「あいりん総合センター」(以下センター)周辺の野宿者らに、強制立ち退きの危機が迫っている。大阪府が7月22日提訴したセンター明け渡し断行仮処分の2回目の審尋(非公開)が10月12日行われる。

債権者(大阪府は)は、4月22日に土地明け渡し訴訟を提訴した時点では、その裁判の判決を待って対応できると判断していたにもかかわらず、数か月後の7月22日明け渡し断行の仮処分を提訴してきた。その間、新型コロナウイルスの影響で裁判が中断されたとはいえ、明け渡しが緊急に必要となる新たな事情が生じたのだろうか? 大阪府の主張書面では、この点に全く触れられていない。

◆センターは「公の施設」ではないのか?

大阪府は、センター解体のための条例を作ったり、正式な議会にかけずに強制立ち退きを強行しようとしているが、その理由をセンターは「公の施設」ではないと主張する。そんなことはない。「公の施設」について、地方自治法244条1項は、「住民の福祉を増進する目的をもって、その利用に供するために施設」であると規定する。

それに沿って説明すれば、センターは、「青空労働市場の解消と地区労働者の福祉の向上」を目的として建設されてきたし、そのため建物内には労働者のためのシャワールーム、ランドリー、食堂、売店、理髪店、喫茶室、ロッカー室などが設置されていた。

大阪府も「愛隣地区の実態と労働対策」というパンフレットで、建設を大々的に公表していたし、賃借契約書にも「日雇い労働者の福利厚生」の用途に供しなければならないと規定していた。

センター1階の食堂横。「施設内は駐輪禁止です」の看板に「大阪府」の名前が明記されている

また、写真のように、大阪府が土地や建物を管理していた事実を示す看板もある。このように、大阪府は、センターの土地、建物を釜ヶ崎の日雇い労働者の福利厚生のために建設し、その用途にそって利用・管理してきたのであり、センターが公の財産にあたることは明白だ。大阪府は「大阪府が普通財産として管理し、公益財団法人西成労働福祉センターに貸し付けていたから、公の財産に該当しない」というが、これは大阪府が本来行うべき条例の制定を怠っているというだけのことだ。

また、大阪府は、仮にセンターが公の施設であっても、2019年3月に閉鎖されたので(実際には4月24日)、使用は廃止されたと主張する。しかし地方自治法244条2第1項では、「公の施設の設置及びその管理に関する事項」は条例で定めなければならないと規定している。つまりセンター閉鎖に関する事項もまた条例で規定し、それにそった措置が取られていなければ、使用廃止とはいえない。物理的に閉鎖されたからといって、センターの使用が廃止されたとはならないのだ。

また、強制立ち退きのうち、仮処分手続きによる明け渡し断行は、社会権規約委員会が一般的意見4及び7において示したガイドラインに反することが明言されているが、これについても大阪府は、なんの反論も行っていない。

◆「代替措置が取られている」というが……

大阪府は、様々な代替措置が取られているから、仮処分断行しても、野宿者らの行き場がなくなるわけではないと主張し、市役所職員とセンター周辺の野宿者に「生活保護を受けるよう」と説得しまわっている。

もちろん生活保護を受けたい人はうければいい。問題なのは、普段は生活保護の申請を水際作戦で拒んだり、生活保護者に「働けるだろう」「若いだろう」と保護の辞退を迫っているくせに、強制立ち退きまでに野宿者を減らしたいがために、甘い声で「今なら大丈夫」と生活保護を進めていることだ。

また、生活保護を申請しても、三徳寮や無料・低額宿泊施設など、個人のプライバシーの守れない集団施設に押し込まれたりするため、生活保護の利用自体を諦める人も少なくない。現在、野宿する人の中にも、以前生活保護を受けていたが、そのような理由や「囲い屋」など貧困ビジネスに餌食になり辞めた人も多い。

そうした諸問題を放置しなから、今だけ「生活保護を」とは余りに虫が良すぎるはなしだ。なおシェルターも、決められた時間に遅れたら入れない、ゆっくり眠るために飲む酒が禁止されている、大きな荷物が持ち込めないなどの理由で利用しない人も多い。

近くの公園に野宿しながら、センター近くにアルミ缶、銅線などを集めにくる労働者。雨降りの日でも「やらんと食っていけんやろう」と

◆趣味や好きで野宿しているわけではない!

大阪府が主張する以下の点は、とりわけ野宿者を愚弄する許しがたい内容だ。

「債務者A(野宿者の実名)はシャッターが閉まる前から生活保護やシェルターなどを利用してないが、望めば利用できたことはいまでもない」。(またA自身が生活保護を受けたら緊張感がなくなると考えていることを受け)「債務者Aが、緊張感のない生活をしないという意思に基づいてホームレス状態を継続することは、他者の権利や公益を侵害しない限りは明け渡し断行によって実現しようとまでされるべきことではないが、これにより債権者には重大な損害が生じるから、これらの対比でいえば、かかる利益が保護されるべきであるとはいえない」。

これに対しては、原告団はこう反論している。

「債務者Aは、センターが閉まる前から、昼間は3階に、夜は現在の場所に継続して住み続けてきた。他に行くところがあるのに、気にいらないから、そこに住んでいたわけではない。他に行き場がないから、このように暮らしてきたのである。例えば、トイレが確保できる場所は容易には探せない。ホームレス状態にある人々の権利の問題が考えられるとき、このことが出発点にならなければ、およそ話にならない。行くところがあっただろう。趣味で済んでいるんだろう。これらは法的主張ではなく、日々ホームレス状態にある人々になげつけられた社会偏見以外のなにものでもない。そこに住まざるをえない事情を、野宿せざるをえない人々に立証する証明責任が課せられてはならないのである。その証明責任は、彼らを野宿状態に放置している私たちにある。理由は簡単である。私たちは一晩でもセンターのシャッター前で寝てみる勇気があるだろうか」(債務者主張書面1)。

雨風をしのぐことが出来るシャッターの真下が寝場所だ

◆13年間も放置されてきた耐震工事

大阪府は訴状で、耐震問題を理由に「センターを一刻も早く建て替える必要がある」と主張する。それならば、3月24日本訴を提訴した段階で、仮処分を申請すべきではなかったのか。それをせず、何をいまさら「一刻も早く建て替えを」だ。「耐震性がー」と叫ぶ大阪府は、これまで何をやってきたか? 

センターの耐震性問題は、2008年の耐震診断に始まり、いったんは減築工法なども検討されながら、2016年7月26日の「まちづくり会議」で建て替えが正式に決められ、センター解体工事の仮契約は2020年12月上旬、本契約は2021年2月下旬との予定が組まれている。耐震診断の2008年から本契約まで13年間かかるが、これまで大阪府が「一刻も早く建て替える必要がある」と考えていた形跡は全くない。

つまり、センターの耐震工事(建替え工事)は、2008年耐震診断でその必要性が判明したが、2012年2月に大阪維新の橋下元市長が打ち出した「西成特区構想」をうけ、それに歩調をあわせ進められ、現在、そのスケジュールを守りたいとの理由だけで、強行されようとしている。そのための野宿者の強制立ち退きだ。

なぜ大阪維新の金儲けのために、労働者の拠り所のセンターが潰されなくてはならないのだ! 11月1日に再度強行される住民投票に反対を突きつけ、弱いもの苛めの維新政治を、ここ釜ヶ崎から終わりにさせていこう!

壊されたため、安い中古バスに買い換えられた釜ケ崎地域合同労組のバス。寝場所のない人に解放されている

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

NO NUKES voice Vol.25