しばき隊が提案し、東京レインボープライドが乗ったデモ「杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議」。
多くのLGBT当事者は、ツイッター上で流れてきた現場の写真を見て初めて、そのデモの異様さを把握した。
杉田氏の顔写真を引きのばし、醜悪に加工したり、侮蔑的な言葉を書き加えたプラカード――まさに悪魔化である。と同時に、呆れるほど幼稚なセンスだ。小学生が音楽の教科書のベートーベンの肖像に落書きするのと大差ないお子様マインドだろう。
あるいは、銃のスコープで杉田氏の顔を狙うデザインのプラカード。これは、しばき隊界隈の活動家・谷口岳氏がコンビニのネットプリントを利用して配布したものだが、かっこいいとでも思ったのだろうか?
中二病患者は自分が中二病であることに気づかないという証明をしていただき、その羞恥プレイめいた自己犠牲の精神には敬服するばかりである。
抗議デモには、「FUCK」と書かれたレインボーフラッグも登場した。
過去に東京レインボープライドで、立憲民主党が性的多様性のシンボルであるレインボーフラッグに党名を入れた小旗を用意し、LGBT当事者から「我々の誇りであるレインボーフラッグに軽々しく党名を入れるとは、非常識で身勝手だ」と批判された事件を把握していれば、とてもできないことだろう。
それと、中指を突き立ててポーズをとるデモ参加者の写真は……会場の片隅で「下品」と「中二病」の博覧会でも開催していたのだろうか?
滑稽だったのは、薄汚い格好にだらしない髪型の中高年男性のデモ参加者たちの姿に、LGBT当事者から困惑の声があがったことだ。
「あの人たちがゲイ?」
「違うでしょ……?」
「どうせ、動員されたパヨク活動家だろ!」
――そう。それはまさに「これぞ、人生を運動に捧げ、気づかぬうちに浮世離れしてしまい、外見に気を使わなくなったサヨク活動家のおじさん」というサンプルのごとき方々だったのである。
これはべつに、LGBT当事者を称賛してサヨク活動家をコケにしているわけではない。
同じ男性でも、ゲイは異性愛者と違って出会いの機会が少ない分、なにかと小綺麗にしている。今は出会い系アプリがあるとはいえ、大勢のゲイに自分の姿を見てもらえる機会ともなれば、そのファッションには気合が入るというものだ。
体だって、トレーニングで造りあげている者は珍しくない。そんな男たちは、Tシャツ一枚であっても、おのれの美しい筋肉をアピールできるデザインを選ぶ。
デブ専ゲイ受けを狙った体型のゲイでも、髪を短く刈り、男らしさを演出するものだ。
あえて無精髭で野郎っぽく見せても、髪は清潔に保つのがスタンダードであり、薄汚いファッションにボサボサの髪型なんて、絶対にありえない。
つまり、ゲイばかりが集まる場所には、緊張感に欠けただらしない格好をした男など、まず、一人もいないのだ。
あるとき、私は、ゲイの友人に訊いた。
「なんで、マッチョ系ゲイって、しゃべるとオネエなの?」
彼はこたえた。
「あれはね、マッチョの中身がオネエなんじゃなくて、その反対なの。オネエが男にモテたくてトレーニングをした結果、見かけだけはマッチョになったってだけなの」
……オネエであっても、男にモテたくて、マッチョになる。中身はオネエのままで。
それほどまでに、ゲイは「モテ」に重点を置き、老いも若きもイケてる男であろうとしている。
ゆえに、ゲイやゲイの生態を知るレズビアンやバイセクシュアルは、あのこ汚い格好の中高年を見て、ピンときたのだ。彼らは異性愛者だ、と。
ダサいならダサいで、それをファッションにまで高めるのが、長年アンダーグラウンドの存在とされてきた同性愛者の余裕であり、誇りなのだ。
ダサいけどキッチュでおしゃれで華やか。それは、ドラァグクィーンに象徴されるキャンピィ文化であり、しばき隊界隈は、残念ながらそれを理解していないし、身につけてもいない。
オネエはヒステリックな口調さえ、第三者から見て笑える「芸風」に変える。そうやって、自分を客体化して見る訓練ができているのだ。
反面、しばき隊界隈のヒステリックは、本気のヒステリックだ。ゲイのように、悪口を皮肉と笑いでくるんで提示してみせる知恵も能力もない。
ツイッター上で気に食わない者を集団ネットリンチし、根性がある批判者はみんなそろって予防ブロック。仲間内でエコーチェンバー現象を起こし――となると、次は当然、カルト化が待ち受けている。
C.R.A.C.代表の野間易通氏に「尊師」というあだ名がついたのは、もちろん、地下鉄サリン事件他の凶悪犯罪を起こしたオウム真理教の教祖・麻原彰晃になぞらえてのことであり、つまり、しばき隊界隈の狂信性、カルト性は、とっくにウォッチャー各位に読み取られていたということだ。
世界中のゲイとレズビアンは、なぜ、デモではなくパレードという形で人権を訴えているのか?
それは、同性愛者が「けがらわしい異常者」「気持ち悪い変態」とあからさまに罵られ、蔑視されてきた歴史的事実と、無関係ではない。
自分たちに向けられてきたヒステリックな罵倒――それを相手に返したくはない。それを発する者がどんなに醜悪に見えるか、身にしみてわかっているからだ。
ゆえに、パレードという形で自分たちの存在を社会にアピールし、ハッピーで楽しい祭典に異性愛者たちを巻き込む形で、理解と共生を求めてきたのだ。
しかし、しばき隊/ANTIFA/カウンターは、LGBTを差別してきた異性愛者と同じ、ヒステリックな罵倒に依存している「正義中毒患者」だ。
ゆえに、いくら蔑視されても誇り高く生きてきたLGBT当事者が、彼らの姿に嫌悪感をあらわにするのも、当然のこと。
デモの性質に気づいたLGBTは、疑問を感じ、そして、LGBT活動家が暴力的な運動体と共闘している事実を把握する者も次第に増えていったのである。
「LGBT活動家がしばき隊と共闘しているだなんて、我々の印象が悪くなる」
「これまでしばき隊が起こした暴力事件や性犯罪の被害者を踏みつけにするのか?」
「そんなLGBT活動家が偉そうに我々の代表ヅラするな」
それらの批判は、後に何度も何度も繰り返され、「杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議」は代表的な「LGBT運動の悪しき例」として蒸し返されることになったのである。(つづく)
◎[過去記事リンク]LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40264
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40475
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40621
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40755
〈5〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40896
〈6〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44619
〈7〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45895
〈8〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45957
〈9〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46210
〈10〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46259
〈11=最終回〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46274
▼森奈津子(もり・なつこ)
作家。立教大学法学部卒。90年代半ばよりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラーを執筆。『西城秀樹のおかげです』『からくりアンモラル』で日本SF大賞にノミネート。他に『姫百合たちの放課後』『耽美なわしら』『先輩と私』『スーパー乙女大戦』『夢見るレンタル・ドール』等の著書がある。
◎ツイッターID: @MORI_Natsuko https://twitter.com/MORI_Natsuko
◎LGBTの運動にも深く関わり、今では「日本のANTIFA」とも呼ばれるしばき隊/カウンター界隈について、LGBT当事者の私が語った記事(全6回)です。
今まさに!「しばき隊」から集中攻撃を受けている作家、森奈津子さんインタビュー