昨年は一件もなかった死刑執行だが、今年はオリンピックが終われば、死刑執行が行われる可能性が高いと予想する声が散見される。私もそう予想する1人だが、最近強く思うのは、「最初の1人」にあの相模原知的障害者施設殺傷事件の植松聖死刑囚が選ばれる可能性がますます高くなっているのではないか――ということだ。
私がそう考える事情は2点ある。
◆上川法務大臣がいかにも「最初の1人」に選びそうな植松死刑囚
1点目は、現在の法務大臣が上川陽子氏であることだ。
昨年9月に発足した菅内閣で4回目の法務大臣就任を果たした上川氏だが、過去3回の法務大臣在任中は次々に話題性のある死刑執行を行ってきた。
中でも有名なのは、麻原彰晃死刑囚をはじめとするオウム死刑囚13人の大量執行だろうが、他にも闇サイト殺害事件の神田司死刑囚や、犯行時に少年だった市川一家4人殺害事件の関光彦死刑囚など、上川氏が法務大臣在任中の死刑執行はことごとく社会の耳目を集めそうな死刑囚が対象とされてきた。
そういう意味では、19人の知的障害者を殺害したうえ、裁判では犯行を正当化するような発言をしてきた植松死刑囚は、上川氏がいかにも死刑執行の対象として選びそうなタイプだと言える。
さらに植松死刑囚は昨年3月、横浜地裁の裁判員裁判で死刑判決を受けると、弁護人が行なった控訴を自ら取り下げ、死刑を確定させている。一審のみで死刑を確定させた死刑囚はただでさえ通常より早く執行される傾向があるうえ、確定から2年も経たないうちに死刑執行を行えば、当然話題になるだろう。その点からも上川氏がオリンピック後、死刑執行の「最初の1人」に植松死刑囚を選ぶ可能性はいかにも高そうなのである。
◆小山田問題が植松死刑囚のスピード執行を後押しする理由とは……
もう1点の事情は、小山田圭吾氏を巡る一連の騒動の影響だ。
学生時代に行っていたいじめの問題によりオリンピック開会式の作曲担当を辞任した小山田氏だが、当時は同級生の障害者に対しても悪質ないじめを行っており、知的障害者の家族がつくる団体からも強く抗議されている。知的障害者を差別したという点において、植松死刑囚に通じるものがあり、小山田氏の騒動を見ていた上川氏の脳裏に植松死刑囚のことが蘇らなかったはずはないだろう。
小山田氏の問題は海外でも詳しく報道されたようなので、日本のイメージが悪くなっているのは間違いない。そんな中、植松死刑囚をスピード執行すれば、障害者を差別するような人間に対し、日本は決して甘いわけではなく、むしろ厳しい態度をとる国だと国内外にアピールできる。国民ウケするインパクトのある死刑を繰り返してきた上川法務大臣がいかにも発想しそうなことだと思われる。
次に執行される死刑囚は誰か…と予想するのは、決して気持ちの良いことではない。ただ、死刑執行の順番は明らかに恣意的に決められているにもかかわらず、その決め方はベールに包まれている。死刑執行という究極の刑罰が適正に執行されているのかを検証するため、公になっている事実に基づき、死刑執行の順番がどのように決められているかを推測することにも意味があると思う。
オリンピック後、最初の死刑執行が行われた際には、その対象とされたのが予想通りに植松死刑囚であろうとなかろうと、当欄でまた何か私の見解を述べさせてもらいたいと思う。
▼片岡 健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史、発行元・リミアンドテッド)など。