ノンフィクション作家の小説、新宿の70年前後を舞台にした青春群像である。高部務には『新宿物語』『新宿物語70』という先行作があり、シリーズ三弾目となる。ノンフィクション作家ならではの、時代背景の描写がリアルで、団塊の世代には懐旧を、その後の世代には追体験が楽しめること請け合いだ。

 

9月25日発売! 高部務『馬鹿な奴ら ベトナム戦争と新宿』

トカラ列島(屋久島の南西)の諏訪之瀬島に移住者たちがつくったコミューン、ピンク映画の男優体験、アンパン(シンナー)とフーテン仲間の死、

歌舞伎町のジャズ喫茶・ヴィレッジゲート、新宿風月堂、名曲喫茶王城、モダン・アート、蠍座など、いまはなき実在の店が登場するように、これらのエピソードは実体験なのであろう。

実在の事件も登場する。ベ平連の米兵脱走支援(イントレピッド号)である。

作品全体をやわらかくしている仲間内の会話、マリファナにジャズ、フォークソング、ゴーゴー喫茶の日常生活のなかに、アメリカ兵のベトナム体験の生々しさが、突如として陰惨な戦争を持ち込むことになる。このあたりは、書き手のやさしい人柄を思わせる文体のなかに、垣間見せるノンフィクション風の棘(とげ)だ。殺したベトコンの眼をえぐり出し、切った耳をコレクションする。

作品の背景にはベトナム戦争があり、米軍基地と立川の街を舞台にしたタミオの章も、新宿の空気をいっそう広くしたような時代の気分がある。飲み逃げ米兵に射殺されたクラスメイトの父親の記憶、轟音をたてて飛びかう米軍機。そして物語は三里塚闘争へと展開する。

◎参考カテゴリーリンク「三里塚」http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=63

◆つぎは70年代を描いてほしい

ノンフィクション風のフィクションという評価でも、三里塚の東峰十字路事件(警官3名が殉職)は、事実をふまえたほうが良かった。

警官を「殲滅」したのは駒井野に立てこもった中核派ではなく、青年行動隊が主導した反中核派連合(社青同解放派、ブント系では叛旗派と情況派、黒ヘル、京学連、日中)である。

ベトナム戦争を侵略戦争(帝国主義戦争)と批判し、反戦運動を繰り広げていた新左翼諸派のなかに、セクト主義や内ゲバという「戦争=党派闘争の病根」が顕われているのを、主人公は時代の雰囲気とともに感じ取っているが、そこはべ平連な位置から踏み込んでいない。

ラストシーンで「連合赤軍の妙義山でのリンチ事件は、政治闘争を超えて殺人集団になり下がった下衆の集まりだな」と、喫茶店ウィーンで語る反戦青年委員会の言葉は、そのまま70年代に内ゲバ大量殺人の地獄を見ることになるはずだ。

来年は、その連合赤軍事件50年である。高部には70年代の政治運動の頽廃、反戦をとなえながら人を殺すにいたる運動の悲劇を書いてほしいと思う。

※『馬鹿な奴ら』は9月25日発売 
定価1540円(税込)四六判 304ページ ソフトカバー装 鹿砦社・刊
【内容】第一章 日本に誕生したコミューン / 第二章 ピンク映画 男優誕生 / 第三章 フーテンの無縁仏 / 第四章 新宿にも脱走兵がいた / 第五章 奨学生新聞配達少年 / 第六章 前衛舞踏カップル

【著者プロフィール】 1950年山梨県生まれ。『女性セブン』『週刊ポスト』記者を経てフリーのジャーナリストに。新聞、雑誌での執筆を続ける傍ら『ピーターは死んだ――忍び寄る狂牛病の恐怖』や『大リーグを制した男 野茂英雄』(共にラインブックス刊)『清水サッカー物語』(静岡新聞社刊)などのノンフィクション作品を手掛ける。 2014年、初の小説『新宿物語』(光文社刊)、続けて『新宿物語70』(光文社刊)執筆。『スキャンダル』(小学館刊),『あの人は今』(鹿砦社刊)。『由比浦の夕陽』で2020年度「伊豆文学賞」優秀作品賞受賞。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。3月横堀要塞戦元被告。

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