは、週に1~2回、多い時には週3回もいらっしゃいました」(雀荘の元店員の証言)というのだ。軽い遊びとしての賭け麻雀などではなく、その常習性・犯罪性は明らかだ。

にもかかわらず、今回は5月22日の衆院法務委において、法務省の川原隆司刑事局長は、黒川元検事長が参加した賭け麻雀のレートが1000点当たり100円の「点ピン」だったとして「必ずしも高額とは言えない」と答弁。森雅子法相も「常習とは一般に賭博を反復累行する習癖が存在すること。そのような事実は認定できなかった」などと、犯罪性を打ち消す答弁を展開したのだ。これでは法の正義は地に堕ちたも同じである。

◆法務省が賭け麻雀を「合法化」

つまり賭け麻雀は、法務省によって「合法化」されたのだ。「日刊ゲンダイ」(5月25日)によると、《SNSでは「堂々と賭けマージャンしよう」という呼びかけが広がっている。》という。

《ツイッターでは、「【祝レート麻雀解禁!】検察庁前テンピン麻雀大会」と題し、参加者を募集する人まで現れた。「1000点100円=黒川レート」なんて言葉も出現している。皮肉を込めたイタズラかもしれないが、参加者に「政府は黒川レートならOKなんでしょ」と反論されたら、捜査機関はどうするのか。》

まさに法が実行されない、犯罪容認政権による犯罪奨励がまかり通っているといえよう。


◎[参考動画]黒川前検事長に告発状(テレ東NEWS 2020年5月26日)

◆産経リークと官邸内部の暗闘

ところで、黒川賭博事件は、産経新聞の政治部のリークだと判明している(関係者談)。社内人事で社会部に敗れた政治部が、腹いせ的に「週刊文春」に垂れ込んだというものだ。政治部「記者クラブ」の御用記事体質にどっぷり漬かっている産経政治部にどれほどの正義感があったのかはともかく、ジャーナリズムとしての自浄作用があったのは僥倖である。

そして官邸サイドでは、菅義衛官房長官がやり玉にあがっているという。黒川の身体検査が不十分で、その責は人脈的に菅長官にあるというわけだ。

その菅義偉官房長官は26日の記者会見で、黒川弘務元検事長の退職金が「自己都合退職の扱いになって、退職手当は減額された」と釈明した。また「一般論」とした上で「(黒川氏と同様の)勤続37年の東京高検検事長が自己都合退職になった場合、定年退職よりも800万円程度低くなる」と述べた。

公表されていないが、退職金は約5890万円と試算される。この「自己都合」ではなかった場合は約6727万円だったとみられる。菅官房長官は黒川の退職金を「削る」ことで、自分の責任を明らかにしたのであろうか。

それにしても、黒川「容疑者」への訓告(注意)処分は、辞任による「自己都合退社」となったのだ。なんと都合のいいことか。

刑事訴追されるべき賭博常習者が自己都合退職で(庶民にとっては)高額の退職金を受け取るというのは、とうてい看過できるものではない。検察庁は黒川元検事長を逮捕・訴追せよ。検察への国民の信頼感の回復とは、まさにこのことにかかっているのだ。

◆誰が処分を決めたのか

それでは、誰が黒川元検事長の処分「訓告」を決めたのか、である。

安倍総理はこう明言してきた。

「検事総長がですね、検事総長が、事実、事案の内容等、諸般の事情を考慮して処分をおこなったわけでございます」(5月22日、衆院厚生労働委員会)。


◎[参考動画]総理「責任は私にある」黒川氏に退職金で野党批判(ANNnewsCH 2020年5月22日)

ところが、同じ日に森雅子法相は記者会見で、

「最終的に内閣で決定された。私が検事総長に『こうした処分が相当』と伝え、総長から訓告処分にする、との知らせを受けた」と説明したのである。

安倍総理は「検事総長が決めた」と言い、森法相は「内閣で決定した」というのだ。

この閣内不一致ならぬ事実関係の齟齬について、森法相は25日の参院決算委員会で発言を修正する。

「法務省内で協議を行い、任命権者である内閣とも並行して協議しました。検事総長に法務省から『訓告相当だ』と伝え、総長からも『訓告相当だ』と連絡があった」自身の「内閣で決定」発言を軌道修正したのだ。安倍内閣に特有の、総理の発言に合わせた(忖度した)発言修正である。

醜い責任の押し付け合い、発言の修正はもはやどうでもいい。問題なのは黒川元検事長の常習賭博罪(3年以下の懲役)を、法の番人として立件できるかどうかに、この国の民主主義・法の下の平等がかかっているということだ。


◎[参考動画]黒川氏の訓告処分 森大臣「勤務態度など考慮」(ANNnewsCH 2020年5月26日)

冒頭に「この告発によって、検察が黒川の逮捕・立件に動かないとしたら、この国の司法は闇である。」と書いていたところ、5月27日の午後になって、安倍総理への告発が不受理となった。以下のとおりだ(朝日新聞報を要約)。

安倍総理主催の「桜を見る会」について、憲法学者らが1月に安倍総理を背任の疑いで告発した件で、東京地検が告発を不受理にしていたことが分かった。26日の衆院法務委員会で、共産党の藤野保史氏が明らかにした。不受理の通知は1月31日で、「代理人による告発を受理できない」などの理由だったという。

藤野氏は「森友問題などでも代理人による告発が行われて受理されているのに、なぜ受理しなかったのか」と質問。法務省の川原隆司刑事局長は「捜査機関の活動内容に関わる事柄なので、答えは差し控える」として「一般に、告発については刑事訴訟法の規定をもとに代理を認めないと解している」と答弁した。

手続きの形式問題で、告発を受理しなかったというのだ。ふたたび、畳みかけるような国民的な運動が必要だ。

すでに安倍総理が1億5000万円の血税を投じた政治家夫婦(河井克行・案里夫妻)の外堀は埋まっている。そしていままた、6000万円の血税が、安倍総理の法的担保であった元検事長、賭博常習者の退職金として支払われようとしているのだ。

水に落ちた犬は叩け! 桜を見る会における公職選挙法違反、政治資金法違反の「容疑者」安倍晋三を取り調べよ! 検察は黒川元検事長を賭博罪で取り調べよ。その先に、安倍晋三本人の逮捕・公訴が待っている。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る