石橋林太郎さんが、衆院選比例区に立候補(当選)のため辞職したことに伴う広島県議選安佐南区選挙区の補欠選挙は11月14日、執行されました。安佐南区選挙区はかつて、河井案里さん(2021年2月4日、有罪確定で参院選2019での当選が無効)がトップ当選してきた地元であり、夫の克行受刑者の広島3区に含まれる「河井事件の震源地」です。
◆あっと驚く野党の大敗
自民党が議席死守を狙い、公明党の推薦も得て擁立した「維新」の元国政候補者の灰岡香奈さんと、河井事件の追及の先頭にたち、日本共産党や広島3区市民連合が推薦し、さとうしゅういち後援会やれいわ新選組の地元のメンバーもバックアップする事実上の野党統一候補の山根岩男さんの事実上の一騎打ちに、河井克行受刑者の元秘書の伊藤守さんが割込む構図、というのが多くの人の見立てでした。しかし、その見立てを覆して、野党候補が3位に沈むという、結果になってしまいました。
当選 灰岡香奈 自民・新 3万961票(公明推薦)
伊藤 守 無所属・新 1万3719票(克行受刑者の元秘書)
山根岩男 諸派・新 7727票(共産推薦・地元のれいわ・社民支持)
河井受刑者の元秘書の伊藤候補も合わせると自公系で44680票。
野党は14.7%しか得票できませんでした。
◆過去の各種選挙で見える安佐南区における各政党の勢力は?
この結果を分析する前に、過去の安佐南区における選挙結果をおさらいしておく必要があります。安佐南区を含む広島3区では、2週間前の衆院選で、公示前は優勢も伝えられた野党統一候補のライアン真由美さんが、斉藤鉄夫国交大臣にフタをあければダブルスコアに近い大敗を喫しました。安佐南区における衆院選各候補の得票は以下です。
斉藤鉄夫 公明・前 49515(自民推薦)
ライアン真由美 立憲・新 28401
せぎひろちか 維新・新 11159
大山宏 無所属・新 2146
矢島秀平 N裁・新 1610
玉田のりたか 無所属・新 978
比例区の得票は以下です。
与党
自民党 41888
公明党 11719
共闘野党
立憲民主党 16250
日本共産党 4879
れいわ新選組 2907
社民党 1423
補完勢力
日本維新の会 11694
国民民主党 3652
N裁党 1256
2021年4月25日執行の参院選広島再選挙での各候補の得票は以下です。
宮口はるこ 諸派 29280 立憲、国民、社民推薦、共産支持
西田ひでのり 自民 26607 公明推薦
さとうしゅういち 無所属 2157 (れいわ「公認漏れ」)
山本貴平 N国 1441
大山 宏 無所属 1060
玉田のりたか 無所属 866
いっぽう、10年前の2011年4月の県議選安佐南区選挙区では以下のような得票でした。(当時は定数4)
当選 河井案里 無所属元 20799 自民党に復党
当選 石橋良三 自民現 17684
当選 くりはら俊二 公明現 16452
当選 佐々木ひろし 自民元 14234
梶川ゆきこ 民主現 9987
さとうしゅういち 無所属新 4278(反自民系)
自公が69169,反自公が14265で反自公が17.1%です。
その1年8ヶ月後の2012年衆院選では以下です。
当選 河井克行 自民前 41457
橋本博明 民主前 25101
比当 中丸ひろむ 維新新 20744
藤井としこ 共産新 7530
自公 41457
反自公 32631
補完勢力 20744
上記のデータと、わたくし・さとうしゅういちが、選挙運動中に見聞した状況、そして10年余りの参院選広島予定候補者としての活動経験をベースとした勘を総合すると、以下のことが言えます。
(1)県議選では、伝統的にアンチ自公は17%前後しか得票できない。2015年県議選を最後に引退した佐々木ひろしさんのように自民党県議でも、国政レベルの共産党や社民党の支持者にも食い込んでいた人がいた。
(2)ただし、衆院選では克行受刑者の評判が非常にわるいために、県議選で自民党・公明党に投票する人たち(6-7万程度)もふくむ自公の基礎票(5万前後)から1万程度は、克行受刑者の対抗馬の旧民主党などや、維新に流れていた。このアンチ河井保守層の存在は、マスコミなども分析の際に見落としている。
(3)2021年4月の参院選広島再選挙のときは、案里さん有罪確定で自民党への批判が頂点に達しており、自民党の選挙運動はにぶく、本来の自公の基礎票の半分しか得票できなかった。野党系は実はさほど票を増やしておらず、自民党の自滅だった。
(4)しかし、その後、克行受刑者の失脚に伴い、アンチ河井の自民党支持者が急激に与党陣営に回帰。さらに地元から岸田総理が誕生した効果、斉藤鉄夫さんが国土交通大臣になった効果で「河井事件効果」で半減していた自民党支持者が与党に回帰し、斉藤鉄夫さんの圧勝を支えた。
(5)今回の県議補選は、「岸田総理誕生効果」=自民党への追い風と、「河井事件効果」が打ち消しあった上、安佐南区では河井受刑者の失脚でアンチ河井の自民党支持者が安心して与党を応援できるようになった中で行われた。
(6)野党の山根候補の得票7727は直前の衆院選比例区の共産党とれいわ新選組の得票合計7786とほぼ符合する。
(7)実際、共産党さんはしっかり組織内を固めた印象があったし、さとうしゅういち後援会、またれいわ新選組の地元のボランティアメンバーも「身内」はしっかり固めているが、「外部への伸び」が感じられなかった。そのことと得票数が符合する。
(8)立憲民主党さんは、ほとんど、今回の県議補選で動きがとれていなかった。衆院選大敗のダメージの大きさを感じる。立憲民主党支持層は多くは棄権されたと思われる。あれだけの大敗のあとで仕方がないのかもしれないが、悔やまれる。
(9)失礼ながら、伊藤候補の克行受刑者の元秘書というのは常識で考えれば印象が悪い肩書きだ。しかし、実際には河井夫妻、とくに案里さんへの同情論は一部ではそれなりに強かった。それが伊藤候補を押し上げた可能性はある。
(10)灰岡候補は河井事件には一切ふれず、女性の労働環境や医療の改善などを訴える戦術をとった。野党が「金権政治批判」を軸にしたことで、女性政策を重視するリベラル層(国政では)の一部が灰岡支持に回った可能性はある。過去の県議選や参院選でも、河井案里さんが同様の手法でリベラル層の一部も取り込んだ前例はある。
◆賞味期限切れの「河井」批判 野党は再選挙の成功体験にこだわりすぎるな
正直、克行受刑者も衆院選中に自ら控訴を取り下げ、有罪が確定して収監されました。また、事件の発端となった「文春砲」から2年以上経過しました。さらに、この夏は、コロナ災害や、大雨災害も深刻になりました。事件当時の自民党の二階幹事長も岸田さんにより、事実上失脚しています。
こうした中で「河井批判」は、「賞味期限切れ」ではないでしょうか?
そのことを良い、といっているのではありません。正直、案里さん・克行受刑者からお金をもらった広島県議がだれひとり腹を切っていないのは元県庁マンとしても悔しいです。
しかし、いま、短期にも中長期にも、他に大きな課題がたくさん出てきすぎたのです。コロナはもちろん、気候変動やそれによる災害も大問題です。
もちろん、河井夫妻のやったことは、裁判所も断罪したように、民主主義の根幹を揺るがすことです。だが、それをいうなら、多くの自民党国政政治家もたとえば、表面上、合法のカンパとして、地方議員にお金を配っている実態もあります。政党交付金の使い道の問題にしても、そもそも、ずさんな処理をみとめてしまう政党交付金をめぐる現行法を変えるしかない。しかし、そこまではとくに立憲民主党さんなどは踏み込まないのです。
もちろん、2021年4月の時点ならマスコミが「河井事件」ばかりを取り上げていました。具体的な政策なんかそっちのけ、与野党対決のみをあおり立てる報道姿勢でした。だから、政治経験のない宮口はるこさんを担いで野党第一党が再選挙で勝利したのです。しかし、いまはそうではありません。
これ以上、河井事件批判ばかりだと、他の政策に野党は不熱心とおもわれかねません。わたくし、さとうしゅういち自身、山根候補を他人に紹介するさいは、「新自由主義脱却の即戦力でもある」ということをお伝えしました。あるいは、産廃問題に彼が取り組んでいることも紹介しました。もっと、いろいろな人が候補者の魅力をいろいろな角度で伝えることがこれからの野党の課題のひとつでしょう。
これより先、衆院選では「財政出動で暮らしをガツンと立て直す」と、れいわ新選組のおもに経済政策のアピールに街頭では比重を置きました。全国でもれいわは立憲や共産が手薄になった分野を強く訴えました。
そのことが、一定評価をいただき、れいわは立憲、共産が票を減らすなかで、衆院選初挑戦で3議席をいただいたとかんがえています。
広島の立憲民主党さんや日本共産党さんにおかれても、再選挙の成功体験をすてていただきたい。あのときは、政策なんかそっちのけで、とにかく河井批判さえしていれば勝てた特殊な選挙なのだから。成功体験卒業が遅れれば遅れるほど、今度は広島でも比例復活で議席を確保した維新に足元をすくわれかねません。今回の県議補選における伊藤守候補が維新に置き換わったような選挙結果、すなわち野党共闘が維新の後塵を拝する結果が、今後の県内で多数出現しかねない。
特効薬はありませんが、以下のことは申し上げたいし、自身も実行したい。
(1)各種選挙の候補者はコロコロ変えずに固定する。素人がいきなり当選するような奇跡はほとんどおきえないことを肝に銘じたい。
(2)共闘はもちろん大事。しかし、それにたよりすぎずに各政党が自力をつける努力をすること。ある程度熱心な支持者の方でも、基本的な知識などが不足している場合もある。勉強を軸に強化していきたい。すでに、さとう自身はれいわ支持者を中心に介護福祉現場改善へ向けたオンライン勉強会などを開いていく。
(3)いまは、とにかくコロナ災害前から厳しく、コロナに追い打ちをかけられた人々の暮らしの再建を軸にしたい。そして中長期には災害救助隊や原発なき脱炭素など、平和憲法と広島の技術・経験をいかした国のありかたへ投資する方向性をきちっと打ち出していきたい。
(4)金権政治批判にしても、今後は河井批判から、政策そっちのけの政治・選挙をもたらしている制度の改革や政治文化の見直しにシフトしたほうがよいのでは?
(5)正直、具体的な方向性を打ち出そうとすると身内からの反発も出る。だから、「河井事件批判という最大公約数」でお茶を濁したくなるのも理解はできる。しかし、くどいようだが、それで勝てたのは再選挙のときの特殊な状況ゆえだ。もう、それは通用しない。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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