◆経済政策優先のリベラル派
巷はGo To トラベル中止をめぐって大騒ぎである。今年冬から春にかけての新型コロナウイルス感染第一波では、政府は緊急事態宣言を出して外出・営業自粛を呼びかけた。
しかし政府は、自粛による損失補償をごく一部に限り、多くの人々が経済破綻した。その失政に対する世の中の“空気”を感じ取ったのか、表向きは「経済のことを考えてます」と示すための策がGo To トラベルだったのかもしれない。
大規模な自然災害が今後何年も続くといえるのだから、ここは大規模な財政出動で生活を補償して乗り切るしかないだろう。
こうした基本の必要性を改めて痛感したのは、アメリカ大統領選挙の動きを見てだった。経済活動の制限をしても感染拡大防止優先を主張する民主党バイデン候補に対し、コロナ対策を軽視し経済優先を明らかにしていたのはトランプ大統領だった。
しかし、この両者の差はコロナ対策に限定されるわけではなく、トランプ氏が当選した前回の大統領選においても明らかだった。
単純化しすぎかもしれないが、経済的苦境にあえぐ労働者階級(特に白人労働者層)に対して、リベラル派は「実利」(仕事とカネと生活)を与えられず、むしろ右派の方が経済活性化により生活保障をわずかながら推進させた。
振り返って日本。リベラル派から左派までを主な支持基盤とする政治勢力で、全面的に経済を出した「れいわ新選組」(以下「新選組」)は、「実利」を主要政策の上位にした点で、それまでのリベラル派新党とは明らかに違う。
◎[参考動画]みんなに毎月10万円を配り続けたら国は破綻するか?(れいわ新選組 2020年5月8日)
昨年(2019年)の旗揚げ3ヶ月後の参院選で緊急八策を全面に掲げて新選組はキャンペーンを重ねた
消費税廃止、最低賃金1500円政府補償、奨学金徳政令などが主柱である。
同党発足時は、山本太郎代表がかねてから強く主張して原発廃止などをスローガンにせず、ほとんど経済だけに特化して世論運動を始めたとき、
「なぜ政党名に元号を使うのか!」
「彼が大切にしてきた原発廃止をまっさきに掲げないのはがっかり」
「憲法問題はどうか……」
とリベラル派の中で批判的に見る人も少なくなかった。
◎[参考動画]東京は手遅れ? (れいわ新選組 2020年5月20日)
◆Go to“トラブル”からGo to 消費税廃止へ
そして参院選から2か月余り経ち、消費税が8%から10%へ増税されたことにより、昨年末には、リーマンショックを上回るほどの経済的被害が生じた。
そこにコロナ禍が襲い掛かり、多くの人々の生活が脅かされている。今こそ消費税廃止と財政出動による生活補償が必要だ。
新選組のコロナ緊急政策は、昨年の経済八策をベースに、①消費税廃止、②コロナ収束まで一人当たり毎月10万円給付、③コロナを災害指定にする。などが柱だ。
結党時から最大の政策担っている消費税廃止は、突然物価が10%下がり続けることと同じで、シンプルな即効性がある。この恒常的大幅減税で生き延びる個人や事業主により社会経済の再生がしやすくなる。
一丁目一番地の消費税廃止に加え、同党のコロナ対策の骨子のうち、毎月一人当たり10万円給付と災害指定について、どのような考えに基づいているか見てみよう。
一人当たり10万円の給付をコロナ収束まで続ける政策はどうか。問題は財源だが、政府には通貨発行権があるから事態が収束するまでは金を出せ、というのが新選組の基本的考え方だ。
山本太郎代表は、10万円給付の根拠としてインフレ率2%までの財政出同出動はまったく問題ないとしている。
この2%とは、インフレ率が2%までならば政府の債務が増えても大丈夫なラインといえる。この数字は、平成25年(2013年)1月の政府と日銀とで確認されたもの。
参議院調査情報担当室のシミュレーションによると、一人当たり毎月10万円を1年間給付した場合、人口を1億2000万人で計算すると144兆円の財政出動が必要になり、インフレ率は1.215%。
3年続けると1.809%で4年目は1.751%になり、その後は下がる。
月10万円ならインフレ率2%には達しないというのが、新選組の主張だ。たしかに、消費税が廃止されれば物価が10%も下がり、なおかつ月10万円あれば、コロナで倒産廃業した事業主や職を失った労働者は、生活は苦しくても飢餓状態にはならないだろう。
◎[参考動画]【コロナを災害指定せよ!! 2分Ver..】2020年6月29日 自由が丘街宣ダイジェスト(れいわ新選組 2020年7月3日)
◆コロナを災害指定したら家と生活費が補償される可能性
さらに一歩進めて、コロナを災害指定すると、生活者にどのような恩恵があるのか。
れいわ新選組のホームページによると、次のようなことが考えられる。
第1に、災害対策基本法60条3項により、外出禁止が可能になる。加えて63条1項により、当該地域への立ち入りを禁止できるので、いわゆるロックダウンが事実上可能になる。
第2に、そうなれば生活が破綻するので十分な補償が不可欠だ。そのために災害救助法4条を適用。この条文では、仮設住宅の供与、食料飲料水などの供給、生業に必要な資金等の給与もしくは貸与などが定められている。
このような「コロナ災害指定」の考え方の元には、1995年に起きた阪神淡路大震災の経験がある。災害復興制度の充実に取り組んできた兵庫県の弁護士がSNSに災害指定の意見を投稿したことから反響を呼んだのだ。
災害や復興関連の法制度を適用すれば、コロナで生活基盤を破壊された人々を救うことが可能なのである。しかも、新たな法改正は必要なく既存の法律を適用できる。
消費税廃止や、一人ひとりに月10万円給付やコロナ災害指定のほうが、Go to トラベルならぬ“Go to トラブル”よりは、確実ではないだろうか。
◎[参考動画]【街宣】 豊橋駅東口(木)(れいわ新選組 2020年12月17日)
▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter