◆中部電力とJR東海──東海道新幹線の3倍以上の電力を消費する国策リニア新幹線
浜岡原発再稼働については目立った具体的動きはない。従って県民の再稼働に対する関心は川勝平太静岡県知事の度々の慎重論発言もあって、年々低下しているのが現状である。現在の県政における最大の課題は、新コロナ禍(5月5日現在)であり、JR東海が建設中のリニア新幹線問題である。リニア新幹線は、東海道新幹線の3倍以上の電力を消費すると言われ、その電源として浜岡原発再稼働が必要であるとのことから全くリニアと浜岡原発は無関係とはいえないが、現状ではその関係を中電もJR東海も表面には出していない。
浜岡再稼働への動きが低いと言っても全く無いわけではない。中部電力の勝野社長は、地元新聞の年頭のインタビューで「正念場を迎えている」「最大の課題である基準地震動と基準津波が決まれば、先行他社の工程に乗って、スムースに進む」としている。しかし、2月4日の静岡地裁での口頭弁論では、「原告主張に対する反論はなく、主張も何ら科学的論拠がない」と弁護団は批判している。浜岡原発が、南海トラフ巨大地震の影響を最も受けやすい原発であり、その巨大地震の規模も予想できない中での基準地震動と基準津波など意味があるはずもない。世界で最も危険な原発であることに変わりはない。中部電力は、再稼働へ向けての直球は投げてはいないが、講演会(中部原子力懇談会主催など)、原発見学会、マスコミなどにより宣伝を行っている。
◆「原発」を争点にしなかった御前崎市の市長選挙、市議会選挙
このような中で浜岡原発立地市である御前崎市の市長選挙、市議会選挙が4月12日投開票のもと行われた。原発に反対する市民運動団体、それに対する推進派の中部電力などの注目を集めていたのであるが、「原発」問題は争点として市長戦においても市議選においても全く俎上に上らなかったのである。候補者が原発問題から逃げ出してしまったのである。結果は、反原発の議員は2人、市長は口には出さねど再稼働推進である。共産党は、もともと基礎票が足りない中2人を立候補させたが共倒れとなった。
市議選には、昨年12月に行われた大規模産廃処理施設建設を巡っての住民投票の実施がある。大規模産廃処理施設は、すでに市長(4月選挙で再選)が業者との間に議会の同意もなく許可を与えたものであるが、市民の間から反対運動が起こり、それが予想以上の運動に発展し最終的に住民投票に持ち込まれ、12月に実施されたものである。結果は、圧倒的反対多数(90.20%)で産廃処理施設が拒否された(投票率60.81%)。この背景には産廃施設が、低レベルの核のゴミ処理を狙うものとしての市民が警戒したものの結果ではないか。
今まで御前崎市民は、こと原発問題となると口をつぐみ思うことがいえないことを強いられてきた。市議会も一部の議員に牛耳られ自由にものが言えない雰囲気の中で推移してきた。産廃住民投票は、過去の閉塞状態を打ち破ったといえる。従って、共産党が2人候補者を立てたのもうなずける。
市長選挙では反対運動を進めてきた女性候補が立候補し従来と比較すると大幅に票を伸ばしたが、選挙時点では産廃反対に転じていた現職の市長には及ばず惜敗した。産廃賛成派として議会を牛耳り、市長おも上回る力を持っていた(?)グループは、議員数、票数を大幅に減らした。この点から見れば多少御前崎市政も僅かながらも民主化が進んだといえる。しかし、御前崎市の財政状況は極めて悪く、過去に箱物を作りすぎた付けが大きな負担となっている。この点を今後再稼働推進の大きな宣伝材料として市民に流布されることが予想され、如何にしてここを突破していくのか我が方にとっても大きな課題となっている。
◆全機停止9年目の浜岡原発の再稼働とリニアの繋がり
浜岡原発は、福島事故当時の首相菅直人の要請によって全機が停止し今年の5月で9年目を迎えた。マスコミは毎年5月になると周辺市町など首長に対し浜岡再稼働についてのアンケートを行っているが、5月12日発行の朝日新聞記事のアンケ結果では、31Km圏内(静岡県では30圏ではなく31Km圏としている)の11市町のうち4市長が反対、賛成はゼロと出たがこの結果は昨年までのそれと変わりは無い。御前崎市長は、「議論する段階ではない」と逃げに回った。知事は5月12日の記者会見で、「再稼働」して事故が起きたら大変なことになる。現状を知れば動かない。動くことはない」と述べたとしている(毎日新聞)。
浜岡再稼働と関連があるのかもしれないリニア問題は、県・大井川水系の市町とJR東海が真っ向から対立し、JRはトンネル工事に着手できずこのままでは予定の開通に間に合わないといわれている。そこで国交省が調停に乗り出し有識者会議なるものを設置しそこでのJR東海の金子社長が「県は実現困難な課題を示している」と発言。これに対し県知事は、関係自治体(多数が浜岡原発30キロ圏内)と連盟で抗議文を国交省に提出し益々対立を深めることとなった。リニアのトンネルを掘ることにより大井川の地下水流が変わり下流域は水不足となることはほぼ確実視されている。県と関係市は、これを許さず当然のことながら現状通り全量確保せよと主張している。このことを指して「実現困難な課題」と金子社長が発言した。もともと国交省のつくった「有識者会議」など中立であるわけがなく、事実県の推薦する有識者は一人も入らなかった。原発と同様にリニアは国策、そしてJR東海の2代目葛西敬之元社長はアベのお友達であり「有識者会議」が静岡県民を無視することはほぼ間違いないだろう。
川勝県知事は、浜再稼働再稼働について「県民投票で」と度々発言しており、そこへ国策であるリニア問題が絡み今後原発問題がどのように展開していくのか、情勢分析をしっかりし、的確な方針で反・脱原発を県民に浸透させていかねばならない。ちなみに、来年7月には知事選挙がある。
▼鈴木卓馬(すずき・たくま)
浜岡原発を考える静岡ネットワーク(浜ネット)代表。浜ネットは1997年結成、個人会員約300名、団体(労働組合)5。代表の鈴木卓馬は、3代目、全労協系労組出身。他に「浜岡原発とめます本訴の会」(会員約500名)を2002年立ち上げ、現在は東京高裁で運転差し止め訴訟継続中。
紙の爆弾2020年7月号増刊
2020年6月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/148ページ
総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機
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[表紙とグラビア]「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
(写真=原田卓馬さん)
[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
原子力とコロナと人類の運命
[報告]孫崎 享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)
この国の未来は当面ない
[報告]田中良紹さん(ジャーナリスト/元TBS記者)
コロナ禍が生み出す新しい世界
[報告]鵜飼 哲さん(一橋大学名誉教授)
汚染と感染と東京五輪
[報告]米山隆一さん(前新潟県知事/弁護士/医師)
新型コロナ対策における政府・国民の対応を考える
[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
コロナ禍は「世界一斉民主主義テスト」
[報告]小野俊一さん(医師/小野出来田内科医院院長)
新型コロナ肺炎は現代版バベルの塔だ
[報告]布施幸彦さん(医師/ふくしま共同診療所院長)
コロナ禍が被災地福島に与えた影響
[報告]佐藤幸子さん(特定非営利活動法人「青いそら」代表)
食を通じた子どもたちの健康が第一
[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈8〉
新型コロナウイルス流行と原発事故発生後の相似について
[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
コロナ禍で忘れ去られる福島
[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈19〉
翼賛プロパガンダの失墜と泥沼の東京五輪
[インタビュー]渡邊 孝さん(福井県高浜町議会議員)
(聞き手=尾崎美代子さん)
関電原発マネー不正還流事件の真相究明のために
故・森山元助役が遺したメモを公にして欲しい
[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
僕らは、そして君たちはどうたち向かうか
[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が原発の解体と埋設に反対する理由
[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
《対談後記》四方田犬彦への(公開)書簡
[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
令和「新型コロナ」戦疫下を生きる
[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈8〉
東京オリンピックを失って考えること
[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ禍で自粛しても萎縮しない反原発運動、原発やめよう
《全国》柳田 真さん(再稼働阻止全国ネットワーク・たんぽぽ舎)
《六ヶ所村》山田清彦さん(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
《福島》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟/杉並区議会議員)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)