◆すべては自民党総裁選挙にかかっていた
今年の回顧(【政治編1】)で見たとおり、9月までは「自民党の総選挙敗北」「12年ぶり、三度目の政権交代」も政治日程に上っていた。ポンコツ菅政権継続であれば、である。
すべては自民党総裁選挙にかかっていた。安倍(細田派)と麻生派が支持しているかぎり、自民党は派閥の論理で政権を明け渡すはずだった。本通信ではそれを、「今後の10年を分ける」と表現してきた。
はたして、それは現実のものとなった。立民党は総得票数こそ伸ばしたものの、当選者数では激減。野党共闘を組んだ共産党も議席を減らした。そして維新の会の大躍進、わずかにれいわ新選組が3議席を獲得して大方の見方をくつがえした。
その最大の原因こそ、自民党総裁選挙であったと総括することができる。自民党は男女2人の有力候補を看板に、国民の目に焼き付けるように総裁選挙を演じきったのである。まさに国民政党とは、このような姿であると。
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◆仕掛けたのは岸田文雄だった
いや、その前に菅義偉の電撃的な退陣劇に触れておかなければならない。仕掛けたのは岸田文雄だった。まず岸田は、菅政権を実質的に支えている二階俊博の追い落としを謀った。党の執行部任期を限定しようという、至極まっとうな提案である。
これに対して、菅が対応を誤る。政局の争点にしないために、二階切りで争点潰しに出たのである。二階ははらわたが煮えくりかえる思いで、しかしこれを承諾する。ここから隠然たる菅おろしが始まった。
自民党の独自調査では、この段階で60議席を失うという結果が出ていた。単独過半数割れどころか、政権交代の目が出てしまったのだ。この岸田の妙手は、はたして彼自身の発案だっただろうか。宏池会の政治的な奥行きの深さを感じさせる政局だった。
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◆維新の政権批判に期待した国民
総選挙は「政権交代」を掲げる野党共闘に、国民の深刻な判決を言い渡すものになった。自民党批判は政権の受け皿としての立民・共産・社民には行かず、維新の政権批判に国民は期待したのである。
もっとも、この選挙結果については400人近い地方議員を抱える維新の、当然の勝利であるとの見方がつよい。ちなみに立民は地方議員774人、共産は2660、公明党が2916人、自民党は3418人である。
400人近くの維新地方議員は過重なノルマを課されながらも、伝統的なドブ板選挙をやりきるだけの体力(若さ)があるというのだ(『紙の爆弾』1月号「西谷文和の「維新一人勝ちの謎を解く」参照)。
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◆今のままの野党共闘が政権の受け皿になる可能性は、ほとんどない
この先10年を決める自民党総裁選と書いた手前、これを言うわけではない。しかし、今回の野党共闘から見えてきたのは、立憲民主党と共産党が55年体制の体質・国民の受け止め方に変わりがなかったという事実だ。とりわけ共産党においては、党首が21年も変らない現実がある。
いま、連合の新会長の芳野友子はことあるごとに「立民党は共産党と手を切れ」と演説しているという。選挙戦術としては自公も行なっていることであって、野党共闘がただちにダメだと批評する気はない。
が、日本共産党の保守的な体質はまさに、日本の諸制度に改革をもたらさない守旧派である。維新の会が改革派として自民党批判の受け皿になっているのとは好対照といえよう。この先、今のままの野党共闘が政権の受け皿になる可能性は、ほとんどないと指摘しておきたい。
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▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。