1月27日、3・11の原発事故時、6歳から16才、現在17才から27才になった男女6人が、原発事故に伴う被ばくで小児性甲状腺がんを発症したとして、東電に損害賠償を求めて提訴した。
16時から衆議院第一会館で支援集会が行われ、声を上げにくい状況のなか、訴えを起こした勇気ある6人の原告を応援しようと大勢の支援者らが集まった。
まずは、弁護団長・井戸謙一弁護士が説明された訴状の概略を紹介する。
原告は6名は今現在17歳から27才、いずれも当時福島県に住んでいた。中通りが4人,会津が1人、浜通りが1人で、甲状腺がんが発見され、全員摘出手術をうけている。最初は半分摘出、うち4名が再発し、全摘になった。全摘するとRAI治療(大量内用療法)をしなくてはならない。甲状腺組織が取り切れてないと、残った甲状腺組織ががん化し、甲状腺組織を全部潰してしまうため、病気の原因となった放射性ヨウ素をもう一度カプセルに詰め込んで自分の身体に入れる治療法だ。自身の中で放射性物質を発射するような状態に一時期おかれるという、大変過酷な治療を、既に3人が行っており、もう一人は近くそれを行う予定。それ以外に1人の原告は再発を繰り返し、既に4回手術を受け、近くにもう一度手術を受けないといけないかもしれない。肺に転移しているのではないかといわれている原告もいる。みんな、元気な子どもだったが、現在は再発の不安に怯え生活をしている。甲状腺がんに罹って以来、人生が変わってしまった。進学、就職についてすでに具体的な支障がでている。
福島では小児性甲状腺がんの原因が被ばくだと思っていても、それを口にできない、言うと風評加害者だとバッシングされるので、6人も肩をひそめるように生きてきた。しかし、この問題をはっきりさせないと、人生の次のステップに進むことができないという気持ちを徐々に固め、今回提訴という決断に至った。提訴すと、今まで以上にいろんなところから攻撃を受ける可能性があるが、それでもやりたいと決意した。なぜかというと、これからの生活に不安がある。就職も十分できるかわからない。今の職場がいつまで続けれるかわからない。医療費は、当面は福島のサポート事業で無料だが、今後どうなるかわからない。医療保険に入れないため、将来の医療費を確保できない。そのために経済的補償をしてほしいという思いがある。更にそうした理由を超えて、今わかっているだけで293人いる、同じように苦しむ福島の甲状腺がんになっている子どもたちの希望になるだろうとことを期待し、同じように闘ってほしいという思いもある。もう1つは、自分たちは被ばくしたのだから、原爆被爆者のように手帳を受け取って、生涯医療費、各種手当でサポートする、そぅいう制度に繋げたい、この裁判を提訴することで、最終的に勝つだけではなく、そういう制度に繋げたいとの思いもある。
国や福島県は、被ばくと甲状腺がんの因果関係を認めてないなかで、裁判に勝てるのかというご意見の方もいらっしゃるが、十分勝てると考えている。100万人に1、2人だったはずの小児性甲状腺がん患者が、事故後の11年間で福島県の30数万人の子どもから300人近く出ている。多発していることは、国や県も認めざるをえない。その原因は何か? 甲状腺がんの第一の原因は、放射線被ばくだとどの本にも書いてあるし、原告の6人は、確かに被ばくをしたのだから、特別な事情がない限り、原因は被ばくだろうと判断すべきだ。被告・東電がそうでないというならば、何が原因か立証しろ、立証できないなら、被ばくが原因だと判断すべきだと考えているし、それは裁判で十分通用すると考えている。
もう1つ、東電は「過剰診断論」を主張するだろうが、これも十分勝てると考えている。これは、実際に執刀した医師は、甲状腺がんについては過剰診断がありうるということを十分注意し、そのうえで手術の条件がそろったとして手術しているのであり、必要もないのに手術しているわけではない。そのことは、手術した医師が明言していることで、過剰診断論者の言っていることは抽象的な空論を言っているにすぎないと考えている。
あれだけの事故が起こって人的被害がないはずがない。チェルノブイリ原発事故では小児甲状腺がんは数千人でているが、それ以外にどれだけの人が、被ばくによって亡くなったか。IAEAの一番少ない見積りでも4000人だ。福島の事故はチェルノブイリ事故より小さく、規模が7分の1と言われるが、仮にそうだとしても相当数の死者も含めた健康被害が出て当然だ。そうであれば、国はちゃんと調査して、因果関係のある疾病に費えは補償する体制を作ることが、民主主義国家として当然の在り方だと思う。国は、小児性甲状腺がん以外は調べないし、小児性甲状腺がんが多発してもいろんな理屈をつけて因果関係を否定しようとする。この国の在り方自体を変えてゆくきっかけになるような裁判にしていきたい。原告の人たちは非常に重い決断をされた。今後の裁判でいろんな紆余曲折があると思うし、つらい場面なども出てくると思いますが、攻撃する人がいても、それの何十倍、何百倍の人たちが支援していてくれると思えば、頑張ってやっていけると思う。ぜひみなさんの強力なご支援をお願いしたい。
弁護団副団長の海渡弁護士から「甲状腺がんは非常に軽いものではない」ということで、原告の皆さんからお聞きして胸が痛くなったという、「穿刺細胞珍」(せんしさいぼうしん)という、麻酔なしに細い注射針を喉に刺して直接細胞を吸い出し両性か悪性かを判断する検査方法が紹介された。
原告のお母さんは「(提訴まで)11年かかりました。辛い思い出もありましたが、やらないで後悔するより、やって勝訴したいという思いが強くなってきました」と語られた。
「子どもたちの夢を奪う過酷事故を起こしてしまったという思いで、何としても勝ち取る決意である」という、あらかぶさん裁判を支援する石丸小四郎さん、甲状腺がん支援グループ「あじさいの会」のちばちかこさん、子ども脱被ばく裁判原告団長の今野寿美男さんら、福島で闘う人たちからも熱い連帯アピールが行われた。
原告のメッセージを紹介する。
「今まで甲状腺がんに罹っていたことを誰にもいえず苦しんできました。原発事故はまだ終わっておらず、被害者である私たちがいきていく以上続きます。この裁判をきっかけに世の中が少しでもよくなることを願っています」(ゆうた)。
「私は再発を含む手術を4回、アイソトープ治療を1回、計5回の手術及び入院を経験しました。この裁判を通して自身が疾患した甲状腺がんと、福島原発事故の因果関係を明確にし、同じような境遇で将来の生活に不安を抱える人たちの救いのきっかけになることを願っています」(るい)。
クラウドファンディングが始まっています。
▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58