◆そもそも自民党は本当に「国民政党」なのか?
自民党総裁選挙はおおかたの予想どおり、岸田文雄新総裁の誕生となった。
◎[参考動画]【速報】新総裁に岸田文雄氏を選出 自民党総裁選(TBS 2021年9月29日)
第1回投票
議員票 地方票 合計
岸田文雄 146 110 256 ☆
河野太郎 86 169 255 ☆
高市早苗 114 74 188
野田聖子 34 29 63
決戦投票
議員票 地方票 合計
岸田文雄 249 8 257☆当選
河野太郎 131 39 170
110万人の自民党員が投票する選挙を、国民の意志といえるのかどうか。党内選挙にすぎないものを、メディアが大々的に取り上げるのはいかがなものか。という意見があるのは当然だが、しかし国政選挙の選挙行動の大半が自民党員によるものであれば、自民党総裁選が実質的に総理大臣を決める選挙になるのも仕方がないであろう。
選挙に行かない国民、政治に興味のない国民が自民党政権を支えてきたことは、前信(2021年9月21日付本通信)で明らかにしたとおりだ。
そして、そのアパシーをそれとして放置(浮動層は投票に来ない方がいい=森喜朗発言)しながら、総選挙を政治ショーとして国民(自民党支持者)への求心力を発揮したのである。党内の政策論争を、ここまでテレビでアピールし、候補者個人のパーソナリティーにいたるまで発信した自民党の手管に感心するにかない。
ひるがえっていえば、野党も代表選挙こそやってはいるが、およそ国民に開かれたものとは言えない。党員・サポーターに限定せずに、国民に投票権を開放するぐらいの工夫があってしかるべきではないか。たとえば、立憲民主党が自民党候補をふくめた国民投票を実施し、自民党政治家に負けたらこう宣言するのだ。
「われわれが政権を担うときは、自民党から閣僚を招致する」などと。冗談ではなく、そのくらいのパフォーマンスによる訴求力が、いまの野党には必要なのだ。
国民政党を自認する共産党に至っては、党大会で幹部会推薦の執行部が追認されるだけの、いまだにレーニン「共産主義以上のあるもの(信頼に基づいた選出)」(「何をなすべきか」1902年)を踏襲しているありさまだ。
これでは、将来かりに共産党政権が成立しても、中国や北朝鮮のように公開選挙に因らない指導部が独裁制を敷くと思われても仕方がないであろう。共産党には、拠点校である立命館、都立大学、東京大学出身者が幹部の多数を占めるという、学閥傾向がある。このかんの野党共闘や大衆運動局面での幅広イズムも、この上意下達の中央集権組織の力によるものであることを、知っておくべきであろう。パルタイはどう変わってもパルタイなのである。こうした野党の現状を考えると、自民党の柔軟さ、幅の広さが際立つ総裁選挙となった。
というわけで、ここ3週間にわたり国民の注目を集め、メディアを独占してきた自民党の「国民政党」としての総決算が終わった。
◎[参考動画]【ノーカット】自民党岸田文雄新総裁 挨拶(日本テレビ 2021年9月29日)
◆岸田で挙党一致ができるのか?
今回の総裁選の構造は、周知のとおり複雑な人間関係(感情)が支配するところとなった。政治は理念や政策ではないのか、という疑問が噴出しそうなところだが、政治は感情で動くものなのだ。
新鮮さと発信力で国民的な人気となった河野太郎は、これまた国民に人気のある石破茂と小泉進次郎を陣営に迎えることで、党内主流派の感情的な反発を買った。
すなわち、石破茂とは不倶戴天の敵である安倍晋三の反発である。同じく、みずからが総理だったころに「麻生おろし」の急先鋒だった石破憎しの一点で、自分の派閥の候補でありながら、河野太郎の背後から弾を撃つ派閥の領袖・麻生太郎。
いずれにしても、河野太郎は「赤い自民党員」「反原発や女系天皇など、何を言い出すかわからない男」として、党内人気は若手の改革派以外はゼロに近かった。若手の自由投票運動も派閥の領袖、とりわけ安倍晋三の猛烈な切り崩しに遭ったといえよう。
いっぽうの岸田文雄は、二階俊博を幹事長の座から引き下ろすという、彼にしては大胆かつ訴求力のある発信によって、しかし二階派の支持をうしなった。そこで岸田が選択したのは、決選投票における高市早苗との選挙協定だった。政策においては、およそ正反対の極右派高市と組み、最終的に派閥選挙に乗っかるかたちで決選投票を勝ち抜いたのである。
このリベラル(宏池会)と極右(安倍派)の提携は、ほかならぬ岸田陣営の祝勝集会の場に、高市早苗が\(^o^)/をしながら現れることで周知の事実となった。岸田政権は多数派形成の野合で成立したのである。ここに、旧態然たる自民党の田舎政治があるにしても、自民党は総選挙の「新しい顔」を得たのである。
ひきつづき、10月はじめには明らかになる党内人事、就任後の閣僚人事に注目したい。選挙の結果は、そのまま政局なのである。
◎[参考動画]【LIVE】自民党 岸田文雄新総裁 記者会見(FNN 2021年9月29日)
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。