岸田首相は、2021年10月14日に衆議院を解散し、19日公示、31日投開票という日程で選挙をおこなうことを表明した。筆者は全国にあまたある「保守王国」の1つである千葉県内の田舎に移住し、この間、地元の政治に対する様子を「観察」してきた。

◆地方の「保守王国」のリアル

田舎は政治にも疎いと考える人もいるかもしれないが、むしろ何か問題などがあれば市民はすぐに役所に駆け込み、つながりがあれば政治家を頼る。日頃から政治家とつながっておくことが必要だと考える人もいる。

すべての地方が同様かは不明だが、たとえば農家、特に慣行農業(農薬や肥料を一般的な方法で使用する農業)に携わり、JA(農協)に所属する農家の多くは、自民党支持。連合同様、近年は農家の「自主投票」への転換や野党支持の動きも全国に見られるが、やはり日常的な相談先となり、市町村から県へと世話になっていれば、自民党や公明党のポスターを目立つところに貼る家庭もある。これは、農政や社会の問題に関し、愚痴を言うような人でも変わらない。

いっぽう筆者の暮らすエリアでは、漁業や半農半漁のエリアは分かれ、多くは自民党支持だが、一部共産党支持も見られる。これは、共産党のアピールもあり、またおそらく東日本大震災以降に注目された原発政策の問題など、さまざまなことが影響しているだろう。

さらに、創価学会員が比較的多いエリアもあり、選挙前に連絡を受けた知人もいる。筆者に連絡が来ないのは、「極左」をアピールしているためかもしれない(笑)。このようなエリアでは、神社関係の区費の支払いは選択制だったりする。

そして、やはり日常的に地域に根づいた活動のない政党や候補者に票が集まりにくいことは確かだろう。

◆野党共闘なくして政権交代なし

予想としては、熊谷知事が支持を表明していてポスターが出まわっている立民、代々強い自民、詳細不明の共産。つまり、野党共闘がうまくいかない可能性も高い。地方でも都心でも、実際にはまたこのようなエリアが多くなるのではないか。野党を勝たせるなら立民、野党支持者の本音の半分は共産寄り。

票が割れないようにしてほしいところなのだが、山本太郎氏が東京8区から立候補すると発表したことで、すでに世論は割れた。東京8区といえば辻村千尋氏に石原伸晃氏との一騎打ちをしかけてほしいと個人的に考えていた筆者は、複雑な心境に。また、都知事選で、山本氏に票を投じたが、宇都宮健児氏に一本化できていれば、反貧困と格差対策はもちろん、オリンピックやコロナへの対策も期待できたのではないかと、特に失職者や自殺者が増えてから考えてしまうようになったのだ。基本的には、より、そのエリアで活動を継続してきた野党政治家に任せることがよいのではないか。これは、筆者が反省したことでもある。

どこの政党でも、党首や事務局に突っ込みどころがまったくないことなどないのは同じかもしれないが、山本氏のカリスマ性に賭けるタイミングは過ぎてしまったような気がしてならない。一本化に対し、山本氏も枝野氏も互いに困惑しているという報道がなされたが、鮫島浩氏の『SAMEJIMA TIMES』によれば、「野党関係者によると、山本氏は『自らが東京8区から出馬する代わりに、れいわ候補者の大半を選挙区から撤退させる』と枝野氏に伝え、反対されなかったことを受けて『調整が整った』と判断。一方、枝野氏は『今後調整する』という認識でしかなく、党内調整が終わらないうちに山本氏が出馬表明に踏み切ったーーということのようである」とのこと。これは、立民の党員・仲間・支持者の意向を当然、枝野氏が確認したかったのではないかと想像する。

などと書いていたところ、11日の夜間になって、山本氏が東京8区出馬を断念したという報道が入ってきた。『AERA dot.(アエラドット)』は12日、「小沢グループと立憲幹部の調整不足か」と記す。立民では吉田晴美氏を野党統一候補にする方向で調整が進み、山本氏の発表に対し、強い反発が生じた。

ここで、一度入稿したこの原稿も断念しようかと考えていた筆者に対し、『デジタル鹿砦社通信』管理人のK氏から「山本太郎氏の選挙区問題、彼の迅速な決断、きちんと評価されるべきだと思います。禍(わざわい)転じて福となさねば政権交代など起こせませんから」というメッセージが届いた。なるほど、その通りだ。まさにわたしが訴えたかったことを、山本氏は実行している。そこでわたしの心が勝手に折れている場合ではない。


◎[参考動画]【東京8区から下りる理由 9:23~】山本太郎 れいわ新選組代表 神奈川県 日吉駅前 街宣(2021年10月11日)

共同通信の11日の報道によれば、山本氏は「既に出馬を予定していた立憲民主党の立候補予定者や支援者への配慮を理由に挙げ「私が降りて混乱を収束させ、野党共闘していきたい」と強調した」「『約束とは違うが、降りることで混乱のけじめを取る』と説明した」とのこと。NHKの同日の報道でも、「『私は、野党共闘を壊したいわけではない。政権をとるために、本気の共闘をスタートさせたい』と述べました」とのことだ。東京新聞も、「『迷惑をかけた立憲民主党の予定候補者と支援者に心からお詫び申し上げる』と謝罪した」と綴る。毎日新聞は、「立憲支持者らはツイッターで『地元で地道に活動を続けてきた人こそ候補者にふさわしい』『民意を無視して密室で勝手に決めている』と批判を寄せていた」とも説明している。

山本氏の言葉や態度のある種の率直さが反感を生むことはあるが、それはカリスマ性の裏返しでもあるのかもしれない。それを彼や支持者がコントロールすることで、野党共闘の実現への道は開かれる。

共産党も、共産主義に対する曖昧で要領を得ない批判をインターネット上などでも受けながら、できるだけ野党共闘を成功させるために候補者を下ろすなど、血のにじむような努力をしているようにも見える。

とにかくここまでウソと隠蔽と無視とが横行し、格差が拡大するばかりの社会で、立民・共産・社民・れいわが共闘してくれたら必ずその人を全力で応援すると考えている野党支持者も多いのではないか。実際、4党の政策や方向性は、かなり近いはずだ。連合が変わるのを待つ時間もない。そして今回も野党共闘がうまくいかなければ、また与党を勝たせ、さらに社会の状況は悪化する。

個人のこだわりや関係性、各党の都合などすべてをぐっとしまい込んでくれるなら、わたしたちもぐっとこらえて本当に支持したい個人よりも野党の代表とされた人を応援する。団体も、今回だけでも、個々の細かいことには目をつぶってほしい(共産党員に仲間を攻撃された過去のある新左翼の人なども含め……)。


◎[参考動画]福山哲郎「立憲民主党」幹事長定例会見(日仏共同テレビ局France10 2021年10月12日)

筆者も潔癖に個々を支持して票を投じてきたが、今回こそは票を生かしたい。立民と共産とで割れるなら、結局は今回も同様の経緯と結果になるのかもしれないが。そうなったら、日常から野党共闘を推し進めるためにできることをもっとしようと思う。民主主義は1人ひとりの日々の積み重ねによるものなのだから。

また特に、経済政策というよりも人々の暮らしを支えるための政策や格差是正の政策を明確に打ち出し、岸田の表面的なアピールなどとの差別化をしっかりとアピールしてほしい。

〈下=現場〉でオルタナティブを実現するには、〈上=政治〉からのよりよい・邪魔されない社会づくりも実現する必要があるのだ。

まずは地元の野党支持者同士、語らう。これを実行する予定だ。仲間の投票行動を把握し、すり合わせて、候補者が一本化できていなくても、誰に票を集中させるのかを仲間と決める。野党共闘も現場から実現しよう!

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター、編集者。労働・女性・オルタナティブ アクティビスト。「れいわ新選組」立ち上げ時には党員の方々に、順にインタビューを重ねたが、現在の現場からも新たな政治家をみんなで生み出したいとも考えたりする。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』11月号!