自民党総裁選は両院議員総会での選出となり、事実上、菅義偉の選出が決まった。密室での総理誕生劇である。
◎[参考動画]“ポスト安倍”レース 菅氏 一気に本命に ライバルは
◎[参考動画]あっさりと“党員投票なし” 周到だった党執行部(2020年9月1日)
ふり返ってみれば、20年前に安倍晋三がここまで長期政権を担うと想像した人は少なかっただろう。いずれ総理総裁になるとは思われていたが、一次政権における「投げ出し」で底が見えたものだ。しかるに、周到な準備をへて安倍一強とまで言われる独裁体制を築いた。
何しろ、どんなスキャンダル(おもに政権の私物化)があっても、選挙に強い(ほかに居ない)ことで乗り切ってきた。政界名家の血筋であること、見てくれが他の政治家を圧倒していること、そして中身のない演説で人を酔わせる。これらが何か不可侵のものを作り出していた。無能にもかかわらずこの政治家に支配されたがる国民を生み出してきたのだ。
ファシズム体制が支配される国民の了解を要件としているのならば、ここ数年の日本はまぎれもなくその類型を体現してきたといえよう。その意味で、政権が生まれる過程である自民党総裁選に、われわれは注視しておく必要がある。いままた、安倍の意志が自民党総裁選を支配しつつあるからだ。
◎[参考動画]菅義偉 カジノ法案「国会での審議を見守っていく」(2016/12/07)
◎[参考動画]菅官房長官に竹中平蔵が問う!「政府の役割・民間の役割」~大阪万博・カジノIR・携帯料金見直し(2018年11月25日開催/グロービス経営大学院 東京校)
◆日本の男尊女卑を体現する 自民党の女性排除
今回の総裁選には、岸田文雄、石破茂、河野太郎、菅義偉、茂木敏充、野田聖子、西村康稔、下村博文、稲田朋美、小泉進次郎(以下、敬称略)の名が挙がっていた。
このうち、西村康稔、下村博文、稲田朋美の三氏は細田派(清和会)なので、立候補は無理だ。細田派は安倍晋三の出身母体であり、次期総裁は出さないと決めているからだ。
意欲満々の河野太郎も、麻生派が擁立するかどうかにかかっていたが、麻生が難色をしめして派閥の決定に従った。
小泉進次郎もまだ早い、経験不足との声が周辺に多く、早々に不出馬を宣言した。環境相として、かならずしも充分に任を果たしているとは言いがたい点も、本人がいちばん知っていた。
野田聖子の立候補表明は、これで3度目になるが、早くも1日に不出馬表明となった。女性候補が出るというだけでも、稲田朋美が言うとおり意味があるはずだった。残念ながら、野田が推薦者20名を集められる趨勢ではない。女性が指導的な責任ある位置にいない、あるいはその突出を妨げるのが、自民党の最大の問題点であろう。
とくに野田聖子は障がいのある子を高齢出産(卵子提供の胎外授精)し、困難な子育てを実践している人だ。障がい者福祉への視点、子育て社会福祉の視点からも、もっと責任のある立場での活躍が期待される。現在の夫である在日韓国人男性が、指定暴力団会津小鉄会昌山組の元組員であったことも、嫌韓社会の是正にはいいのではないかと思う。
◎[参考動画]「あなたに答える必要はありません」望月衣塑子(東京新聞記者)vs菅義偉内閣官房長官(2019年2月26日)
◆密室での総理誕生
岸田文雄、石破茂、菅義偉、茂木敏充の4人に絞り込まれたとみるべきだったが、9月1日の総務会の決定でまでに、立候補を公式に宣言したのは岸田と石破だけである。本命の菅義偉(多数の派閥が支援を内定)は、まだ出馬を宣言していない。
いや、安倍の後継をするのかというTV番組での質問に「まったく考えていません」を繰り返していたのだから、出馬宣言は「二枚舌」になると指摘しておきたい。すくなくとも、立候補にいたった経緯を詳細に説明するべきであろう。俺の好きなように勝手気ままにやる、昨日言ったことを明日はひっくり返す。というのでは、国民はついていけない。
◎[参考動画]“ポスト安倍”の誉れ高き? 菅さん 記者質問に何と(2019/04/08)
◎[参考動画]“令和おじさん”菅長官が思い「受け入れて頂いた」(2019/04/28)
最新の世論調査(共同通信8月31日)によれば、国民の総理にしたい政治家は以下のとおりだ。
石破茂 34.3%
菅義偉 14.3%
河野太郎 13.6%
小泉進次郎 10.1%
岸田文雄 7.5%
菅義偉は、わずか14.3%である。石破は34.3%、つまり3分の1以上だ。
したがって、民意は石破茂ということになる。民意に従わない自民党の密室政治という事実を、この先に起きる事態(政治危機)のときに思い起こしてみたいものだ。
石破はたしかに改憲派の軍備増強論者で、右派と見られがちな人だが、慎重な性格は信頼できる。まちがって、アメリカの戦争に巻き込まれるようなことはない。そして地方へのまなざし、弱者への視点という意味では安倍晋三とは好対照なのである。
その石破が総理になることを、安倍晋三は何よりも怖れているのだ。言うまでもなく、森友・加計疑惑の再調査、河井夫妻への一億円の検証など、旧悪が暴露されるのを怖れているのだ。
◎[参考動画]河井案里議員の豪華すぎる応援演説陣を学ぼう!【広島県】【自民党】(2019.7)
◎[参考動画]“鉄壁官房長官”に動揺?(2019/12/03)
◆地方3票を、郵送で事前選挙?
自民党の党則では、総裁選出が緊急を要するときは、両院総会で後任を選べる。この場合、有権者は党所属国会議員(394票)と都道府県連代表各3人(141票)で、100万人を超える一般党員は対象外となる。
総務会の決定では、党員投票を伴わない両院議員総会で実施する方針である。新型コロナウイルス渦、政治空白期間を短縮する必要があるいう理由だ。
これに対して、党内若手(百数十人が署名)からは広く党員も全員参加して選ぶべきだとの声が上がっていた。地方組織からの要望も、党大会での選出というものばかりだった。
ところが、総務会では地方委員会の「事前投票」(3票の行方を決める)が行なえるという答弁で、これら党大会開催の要求を退けたという。この事前投票は郵送なのだから、時間的には全党員の投票が可能なのではないか? けっきょく、二階俊博および安倍晋三の思惑(相互に院政と幹事長職留任)、そして麻生太郎がそれに乗るかたちで、全体を仕切ってしまったのだ。
そのもとに、各派閥が「岸田尚早論」「石破排除」で結束し、勝ち馬に乗ってポストを得る。安倍晋三の思惑どおり、菅義偉によるワンポイントリリーフが決まっていたと見るべきであろう。
◎[参考動画]菅長官「全国50カ所に」 世界レベルのホテル新設へ(2019/12/07)
◎[参考動画]追加費用の負担合意ない 菅氏、IOC見解を否定(2020/04/21)
◆最悪の人選となった
その菅義偉は2020年8月11日の本欄で明らかにしたとおり、苦労人にもかかわらず、いや、だからこその「努力しないやつは容赦しない」「粛々と」した冷淡さがぬぐいがたい。とりわけ、沖縄へのイジメに近い態度から、寛容さのない政治が危惧されるところだ。
本稿のテーマは、情勢の変化に即応してレポートします。
◎[参考動画]“ポスト安倍”総裁選には? 菅官房長官に聞く(2020/08/21)
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
著述業・編集者。2000年代に『アウトロー・ジャパン』編集長を務める。ヤクザ関連の著書・編集本に『任侠事始め』、『小倉の極道 謀略裁判』、『獄楽記』(太田出版)、『山口組と戦国大名』(サイゾー)、『誰も書かなかったヤクザのタブー』(タケナカシゲル筆名、鹿砦社ライブラリー)など。