生きた。生き抜いた。それだけで充分価値があった。生き抜いた「生命」はもちろんのこと、残念ながら生物的には終焉を迎えた人々の「精神」にすら、それが輝いていた日々を思い起こせば「充分価値があった」のだ。

希薄で触感に乏しく、手で触っても質感・凹凸すらを感じない。色は不明確で、匂いもしない。それがこの時代の主流派(メインストリーム)の共通項だ。地球温暖化のために「脱炭素社会」を目指す一団であったり、「SDGs」とかなんとかいう国際的欺瞞を堂々と掲げている連中は全員その一味だと考えていい。

「新自由主義」は金融資本がやりたい放題狼藉を働くために、「米国流」と称する基準の世界への押し付けじゃないのか、と目星をつけていたが、「新自由主義」もどうやら質的変化を遂げたようだ。その正体、曖昧ながら反論を封じる回答が「SDGs」ということのようである。

近年耳にしなくなったが、「南北問題」という設問(あるいは課題)があった。地球の北側に裕福な国が集まり、おしなべて南側のひとびとは貧しいこと、を指す言葉だ。「南北問題」は解決したわけではまったくない。問題の位相が南北だけではなく、東西にも広がり尽くし「北側」の国の中にも貧困がどんどん拡大しつつある。「グローバル化」を慶事の枕詞のように乱発した連中は、相変わらず同じ題目を唱え続けているのだろうか。「南北問題」つまり「階級格差」の世界的拡大こそが、今日の困難を端的に指し示すひとつのキーワードであろう

その端では「国連」をはじめとする国際機関が、中立性や科学を放棄し、目前の銭勘定や政治に翻弄される姿も顕在化する。ほかならぬ「災禍の祭典」東京五輪を控えて、「わたしは五輪終了まで一切五輪についてコメントしない」と勝手にみずからを律した。

ここで多言を要せずとも、「東京五輪」がもたらした「返済不能」な負債は、財政問題だけではないことはご理解いただけよう。コロナウイルス猛烈な感染拡大の中、開催された「東京五輪」は、開催直前にIOCの会議にWHOの事務局長が出席するという、わたしの語彙では説明ができない狼藉・混乱の極みと、価値の喪失を堂々と演じた。ここでバッハであったり、テドロス・アダノムといった個人名を取り上げてもあまり意味はない。「五輪」をめぐる利益構造への洞察と徹底的な批判だけが言説としては有効だと思う。

「東京五輪」は単に災禍であった。あれを「それでもアスリートの姿に感動した」などと評する人がいるが、社会を俯瞰する視野をまったく持たない悲しい輩である。

選手村の食事が大量に捨てられたことが報道されたようだが、そんなことは当然予想された些末な出来事の「かけら」に過ぎず、小中学校の運動会が規制され、修学旅行が取りやめになるなかでも「世界的な大運動会」を恥じることなく行ったのが、「日本という国」であり、「東京という都市」だ。「レガシー」という言葉を開催のキーワードに使っていたようだが、資本の論理で巨大化したIOCと称するマフィアは、健康や感染症の爆発的拡大と関係なく「五輪」を今後も開きつづける、と「東京五輪」開催で高らかに宣言をしたのだ。それが連中の「レガシー」だ。

WHOもIOC、国連。一切が利権により不思議な律動を奏でる今日の世界。液晶の向こうには何でもありそうで、本当はなにもない日常。「繋がっていないと不安」な精神は逆効果として個人の精神をますます蝕み「繋がること」と「疎外」が同時に成立する不可思議。なにかの「終焉」が足音を早めると感じるのはわたしだけだろうか。

生きた。生き抜いた。それだけで充分価値があった。生き抜いた「生命」はもちろんのこと、残念ながら生物的には終焉を迎えた人々の「精神」にすら、それが輝いていた日々を思い起こせば「充分価値があった」のだ。

本年も「デジタル鹿砦社通信」をご愛読いただき、誠にありがとうございました。2022年が読者の皆様にとって幸多き年となりますよう、祈念いたします。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年1月号!

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』vol.30(紙の爆弾 2022年1月号増刊)

◆天皇制と皇室はどう変わってゆくのか?

眞子内親王が小室氏と結婚し、晴れて平民となった。小室氏が司法試験に失敗し、物価の高いニューヨークでは苦しい生活だと伝えられるが、それでも自由を謳歌していることだろう。

小室氏の母親の「借金」が暴露されて以来、小室氏側に一方的な批判が行なわれてきた。いや、批判ではなく中傷・罵倒といった種類のものだった。これらは従来、美智子妃や雅子妃など、平民出身の女性に向けられてきた保守封建的なものだったが、今回は小室氏を攻撃することで、暗に「プリンセスらしくしろ」と、眞子内親王を包囲・攻撃するものだった。

ところが、これらの論難は小室氏の一連の行動が眞子内親王(当時)と二人三脚だったことが明らかになるや、またたくまに鎮静化した。眞子内親王の行動力、積極性に驚愕したというのが実相ではないだろうか。

さて、こうした皇族の「わがまま」がまかり通るようになると、皇室それ自体の「民主化」によって、天皇制そのものが変化し、あるいは崩壊への道をたどるのではないか。保守封建派の危機感こそ、事態を正確に見つめているといえよう。

年末にいたって、今後の皇室のあり方を議論する政府の有識者会議(清家篤元慶応義塾長座長)の動きがあった。

有識者会議は12月22日に第13回会合を開催し、減少する皇族数の確保策として、女性皇族が結婚後も皇室に残る案と、戦後に皇籍を離脱した旧宮家の男系男子が養子縁組して皇籍に復帰する案の2案を軸とした最終答申を取りまとめ、岸田文雄首相に提出したというものだ。

女性皇族の皇籍はともかく、旧宮家の男系男子が養子縁組して皇籍に復帰という構想は、大いに議論を呼ぶことだろう。

それよりも、皇族に振り当てられている各種団体の名誉総裁、名誉会長が本当に必要なのかどうか。皇族の活動それ自体に議論が及ぶのでなければ、単なる数合わせの無内容な者になると指摘しておこう。

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◆工藤會最高幹部に極刑

工藤會裁判に一審判決がくだった。野村悟総裁に死刑、田上不三夫会長に無期懲役であった。弁護団は「死刑はないだろう」の予測で、工藤會幹部は「無罪」「出所用にスーツを準備」だったが、これは想定された判決だった。

過去の使用者責任裁判における、五代目山口組(当時)、住吉会への判決を知っている者には、ここで流れに逆行する穏当な判決はないだろうと思われていた。

福岡県警の元暴対部長が新刊を出すなど、工藤會を食い扶持にしている現状では、警察は「生かさず殺さず」をくり返しながら、裁判所はそれに追随して厳罰化をたどるのが既定コースなのである。

いわゆる頂上作戦は、昭和30年代後半にすでに警察庁の方針として、華々しく掲げられてきたものだ。いらい、半世紀以上も「暴力団壊滅」は警察組織の規模温存のための錦の御旗になってきたのである。

たとえば70年代の「過激派壊滅作戦」は、警備当局によるものではなく、もっぱら新左翼の事情(内部ゲバルト・ポストモダン・高齢化)によって、じっさいにほぼ壊滅してしまった。この事態に公安当局が慌ててしまった(予算削減)ように、ヤクザ組織の壊滅は警察組織の危機にほかならないのだ。

いっぽう、工藤會の代替わりはありそうにない。運営費をめぐって田上会長の意向で人事が動くなど、獄中指導がつづきそうな気配だ。

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◆三里塚空港・歳月の流れ

個人的なことで恐縮だが、われわれがかつて「占拠・破壊」をめざした成田空港の管制塔が取り壊された。歳月の流れを感じさせるばかりだ。

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三里塚空港の転機 旧管制塔の解体はじまる 2021年3月25日

◆続く金融緩和・財政再建議論

今年もリフレに関する論争は、散発的ながら世の中をにぎわした。ケインズ主義者が多い経産省(旧経済企画庁・通産省)から、財務相(旧大蔵省)に政権ブレーンがシフトする関係で、来年も金融緩和・財政再建の議論には事欠かないであろう。

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◆渾身の書評『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』

年末に当たり、力をこめて書いた書評を再録しておきたい。

他の雑誌で特集を組む関係で、連合赤軍事件については再勉強させられた。本通信の新年からは、やや重苦しいテーマで申し訳ないが、頭にズーンとくる連載を予定している。連合赤軍の軌跡である。請うご期待!

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《書評》『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』〈1〉71年が残した傷と記憶と 2021年11月24日
《書評》『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』〈2〉SM小説とポルノ映画の淵源 2021年11月26日
《書評》『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』〈3〉連合赤軍と内ゲバを生んだ『党派至上主義』2021年11月28日
《書評》『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』〈4〉7.6事件の謎(ミステリー)──求められる全容の解明 2021年11月30日

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年1月号!

わたくしごとで恐縮であるが、本年は予定しない入院を複数回余儀なくされた。通院回数や検査の回数が年々増加するのは、加齢故に現状維持のためには致し方ない。もう慣れた。

◆「警戒レベル5」で募るのは、不安より不満の声

ただ、予定しない数日の入院の際に、医療とは関係のない奇妙(今日にあっては「当たり前」ないのかもしれない)な体験をした。わたしが居住している地域は地上波のテレビやAMラジオが受信しにくい。拙宅にテレビはないが、この地域でテレビを視聴するためには、ケーブルテレビなどのサービスを利用しなければ、地上波は受信できない。

たまたまの入院と同時期に記録的な豪雨の雲が、この地域にも到達した。4人病室、カーテンで仕切られた空間の中で、病院が準備したテレビを1000円のカードを購入して見ている口々に心配の声が聞こえてくる。わたしを除く全員がテレビに夢中になっていたとき、既に携帯電話には「緊急速報」が何度も鳴り響き、その情報は最初「警戒レベル3」であったものが数時間で「警戒レベル4」にあがり、ついには病院近辺の複数地域に「警戒レベル5」が出されたことを伝えていた。耳障りな警報音が、複数の携帯電話から病室に響き渡る。

「警戒レベル5」は気象庁によれば「災害が発生又は切迫していることを示す」もっとも警戒を要するレベルの警報だ(これより程度の高い警報は、現状ない)。だから頑丈な病院に入院していても、家族や知人の心配をして、より詳しい情報を求め同室の皆さんはテレビを見ていたのだろう。だが、どの声も不満をつぶやくものばかりだ「こんなん、テロップ出しただけで、わからへんやんか」、「なんで普通の番組やっとんや。特別番組に切り替えんのや」自分の携帯電話に送られてきた「警戒レベル5」が示すエリアには、わたしの自宅があるの町名も含まれている。

「直ちに命を守る行動を」と横のベッドから漏れ聞こえてきた音声を聞きながら、はて、こんな緊急時にどうしてNHKテレビやラジオはそれこそ娯楽番組を放送していないで、何度でも警戒警報が出されている地域に呼びかける放送をしないものか。

◆「直ちに命を守る行動を」と報じつつ、あまりに呑気なマスメディア

この際自分の目で確認しようと、1000円のテレビ視聴カードを購入してまずNHK総合テレビ見た。この時大雨は西日本を中心に広い地域にわたり、多くの河川氾濫も起こっていた。だから警報が出ている地域も複数県にわたっていた。

それにしても「直ちに命を守る行動を」要請されているのは、何十か所もあるわけではない。河川氾濫や土砂崩れによる道路寸断のニュース画面が繰り返し流される一方、「いま」危機を迎えている地域への呼びかけは、極めて抽象的だ。

民放にチャンネルを変えても放送内容は大差ない。ではラジオはどうかと、病院内に設置されている入院患者用のパソコンでネットで地元のラジオが聴取できるサービス「radiko」からNHK第一放送を聞いてみる。NHKラジオもやはり通常通りの番組を放送していて「直ちに命を守る行動を」との状態にしては、呑気なものである。

そこで、せっかくパソコンを触っているのだから、ネットで情報を調べてみた。入院中の病院近くの複数の市や町に「警戒レベル5」が出されている。そこには町名のほか何世帯が警戒の対象かも記載されている。繰り返すが「警戒レベル5」は「もう避難できない人は最悪に備えて、家の中で比較的安全な場所に身を寄せて」とも表現される警報だ。近年地震だけでなく、大雨による水害や山の崩落が毎年発生しているからであろうか、あるいはこの時の大雨被害がかなり広域にわたったためか、詳しい避難情報はテレビ・ラジオからは得ることができず、ネットがなければどうしようもないのではないか、と気になった。

◆手術と同じくらい恐ろしかった「災害報道」の弱体化

次の日病室で同室の人が見ているテレビの声が漏れてきた。話口調から民放の番組のようだ。「それでは今回のような災害の際に、お住まいの場所にどんな警報が出ているかを知る方法をお伝えします」とアナウンサーらしき男性の声は「ネットで『気象庁』と検索すると、このように詳しい警報の情報が出てきます」(このあたりのコメント内容は記憶が完全ではないが)とこともなげに説明をはじめた。わたしはテレビから離れて30年ほどになる。それでも外出先で短時間テレビに接することはあり、その都度「知らないことばかり」の画面を無感動に眺めているのだが、この時は違った。

テレビはもう、命にかかわる災害発生時にも情報を頼る相手ではなくなった。それを知り「ここまで来たか」と衝撃を受けた。ラジオも同様だ。NHKは各県に放送局を設けているのだから、その気になればかなり細やかな情報提供は可能だろうに、もうはなからテレビやラジオにはそんなつもりはないらしい。「非常持ち出し袋にはラジオを入れておきなさい」と昔から教わったが、この地域ではそもそもAMラジオ電波が届きにくい。そのうえ電波を受信できても肝心の避難情報が放送されなければ、ラジオを持っている意味はないだろう。

テレビも同様。すべてを「ネットで」と誘導するのが今日当たり前のようだが、「災害時にネットへアクセスできるかどうか」この基本的な問題が度外視されてはいまいか。スマートフォンだって基地局のアンテナが倒れたら使えないし、そもそもネットはおろか、パソコンを使わないかたがたにはどうしろというのだろう。

手術も恐ろしかったが、同じくらい「災害報道」の弱体化には恐れ入った数日間であった。情報技術やインターネットは“進歩”したようだが、災害時におけるこのような報道姿勢は「退行」以外のなにものでもないのではないだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年1月号!

「スタンピード現象」と呼ばれる現象がある。これはサバンナなどで群れをなして生活しているシマウマやキリンなどの群れが、先頭に誘導されて、一斉に同じ方向へ走り出す現象のことである。先頭が東へ駆け出すと、群れ全体が東へ突進する。先頭が西へ方向転換すると、後に続く群れも西へ方向転換する。

わたしが記憶する限り、スタンピード現象という言葉は、共同通信社の故・斎藤茂男氏が、日本のマスコミの実態を形容する際によく使用されていた。もう20年以上前のことである。

ここ数年、中国、ニカラグア、ベネズエラなどを名指しにした「西側メディア」による反共キャンペーンが露骨になっている。米中対立の中で、日本のメディアは、一斉に中国をターゲットとした攻撃を強めている。中国に対する度を超えたネガティブキャンペーンを展開している。

その結果、中国との武力衝突を心配する世論も生まれている。永田町では右派から左派まで、北京五輪・パラの外交的ボイコットも辞さない態度を表明している。その温床となっているのが、日本のマスコミによる未熟な国際報道である。それを鵜呑みにした結果にほかならない。

写真出典・プレンサラティナ紙

◆メディアは何を報じていないのか?

新聞研究者の故・新井直之氏は、『ジャーナリズム』(東洋経済新報社)の中で、ある貴重な提言をしている。

「新聞社や放送局の性格を見て行くためには、ある事実をどのように報道しているか、を見るとともに、どのようなニュースについて伝えていないか、を見ることが重要になってくる。ジャーナリズムを批評するときに欠くことができない視点は、『どのような記事を載せているか』ではなく、『どのような記事を載せていないか』なのである」

新井氏の提言に学んで、同時代のメディアを解析するとき、日本のメディアは、何を報じていないのかを検証する必要がある。

結論を先に言えば、それは米国の世界戦略の変化とそれが意図している危険な性格である。たとえば米国政府の関連組織が、「民主化運動」を組織している外国の組織に対して、潤沢な活動資金を提供している事実である。それは「反共」プロパガンダの資金と言っても過言ではない。日本のメディアは、特にこの点を隠している。あるいは事実そのものを把握していない。

「民主化運動」のスポンサーになっている組織のうち、インターネットで事実関係の裏付けが取れる組織のひとつに全米民主主義基金(NED、National Endowment for democracy)がある。この団体の実態については、後述するとして、まず最初に同基金がどの程度の資金を外国の「民主化運動」に提供しているかを、香港、ニカラグア、ベネズエラを例に紹介しておこう。次の表である。

全米民主主義基金(NED)はどの程度の資金を各国の「民主化運動」に提供しているか

次のURLで裏付けが取れる。2020年度分である。

■香港:https://www.ned.org/region/asia/hong-kong-china-2020/

■ニカラグア:https://www.ned.org/region/latin-america-and-caribbean/nicaragua-2020/

■ベネズエラ:https://www.ned.org/region/latin-america-and-caribbean/venezuela-2020/

これらはいずれも反米色の強い地域や国である。そこで活動する「民主化運動」に資金を提供したり、運動方法を指導することで、「民主化運動」を活発化させ、混乱を引き起こして「反米政権」を排除するといういのが、全米民主主義基金の最終目的にほかならない。

◆反共プロパガンダのスポンサー、全米民主主義基金

日本のメディアは、皆無ではないにしろ全米民主主義基金についてほとんど報じたことがない。しかし、幸いにウィキペディアがかなり正確にこの謀略組織を解説している

それによると、全米民主主義基金は1983年、米国のレーガン政権時代に、「『他国の民主化を支援する』名目で、公式には『民間非営利』として設立された基金」である。しかし、「実際の出資者はアメリカ議会」である。つまり実態としては、米国政府が運営している基金なのである。

実際、全米民主主義基金のウェブサイトの「団体の自己紹介」のページを開いてみると、冒頭に設立者であるドナルド・レーガン元大統領の動画が登場する。

同ページによると、全米民主主義基金は「民主主義」をめざす外国の運動体に対して、年間2000件を超える補助金を提供している。対象になっている地域は、100カ国を超えている。

その中には、ウィグル関連の「反中」運動、日本では悪魔の国ような印象を植え付けられているベラルーシの運動体、キューバ政府を打倒しようとしているグループへの支援も含まれている。ひとつの特徴として、反共メディアの「育成」を目的にしていることが顕著に見られる。

■キューバの反政府運動への支出 https://www.ned.org/region/latin-america-and-caribbean/cuba-2020/
 
レーガン大統領(当時)が全米民主主義基金を設立した1983年とはどんな年だったのだろうか。この点を検証すると、同基金の性格が見えてくる。

◆ニカラグア革命とレーガン政権

1979年に中米ニカラグアで世界を揺るがす事件があった。サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)が、親子3代に渡ってニカラグアを支配してきたソモサ独裁政権を倒したのだ。米国の傀儡(かいらい)だった独裁者ソモサは自家用ジェット機でマイアミへ亡命した。

米国のレーガン政権は、サンディニスタ革命の影響がラテンアメリカ全体へ広がることを恐れた。ラテンアメリカ諸国が、実質的な米国の裏庭だったからだ。とりわけニカラグアと国境を接するエルサルバドルで、民族自決の闘いが進み、この国に対しても政府軍の支援というかたち介入した。その結果、エルサルバドルは殺戮(さつりく)の荒野と化したのである。

中米諸国の位置関係を示す地図

わたしは1980年代から90年代にかけて断続的にニカラグアを取材した。現地の人々は、革命直後に米国が行った挑発行為についてリアルに語った。ブラック・バード(米空軍の偵察機)が、ニカラグア上空を爆音を立てて飛び回り、航空写真を取って帰ったというのだった。

レーガン政権は、ただちにニカラグアの隣国ホンジュラスを米軍基地に国に変えた。そしてニカラグアのサンディニスタ政権が、同国の太平洋岸に居住しているミスキート族を迫害しているという根拠のないプロパガンダを広げ、「コントラ」と呼ばれる傭兵部隊を組織したのである。

レーガン大統領は、彼らを「フリーダムファイターズ(自由の戦士)」と命名し、ホンジュラス領から、新生ニカラグアへ内戦を仕掛けた。こうした政策と連動して、ニカラグアに対する経済封鎖も課した。日本は、米軍基地の国となったホンジュラスに対する経済援助の強化というかたちで、米国の戦略に協力した。

しかし、コントラは、テロ活動を繰り返すだけで、まったくサンディニスタ政権は揺るがなかった。

そして1984年、革命政府は、国際監視団の下で、はじめて民主的な大統領選挙を実施したのである。こうしてニカラグアは議会制民主主義の国に生まれ変わった。その後、政権交代もあったが、現在はサンディニスタ民族解放戦線が政権の座にある。

全米民主主義基金は、このような時代背景の中で、1983年に設立されたのである。もちろんサンディニスタ革命に対抗することが設立目的てあると述べているわけではないが、当時のレーガン政権の異常な対ニカラグア政策から推測すると、その可能性が極めて高い。あるいは軍政から民生への移行が加速しはじめたラテンアメリカ全体の状況を見極めた上で、このような新戦略を選んだのかも知れない。露骨な軍事介入はできなくなってきたのである。

◆米国の世界戦略、軍事介入から「民主化運動」へ

それに連動して米国の世界戦略は、軍事介入から、メディアによる「反共プロパガンダ」と連動した市民運動体の育成にシフトし始めるが、それは表向きのことであって、「民主化運動」で国を大混乱に陥れ、クーデターを試みるというのが戦略の青写真にほかならない。少なくともラテンアメリカでは、その傾向が顕著に現れている。次に示すのは、米国がなんらかのかたちで関与したとされるクーデターである。

筆者が作成したものなので、すべてをカバーできていない可能性もある。ここで紹介したものは、一般的に熟知されている事件である

これらのほかにも既に述べたように、1980年代の中米紛争への介入もある。1960年のキューバに対する攻撃もある。(ピッグス湾事件)このように前世紀までは、露骨な介入が目立ったが、2002年のベネズエラあたりから、「民主化運動」とセットになった謀略が顕著になってきたのである。

◆アメリカ合衆国国際開発庁からも資金

このような米国の戦略の典型的な資金源のひとつが、全米民主主義基金なのである。もちろん、他にも、「民主化運動」を育成するための資金源の存在は明らかになっている。たとえば、米国の独立系メディア「グレーゾーンニュースThe Grayzone – Investigative journalism on empire」は、アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)が、2016年に、ニカラグアの新聞社ラ・プレンサに41,121ドルを提供していた事実を暴露している。反共プロパガンダにメディアが使われていることがはっきりしたのだ。

また、同ウェブサイトは、今年の11月に行われたニカラグアの大統領選挙では、サンディニスタ政権を支持するジャーナリストらのSNSが凍結されるケースが相次いだとも伝えている。 

わたしは、香港や中国、ニカラグア、ベネズエラなどに関する報道は、隠蔽されている領域がかなりあるのではないかと見ている。それはだれが「民主化運動」なるもののスポンサーになっているのかという肝心な問題である。

仮に海外から日本の「市民運動」に資金が流れこみ、米国大統領選後にトランプ陣営が断行したような事態になれば、日本政府もやはり対策を取るだろう。露骨な内政干渉は許さないだろう。中国政府にしてみれば、「堪忍ぶくろの緒が切れた」状態ではないか。ニカラグア政府は、現在の反共プロパガンダが、かつてホンジュラスからニカラグアに侵攻したコントラの亡霊のように感じているのではないか。

エドワルド・ガレアーノは、『収奪された大地』(大久保光男訳、藤原書店)の中で、ベネズエラについて次のように述べている。

「アメリカ合州国がラテンアメリカ地域から取得している利益のほぼ半分は、ベネズエラから生み出されている。ベネズエラは地球上でもっとも豊かな国のひとつである。しかし、同時に、もっとも貧しい国のひとつであり、もっとも暴力的な国のひとつでもある」

米国のドルが世界各地へばらまかれて、反共プロパガンダに使われているとすれば、メディアはそれを報じるべきである。さもなければ政情の客観的な全体像は見えてこない。間接的に国民を世論誘導していることになる。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』

『NO NUKES voice』30号に、1995年12月8日、高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)で発生したナトリウム漏れ事故の社内調査を担当した動力炉・核燃料開発事業団(以下、動燃)の職員・西村成生氏の怪死事件について書いた。以前より気になっていたが、12月14日付デジタル鹿砦社通信で報告した「あらかぶさん裁判」のメーリングリストで、妻のトシ子さんが今も闘い続けていることを知り取材を始めた。

◆「これは自殺ではない」

もんじゅのナトリウム漏れ事故後、動燃は、現場を撮影した2本のビデオ(「2時ビデオ」(12月9日午前2時撮影)と「4時ビデオ」(12月9日午後4時撮影))について、問題部分をカットしたり、存在を隠してマスコミに発表、それが発覚するやマスコミから激しい非難を浴びるようになった。そんな中、特命で内部調査を任されたのが、当時総務部次長の西村成生氏(当時49才)だった。

12月23~24日現地調査した結果、問題の2時ビデオが、事故後すぐに東京本社に届けられていることが発覚、調査チームは25日、その事実を大石理事長に報告した。しかし、大石理事長は国会に呼ばれた際もそれを公表しなかった。年が開けた1996年1月12日、政権交代で新科技庁長官に就任した中川秀直氏が、会見で2時ビデオが動燃本社に持ち帰られ、幹部が見ていた旨の発言を行った。そのため、動燃は急きょ会見を開くことになった。

会見は、1回目に広報室長と動燃幹部が、2回目に大石理事長が行ったが、この席でも大石理事長は、2時ビデオの存在を知ったのは1月11日と嘘をついた。3回目の会見に引きずりだされた成生氏は、先の理事長、幹部らの発言に合わせる形で、本社幹部が2時ビデオの存在を知ったのは(理事長が知った前日の)1月10日と発言した。

会見終了が午後10時5分頃。深夜1時頃、成生氏は、13日敦賀で会見を行うため大畑理事とホテルにチェックインしたことになっている。その後動燃から成生氏宛に5枚のFAXが届き、浴衣姿の成生氏がフロントに取りに来たとされている。早朝約束の時間に成生氏が来ないのを不審に思った大畑理事が、成生氏の部屋を入ったところ、机に白い紙があり、周辺を探したところ、非常階段の下にうつ伏せに倒れている成生氏を発見したという。

連絡を受けたトシ子さんは、病院に向かう途中、車のラジオで、成生氏がホテルの8階から転落、遺書があったことから自殺と断定されたと知った。「遺体はどんなに酷いだろう」と不安な思いで霊安室に入ったトシ子さんは、8階から転落したとは思えない、損傷の少ない夫の遺体を見るなり、驚くと同時に直感した。「これは自殺ではない」。

1995年、東海事業所管理部部長時代の西成成生さん。この年、東京本社に異動となり、もんじゅ事件の特命を命じられた

◆政治的に利用された成生さんの死

不可解な点はそれだけではなかった。ささやかな葬儀を準備していたトシ子さんに、動燃は「車が6台入れるように」などと注文を付け会場に変えさせられ、葬儀には田中真紀子はじめ大物議員など著名人が1500人も参列、まるで「社葬」のようだった。驚くのは、そこで読まれた大石理事長ら関係者の弔辞が、それぞれ繋がるように意図的に作られたような内容だったという(詳細はぜひ本文を読んで頂きたい)。

「成生さんの死は政治的に利用されているのかもしれない」。トシ子さんの疑惑はますます強まった。一方、成生さんの死後、マスコミの動燃批判は一挙に沈静化した。

ささやかな葬儀を予定していたトシ子さんに動燃はあれこれ注目を付け、「社葬」のような葬儀が執り行われた。費用600万円は西村家が支払った

 

西村トシ子さん

葬儀から数ヶ月後、理事長秘書役で成生氏と大学の同窓生だった田島氏から、成生氏の死について説明したいと連絡があり、トシ子さんは田島氏と大畑理事と会った。

田島氏が書いた「西村職員の自殺に関する一考察」は、成生氏の自殺が、前日の会見で、2時ビデオの存在を知った日にちを前年12月25日というべきところを1月10日と間違えたことを苦にしたというものだった。

「そんなことで死ぬかしら」。トシ子さんは納得いかなかった。それに5枚のFAX受信紙はどこにいったの? そこには受信した時間が刻時されているはず…。トシ子さんがその件を尋ねると、大畑理事は慌てて席を立ち姿を消した。

一方、「一考察」のなかに驚くべき事実が判明した。そこには、トシ子さん宛の遺書に書かれた内容が記されていた。田島氏が「一考察」を書いたのは1月15日。しかしトシ子さんは自分に宛てられた遺書を、1年近く誰にも見せていなかったのだ。ますます深まる疑念…しかし成生氏の死により国策で進められた夢の原子炉「もんじゅ」は、延命を遂げることとなった。紙面の関係で、本文で割愛したその後繰り広げられた訴訟について紹介したい。

動燃理事長秘書役(当時)だった田島氏が書いた手書き文書「西村職員の自殺に関する一考察」

同上

◆遺体が語る真実

トシ子さんは1年後、成生さんのカルテを作成した聖路加国際病院の医師に連絡した。医師も連絡を待っていたという。というのも、医師によれば、病院に運ばれた成生さんの遺体は、死後10時間は経過していたという。それでは深夜1時にチェックインすることはできないことになる。しかもホテルは宿泊帳の開示を拒んでいる。

警察と東京都監察医、動燃の発表では死亡推定時刻はAM5時頃、聖路加国際病院のカルテでは死亡確認時刻AM6時50分、その時の深部体温は27度だった。深部体温とは、腸など身体内部で外気などに影響を受けにくい温度で、そこから死亡推定時刻が測れるという。法学者らは5時から6時50分の約2時間で、深部体温が37度から27度へ10度も下がることはありえないという。そこからトシ子さんは、監察医により死体検案書に虚偽事実が書かれているとして虚偽私文書作成、3通の遺書に記された「H8.1.13(土)03:10.」「H8.1.13(土)03:40.」「H8.1.13、03:50」の筆跡が成生氏の字ではないが、これは死亡時刻を遅くする第三者が加筆したものとする私文書偽造で、動燃の田島氏と都の監察医を訴えた。しかし、1998年10月、不起訴となった。

2002年、トシ子さんは東京都公安委員会に「犯罪被害者等給付金」を申請したが、翌年「支給しない」とされた。しかし、この過程で事件当時、中央警察署が作成した「捜査報告書」「実況見分調書」「写真撮影報告書」「死体取扱報告書」や、鑑定医が作成した「死体検案調書」などの提出物件を見て、公安委員会は弁明書と裁決書を作成したことがわかった。警察と動燃の説明が一切なかったので、トシ子さんはこの過程で初めて、警察の捜査がどのようなものだったかを知った。トシ子さんはこの裁決書を見て、不服だったので行政訴訟をしようとしたが、請け負う弁護士はいなかった。

2004年10月13日、トシ子さんと息子2人は、核燃料サイクル開発機構(旧動燃)に対して、成生氏の死が自殺というならば、自殺に追いやった、防げなかった安全配慮義務違反があるのではとして、労災として損害賠償訴訟を提訴した。

証人尋問で大石元理事長は、原告側弁護人に「2時ビデオ」が本社に来ていたとの報告を受けた日にちについて聞かれ、「記憶にない」と証言。ほかの質問にも「知らない」「覚えていない」を繰り返した。2007年5月14日、東京地裁で敗訴、2009年東京高裁は控訴を棄却、2012年1月31日、上告も棄却された。

2019年10月、山崎隆敏さんに福井県内の原発を案内された。もんじゅは敦賀市内から更に奥まった白木地区にひっそりたたずんでいた

 

2019年10月、福井県敦賀市白木地区を訪ねた。海岸沿いで会ったおばあさんは「あのそばにうちの畑があった」ともんじゅを指差した

◆未遺品返還訴訟へ

2015年2月13日、トシ子さんは、東京都と警察に対して、中央署警察官等が関与した成生氏の全着衣、マフラー、5枚のFAX受信紙、遺書を書いた万年筆など「未遺品返還訴訟」を東京地裁に提訴した。成生氏の死亡後、遺族にはカバン、鍵、財布、コートしか返却されてなかった。裁判で、捜査にあたった2人の警察官が証人尋問に立ち、「遺品は全て返しているはず。中央署にはない」と証言。現場にかけつけた警察官らが、成生氏の死を『自殺・事件性なし』と判断していたため、部屋の実況見分などを行っていないことも判明した。2017年3月13日、東京地裁はトシ子さんらの請求を棄却、9月13日東京高裁は控訴を棄却。しかし高裁判決は、一部の遺品は大畑元理事に渡っていた事実を認定した。トシ子さんは2018年2月22日、日本原子力研究開発機構(旧動燃)と大畑宏之元理事に対して、未返還遺品請求を提訴した。大畑氏は、訴状が届いた数日後死亡したため、訴訟の被告は大畑元理事の遺族に引き継がれた。

7月5日、成生氏の死亡後、成生氏の動燃内机の封印に関与した3名の被告の証人尋問が予定されたが、2名は意見書を提出、田島氏は体調不良で出廷しなかった。トシ子さんは法廷で「遺体の状態から、主人はホテル以外の場所で遺書を書かされ、暴行を受けて亡くなったと思います。夫は生きる権利、私は知る権利があるのに、何回裁判をやってもそれが顧みられません。憲法の基本的人権が侵害されないように裁判をしていただきたい」と訴えた。

しかし、9月30日、東京地裁はトシ子さんらの請求を棄却、現在トシ子さんらは東京高裁に控訴している。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

12月11日発売!〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』vol.30(紙の爆弾 2022年1月号増刊)

〈原発なき社会〉を求めて
『NO NUKES voice』Vol.30
2021年12月11日発売
A5判/132ページ(巻頭カラー4ページ+本文128ページ)
定価680円(本体618円+税)

総力特集 反原発・闘う女たち

[グラビア]
高浜原発に運び込まれたシェルブールからの核燃料(写真=須藤光郎さん)
経産省前の斎藤美智子さん(写真・文=乾 喜美子さん)
新月灯花の「福島JUGGL」(写真=新月灯花)

[インタビュー]山本太郎さん(衆議院議員)×渡辺てる子さん(れいわ新選組)
れいわ新選組の脱原発戦略

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」原告共同代表)
「子ども脱被ばく裁判」 長い闘いを共に歩む

[報告]乾 喜美子さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
経産省前のわたしたち

[報告]乾 康代さん(都市計画研究者)
東海村60年の歴史 原産の植民地支配と開発信奉

[報告]和田央子さん(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
福島県内で進む放射能ゴミ焼却問題
秘密裏に進められた国家プロジェクトの内実

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
「もんじゅ」の犠牲となった夫の「死」の真相を追及するトシ子さんの闘い

[インタビュー]女性ロックバンド「新月灯花
福島に通い始めて十年 地元の人たちとつながる曲が生み出す「凄み」

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
検討しなきゃいけない検討委員会ってなに?

[報告]森松明希子さん
(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream(サンドリ)代表/原発賠償関西訴訟原告団代表)
だれの子どもも“被ばく”させない 本当に「子どもを守る」とは

[書評]黒川眞一さん(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)
森松明希子『災害からの命の守り方 ─ 私が避難できたわけ』

※     ※     ※

[報告]樋口英明さん(元裁判官)
広島地裁での伊方原発差止め仮処分却下に関して

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈14〉避難者の多様性を確認する(その4)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈23〉最終回 コロナ禍に強行された東京五輪

[報告]平宮康広さん(元技術者)
放射性廃棄物問題の考察〈後編〉放射能汚染水の海洋投棄について〈2〉

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
「エネルギー基本計画」での「原子力の位置付け」とは

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
問題を見つけることが一番大事なことだ

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
《追悼》長谷川健一さん 共に歩んだ十年を想う

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
チャーリー・ワッツの死に思う 不可解な命の重みの意味

[報告]佐藤雅彦さん(ジャーナリスト/翻訳家)
21世紀の国家安全保障のために原発は邪魔である!

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈14〉現状は、踊り場か後退か、それとも口笛が吹けるのか

[報告]大今 歩さん(高校講師・農業)
「脱炭素」その狙いは原発再稼働 ──「第六次エネルギー基本計画」を問う

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナはおーきく低下した。今後も警戒を続ける
対面会議・集会を開こう。岸田政権・電力会社の原発推進NO!
《北海道》藤井俊宏さん(「後志・原発とエネルギーを考える会」共同代表)
特定放射性廃棄物最終処分場受入れ文献調査の是非を問う
《北海道》瀬尾英幸さん(北海道脱原発行動隊/泊村住人)
文献調査開始の寿都町町長選挙の深層=地球の壊死が始まっている
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
内部被ばくが切実になっているのではないか
《反原発自治体》けしば誠一さん(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟)
脱炭素化口実にした老朽原発再稼働を止め、原発ゼロへ
《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表)
衆議院選挙中も、原発止めよう活動中―三つの例
《関西電力》木原壯林さん(老朽原発うごかすな!実行委員会)
老朽原発廃炉を勝ち取り、核依存政権・岸田内閣に鉄槌を!
《中国電力》芦原康江さん(島根原発1、2号機差し止め訴訟原告団長)
島根原発2号機の再稼働是非は住民が決める!
《玄海原発》豊島耕一さん(「さよなら原発!佐賀連絡会」代表)
裁判、県との「対話」、乾式貯蔵施設問題
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク、経産省前テントひろば)
島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の責任を糾弾する!
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
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◆コロナが続く!

昨年拡大したコロナ禍による影響は今年も続きました。長期には至らぬも緊急事態宣言により延期や終了時刻を早めの設定と、観衆50パーセント以下の制限などは12月上旬まで響きました。

コロナウイルスに罹る選手もわずかながら居た中、濃厚接触者となった選手も一定の待機期間を設ける必要の為、無症状でも中止カードも発生するもどかしさもありました。

タイからの選手が来日不可能で、タイトル戦が絡む国際戦が停滞。こういった外国人選手の来日が閉鎖され、プロボクシングでも世界戦の延期が相次ぐ事態がこの12月でも発生しました。秋頃からコロナ収束の兆しが見えてきた中では観衆制限が緩められつつあり、新たにオミクロン株が蔓延し始める油断ならない現状も、今後は感染急拡大が無い限り、以前のような開催が待たれています。

NJKFで続く会場内の注意喚起(2021年6月27日)

沢村忠さんは最後までファンを大切にした人(2009年4月19日)

◆キックの鬼・沢村忠さん永眠

3月26日に亡くなられた沢村忠さん。4月1日のスポーツ報知一面で、「元・東洋ライト級チャンピオン、沢村忠さんが肺癌の為、亡くなられていた」という報道がありました。引退して44年。キック界から離れ、メディアには殆ど姿を現さずも、未だスポーツ新聞の一面で取り上げられるほど大きな存在感を示しました。身体の具合が良くないとは情報筋で聞いていたものの、ついにその日が来たという虚しさが残るキック関係者は多いでしょう。
昨年3月に名レフェリーだった李昌坤(リ・チャンゴン)さん、5月に藤本(旧・目黒)ジムの藤本勲会長が相次いで亡くなられ、ここ数年で野口プロモーションと目黒ジムの重鎮が逝ってしまう話が多いところで、創生期の語り部が少なくなる虚しさが残りました。

◆国崇と健太が100戦達成!

4月24日に国崇(=藤原国崇/41歳/拳之会)が100戦目を迎え、11月21日で102戦57勝42敗3分の戦績を残しました。健太(=山田健太/34歳/ESG)も9月19日に100戦目を達成し、62勝(18KO)31敗7分。二人はいずれもNJKFとWBCムエタイ日本王座獲得経験あるベテランです(戦績はNJKF発表を参照)。

国内に於いて100戦超えは昭和時代では藤原敏男氏をはじめ名チャンピオンが数名居て、国崇と健太は昭和時代以来でしょう。しかし現在は3回戦が主流で、一概には比べられない時代の格差は有るものの、現在の選手層の中には50戦超えは結構多いので、どこまで戦歴を延ばせるかの興味も湧くところです。

[左]岡山で活躍の国崇101戦目のリングは後楽園ホール(2021年9月19日)[右]健太は安定した試合運びで戦歴を積み重ねた(2021年6月6日)

◆今年のキック団体(協会・連盟)の変化は

今時は業界が統一されない限り、何も驚かない時代です。過去に有った団体や個々のイベントプロモーションも形を変えつつ進化してきたのがここ数年で、2010年1月にスタートした「REBELS」は存在感が大きかったイベントでしたが、今年2月28日で幕を閉じ、「KNOCK OUT」に吸収され、統一という形でビッグイベントは続いている模様です。

既存の団体に留まっていては鎖国的で、エース格でも存在感が薄く「RIZINに出たい、ONEに出たい!」等のビッグイベント出場アピールが多く、団体トップだけでは飽き足らないのが選手の本音。

「これではいけない」とマッチメイクに苦しむ各団体幹部の平成世代は結束力も生まれ、団体交流戦も活発に行われていますが、客観的に見ればこれが一つの圏内のキックボクシング界で、昨年末から比べて大きな変化は無いものの、今後も交流戦から緩やかな進化が続くでしょう。

ルンピニースタジアム(まだ屋外)で行われた女子試合(2021年9月18日 (C)MUAYSIAM)

◆崩れ行くムエタイの伝統

タイ国に於いては日本と違い、ほぼ毎日興行が行なわれていたバンコクで、昨年3月のコロナ感染爆発からスタジアム閉鎖が続き、ムエタイ界はかなりの打撃を受けました。

2016年10月のプミポン国王が崩御された際でも30日間の自粛期間でしたが、目処の立たない長期に渡っての閉鎖は各スタジアムに於いては史上初。

更にはコロナ禍の影響だけではないムエタイは節目の時代に来たのか、今年9月中旬からの規制緩和後も、ムエタイの伝統・格式が崩れてきた現象も起こりました。

古き時代はリングや選手に触れることも許されなかった厳格な女人禁制のムエタイは、1990年代から徐々に緩む中、地方では女子試合が行われるようになり、二大殿堂のルンピニースタジアムとラジャダムナンスタジアムだけは厳格さが近年まで変わらなかったところが、今年9月18日にはルンピニースタジアムで、プロ初の女子の試合が行われるようになり(コロナ禍で当初は屋外特設リング、現在は本来のメインスタジアム)、こんな前例が出来れば、汚点とまでは言えなくとも、設立以来65年間も守ってきた規律を破ってまでもやる必要があったかは疑問で、もう二度と消せない歴史が残ってしまいました。

「女子試合は時代の流れとしても、ラウンドガールがリングに上がるのは格式高いルンピニースタジアムとして如何なものか!」と失望する日本のキック関係者も居るほど、まだある威信の崩れがムエタイの権威を貶めている様子です。これも新しい時代として受け入れるしかないのか。そして今後の展開はどうなるのか。日本のキックボクシングを含めて次回の“2022年の展望”で書いてみようと思います。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

大手のマスコミが社会の木鐸としてきちんと機能し、いままで埋もれていた問題に光を当てて政府や自治体を大きく動かした。最近、こういう例は少ないように思えます。

 

毎日新聞取材班『ヤングケアラー 介護する子どもたち』毎日新聞出版

しかし、その例外といえるのが、今回ご紹介する、「ヤングケアラー」問題における毎日新聞取材班の活躍ではないでしょうか? 今回の書籍のもととなった、毎日新聞連載「ヤングケアラー幼き介護」は第25回新聞労連ジャーナリズム大賞を受賞しています。

◆統計さえなかったヤングケアラー

ヤングケアラーは法令上の定義はありませんが、一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもとされています。

ケアの負担が重くなると、学業や友人関係、就職などにも悪影響を及ぼし、時にはその子の人生を大きく左右してしまうケースもあります。いっぽうで、「親孝行な子」「きょうだいの仲がいい」などと言われて「支援の対象」とは認識されなかった面があります。しかし、毎日新聞取材班が取材を始めるまでは、統計さえなかったのです。

統計を目的の数字を得るために、調査票レベルから再集計してもらうオーダーメイド統計という制度があります。取材班はこれを活用して、就業構造基本調査を再集計してもらい、2017年に3万7000人の15-19歳のヤングケアラーがいる、ということをつかみ、2020年3月に報道しました。

◆知事と議会がねじれの埼玉県が先行、そして国も動き出す

取材班のねばりつよい報道の中で、国も重い腰を上げて調査に乗り出します。2021年4月に公表された調査では中2の5.7%、高2の4.1%が世話をしている家族がいる、と回答しています。これにもとづき、政府も支援策を打ちだしはじめました。(※ヤングケアラーについて

いっぽう、埼玉県では国より一歩先に調査を行いました。回収率86.5%のアンケートで高2の4.1%がヤングケアラーであることがわかりました。なお、これは、国と違って、「(疾病や障害のない)きょうだい」のケアを抜いた数字です。きょうだいのケアでも負担が過重になれば学業などに問題が出てきます。

ちなみにこの埼玉県では家族を介護する人を支援するケアラー支援条例が野党共闘推薦の大野知事に対する野党・自民党(県議会では多数派)の提案により2020年3月議会で成立しました。知事に対する独自性を見せようとする埼玉自民党の戦略ではあります。しかし、こういう議会と知事のねじれの状況だからこそ、施策が進んだということは興味深く感じました。

◆当事者の想いも多種多様 受容の上できめ細かな対応を

ここで、気をつけたいのは、当事者の想いも多種多様であるということです。埼玉県の調査でもヤングケアラー該当者の38.2%が必要な支援は「特にない」ということです。「本当に大変な人はそっとしておいてほしい」という自由記入がそれを物語っています。

大人といえば、学校の先生を筆頭に、「上から管理」してくるもの。いわゆるブラック校則などを背景にそういう認識が日本の子どもの間で強いのは当たり前です。大人を警戒してしまう気持ちもわかります。

これまで、「家族のケアを理由に遅刻・欠席しても、先生に怒られるだけだった」という人。他方できょうだいをケアすることで「えらいね」とほめられた経験が強い人。いろいろいらっしゃいます。急にいまさら「大変だ」と大人に騒がれても白けてしまう気持ちはわかります。

また、本書にもありましたが、精神疾患を持つ親族をケアしている場合は、とくに支援をもとめにくい状況があります。精神疾患は恥ずかしいことではない、という文化を根付かせていくことも大事であると痛感しました。わたしたち介護・福祉職も高齢者やおとなの障害者相手なら「受容」(まず話を聞いて受け入れる)よう叩き込まれていても、子ども相手ではついつい上から目線になってしまいがちかもしれない。

イギリスは家族を介護する人を大人も子ども関係なく支援する仕組みが充実している国です。そのイギリスでは、ヤングケアラーのイベントがあり、医療・福祉行政担当者に直接要望する場があるそうです。

まずは、話を聞いてもらいやすい環境を整えた上で、教育や医療・福祉関係者が連携しての個人にあわせたきめ細かな支援ではないでしょうか?

◆10年前以上前からケアラー支援法は筆者の公約

わたくし・さとうしゅういちは、2011年、県庁を退職してあの河井案里さんと対決するため、立候補した県議選でイギリスの介護者支援法を参考に「家族を介護する人を応援する基本条例(基本法)」制定をおそらく、広島県内の候補者でははじめて公約としました。

まず、基本法をつくり、高齢者や障害者など要介護者だけでなく、家族を介護する人も支援するような福祉サービスのあり方をつくっていく。気軽に相談しやすい仕組みをつくっていく。こうしたことを構想していましたし、今後も政府の施策の改善点の提案を中心に取り組んでいきたいと思います。

◆ケア負担を家族に過剰に抱え込ませる新自由主義の打破を

介護保険制度を担当する広島県庁マンだった時代から、ケアに対する社会的評価が低いこと、それと連動して、家族で抱え込んでしまう傾向が強いことに危機感を覚えていました。

子育てから介護まで「嫁」(現役世代女性)に全てを抱え込ませることを前提としてきたといっても過言ではありません。それと連動して、介護や保育などの労働者は「女の仕事」として低賃金に据え置かれてきました。

最近では、諸外国にくらべればまだまだとはいえ、男女平等も進んできています。また、家族の人数も減少している。そういう中で、「嫁(母親)にすべてを抱え込ませる」状況は崩れている。しかし、妻を介護する側に回った男性が悩んだあげくに妻を殺してしまう事件は当時から広島市内でも頻発しています。あるいは、母親もハードワークせざるを得ない低所得者層を中心に、子どもにしわ寄せがいく例も多くなっていると推察されます。

昔は、大手企業男性正社員世帯主を前提に嫁・妻・母親たる現役世代女性にケアをすべて抱え込ませる家族の在り方を前提に家族に過剰にケアを抱え込ませる社会の仕組みでした。そういうあり方がたちゆかなくなっていることからこの20-30年近く、目をそらし、家族に過剰に抱え込ませるような仕組みを温存してきたことが、男性介護者による妻殺害やヤングケアラー問題として噴出しているとも感じます。

なお、「大阪維新」の政治家などの中には旧来型政治への批判を装い、「日本はシルバー民主主義でけしからん! 高齢者サービスを削って若者優先を!」という趣旨の扇動で一定程度成功している方もおられます。しかし、高齢者サービスを削ることは、逆に高齢者の家族であるところの若者を追い込んでしまうのです。維新の世代間闘争に見せかけた家族への過剰なケア負担の押し付けは岸田自民党以上に危険です。

当面は、財政出動によるサービス充実、そして中長期には、コロナ災害の下でも過去最高益を出しているような超大手企業や超大金持ちの方々に適切にご負担いただくことでサービスを増強するよりないでしょう。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年1月号!

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筆者は今年も当欄であれこれと冤罪に関する記事を書いてきた。そこでこの1年を総括し、2021年の冤罪ニューストップ5を報告したい。なお、この選考は筆者個人の完全なる独断と偏見によることをあらかじめお断りしておく。

◆第5位 布川事件・桜井昌司さんが国家賠償請求訴訟で勝訴確定

29年の獄中生活を送ったのち、再審で無罪を勝ち取った布川事件の冤罪被害者・桜井昌司さんが国と茨城県を相手に起こしていた国家賠償請求訴訟は今年8月、東京高裁の控訴審で判決があり、村上正敏裁判長は国と県に連帯して約7400万円を支払うように命じた。判決では、一審判決でも認められていた警察捜査の違法性に加え、一審判決では認められなかった検察官取り調べの違法性も認定された。その後、国と県が上告しなかったため、桜井さんの勝訴が確定した。

勝訴という結果は予想通りだったが、一審判決以上に捜査の違法性が詳しく認定されたこと、体調が心配された桜井さんが無事に勝訴を確定させられたことが喜ばしいニュースだった。

◆第4位 飯塚事件で第2次再審請求

1992年に福岡県飯塚市で小1の女の子2人が殺害された「飯塚事件」で死刑判決を受け、2008年に絞首刑に処された男性・久間三千年さんについては、DNA型鑑定のミスによる冤罪の疑いを指摘する声が根強い。筆者も10年以上この事件を取材してきて、久間さんは冤罪だと確信している。

第1次再審請求は今年4月に最高裁で請求棄却が確定したが、弁護団と遺族は7月に早くも第2次再審請求を実施。この際、久間さんとは別の真犯人とみられる人物を目撃したという男性の証言を新証拠として福岡地裁に提出した。証言内容の信ぴょう性もさることながら、こういう有力な目撃証人が今になって現れるのは飯塚事件が冤罪であることが社会に浸透したことを示している。

長く取材している事件でもあり、個人的に弁護団や遺族を応援したい気持ちもあり、第4位に選んだ。

冤罪の可能性を伝える報道が続出(上段左・まいどなニュース、同右・東スポweb、下段左・日刊SPA!、同右・東洋経済ONLINE)

◆第3位 鶴見事件の高橋和利さんが獄中で死去

高橋和利さんは、1988年に横浜市鶴見区で起きた金融業者の夫婦に対する強盗殺人事件の容疑で検挙され、2006年に死刑が確定した男性だ。捜査段階に自白したものの、裁判では無罪を主張し、死刑確定後も冤罪を訴え続けていた。しかし雪冤の願いはかなわず、今年10月、収容先の東京拘置所で肺炎のために亡くなった。享年87歳。

高橋さんは、世間一般にはあまり知られていないが、専門筋の間では有名な冤罪被害者だった。2017年には日弁連が再審請求を支援する決定をしたことも話題になった。この際、真犯人の可能性がある人物が証拠から浮上したという話もあっただけに、高橋さんの死去により事件の真相が闇に葬り去られることになってしまったのも残念だ。

なお、拙編著『絶望の牢獄から無実を叫ぶ』(鹿砦社)には、高橋さんが獄中で捜査や裁判に対する批判や怒りを綴った遺稿が掲載されているので、関心がある方はご参照頂きたい。

◆第2位 米子ラブホテル支配人殺害事件の石田美実さんが3度目の控訴審で控訴を棄却される

米子ラブホテル支配人殺害事件については、当欄では何度か注目の冤罪事件として紹介した。今年11月、被告人の石田美実さんは広島高裁松江支部であった「3度目の控訴審」で控訴棄却の判決を受けたが、ここに至るまでに、(1)一審で懲役18年、(2)控訴審で逆転無罪、(3)上告審で控訴審に差戻し、(4)2度目の控訴審で一審に差戻し、(5)2度目の一審で無期懲役――という異例の経過を辿っていた。

検察官が無罪判決を不服として上訴し、そのために冤罪被害者が一度は勝ち取った無罪判決を破棄され、その後も延々と身柄を勾留されて苦しめられているという点において、検察官上訴が制度上許されている日本ならではの酷い冤罪事件だと言える。それにもかかわらず、世間的にほとんど注目されていないので、少しでもこの事件の存在を世に広めたく第2位に選んだ。

そして、いよいよ第1位だが…。

◆第1位 紀州のドン・ファン事件で冤罪説が渦巻く

2018年に和歌山県田辺市の資産家で、「紀州のドン・ファン」と呼ばれた男性(当時77)が亡くなった事件では、55歳年下の元妻・須藤早貴さん(25)が当初から疑いの目を向けられていた。そして今年4月、ついに和歌山県警が須藤さんを殺人などの容疑で逮捕した。

しかし、警察が確たる証拠を確保した様子は見受けられず、そのために早くもメディアでは冤罪の可能性をほのめかす報道が相次ぎ、あのダウンタウン松本人志氏もテレビで冤罪の疑いを示唆するような見解を示した。ひいては、現在はネット上でも冤罪説が渦巻く事態になっている。

このニュースが第1位に選ばれるとは誰も思っていなかったろうが、これは決してウケ狙いではない。このような、かつてならメディアが容疑者を犯人扱いして騒ぎ立てることが確実な事件で、逮捕当初から冤罪の可能性を疑う声が渦巻く現象は、冤罪問題に対する日本人の見識がかなり向上したことを示している。そのような理由で1位に選ばせてもらった。

冤罪の話題など存在しないほうが良いのは間違いないが、冤罪は決して無くなるものではない。来年以降も当欄で埋もれた冤罪の話題を少しでも多く取り上げたいと思う。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』(MC石井しおりさん)に出演中。近著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)。

◎片岡健のデジタル鹿砦社通信掲載記事 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=26

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宝島社新書『大阪ミナミの貧困女子』(共著=村上薫、川澄恵子、角田裕育、河住和美)は、天王寺の書店で一度手にしたことがあった。もちろん表紙に名前の出ている著者の村上薫さんを知っていたからだ。しかし、編集部男性の書いた「はじめに」を読み買う気をなくした。

「もし、大阪に行くことがあったら、この本を読んで欲しい。一生懸命生きている女の子たちが載っている。明日、あなたが会う女の子かもしれない。そんな女の子の気持ちを慮ったら、思わず愛おしくて抱きしめたくなるだろう。でも、おさわり禁止のお店では、追い出されるので、注意が必要だけど」。

その後、村上さんや同じく本書で執筆する河住和美さん、2人の仲間からもこの本の話を聞くことはなかった。「どうしてだろう?」と思っていた矢先、この裁判が始まることを知り、12月15日第一回口頭弁論を傍聴した。

◆コロナ禍の窮状につけ込んできた編集者

人民新聞の記者である村上さんは、記者活動の傍らえん罪・狭山事件や第2、第3土曜日梅田HEP前で行われる「梅田解放区」など様々な社会活動を行っている。一方、学費や生活費を稼ぐために徳島の大学生時代から水商売を経験していたことから、大阪に来てからも水商売などで働いている。活動のため、自由に時間が取りやすいからでもある。

新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言出された大阪は、吉村知事、松井市長ら大阪維新の愚策のせいで、コロナ感染死亡者数、定額給付金や時短協力金などの遅れなど、いずれも全国一位と最悪な状況だ。吉村、松井は、コロナ感染拡大の原因を『夜の街』として、キタやミナミを自粛要請の標的にしてきた。村上さんは、仲間と大阪市役所と交渉を続け、ミナミへの自粛要請を追求する一方、歯科医でミュージシャンの野瀬博之氏らとホステスさんや風俗嬢など困窮する女性たちの相談所「キュア」の運営を始めた。

村上薫さん

そんな村上さんらに「本を出さないか」と声をかけてきたのが、フリーの編集者・角田裕育(すみだ・ひろゆき)氏だ。村上さんらは、困窮する女性たちの実情を広く知ってもらい,ミナミの活性化につながればと出版に協力し、原稿を執筆した。

◆大幅に改ざんされた原稿

村上さんは、原稿を1月頭に入れていたが、1月24日、見せられた原稿は、(私も元原稿を見たが)村上さんの原稿とは別物、しかも「コロナ禍で値崩れした女性を買って応援しよう」という差別的な内容に改ざんされていた。また村上さん担当の原稿や他の原稿に、中国バッシングやセクシャルマイノリティへの差別、偏見などに基づく内容も含まれていた。

これでは、差別と闘う自分が、差別に加担することになるではないか。村上さんは「自分が書いたものではない」と宝島社に抗議。宝島社と角田氏は「2月10日発売だからもう直せない」と主張し、「このまま発行するのであれば、降りるので名前を出さないで」と訴える村上さんに「約束したではないか。(やめるなら)損害賠償1000万を要求する」と要求した。

若い女性に、1000万円請求するとは、かつて武富士がフリーランスのジャーナリストを訴えたスラップ訴訟と同じやり方ではないか。そのため村上さんは、差別的な内容を改めることで仕方なく合意、しかし、最終稿も見せられないまま、2021年2月10日、差別的な内容の本が書店に並ぶこととなった。

◆提訴へ

宝島社はその後、村上さんに対して、契約と原稿料10万円を支払うと申し出たが、村上さんは契約も10万円受け取りも断った。その後法的には「脅迫によって導かれた承諾は無効」なので取り消すとされ、脅迫によって導かれた導かれた承諾は無効となったため、ならば無断で出版したことによって被った損害、ヘイト本が出続けることで、村上さんが本の内容を肯定したようになる信用失墜行為として、絶版、謝罪、損害賠償を請求し、10月12日、大阪地裁に提訴した。

村上さんは意見陳述で提訴の理由をこう述べた。「〈1〉自分が書いた文章ではないとはいえ、夜職や女性、マイノリティを消費する差別的な本を出してしまった責任を取らねばならない。〈2〉社会的地位のない他のもの書きは軽く扱われ、同じような手法で黙らされてきたはずだ。宝島社は私のことも黙らせることが出来ると踏んだのだろう。そのような例を今後出さないよう、問題を明るみにし、物書きやフリーランスの地位の向上を社会的になげかける」。

12月15日の記者会見の様子。左から富崎弁護士、森実千秋さん(「宝島社裁判村上さんを支援する市民の会」会長)、原告の村上薫さん、野瀬博之さん(「キュア」代表)

◆40代男性が書いた原稿が「31歳女性」のものに?

本は村上薫と川澄恵子の共著となっている。執筆者プロフィールには「川澄恵子、女性ライター、31歳」とある。しかし、この川澄恵子さんが取材し原稿にした章は、実際は角田氏が取材し書いたものだ。角田氏のプロフィールは「フリーの記者、年齢40代」だ。なぜ、40代男性の角田氏が30代女性川澄を装わなければならないのか?

報告会で、取材時の角田氏が、女性に対して非常に差別的だったことが、森実千秋さんから報告された。森さんは、4章「ママたちの悲鳴」(執筆・川澄恵子)に出てくる、心斎橋でラウンジ経営する優子さんのお父様だ。森さんは、優子さんが多くのホステスさんを抱え、補助金だけではやっていけないと苦労する様子を見ていたため、角田氏の取材に協力した。

本文で、川澄恵子(角田)は、優子さんの話を熱心に聞き同情しているかのように書かれているが、取材に同席した森さんの話では「ソファに足組んでふんぞり返ってね、ホステスさんに『お姉さんらは、男好きやね』とか聞いて酷かった」という。それでも森さんは「宝島社だから」と信用し,角田氏の態度に怒る優子さんを「我慢してくれ」と宥めたという。

◆宝島社の反論

この件について、宝島社は、「川澄恵子」が書いた原稿は、角田氏が書いた原稿に不適切な内容があったため「前田直子」という女性がリライトした、だから女性が書いたものと反論してきた。何故本名の前田直子を名乗らないかについて宝島社は第一回期日で出された答弁書で「村上が人民新聞の記者なので怖くて隠した」と述べた。

これについては、ミュージシャンでもある野瀬氏が以前角田氏と「宝島社は『前田なおこ』なる女性が、角田氏の原稿をリライトしたといっている。リライトとは、ミュージシャンにとったらアレンジのようなもの。ならば執筆者はやはり角田氏だ」とのやりとりをラインで行っていたと報告した。

また宝島社は「村上さんは1章しか書いていないから共同執筆者ではない。だから本全体に責任とる必要はない」などと反論した。それはないだろう。実際、私も鹿砦社社長松岡氏も「ああ、人民新聞の村上さんが本を出したんだな」と手に取ったり購入したりしている。なお、宝島社は、一番重要な村上さんが名前の掲載を承諾した件について「脅迫ではない。きちんと適切な対応をしている」と反論してきた。

◆執筆者を精神的不調に追い込んだ角田氏

角田氏自身を訴えることはできないのか? これについて村上さんは「仲間で本に執筆している河住和美さんも酷いことをされています。河住さんは私より角田と一緒に取材する時間が長かった。角田は河住さんに対して『自分のいうことを聞け。(素人の河住さんをこれまで本を出したことがある)自分が評価してやっているんだ。従っておけ』と何ヶ月も言い続けられ精神的不調に追い込まれた。自己肯定感を下げられ、訴える気力もなくなるほど追い込まれた。それがこの本をだした宝島社のやり方なんです」と説明した。

もちろん角田氏は証人として出廷することになるだろう。角田氏の原稿をリライトした前田のりこさん30代女性ライターと共に。(ちなみに31歳前田直子はライター歴20年のベテランライターらしい)

全ての出版業者がそうだとは言わないが、少なくとも宝島社の今回の本については、弱い立場の人間を差別し、脅すなどというやり方で作ってきたことは明らかだ。私も執筆する鹿砦社は『紙の爆弾』でも『NO NUKES voice』でも、これでもかと編集部と執筆者との間で校正などの確認作業を繰り返す。確かに、森さんのように「宝島社だから……」や「大きな新聞広告を出せる出版社だから……」と、大手出版社が嘘をつくはずがないと思う人は多いだろう。

しかし、宝島社の本には、そうではない部分があるという実態を、今後裁判で明らかにしていかなくてはならない。宝島社はそもそも、この裁判も、法廷を開かず秘密裏に進めたかったようだ。しかし、15日も予想以上に多くの傍聴者が集まり、今後も堂々と傍聴者を入れ、法廷で争われることが決まった。

次回期日は、2022年2月16日(水)午前10時30分から大阪地裁807号法廷。
傍聴に集まろう!支援の輪を広げよう!
【カンパの送り先】大阪商工信用金庫 普通 店番202 口座番号0398845 相談所キュア

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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◆すべては自民党総裁選挙にかかっていた

今年の回顧(【政治編1】)で見たとおり、9月までは「自民党の総選挙敗北」「12年ぶり、三度目の政権交代」も政治日程に上っていた。ポンコツ菅政権継続であれば、である。

すべては自民党総裁選挙にかかっていた。安倍(細田派)と麻生派が支持しているかぎり、自民党は派閥の論理で政権を明け渡すはずだった。本通信ではそれを、「今後の10年を分ける」と表現してきた。

はたして、それは現実のものとなった。立民党は総得票数こそ伸ばしたものの、当選者数では激減。野党共闘を組んだ共産党も議席を減らした。そして維新の会の大躍進、わずかにれいわ新選組が3議席を獲得して大方の見方をくつがえした。

その最大の原因こそ、自民党総裁選挙であったと総括することができる。自民党は男女2人の有力候補を看板に、国民の目に焼き付けるように総裁選挙を演じきったのである。まさに国民政党とは、このような姿であると。

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◆仕掛けたのは岸田文雄だった

いや、その前に菅義偉の電撃的な退陣劇に触れておかなければならない。仕掛けたのは岸田文雄だった。まず岸田は、菅政権を実質的に支えている二階俊博の追い落としを謀った。党の執行部任期を限定しようという、至極まっとうな提案である。

これに対して、菅が対応を誤る。政局の争点にしないために、二階切りで争点潰しに出たのである。二階ははらわたが煮えくりかえる思いで、しかしこれを承諾する。ここから隠然たる菅おろしが始まった。

自民党の独自調査では、この段階で60議席を失うという結果が出ていた。単独過半数割れどころか、政権交代の目が出てしまったのだ。この岸田の妙手は、はたして彼自身の発案だっただろうか。宏池会の政治的な奥行きの深さを感じさせる政局だった。

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◆維新の政権批判に期待した国民

総選挙は「政権交代」を掲げる野党共闘に、国民の深刻な判決を言い渡すものになった。自民党批判は政権の受け皿としての立民・共産・社民には行かず、維新の政権批判に国民は期待したのである。

もっとも、この選挙結果については400人近い地方議員を抱える維新の、当然の勝利であるとの見方がつよい。ちなみに立民は地方議員774人、共産は2660、公明党が2916人、自民党は3418人である。

400人近くの維新地方議員は過重なノルマを課されながらも、伝統的なドブ板選挙をやりきるだけの体力(若さ)があるというのだ(『紙の爆弾』1月号「西谷文和の「維新一人勝ちの謎を解く」参照)。

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自民党の単独過半数確保が意味すること ── 総選挙を総括する 2021年11月2日

◆今のままの野党共闘が政権の受け皿になる可能性は、ほとんどない

この先10年を決める自民党総裁選と書いた手前、これを言うわけではない。しかし、今回の野党共闘から見えてきたのは、立憲民主党と共産党が55年体制の体質・国民の受け止め方に変わりがなかったという事実だ。とりわけ共産党においては、党首が21年も変らない現実がある。

いま、連合の新会長の芳野友子はことあるごとに「立民党は共産党と手を切れ」と演説しているという。選挙戦術としては自公も行なっていることであって、野党共闘がただちにダメだと批評する気はない。

が、日本共産党の保守的な体質はまさに、日本の諸制度に改革をもたらさない守旧派である。維新の会が改革派として自民党批判の受け皿になっているのとは好対照といえよう。この先、今のままの野党共闘が政権の受け皿になる可能性は、ほとんどないと指摘しておきたい。

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代表選挙が孕む立憲民主党の正念場 ── 党首が長年同じ日本共産党の『一党独裁』と公明党の『政教一致』は変わらないのか 2021年11月19日


◎[参考動画]「立民 共産との共闘あり得ず」芳野連合会長(テレ東BIZ 2021年11月28日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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