本日9月11日、『NO NUKES voice』25号が発売となります。新型コロナウイルスが収束しないため、24号同様、脱・反原発の集会、講演会、現場の報告は少ない一方、汚染水処理問題、六ケ所村の再処理工場開始、老朽原発再稼働の策動などを進める政府に対抗する重要な提言などを多数寄稿いただきました。
◆3・11とコロナ禍を経験した私たちは、今後何をすべきか?
小出裕章さんの書下ろし長編論考「2つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織」
巻頭の小出裕章さんの報告「2つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織」では、新型コロナウイルスが蔓延し始めるなか、東京五輪の延期をしぶしぶ決断した政府が、その後のコロナの感染拡大を封じ込めれずに、今、私たちは放射能汚染とコロナウイルス汚染の2つの緊急事態宣言下に置かれていると解説する。
2つの間には、とりわけ社会的弱者に犠牲を強いること、さらにこの混乱に乗じ、権力の手先となって弱者、犠牲者を追い込める民間勢力の「自粛警察」が跋扈する危険性を共通項にして、警鐘を鳴らしている。安倍首相(当時)が、優雅に愛犬を抱いて紅茶を飲み、読書する「自粛」生活を披露したが、多くの人たちにはそんな優雅なことができる職場も住居もない。得体のしれないコロナに狼狽(うろた)えるしかなかった。十分に補償されない限り、危険を承知で働かざるとえなかった人も多い。これは事故後、福島第一原発から大量に放出された放射能を前にして、多くの人々が戸惑いや恐怖とともに感じた感覚と似ている。
しかしコロナウイルスの正体が徐々にではあるが解明されてきた今、3・11以降、あらゆる生活の過程で放射能を強要されている私たちは、新型コロナウイルス(COVID-19)という新たなウイルスと対面し、今後何をすべきかを考える必要がある。
「多様な他者の存在をお互いに大切にする社会の建設を目指すべきであり、そのためには、他者の痛みに共感できる子供を育てる必要がある」と小出さんは最後を締めくっている。コロナを体験した私たちが、今後どのような社会を構築していくべきか、本紙ご購入の上、ぜひ考えていただきたい。
◆7月9日大阪府高槻市「反原発自治体議員・市民連盟、関西ブロック第4回総会」から
井戸謙一さんと木原壮林さんの講演録
多くの集会、講演会などが中止・延期されるなか、7月9日大阪府高槻市で開催された「反原発自治体議員・市民連盟、関西ブロック第4回総会」において行われた2つの記念講演、井戸謙一さん(弁護士・「関電の原発マネー不正還流を告発える会」代理人)の「原発をめぐるせめぎあいの現段階」、木原壮林さん(「若狭の原発を考える会」)の「危険すぎる老朽原発」の書きおこしを掲載した。
いずれのテーマも、今、反原発を闘うすべての人たちが、現場で闘う際、貴重な武器となるものだ。低線量被ばくや老朽原発の危険性などの、専門的で難解な内容も、非常にかみ砕いてわかりやすい解説である。ぜひ、様々な闘いの現場で参考にしていただきたい。井戸氏の「被ばくをめぐる5つの問題」の1つに提起された「不溶性微粒子問題」は、脱被ばく子供裁判を闘う過程で、各専門家の先生方のご尽力で解明されたもので、内部被ばくから引き起こされるさまざまな健康被害を研究する要となるものだ。
木原氏からは、老朽原発とは具体的にどんな原発かについて、例えば運転中の原発で国内初の死亡事故を起こした2004年8月の美浜原発3号機の配管破裂事故について、具体的に配管がどう腐食し事故に至ったかが詳細に説明された。そして、このような危険極まりない老朽原発の再稼働の阻止を突破口に、原発のない人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しようと訴えられた。
◆喫緊の課題「コロナが収束するまで原発を止めろ!」が意味すること
水戸喜世子さんが語る「ニューノーマル下で実現すべき脱原発社会」
上記の高槻の講演会で久々に水戸喜世子さんに久々にお会いした。早速気になっていた5月18日、水戸さんら福井県など4府県6人で原告となり「新型コロナウイルスが収束するまで、関電の若狭の原発7基を止めろ」という仮処分の申し立ての話に及んだ。すると水戸さんは「記者会見にはどこ(のメディア)も書いてくれないのよ」と悔しそうにこぼされた。そういえば、その時点で本紙でも取り上げる予定はなかった。私は急遽、編集部に話し、水戸さんに取材インタビューすることが決まった。
確かに収束の見通しのたたないコロナ禍で、原発事故だけではなく台風、豪雨などが起きた場合の避難は喫緊の課題のはずだ。しかし大手メディアは申し合わせたように、この裁判を無視していた。「パチンコ屋に営業自粛を迫るのであれば、被害がけた違いに大きい原発の営業自粛をなぜ求め合いか」? 水戸さんはそう裁判を起こすきっかけを話し始め、私たちがまたもや「原発安全神話」の催眠術にはまり込んでいるとしか思えないと。
コロナ下で原発事故が起きた場合の、実行力のある避難計画は、国からも各自治体からも出されていない。そもそもコロナ禍で「3蜜を避け」「換気せよ」ということと、放射能防護のための「気密にせよ」は、相反するものである。つまり感染防止と災害避難は両立しない。これを契機に危険な原発は、今後どんなウイルスが発生しても止めるべきとの世論を広めなくてはならない。
水戸さんは「人間が環境との付き合い方を変えない限り、ウイルスが変幻自在に姿を変えて付きまとってくる予感がしまう」として、「脱原発を『ニューノーマル』とすることができたらドイツのように、新型コロナウイルスとの戦いにも勝てるに違いないと確信します」と締めくくられた。
今紙のテーマとなった「ニューノーマル」(新たな常態)とは、世界経済がリーマンショックから立ち直っても、もとの姿に戻れないとの見解から生まれた言葉で、構造的な変化が避けられない状態を示している。安倍から菅に代わろうとする政府は、来春の東京オリンピック開催を危ぶむ声が高まるなか、福島第一原発の汚染水問題で全世界を騙したように、コロナに対しても「アンダーコントロール」すると宣言した。しかし、3・11後の放射能と、今のコロナを経験した私たちは、汚染水もコロナも人間が自由に「アンダーコントロール」出来ないと知っている。元の姿に戻ることはできないならば、私たちが意識的に変わっていくしかないのだ。
▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ
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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島
[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織
[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
コロナ収束まで原発を動かすな!
[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
コロナ時代の大衆運動、反原発運動
[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
原発を巡るせめぎ合いの現段階
[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
危険すぎる老朽原発
[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告
[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係
[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連
[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相
[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会
[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
「原発事故被害者」とは誰のことか
[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ
[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
具体的なことと全体的なことの二つを
[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
恐怖と不安は蜜の味
[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり
[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師)
マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説
[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)