平壌「日本人村」から、「手紙」の執筆者は魚本さん以外でもいいのか、という相談が以前あり、もともと私はみなさんが代わるがわる書くものと考えていたと回答。このやりとりが手紙らしくなるまでまだ時間はかかりそうだが(苦笑)その後、よど号メンバー・現リーダーの小西隆裕(こにしたかひろ)さんから「デジタル鹿砦社通信 小西ラブレターです」の件名でメールが届く。彼らとの往復メールの前回・第4回のテーマは「『デジタル化』を口実に情報をアメリカに売り渡し、権力を乱用するのか」とした。今回・第5回は私から、10月31日に投開票された衆院選をテーマとしてリクエストしておいたのだ。
「コロナの中、お元気ですか。こちらは、ゼロコロナ。皆、歳の割には元気でおりますから、ご安心ください。総選挙に関する原稿を書きましたので送ります。お役に立てれば幸いです。」とのこと。役立つかどうかをあてにしているわけではないが、私が読者のプラスになるようにまとめる責務はあるだろう。たとえそれが成功しなくても許してほしい。
大同江(だいどうこう/テドンガン)を背景に、平壌「日本人村」事務所のベランダに立つ小西隆裕さん。遠くに対岸の農場が遠望できる。今週は暖かいそうで、雪はなし。このベランダからは夜間、満天の星を楽しめる。
◆「先の総選挙、野党惨敗の根因を問う」 小西隆裕
「この国の民はどうしてこうなのか」。先の総選挙結果に接しながら、こうした思いが頭をかすめた識者は少なくなかったのではないか。
しかし、「民」としては、そう言われても立つ瀬がないのではないかと思う。何しろ各党が言っているのを聴いても、皆同じようで、どこを選んでよいか分からなかったのだから。実際、玄界灘を超えた彼方から見ても、与野党どこも、代わり映えがしなかった。
政権交代を目指すのなら、与党との対決点が明確なその目的がはっきりと示されなければならなかったのではないか。
ところが、それがどうも見えてこない。これでは、野党候補を一本化しても、数合わせのための野合だという誹謗中傷が正当性を持ってしまう。
どんなに主義、理念が違っても目的が一致しているなら、いくらでも共闘できる。そのような誰もが納得する政権交代の目的を打ち出し、それを与党との闘いの争点にすることができなかったことに最大の問題があったのではないだろうか。
なぜそうすることができなかったのか。それはそれだけ、彼ら野党が国民の生活と運命に切実でなかったからだと言わざるを得ない。
もし彼らがそれに切実で、国民と一体になっていたなら、それを反映する政権交代の目的を野党共闘の統一した政策として提示することができていたに違いない。
自らの足腰を強くする前に、何よりもまず、国民の意思と要求を反映した路線と政策を政権交代に向けた野党連合統一の目的として掲げるために、野党はもっと国民大衆の中に深く入ることが問われているのではないだろうか。
それともう1つ、日本において国民の生活と運命に切実であろうとするなら、与党自民党政権の背後にいてそれを動かしている米国の動きにも無関心ではいられないはずだ。しかし、それがよく見えてこない。政権交代の目的にもそれが全く反映されていない。
メディアなどの宣伝によって国民の意識から「米国」が消されてしまっている中、この「タブー」に野党が挑戦しないのは、正しい判断なのか。
国民の意識にないからこそ、野党は米国が今、その最前線に日本を押し立ててきている「米中新冷戦」が「日米新時代」のかけ声とともに、日本を米国に吸収統合しようとしてきている事実などに基づき、岸田政権がまさにそれを遂行する「新冷戦体制」づくりのための政権であることなどを明らかにしながら、それに反対する闘いの路線と政策を掲げていくべきだったのではないだろうか。
国民は、広くこのことの本質を受け止め、賛同してくれるのではないだろうか。
私は、この辺りに先の総選挙、野党惨敗の根因を見ているのですがどうでしょうか。
◆次の選挙に向け、どうすればよいのかを一緒に考えよう
前回の結びに対するお返事は特にないようだが、改行が多い(笑)。
さて、5野党一本化の勝率は28%とのこと。選挙制度の問題はあれど、芳しい結果とは言い難い。争点については、岸田が首相となってさらに見えにくくなり、野党共闘側の各党の先鋭的な主張が目立つようになったかもしれない。今日までに私は、やはり地域の仲間などと選挙について意見を交わした。小西さんも触れていることに関連するが、「アンチを唱えて希望がない。50年後、100年後の未来を担う心づもりが感じられない。未来像が見えてこない」。これが最も大きな問題ではないか。
権力をもつ与党をチェックすること、アンチを唱えることは野党の仕事で、必ずしも対案を出す必要はない。だが、選挙では、どのような社会をつくるのかを伝える必要がある。そうでなければ、政治を托す相手を選べない。また現在、失われた年月が増大するばかりで、先が見えず、また新型コロナウイルスの影響もあって失業や自殺が重なっている。先日、久方ぶりに東京に行ったら、野宿の方々のスーツケース所持率の高さ、そして若年層への拡大が目に入った。支援グループへの相談も増えていると聞く。
そのようななか、唯一、未来の希望を語り続け、議席を増やしたのは、やはりれいわ新選組だった。山本太郎代表は、「衆院選挙で3議席を獲得。永田町や物知り顔の評論家から、1議席も難しいと言われていたことを考えると、躍進です。この結果はいうまでもなく、これまで何があっても見放さず、コツコツとれいわを支援くださった皆さんのお力です。100%市民の力で作られた政党が、ステージを上げました。しっかりと地獄を是正する活動を国会内外で繰り広げます。」と公式サイトに記す。
れいわの支援者の中にも、共闘を疑問視する声がある。特に、「消費税ゼロ」を掲げるれいわが共闘によって「減税」にトーンダウンしたことにより、アピールが弱まったという意見が多い。
また結局、立憲民主党は共産と距離をおくことを強調し、11月末に就任した泉健太代表は「政策立案政党」「人に温かい資本主義」「人にやさしい持続可能な資本主義」「穏健中道路線」を訴えている。だが、個人的には、候補者をおろして共闘した共産党に対して失礼でもあり、また結局は「資本主義」のさらなる推進を掲げるなら、もはや立民の存在意義はかなり危うくなるものと思われる。提案内容についても全体的にピンと来ないので、ここで改めて取り上げることはしない。もはや本来的には、自民・国民・立民は左・右・中に分かれて3つに整理し直してほしいくらいだ。と考えていたら、すでに分裂の声もあるらしい。労働者同士を争わせるように仕向ける竹中平蔵は、ベーシックインカム論ですら民営化と自己のビジネスを想定していると思われる。表面的な政策でなく、根本的なもの、方向性を私たちは見定めねばならない。
若者が自民党に投票していることが次第に明らかとなり、また日本維新の会が票を集めた。これらも、自らや周囲の現状が酷すぎないと思い込み、前向きで力強いメッセージを伝えてくれていると感じさせるに足るメディア露出などに支えられ、できあがったものだろう。マスコミ、政治家、野党支持者、1人ひとりが考え直し、取り組みを改める必要がある。
本来は現場から政治家をあげていくのがいいかもしれないが、現実的にはなかなか難しい。まずは各党の1つひとつの選択について意見を明確に発し、来年の参院選に向かって私たちも動きを明確にしていく必要があるだろう。個人的には共闘よりも、やはり総合的にかなり指示できる政党を、もっとしっかり応援しなければいけないなと思う。なかなか何か起こればぶれてしまう。それにはまず、近くの仲間との意見交換を継続することが重要ではないかと考えている。
ところで月刊誌『紙の爆弾』202年1月号に、「野党共闘の成果と課題 岸田文雄『長老忖度政権』と闘う方法」をテーマとして横田一さんが寄稿していらっしゃる。野党共闘の成果もきちんと評価されているので、ご一読を。
連合の中を垣間見た立場からは、民主党系がそこを票田としてあてにするうちはいろいろなことが困難であろうと考える。50年後、100年後を見据えたうえで現在、何をなすべきかを、政治家の方々にも示してほしいと思ってしまう。
◎[連載リンク]平壌からの手紙 LOVE LETTER FROM PYONGYANG
▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター、編集者。労働・女性・オルタナティブ・環境 アクティビスト。月刊誌『紙の爆弾』202年1月号に、「請求棄却で固有種絶滅の危機 森林伐採問う 沖縄『やんばる訴訟』」寄稿。