2020年6月30日、中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は「香港国家安全維持法(国家安全法:国安法)」を全会一致で可決・成立。香港政府はこれを即時施行し、それと同時にようやく条文が明らかになった。中国当局による香港での統制強化が可能となり、「一国二制度」は葬られた。最高刑は終身刑だ。翌7月1日の抗議行動では370人が逮捕され、3日に1名が起訴された。亡命の動きもある。

韓国の劇映画『世宗大王 星を追う者たち』を観て、まず、これらの報道を想起した。世宗(セジョン)大王とは、「聖君」として知られる李氏朝鮮の第4代国王だ。ハングルの生みの親であったことは映画やドラマをきっかけに知っていたが、鑑賞後に調べると、本作の主人公ともいえる科学者チャン・ヨンシルとともに実際、天文台・簡儀台の設置、日時計と水時計の製作などを手がけている。

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◆李氏朝鮮と現在の香港との共通性

なぜ香港の報道を想起したかといえば、やはり当時の宗主国である明の支配、そして長いもの=権力をもつ明にまかれようとする中央官職に就く人々が、世宗やヨンシルの敵として描かれているからだ。

もちろん実際、強大な国である中国は過去から現在にいたるまで拡大志向であり、いっぽうの朝鮮半島はアジア大陸の東端にあって侵略され続けた歴史のなか、幾度も立ち上がってきた。個人的には、現在の共和国の姿勢も、そのような歴史を抱えながら他の社会主義国が追いこまれていく様子を目の当たりにしてきたことが背景にあると考えている。結果、主体(チュチェ)思想が生まれたのではないだろうか。

話を戻せば、時代は変われど、また作品としてタイミングを意識したわけではないにせよ、この中国の属国として葛藤しながら耐え続けた朝鮮と、現在の香港の状況とが重なるように感じたというわけだ。

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◆「星を追う」名シーン

ちなみにお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、わたしは韓流ファンでもある。ドラマに始まり、映画、K-POP、バラエティーにもはまっているのだ。特に、最初に心を奪われた韓流ドラマの時代物では、下層から人柄やセンス、能力や努力によって這い上がっていくストーリーが多く、そこにはまった。

本作でも、奴婢(賤民)だったヨンシルが能力や努力を買われ、世宗と交流していくさまは、BL(ボーイズラブ)否、男2人の深い友情物語として満喫できる。ヨンシルは北極星は世宗だと言い、世宗はその脇の明るい星(四輔星:サボソンだったか)をヨンシルだと言う。星の見えない夜にも、ヨンシルは世宗に「星空」を見せる。これらのシーンはとても美しく、本作のみどころの1つといえるだろう。ただし、ラストシーンは、思い入れをもって観るほどに、複雑な心境となるかもしれない。だが実は、ここにもまた史実の一片が含まれていることを、鑑賞後に調べて知った。

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韓流映画やドラマのファンとしては、やはりスタッフや俳優陣のチェックも楽しみとなる。『世宗大王 星を追う者たち』の監督であるホ・ジノは『八月のクリスマス』『四月の雪』や最近Abema TV でも時々放送されている『オガムド 五感度』などを手がけている。世宗役のハン・ソッキュは、映画なら同じく『八月のクリスマス』やあの『シュリ』など、ドラマでは実は『根の深い木 世宗大王の誓い』でも世宗を演じていたのだが、『根の深い木』も大変興味深い作品なので、ぜひご覧いただきたい。ヨンシル役のチェ・ミンシクも映画では『シュリ』『オールドボーイ』『バトル・オーシャン 海上決戦』などの出演するほか、ドラマでも活躍している。もちろん脇役にも、見た顔がちらほら。そんなチェックも楽しみたい。

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◆ともに夢を見る者の間に育まれた友情

さて、侵略に話を戻す。日常でも人は、他人を味方につけ、敵でないと安心したいものかもしれない。しかし、侵略には限りがなく、現代においては多くの国家においては基本的に否定されている。ところが、武力・財力など、さまざまな武器を用い、いろいろな侵略をおこなっているのだろう。それに対抗するにはどうすればよいかという話の先に9条の議論もあるのかもしれない。

しかし少なくとも、壁と卵なら壁の側が武力を行使してはならず、また卵であるところの現場に生きる1人ひとりの市民・民衆の声に耳を傾けねばならないだろう。その点で、世宗は民が学べるようにと独自の文字を編み出したように、香港の民主化・独立を求める大きなうねりをつぶしてはならず、中国は香港の市民の声を聞かねばならない。香港には知人の活動家もいて心配であり、これは国内での思想の左右を問わない問題であるように思われる。

『世宗大王 星を追う者たち』を観て改めて、夢をともに追い求める人間の姿やその間にある愛情をぜひ感じてほしい。そして、あなたにも「星」を追い続けてほしいと思う。


◎[参考動画]映画『世宗大王 星を追う者たち』日本版予告(株式会社ハーク)

2020年9月4日シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
監督:ホ・ジノ 出演:ハン・ソッキュ、チェ・ミンシク、シン・グ、キム・ホンパ、ホ・ジュノ、キム・テウ
【2019年/韓国/韓国語/133分/スコープサイズ】 英題:Forbidden Dream 配給:ハーク
公式HP: http://hark3.com/sejong/

▼小林 蓮実(こばやし はすみ)
フリーライター、アクティビスト。映画ファン、韓流ファンでもあり、ソウル訪問のほか訪朝も3回。『現代用語の基礎知識 増刊NEWS版』に「従軍慰安婦問題」「嫌韓と親韓」、雑誌『neoneo」No.08に「朝鮮を外から描くドキュメンタリーが抱える妄念」、ここ『デジタル鹿砦社通信』に「闘う姿に胸を打たれ、自らの闘いを問われる2作品 ── チェ・スンホ監督『共犯者たち』『スパイネーション/自白』」などを寄稿。

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