秋田県雄勝郡秋ノ宮村の農家の生まれで、上野着の集団就職組。板橋の段ボール工場の工員だった苦労人、実行力の人という菅義偉は、しかし悲しいほどのポンコツ政治家だった。これはもはや、政治に関心のある国民のみならず、自民党内でも後継政権が取りざたされるほどの評判になってしまった。
予想以上のコロナ禍のもと、学術会議任免問題でのつまづき、Go To キャンペーンでの失政(時期尚早と中断の遅れ)など、みずから招いた政治危機とはいえ、事務屋が営業職になった適材性のなさ、あるいは裏の顔がオモテに立たされた悲劇ともいえる。
◆野党連立は実現するか? 小沢一郎の読み
その結果、政権交代の展望までが語られるようになったのだ。いや、9月段階で今日の政権末期症状を読んでいた人物もいたのだ。その人物は総選挙にむけた野党共闘が順調にすすみ、メディア向けの選挙・世論調査データを踏まえたうえで、野党連立として枝野政権が誕生すると予告している。しかもそれは、総理が交代した昨年、9月のことなのだ。
その人物とは、政権交代の請負人を自称し、なおかつ政権の壊し屋の異名をとる小沢一郎にほかならない。
昨年の「週刊朝日」(2020年9月18日号)から、田原総一朗との対談を引用しよう。
「小沢 安倍政権の数々の問題、森友問題も桜を見る会も、そして河井夫妻のスキャンダルも、政権がひっくり返って枝野(幸男・立憲民主党代表)内閣になれば、すべて明るみに出ますよ。」
「田原 玉木さんと会ったら、自民とも維新とも組まないし、枝野さんともけんかする気はないと言っていた。まあ、いいとして、非自民政権はこれまで2回とも小沢さんがつくった。1993年の細川内閣と、2009年の鳩山内閣。多くの国民は3度目を期待している。
小沢 三度目の正直です。何としても、その期待に応えたいと思っています。」
「田原 小沢さんには全面的に期待がかかっている。小沢さん、連立政権をつくるために何をどうする。
小沢 連立!?
田原 立憲・共産。
小沢 共産党と? 共産党と連立になるかどうかはわかりませんが(笑)。志位さんは連立って言っていましたか?
田原 もちろん、大賛成だって。志位さんが一番尊敬している政治家は小沢さんだと言っていた。」
◆小沢一郎と志位和夫の「政権奪取宣言」
小選挙区での野党候補一本化は、独自候補を擁立できる共産党との提携がネックである。自公連立に伍するには、立民共+新選が不可欠である。
上記の「志位さんが一番尊敬している政治家は小沢さん」という田原総一朗の言葉をうけて、BS-TBSが、小沢一郎と志位和夫の「政権奪取宣言」を特集した。
すでに臨時国会の首班指名選挙で、志位和夫が立憲民主の枝野幸男に投票するシーンが映像に収められていた。
「松原耕二キャスター 日本共産党にとっては、ある種の歴史的な一票ですね。
志位 歴史的に初めてです。それから、今回大事なのは、共産党が入れただけではなく、野党が全部入れたことです。国民民主党も社民党も『れいわ』も入れました。碧水会や沖縄の風も入れました。オール野党で一本化しました。」
「小沢 2009年の総選挙で、自民党は280以上から120になった。民主党は120から300以上になったんです。(立憲民主党は)衆院で100以上ですから。(政権をとるための)基礎的な数字としてこの数字は十分な数字なんです。しかもオール野党が一緒になるということ自体が、とてもいいことなんですね。」
「小沢 次の次(の総選挙で政権交代)という人はいますが、野党は『次の総選挙で政権をわれわれはとる』、そして『われわれの主張を実現する』と(言うべきだ)。それが“次の次の選挙でもいい”なんていう野党がいますか。そんなことで、国民は受け入れないですよ。」
「志位 私は、小沢さんの発言は当然だと思っています。やはり野党として、『次の総選挙で政権交代を実現する、政権をとる』。この本気度をバチッと示してこそ国民は真剣に耳を傾けてくれると思います。」
「志位 共産党も含めて野党は力を合わせて連合政権をつくるということです。私たちが閣内に入るか閣外かはどちらでもいいです。しかし連合政権をつくり、この国をよくするというところまで踏み切ってほしい。その政治決断をやってほしい。」
◎[参考動画]【野党共闘キーマン!小沢一郎・志位和夫が語る】報道1930まとめ2020年9月24日放送(BS-TBS公式チャンネル)
◆注目の4月補選とれいわ新選組山本太郎の動き
小沢一郎のお手並み拝見といったところだが、もうひとり、目を離せない人物がいることを、読者諸賢はご存じのことであろう。
何かとそのパフォーマンスが誤解を呼び、あるいは当初は最優先の政策であった原発廃止が後景化されるなど、選挙放心も批判される人物だが、その果敢な積極性がいまなお求心力を増している。
そう、れいわ新選組の山本太郎である。
昨年中には総選挙の立候補予定者19人を発表し、今年に入って都議会選挙立候補者を最小5人、最大10人立てると宣言した。
そして、公選法違反有罪で河井案里が自動的離職となった広島参院選挙区でも、れいわ新選組は立候補者を公募している。のみならず、公募で有力候補が得られなかった場合は、山本太郎がみずから立候補することも排除しないとしているのだ。
4月25日は衆参補選である。
衆院北海道2区は自民党の吉川貴盛元農水相の収賄事件(在宅起訴)を受けての、与野党一騎打ち(現状では野党候補一本化の途上)。参院長野選挙区は、コレラ死した羽田雄一郎の弔い選挙として、実弟の羽田次郎が立候補する。ふたつの選挙は自民敗北が濃厚で、広島参院選挙区が菅政権の正念場ということになる。
すでに1月の北九州市議選では、自民党の現職が6人落選するという惨敗だった。山形県知事選でも立憲系の吉村美栄子が40万票対17万票(自公系)で圧勝している。
4月補選、7月の都議会選挙で自民党が大敗すれば、菅おろしが始まるとこの通信でも何度か力説してきたところだ。泥舟的にでも東京オリンピック・パラリンピックが開催されるとしても、7月の都議選に総選挙を重ねることは、公明党の要請で不可能である。
そして五輪強行のツケが政権運営を破綻させ、菅おろしという党内の醜い抗争が露呈したとき、国民の自公政権離れは必至である。
そこで、三度目の政権交代が実感をもって感じられる。その成否のカギを握っているのが、小沢一郎と山本太郎であることを指摘しておこう。
◎[参考動画]財源は!? 毎月1人10万円給付は可能か?お答えしましょう! 山本太郎(れいわ新選組 2021年2月25日)
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。