◆シバター問題

昨年大晦日のRIZINにおいてのシバターvs久保優太戦で、第1ラウンド1分34秒、腕十字で一本勝ちしたシバター。その後、両者の対戦前のLINEのやりとりで、シバターから持ち掛けられた交渉事が後に大騒動に発展。

新人の頃の久保優太(2007.1.28)

シバターは、タレントユーチューバーの女性知人にラウンドガールを頼んでいる関係上、第1ラウンド終了後のラウンドガールでの出番を考え、「第1ラウンド目は軽く流して第2ラウンド目は本気で行こう」といった提案をしたとされ、段取りを破って第1ラウンドで勝負をつけてしまった。その後、事の成り行きが問題視された流れになっています。

キックボクシング関係者においては、この試合を格闘競技とは見ていない意見が多い中、多くのスポーツ競技においては、注意喚起はしておきたい試合前のコミュニケーションの在り方です。

対戦予定当人同士で連絡取り合うことはメリット・デメリットが生じることは当然で、起こり得るあらゆる事態は想定しておかねばならない問題でしょう。

◆拭いきれない闇

対戦前にSNSでのコミュニケーションで起こり得るのは、激励し合って士気を高めることも出来れば、罵り合いになって不愉快な思いをさせられるとメンタルが崩されることも考えられます。これが作戦だったりもします。

逆に情が移る場合。「八百長は無くても人情相撲は起こり得る」という、以前ニュース番組で語った大相撲の舞の海さん。取組み相手が古き仲で、その相手が十両陥落危機の中、仕切り中に相手家族と子供の顔が浮かぶと感情が揺らぐ場合があるといいます。大相撲は厳しい勝負ながら毎場所顔を合わせる対戦多く、起こり得る感情かもしれませんが、他競技においても前もって相手の苦しい境地を知ると情が移ってしまう場合もあるでしょう。

厄介なのは、何らかの事情で公開することによって、世間から見れば八百長が疑われること。意図は無くても可能性があるだけで疑惑が湧き、拭いきれない闇の深さに嵌まります。いずれも対戦前においては必要無いコミュニケーションでしょう。

イベント前の記者会見も増えた現在、対戦相手と対面、意気込みを語る風景(2019.2.23)

◆全てがライバル

一家に一台、昭和の固定電話時代は、マッチメイク契約成立した対戦者同士が偶然会うことはあっても電話で連絡することは殆ど考えられない時代でした。

昭和のキックボクサーで元・全日本ライト級チャンピオン、斎藤京二氏の現役時代は、「いつ対戦することになるか分からない相手と話なんか出来るか!」と堅実な考えで、他のジム全ての選手に対し、普段から交流など全くしなかったといいます。それは多くの選手が同様で、会場・控室などは殺伐とした雰囲気。ジュニア(スーパー)階級の無い時代で、一階級違ってもマッチメイクされれば否応なしに全て受けた時代。フライ級でも身体が成長して階級上げてくる選手も居れば、ミドル級から落としてくる選手の可能性もあり、全てがライバルという関係でした。

今時の若い選手同士は昔のような殺伐とした関係はなく、対戦の可能性があってもLINE交換する者も増えた様子で、友情対決も昔よりは多い傾向です。通常は無い同門対決もプロボクシングでは新人王トーナメント戦やチャンピオンと1位の関係が続けば対戦が起こり得ます。キックボクシングでも同様の中、対戦相手と事前に会ったり連絡を取り合ってはならないというルールは無くても、試合終了までがスポーツマンシップに則った行動を大方の選手は心掛けているでしょう。

試合後は健闘を称え合うスポーツマンシップ(2022.1.9)

勝ってマイクを握る勝次、今時の勝者の特権(2021.4.11)

◆言いたいことは勝ってから

最近はイベントアピールの為、公開計量や記者会見も増えています。

インタビューで相手の印象を応えるよう煽っても舌戦に繋がることは少なく、試合で勝ってから言いたいこと言うのが近年の傾向です。

リング上では勝者が自らマイクを要求するようになったのは平成初期頃からで、アピールする内容もチャンピオンといった団体トップを目指しつつも、流行りに乗った大型イベント出場志向へ変わってきた令和時代になりました。

固定電話から携帯電話へ、更にアプリケーション豊富なスマホが普及し、キックボクサーも後援会との交流や、チケット売るにもSNSが重宝するようです。

個人同士のコミュニティーを容易に構築できるSNSなどは今後の現役生活で便利なばかりではない時代。選手生活で有意義に使われることを願っていきたいものです。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」