「安倍政権の敵=すべて正義」という思考回路になっているのだろうか。いま話題の国会議員夫妻、河井克行氏(57)と案里氏(46)の公選法違反(買収)事件に関し、普段は「反権力」をウリにする識者たちが繰り広げる発言を見ていると、そう思わざるをえない。

これまでの報道などを見る限り、河井夫妻が地元広島で大勢の地方政治家たちに金を渡していたことや、昨年7月の参院選の際に官邸から河井陣営に1億5000万円の資金が渡っていたことは事実で間違いないだろう。ただ、河合夫妻は「買収」目的で金を渡したことは否定し、無罪を主張している。であれば、無罪推定の原則に従い、夫妻の主張の信ぴょう性も慎重に検討されるべきだろう。

しかし、「反権力」がウリの識者たちのメディアやSNSでの発言を見ていると、河井夫妻を有罪と決めつけたうえ、検察の捜査が政権中枢に及ぶことを期待する意見に終始しており、「検察の応援団」と化している趣だ。しかも、彼らの発言内容を見ていると、自分で独自に取材などはしておらず、報道の情報に依拠して発言しているのは明白だ。

彼らは普段、「権力は暴走する」だとか、「権力は監視しないといけない」だとか、「現場に足を運ぶのが取材の鉄則だ」などと言っておきながら、自己矛盾を感じないのだろうか。

筆者自身、安倍首相のことは好きではないし、無罪推定の原則を絶対視しているわけでもない。しかし、普段は「反権力」をウリにする識者らがこの事件に関し、事実関係をないがしろにし、「検察の応援団」となって盛り上がっている様子には、正直げんなりしてしまう。

有罪視報道を繰り広げるマスコミ

◆事実を見極める目を曇らせるものとは……

検察捜査への疑念を表明した橋下氏と堀江氏のツイッターでのやりとり

この事件に関する著名人の発言をチェックしてみると、普段は「反権力」などと声高に言わない人たちのほうが、むしろ「権力監視」や「無罪推定」といった原理原則に沿った発言をしていることがわかる。たとえば、元大阪府知事の橋下徹氏だったり、実業家の堀江貴文氏だったりだ。

スポーツ報知の記事(http://ur2.link/UqHa)によると、橋下氏は報道番組に出演した際、金を受け取った政治家たちが河井夫妻側の意図について「選挙買収目的でした」と検察の有罪立証に資する証言をし、立件されずに済んでいることを問題視。堀江氏もこのスポーツ報知の(グノシーで配信された)記事に、ツイッターで反応し、橋下氏とやりとりする中で、「正式に司法取引してないんですか、、普通にすればいいのに」(http://ur2.link/oZWJ)などとツイートしている。要するに2人は、暗に検察が違法な司法取引をやっている疑いを指摘しているわけだ。

そして橋下氏は結論的に、金を受け取った地元広島の地方政治家たちの証言の信用性に疑問を投げかけたうえ、「有罪心証報道が先行し過ぎ」(http://ur2.link/THKi)と述べている。刑事事件や事件報道の見方として、きわめて的確な意見で、まったくケチのつけようがない。

翻ってみると、橋下氏や堀江氏は普段、「反権力」をウリにする識者たちから批判的されることが多い人たちだ。そういう人たちがこの事件の検察捜査への疑念を表明する一方で、普段は「反権力」をウリにする識者たちが報道の情報に依拠して「検察の応援団」に化している現実を目の当たりにすると、「歪んだ党派性」は事実を見極める目を曇らせるのだということを再認識させられる。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第11話・筒井郷太編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)