◆直接情報が一番の頼り

ロシアがウクライナに軍事侵略を開始して20日以上が経過した。紛争発生時に、自称「国際学者」や「軍事評論家」が言いたいことを無責任に言い放つ様子にはもう飽きた。なぜならば、短・中期的な分析ですら未知の情報を提示してくれる識者は極めて稀だからだ。

そして、ゼレンスキーウクライナ大統領が大手メディアでは英雄扱いされ、日本からも「志願兵」に70名余りの応募があったと在日ウクライナ大使は明らかにした。ゼレンスキー大統領は日本時間の3月16日にはカナダ、米国の国会でリモート演説を行い、日本でも今週、同様のリモート演説の実施に向けて、自民党と立憲民主党が前向きに協議中だと報じられている。私はバイアスのかかったニュースではなく、なるべく情報源に近づき、自らの判断を下そうと試みる。例えばウクライナ政府機関の発信や、ロシア政府の発信などである。中間にメディアが介在すると、いらぬ解釈が加えられるのでそれらは参考程度にしか利用しない。

ゼレンスキー大統領はFacebookとTwitterを利用しながら、かなり頻繁に発信を続けている。そしてキエフやその他のウクライナ国内在住のかたがたも、かなりの数動画を発信している。それらを総合して私は今なにができるのか、なにを考えるべきなのかを模索する。

◆誰がプーチンを擁護して、育てたのか

理由はどうあれ「侵略戦争」には反射的に嫌悪を抱く私は、ロシアの軍事侵略をやはり許すことはできない。そして20年以上実質上独裁者の座にあるウラジーミル・プーチンを支援してきた日本外交や、政治家の名前をしっかりと思いだし、彼らの言動を注視することは無駄ではないだろう。

日本外交の対ロシア最大の課題は「北方領土返還」らしい。私は本気で北方領土返還を実現したいのであれば、ソ連崩壊後独立国家共同体と名乗っていた間隙に机の下で数兆円を渡せば4島返還の可能性はあったと考え、20年以上そのように発信してきた。だが、この期に及んで「北方領土」などにロシアが関心を払わないことは、誰の目にもあきらかであろう。

米国のベトナム、アフガニスタン、イラク侵略に匹敵する、このような惨事を招致するに至った独裁者に世界でも有数の待遇で接していた、この国のかつての最高権力者がいる。安倍晋三だ。安倍は首相在任中あるいは官房長官など在任中にいったい何回プーチンと面会したことであろうか。首相在任期間中には27回と言われているが、非公式な面会を含めた回数は公開されていない。ロシア訪問の際は必ず経済援助の土産を下げて出かけて行き、2016年プーチンが来日した際には安倍の地元、山口県の高級旅館にまで招いて厚遇した。

◆安倍晋三の犯罪性を注視せよ

そして日本は何を獲得したのか? いま安倍は何を発言しているのか。「プーチンと仲の良い安倍にロシアへ行かせて停戦のために働かせろ」との声は政府内外にある。しかし、安倍がそんな役割を担えるような人間ではないことを、首相岸田も外相岸も熟知している。なにより仲良しであるはずのプーチンが核兵器の使用可能性に言及したとたんに、日本の「非核三原則の見直し」と「核シェアリング」(核兵器の共有、あるいは共同利用)との暴論を平気で発言し、岸田を慌てさせた。要するに安倍晋三によって日本はプーチン独裁を確固とさせる栄養を与えてしまい、にもかかわらず安倍にはその認識がまったくないということに、あらためて注目すべきだろう。

◆核兵器は使えない、原発も「地元核兵器」だ

そして私同様に「侵略戦争反対」の立場の人が、ウクライナを支援する気持ちは理解できるものの、それが即「憲法9条改正論」や安倍が唱える程度の「核兵器容認論」にまで結びつくのは、短絡の極みである。

今次のロシアによるウクライナ侵略により明らかになったことは、「核兵器」は実際には使用できない兵器であることと(一度核兵器が使われれば、攻撃の応酬で人類はおそらく破滅近くのダメージを受ける)だ。国連事務総長までが「核戦争の可能性」を憂慮する事態は「何者かが意図的であろうと、ミスであろうと核兵器を使用してしまえば、人類はもうあらゆるコントロールを失い破滅に向かう」ことへの世界的な恐怖に依拠している。

原発の危険性も同様だ。ロシアが侵略直後にチェルノブイリ原発を支配し、その後も主要な原発に手を伸ばしているのは、電力の首根っこを押さえるのではなく「地元の核兵器」を支配下に置くことが目的である。

◆好戦派への警告ゼレンスキ―大統領の言葉

このような状況下、総論ロシアの暴挙は米国によるベトナム侵略戦、アフガニスタン侵略、イラク侵略同様に非難されるのが道理だ。だがここでちょっといきりたち過ぎた日本国内の「好戦派」には警告を発しておこう。私の見解ではなく、米国議会でリモート演説を行いスタンディングオベーションで称賛を受けた、ゼレンスキー大統領の言葉だ。

「真珠湾攻撃を思い出して下さい。9・11を思い出してください」

9・11の実行者はともかく、真珠湾攻撃の当事者は誰でも知っている。日本だ。第二次大戦後の世界の枠組みで東西冷戦構造は崩れても、敗戦国である日本へのまなざしには変化がないことを、ゼレンスキー大統領は明言した。この言葉の含意は重い。どう答えるのだ。安倍晋三とその支持者よ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

2022年、新日本キックボクシング協会の闘い始め、激闘にはなったが、勝次は先へ進めない苦難が続く。

重森陽太は珍しくやや攻められる展開を見せながら、蹴りの鋭さで圧倒の展開。

リカルド・ブラボもパンチ、飛び技で他団体チャンピオンに圧倒の勝利。

高橋亨汰は試合毎にアグレッシブな展開が増す成長を見せるTKO勝利。

主力メンバーに定着してきた瀬川琉は安定した試合運びで僅差ながら判定勝利。

◎MAGNUM.55 / 3月13日(日)後楽園ホール17:30~20:03
主催:伊原プロモーション / 認定:新日本キックボクシング協会

◆第12試合 63.6kg契約3回戦

勝次(藤本/ 63.55kg)vs 般若HASHIMOTO(クロスポイント吉祥寺/ 63.15kg)
引分け0-0
主審:少白竜 / 副審:宮沢29-29. 仲29-29. 桜井29-29

勝次はWKBA世界スーパーライト級チャンピオンとしての苦戦が続く。般若は元・グラディエーター武士道キック・フェザー級チャンピオンの経歴を持つが、アグレッシブな試合運びは見応えある展開を見せる選手。

勝次は序盤、蹴りでややペースを掴むが、第2ラウンドには般若のパンチラッシュでロープ際からコーナーに追い詰められる。クリーンヒットは免れたが攻め続けられては印象が悪い。勝次はピンチを脱し打ち返し、飛びヒザ蹴りも見せるが強引さでタイミングが合わない。

ロープに詰められ猛攻を受けてしまう勝次。その状態が長いと印象は悪い

何とか巻き返し、蹴りでは優っていた勝次

第3ラウンド、勝ちたい意識が表れる両者が打って出る一進一退が続く。終盤に勝次のパンチヒットで般若がロープに詰まったところでラッシュをかける勝次。これがどういう印象を与えて採点に影響するか際どい中、おそらく多くの観戦者の予想が当たるように引分けに落ち着く。

ジャッジ三者が揃ったのは般若に与えた第2ラウンドだけだったが、採点の振り方も難しさが窺えた展開だった。

引分け続きの勝次は晴れない表情

◆第11試合 62.5kg契約3回戦

重森陽太(伊原稲城/ 62.4kg)vs 大谷翔司(スクランブル渋谷/ 62.5kg)
勝者:重森陽太 / 判定2-0
主審:椎名利一 / 副審:少白竜29-29. 仲29-28. 桜井30-29

重森陽太はWKBA世界ライト級チャンピオンとして安定感ある試合を続ける。JKイノベーション・ライト級チャンピオンの大谷翔司もここ2連勝で勢いがある選手。
第1ラウンド、大谷翔司がローキック中心に攻める。蹴り返す重森陽太の蹴りが鋭く大谷の脇を赤く染める。

第2ラウンド、重森のヒザも含めて強い蹴りが優っていき、リズムを掴む。大谷はパンチ連打で出るとやや圧されてしまった重森だが、すぐの立て直しで劣勢には至らない。

第3ラウンド、重森の前蹴りが何度か大谷を吹っ飛ばすほどの勢いでボディーをヒット。ヒジ打ちもヒットさせた重森が僅差ながら判定勝利。

重森陽太も蹴るパワーがあり、ヒザ蹴りで大谷翔司を攻める

重森の前蹴りは強く鋭く、大谷のバランスを崩し転ばす勢いがあった

◆第10試合 72.0kg契約3回戦

日本ウェルター級チャンピオン.リカルド・ブラボ(伊原/アルゼンチン/ 71.7kg)
      vs
WBCムエタイ日本スーパーウェルター級チャンピオン.匡志YAMATO(大和/ 71.65kg)
勝者:リカルド・ブラボ / TKO 1R 1:26 / 主審:宮沢誠  

開始間もなく、リカルド・ブラボの右ストレートでの匡志があっさりノックダウン。ここから全くのリカルドのペース。パンチやヒザ蹴りで匡志を追い、赤コーナー側に詰めてパンチでノックダウンを奪い、飛びヒザ蹴りで押し込んでからのパンチ連打で3ノックダウン目となって圧勝のリカルド・ブラボとなった。

とびヒザ蹴りも見せたリカルド・ブラボ、勢いに乗った存在である

◆第9試合 62.5kg契約3回戦

日本ライト級チャンピオン.高橋亨汰(伊原/ 62.45kg)
      vs
NJKFスーパーフェザー級1位.HIRO YAMATO(大和/ 62.15kg)
勝者:高橋亨汰 / TKO 3R 0:40 / 主審:仲俊光

第1ラウンド、パンチから蹴りの勢いでHIROを圧倒した高橋。コーナーに詰めてのパンチ連打で倒すかに見えたが、HIROは凌いで脱出。

第2ラウンド、左ヒジ打ちでノックダウンを奪った高橋。更に飛び前蹴りでノックダウンを奪い、攻勢を続けるが仕留めるに至らず、HIROも険しい表情を見せながら抵抗を続ける。

第3ラウンドも諦めないHIROは蹴ってくるが、ヒジ打ち合わせた高橋。額を大きく切ったHIROはドクターの勧告を受け入れレフェリーストップとなった。

飛び前蹴りでHIROを吹っ飛ばした高橋亨汰

◆第8試合 58.0kg契約3回戦

瀬川琉(伊原稲城/ 57.85kg)vs 祐輝(OU-BU/ 57.5kg)
勝者:瀬川琉 / 判定3-0
主審:桜井一秀 / 副審:椎名29-28. 宮沢30-29. 仲30-29

瀬川は落ち着いた攻めで相手の打ち終わりへのローキックなどが上手い。やや相手を勢い付かせてしまうが、主導権を奪った展開で僅差ながら判定勝利を掴む。

攻めるタイミングが上手かった瀬川琉、的確なヒットを見せた

◆第7試合 59.0kg契約3回戦

仁琉丸(富山ウルブズスクワット/ 58.35kg)vs 大木一真(ワイルドシーサー那覇/ 57.75kg)
勝者:大木一真 / TKO 1R 0:34 / 主審:少白竜

展開は早く、大木一真がロープ際でパンチヒットさせ、仁琉丸は脚をふら付かせながら立ち上がるもレフェリーがカウント中にストップして大木がTKO勝利。

速攻のパンチで仁琉丸を倒した大木一真

◆第6試合 女子(ミネルヴァ)53.0kg契約3回戦(2分制)

アリス(伊原/ 52.5kg)vs NA☆NA(エス/ 52.9kg)
勝者:NA☆NA / 判定0-3 (27-30. 28-30. 28-30)

勢いが無いアリス。自分の距離になると蹴りは強く出るが、NANAは簡単に体勢を変えてパンチ蹴りで圧倒し、NANAが大差と言える判定勝利。

元気無い展開で連敗となったアリス、攻めの柔軟性はNA☆NAが優っていた

◆第5試合 83.0kg契約3回戦

竜矢(伊原稲城/ 82.9kg)vs 中川達彦(無所属/80.45kg)
勝者:竜矢 / TKO 3R 2:29 / 主審:宮沢誠

初回1分足らずで竜矢の右ハイキックで中川達彦がノックダウン。バランス崩しスタミナ消耗が激しい中川は苦しい体勢が続き、最終ラウンドもガードが空き気味の顔面にまたも竜矢の右ハイキックを貰って倒れこむと、ほぼノーカウントでレフェリーが止めるTKOとなった。

◆第4試合 フェザー級2回戦

木下竜輔(伊原/ 56.9kg)vs 颯也(新興ムエタイ/ 56.6kg)
勝者:木下竜輔 / TKO 1R 2:42 / カウント中のレフェリーストップ

◆第3試合 ウェルター級2回戦

大場一翔(伊原/ 66.35kg)vs 小林亜維二(新興ムエタイ/ 66.6kg)
負傷判定引分け0-0 (10-10. 10-10.10-10) / テクニカルデジション 1R 1:12
小林亜維二の故意ではない股間ローブローにより大場一翔が試合続行不可能

◆第2試合 アマチュア女子32.0kg契約2回戦(1R=90秒制)

西田永愛(伊原)vs 渡邊明莉(VALLELY KICK BOXING TEAM)
勝者:西田永愛 / 判定3-0 (20-19. 20-19. 20-19)  

◆第1試合 アマチュア女子49.0kg契約2回戦(2分制)

星野姫歌(レジェンド)vs 安黒珠璃(闘神塾)
勝者:安黒珠璃 / 判定0-3 (18-20. 18-20. 18-20)

《取材戦記》

勝次が勝てないのはなぜか。今回はヒジ打ち禁止ルールだったことや、ここ暫くは3回戦制が影響しているかもしれません。いつも焦って前に行き過ぎてタイミングがズレ、もっと蹴り中心に組み立てれば自分の距離感も保てそうで、5回戦で戦えば様子見の展開が活きてくる気がします。

勝負は勝ちか負けか引分けの結果は残りますが、チャンピオンはその責任を負う立場として、野口修氏の遺産となるWKBAの世界チャンピオンとして日本人相手に互角の展開ではマズいでしょう。

重森陽太も意外に攻められたシーンがありましたが、いつもながら突き放す前蹴りに鋭さがありました。昨年暮れにシュートボクシングでジャーマンスープレックスで投げられたマイナスポイントで判定負けしているようですが、経歴にも心理的にも影響は無いでしょう。

伊原信一代表が元気に戻って来ました。昨年秋に軽い脳梗塞に罹り、10月のTITANS NEOS興行は欠席。だが当時の前日計量での病院から選手に贈るスピーカーフォンの声は以前と同じ響き。後の退院後もミット持ちへも復帰した様子で、勝次も蹴っていた様子です。

コロナの影響で外国人選手を招聘出来ない事情はありましたが、今後、主力メンバーのWKBA世界戦も計画している様子です。

新日本キックボクシング協会次回興行は5月15日(日)、後楽園ホールに於いて開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

「作業の過程で事故が起きてしまうことと、汚染水海洋放出の是非は別問題でしょう。本質的に全く別の問題を並べ比べて、陸上でのタンク保管では駄目だと目の前に突き付けているように思います」

電話取材に応じた福島県の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんは「どこから反論したら良いものか…」と呆れた様子で言葉を紡いだ。

「3・11」を想起させる大きな揺れから一夜明けた17日朝、震災・原発事故発生後の2011年9月に野田内閣の環境大臣に就任した細野豪志代議士(現自民党)が、ツイッターに次のように書き込んだ。大地震に便乗して海洋放出への支持を増やそうとしているように映った。

「昨晩の地震で知ってもらいたいのは処理水をタンクで保管するリスク。地震で処理しきれていない水が流出するリスクは常にある。1000基(一基約1億円)超のタンクの水漏れや劣化をチェックする作業は危険を伴う。タンクから転落死もあった。現状を放置するより、処理して海洋放出する方が安全」

汚染水の海洋放出を推す細野豪志氏の投稿。作業事故にも触れながら「タンク保管より海洋放出する方が安全」と書き込んだ

実は細野氏は地震直後にも、こう書き込んでいる。

「宮城・福島の地震被害が心配だ。東電福島第一原発のタンク破損も気がかり。処理が終わっていないものがある。タンク保管のリスクが顕在化しないことを祈る。#処理水」

ほら、こういう大きな揺れが来たらタンクが壊れるかもしれない。「処理しきれていない水」が漏れ出すリスクと背中合わせじゃないか。だから海に流すべきなんだ─。大地震への心配を装いながら、細野氏の持論が「顕在化」した格好だ。

2020年3月11日には「タンクをあれだけ近くで取材しながら、処理水を保管し続けるリスクをなぜ説明しないのか!」と「報道ステーション」への怒りをツイッターに綴り、同年7月13日には「処理水タンクは放射性廃棄物となる。タンク保管を続ければ廃棄物が増える タンクは改良されたが、台風や竜巻によって処理しきれていない水が流出するリスクがある タンクの水漏れや劣化をチェックする作業は危険を伴う。タンクから転落死した作業員もいる。 #タンク保管を続けることに反対します」と書き込んでいる。

織田さんは言う。「地震の直後は、確かにタンク保管を心配する人もいるかもしれません。ただ、細野さんたちが発信するのは影響が大きいので、日頃あまり関心を持っていない人が目にすると『やっぱり海に流すしかないのか』となりかねない。彼らもそれを分かっていて発信していると思う。もうすぐ海洋放出という政府方針決定から1年が経ちます。『地元(大熊町や双葉町)が望んでいるから』などと少しずつ論点をずらしながら放射能を拡散する方向に進んでいます。汚染水は一度流してしまうと回収できません。取り返しがつかないんです。中身のことも学べば学ぶほど恐ろしい。細野さんがいくら長生きしたって海洋放出の影響に責任を取れないということを分かって欲しいです」

福島県内では海洋放出に反対する声が多い。織田さんたちも「陸上保管継続を」と訴え続けている

細野氏の主張を後押ししている人物がいる。初代原子力規制委員長を務めた田中俊一氏だ。昨年2月に発刊された著書「東電福島原発事故 自己調査報告」のなかで細野氏と対談している田中氏は、こう語っている。

「凍土壁の工事では作業員が1人、感電で亡くなっています。貯水タンクを造っている最中にも、タンクから落下して1人亡くなっている。トリチウムの海洋放出を先送りにしたことで、2人が殉職しているんです。そういう人命と、何千億円というお金が費やされている。そういうことも踏まえて判断するのが有識者の使命だと思うんです」

確かに尊い命が失われるような作業事故はあってはならないが、2015年1月に発生したタンクからの転落死亡事故では、安全帯を使用せず単独で作業してしまったことが原因だと報告されている。作業事故を挙げて海洋放出の是非を語るのは全くの筋違いなのだ。

長く原発労働者問題に取り組んでいる狩野光昭いわき市議(社民党福島県連代表)も「それはフランジ型タンクだと思いますが、確かに単独作業で落下し、作業員が亡くなりました。でも、それが『タンク保管を継続したことでの事故』であって『だから海洋放出する方が良い』と結びつけるのは論理の飛躍だと思います。あくまでも作業工程のなかでの労働安全衛生上の問題ですよ。発注者としての東電の責任もあるし、元請け企業の責任もある。それを海洋放出の是非と結び付けるのは暴論というか飛躍しすぎ。そこは納得いかないですね。全くの別問題です」と語る。

タンクでの陸上保管を求めているのは織田さんたちだけではない。ミクロネシア連邦のディビッド・W・パニュエロは昨年4月、汚染水の海洋放出に関して大きな懸念を示す書簡を当時の菅義偉首相宛てに送付。「タンク貯蔵が効果的で緊急性のある解決方法だ」と海洋放出しないよう綴った。

これに対し、資源エネルギー庁・原子力発電所事故収束対応室の福田光紀室長は昨年11月、織田さんたちとの意見交換の場で「陸上でのタンク保管についてはいくつかの論点がある。そもそもタンクから水が漏えいしないのが大前提。漏えいを防ぐために検査をやらなければいけない」などと陸上保管のデメリットを強調していた。

昨年2月の大地震でも今回も、貯蔵タンクから汚染水が漏れ出したとの報告はない。本当に陸上保管より海洋放出の方がメリットが多いのか。

「海底トンネルをつくって30年にわたって海に流す計画なのだから、配管(トンネル)が大きな揺れで破断することだって考えられる」

狩野市議はそう指摘する。しかし、海底トンネルのリスクは語られない。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

《グラビア》福島第一原発現地取材(写真・文=おしどりマコ&ケン
《グラビア》希釈されない疑念の渦 それでも海に流すのか?(写真・文=鈴木博喜

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力は即刻廃絶すべきもの

樋口英明(元裁判官)
原発問題はエネルギー問題なのか

中村敦夫(俳優/作家)
表現者は歩き続ける

井戸謙一(弁護士)
被ばく問題の重要性

《インタビュー》片山夏子(東京新聞福島特別支局長)
人を追い続けたい、声を聞き続けたい
[聞き手・構成=尾崎美代子]

おしどりマコ(漫才師/記者)
事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
犠牲のシステム 数兆円の除染ビジネスと搾取される労働者

森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream〈サンドリ〉代表)
「いつまで避難者といってるのか?」という人に問いかけたい
「あなたは避難者になれますか?」と

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
沈黙と叫び 汚染水海洋放出と漁師たち

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈最終回〉
語られなかったものは何か

《講演》広瀬 隆(作家)
地球温暖化説は根拠のないデマである〈前編〉

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
原発は「気候変動」の解決策にはならない

細谷修平(メディア研究者)
《新連載》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈1〉
真の暴力を行使するとき――『人魚伝説』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
機を見るに敏なんて美徳でも何でもない

板坂 剛(作家/舞踏家)
大村紀行──キリシタン弾圧・原爆の惨禍 そして原発への複雑な思い!
 
佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
“騙(かた)り”の国から“語り部(かたりべ)”の国へ
絶望を希望に転じるために いまこそ疑似「民主国」ニッポンの主客転換を!

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈15〉
森友学園国有地売却公文書 改ざん国賠・『認諾』への考察

再稼働阻止全国ネットワーク
国政選挙で原発を重要争点に押し上げよう
7月参議院選挙で「老朽原発阻止」を野党共通公約へ
《全国》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《全国》石鍋 誠(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
《六ヶ所》中道雅史(「4・9反核燃の日」全国集会実行委員会)
《東海第二》野口 修(東海第二原発の再稼働を止める会)
《反原発自治体》反原発自治体議員・市民連盟
《東海第2》披田信一郎(東海第2原発の再稼働を止める会)
《東京》佐々木敏彦(東電本店合同抗議行動実行委員会)
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《伊方原発》秦 左子(伊方から原発をなくす会)
《規制委・経産省》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
《読書案内》天野恵一(再稼動阻止全国ネットワーク事務局)

《反原発川柳》乱鬼龍

季節編集委員会
我々はなぜ『季節』へ誌名を変更したのか

私たちは唯一の脱原発情報誌『季節』を応援しています!

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B09TN1SL8X/

◆大阪地裁での鹿砦社への不当判決から控訴へ

就業時間中に膨大な私的ツイッター書き込みを行っていたことが判明したため、通常解雇した、元鹿砦社社員にして「しばき隊」中心メンバー藤井正美を相手取り、鹿砦社が損害賠償請を求めた民事訴訟を大阪地裁に提起し、去る2月24日不当判決が下されたことは本通信でお伝えしてきた通りだ。その後社内外の関係者で控訴すべきか、せざるべきかを徹底討論した結果、私たちは「控訴する」ことに決定した。そして7日、控訴人株式会社鹿砦社を代表して松岡利康みずから控訴状を提出した。闘いの場は大阪高裁へと移った。

本訴訟は就業時間中に尋常ではない膨大な量の私的ツイッター書き込みを行っていたのみならず、解雇後に鹿砦社の名を騙った「企業恫喝」にまで藤井が手を染めていたことが判明したことから、致し方なく提訴の及んだものである。ところが大阪地裁の本田能久裁判長は私たちの主張を一切認めず、あろうことか係争途中で反訴した藤井に対して鹿砦社に11万円余りの損害賠償を払えと、到底納得できない、天地が引っくり返るほど無茶苦茶な判決を下したのだ。

街宣活動をする藤井正美

◆控訴決心への逡巡

控訴にあたっては、協力者内にも賛否両論があった。「証拠を示しても読まない、黒いものを白だというような裁判所に期待するのはもうやめよう」、「裁判所は明らかに鹿砦社に予断と偏見を持っており、『鹿砦社には勝たせない』との意思が見え隠れする。そのような状況も考えれば控訴は慎重であるべきだ」、一方「この判決が確定すれば『就業時間中に私的ツイッターを山ほど行っていても、法律的な責めは負わない』とも解釈できる尋常ならざる判例を残す。こんな判例が罷り通れば、日本の企業、特に中小企業はやっていけない」。

本田裁判長の数々の事実認定は間違いか不当なものばかりで、放置すれば『言論の敗北』と取られかねない。裁判所が『鹿砦社を勝たせない』と意思を決めていたとしても(そんなこと自体が不当極まりないのだが)控訴して地裁判決を徹底的に論破し、鹿砦社の取材姿勢と出版の立脚点を事実をもって明らかにすべきではないか。勝ち負けに関係なく、判決も控訴理由書もすべて公開し、みなさん方に公開し判断を仰ごう」……。

社員が偶然発見した藤井のツイッターの一部

◆不当判決には決然と闘う!

裁判取材経験豊富なジャーナリストや、司法関係者の皆さんからもアドバイスを頂き、最後は原告である鹿砦社の代表、松岡本人が判断を一任され「控訴」に踏み切る決断を下した。

この判断自体は一般の裁判であれば、地裁判決の訴訟指揮、判決の無茶苦茶さを鑑みれば当然というべきものである。だが、前述の通りここ数年鹿砦社が関わってきた「対しばき隊」関連訴訟では、まったく不当な判決が横行し「裁判所などに期待するのはやめよう。法律が機能していない以上このようなことに力を割くのは勿体なく、私たちは『言論』で勝負しよう」と主張する者が出てきたのも無理からぬことではあった。法廷外で鹿砦社や特別取材班、そしてお世話になった代理人の弁護士の方々は想像を絶する力を振り絞り、当然の勝利に向けて物心ともに全力を注いできたのだから。

7日に控訴状の提出を終え、控訴人(鹿砦社サイド)では「控訴理由書」が現在完成に近づいている。本田裁判長の手になる「判決」の判断はほぼすべてが反論が可能だ、否、反論しなければ道理が通らない矛盾ばかりである。「控訴理由書」が完成し、然るべき時期が来ればその要旨若しくは全文を皆さんに公開しよう。

藤井が就業時間内に行ったツイートの一部を集計した表(『カウンターと暴力の病理』より)

藤井正美2015年月別ツイート数一覧(『カウンターと暴力の病理』より)

◆東住吉冤罪事件国賠訴訟で証明された裁判官本田能久の悪質性

さて、15日東住吉冤罪事件の国家賠償を求めていた青木恵子さんの大阪地裁における判決が言い渡された。青木さんの裁判を担当したのは、私たちへの不当判決を平然と書いた本田である。本田は私たちの係争でも何度か「和解」を勧めてきた。私たちは無下に自らの主張ばかりを振りかざすつもりはなく、妥当な一致点が見つけられれば「和解」も排除せず、と考えていた。本田の勧めにより「和解」の席に複数回ついた。本田はあたかも「公平」な結論を導きだそうと努力しているかの如き演技に終始し、もとよりの多弁が和解の席でも同様に発揮されたが、結局あれは「ポーズ」であったと断じるほかない。

15日青木さんは大阪府からのみの賠償を命じる判決を得たが、本田は結審前に青木さんと国、大阪府にも和解の席を用意した。この経緯については尾崎美代子さんが、2012年12月2日本通信に喜びをもって報告してくれている。青木さんに寄り添うような言葉を吐き過剰な期待を煽った本田。そして本田はいかにも青木さんの痛みを理解し、「係争を終了させることにより青木さんの傷を小さくしようとしている」かと誤解させる芝居を打っていたが、15日に国の責任を一切認めないとする判決を言い渡したことにより、青木さんへの「芝居」が空手形であったことが証明された。青木さんは怒り心頭だと報道されている。国賠訴訟で、その名の通り国の責任を問うているのに、あたかも青木さんに寄り添い国の責任を認めてやるかのような態度を取り、結局は国の責任を全く認めなかった。

青木さんと私たちでは受けた傷の大きさが違う。単純比較は青木さんに失礼だ。しかしながら本田を裁判長とする同じ合議体から受けた加害による「被害者」であることは共通だ。既に控訴手続きは7日に完了しており、その後に下された青木さんへの本田からの判決ではあるが、青木さんの無念も私たちの闘争心を更に掻き立てる。こんな判決を許しておくわけにはゆかない!

◆司法は不条理だ、しかし私たちは真実を曲げることはしない

裁判官はどんな誤判を冒しても、罰せられない。法律論は横においておくが、これは不合理極まりないではないか。過ちを冒した裁判官には罰則を設けるべきではないのか。刑事事件で無実の人を刑務所にぶち込んだり、冤罪確定事件の国賠裁判でも国を免罪したり、中小企業の中に入り込んで怠業の限りを尽くし、社名を語って恫喝を行っていた者の行為を不問に付し、逆に会社に罰金を払わせたり……。これが司法試験に合格し法衣を着て「人を裁く」人間の実態である。その代表の一人が本田能久だ。

◆ご支援に感謝しながら「本人訴訟」で不条理とは闘います!

鹿砦社は昨年来新型コロナの影響を受け、売り上げが大幅に落ち込み経営は楽ではない。この間社債を発行し、心ある皆さんに引き受けていただいたり、カンパや『紙の爆弾』『季節』の定期購読(新規、前倒し、複数年)、書籍のまとめ買いの要請にも多くの方々に応じていただいている。そのお陰できょうも出版・言論活動が続けられている。原稿料や諸経費の徹底見直しも行い、危機の脱出に懸命である。控訴に関しては「このように厳しい時期であることも勘案すべきではないか」との意見もあった。私たちとて法廷は気分の良い場所ではないし、「言論」こそが本来のフィールドだ。そこで、今回の控訴は複数の法律専門家のアドバイスを頂きながらも、あえて代理人を立てず本人訴訟とすることとした。

鹿砦社にとっても松岡や中川編集長らにとっても、2005年、『紙の爆弾』』創刊直後、「名誉毀損」に名を借りた出版弾圧を食らった苦しい時期があった。今よりも格段に苦しかった。松岡は長く囚われ、事務所もなくなり、先行きが見えない中でもがいた。この時、刑事・民事双方で多くの皆さん方のサポートで裁判闘争を闘った。同時に『紙の爆弾』はじめ出版活動にも精を出した。決して諦めなかった。その甲斐あって復活することができた。藤井に「棺桶に片足を突っ込んだ爺さん」と揶揄された松岡も齢70となり、当時に比べるとエネルギーも弱くなっているが、最後の「老人力」を発揮し頑張る決意を固めている。人も会社も苦境にあってこそ、その真価が問われる。土壇場でクソ力を発揮するのが松岡の真骨頂だ。

鹿砦社を応援してくださる皆さんの期待に応えるために、そして不当な司法に真っ正面から対峙するために、これまで以上に激烈な魂を込めた「控訴理由書」が近く完成するだろう。裁判所の判断は二の次だ。私たちは真実を突きつけ、「正当な判断とはこういうものだ」と裁判所の姿勢を正す意味でも闘いを継続する道を選んだ。さらなるご支援を!

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B07CXC368T/
鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

河井克行議員夫妻の大型買収事件で現金を受領していた広島の地元議員35人が今年1月、検察審査会で「起訴相当」と議決されて以来、「起訴相当」とされた議員の辞職が相次いでいる。現在、東京地検特捜部が再捜査を行っているという。

そんな事件について、筆者が個人的に注目しているのが、捜査の指揮をとる東京地検特捜部の市川宏部長の動向だ。今年1月に就任したばかりの市川部長は、筆者が10年余り前から取材している「冤罪疑惑事件」に深く関わっているからだ。

◆冤罪疑惑事件で新特捜部長は捜査と公判を担当

その「冤罪疑惑事件」とは、当欄でも何度か紹介した東広島市の女性暴行死事件だ。

2007年に東広島市の短期賃貸アパートで会社員の女性が何者かに顔面や頭部を執拗に殴られ、亡くなっているのが見つかったこの事件では、女性の不倫トラブルの相談にのっていた探偵業の男性M氏が逮捕された。その逮捕の決め手は、現場のアパートの室内でM氏のDNA型が検出されたことだった。

しかし、M氏は逮捕後、現場アパートに事件当日に立ち入ったことを認めたうえ、「アパートに立ち入ったのは、女性に不倫トラブルの相手方との示談契約書の書き方を教えるためだった」と説明。この説明を否定する確たる証拠は存在せず、それ以外の有罪証拠もめぼしいものは皆無。M氏は懲役10年の判決が確定したが、一貫して冤罪を訴え続けていたこともあり、現在も地元では冤罪を疑う声は少なくない。

市川氏は当時広島地検に在籍しており、この事件の捜査と第一審の公判立会を担当した。1つの事件で捜査と公判の両方を同じ検事が担当することは珍しいから、仮にこの事件が本当に冤罪だった場合、市川氏の責任はその他多くの冤罪事件で検事が負うべき責任より重いと言える。

しかも、この事件には、きな臭い事情がある。それは、「M氏以外の真犯人」が存在する可能性を示す証拠がありながら、警察と検察が隠蔽した疑いがあることだ。

東京地検特捜部長就任に際し、力強い抱負を語った市川氏だが……(日テレNEWS1月17日)

◆真犯人の隠蔽疑惑も

当欄では既報の通り、広島県警はM氏を逮捕後もしばらく複数犯を前提に捜査を展開しており、「M氏の共犯者」と「M氏に車を貸した人物」を見つけるために大がかりな聞き込みを重ねていた。これはつまり、この事件が本当は複数犯であり、M氏が普段乗っていた車以外の車が事件に使われたことを示す有力な証拠が存在したということだ。

しかし、その「M氏以外の真犯人」が存在する可能性を示す証拠の存在は、M氏の裁判では一切隠されたままだったのだ。

この事件の捜査、公判を両方担当した市川氏がその裏事情を知らないはずはない。それはつまり、市川氏は重大事件で冤罪の疑いのある男性を犯人にするため、別の真犯人を隠蔽する不正に関与した疑いを抱かれても仕方がない立場だということだ。

東京地検特捜部の新部長が、かつて自分自身も不正を行った疑いのある広島の地を舞台にした大型汚職事件の再捜査でどんな指揮をとるのだろうか。何か気づく点や新しい情報があれば、今後も当欄で紹介したい。

【関連記事】
《殺人事件秘話10》冤罪・東広島女性暴行死事件 隠された「別の真犯人」の証拠(2018年1月8日配信)

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[改訂版]―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

煙草の副流煙で「受動喫煙症」などに罹患したとして、隣人が隣人に対して約4,500万円を請求した横浜副流煙裁判の「戦後処理」が、新しい段階に入った。前訴で被告として法廷に立たされた藤井将登さんが、前訴は訴権の濫用にあたるとして、3月14日、日本禁煙学会の作田学理事長ら4人に対して約1,000万円の支払いを求める損害賠償裁判を起こしたのだ。前訴に対する「反訴」である。

 

原告には、将登さんのほかに妻の敦子さんも加わった。敦子さんは、前訴の被告ではないが、喫煙者の疑いをかけられた上に4年間にわたり裁判の対応を強いられた。それに対する請求である。請求額は、10,276,240円(将登さんが679万6,240円万円、敦子さんが330万円、その他、金員)。

被告は、作田理事長のほかに、前訴の原告3人(福田家の夫妻と娘、仮名)である。前訴で福田家の代理人を務めた2人の弁護士は、被告には含まれていない。

原告の敦子さんと代理人の古川健三弁護士、それに支援者らは14日の午後、横浜地裁を訪れ、訴状を提出した。「支援する会」の石岡淑道代表は、

「禁煙ファシズムに対するはじめての損害賠償裁判です。同じ過ちが繰り返されないように、司法の場で責任を追及したい」

と、話している。

◆医師法20条違反、無診察による診断書の交付

この事件は、本ウエブサイトでも取り上げてきたが、概要を説明しておこう。2017年11月、横浜市青葉区の団地に住む藤井将登さんは、横浜地裁から1通の訴状を受け取った。訴状の原告は、同じマンションの斜め上に住む福田家の3人だった。福田家が請求してきた項目は、次の2点だった。

(1)4,518万円の損害賠償

(2)自宅での喫煙の禁止

将登さんは喫煙者だったが喫煙量は、自宅で1日に2、3本の煙草を吸う程度だった。ヘビースモーカーではない。

喫煙場所は、防音構造になった「音楽室」で、煙が外部へ漏れる余地はなかった。空気中に混合した煙草は、空気清浄器のフィルターに吸収されていた。たとえ煙が外部へ漏れていても、風向きや福田家との距離・位置関係から考えて、人的被害を与えるようなものではなかった。(下写真参照)

 

福田家の主婦・美津子さんは、「藤井家の煙草の煙が臭い」と繰り返し地元の青葉警察署へ駆け込んだ。その結果、青葉署もしぶしぶ動かざるを得なくなり、2度にわたり藤井さん夫妻を取り調べた。しかし、将登さんがヘビースモーカーである痕跡はなにも出てこなかった。結局、この件では青葉署が藤井夫妻に繰り返し謝罪したのである。

が、それにもかかわらず福田家は裁判を押し進めた。この裁判を全面的に支援したのは、日本禁煙学会の作田学理事長(勤務先は、日本赤十字医療センター)だった。作田医師は、提訴の根拠になった3人の診断書を作成したうえに、繰り返し意見書などを提出した。判決の言い渡しにも姿をみせる熱の入れようだった。自宅での喫煙を禁止する裁判判例がほしかったのではないかと思われる。

 

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

ところが審理の中でとんでもない事実が発覚する。まず、福田家の世帯主・原告の潔さんに、25年の喫煙歴があったことが発覚した。「受動喫煙症」に罹患しているという提訴の前提に疑義が生じたのである。また、潔さんの副流煙が妻子の体調不良の原因になった可能性も浮上した。

さらに作田医師が、真希さんの診断書を無診察で交付していたことが発覚したのだ。患者を診察しないで診断書や死亡証明書を交付する行為は医師法20条で禁止されている。これらの証書類を交付するためには、医師が直接患者に対面して、医学上の客観的な事実を確認する必要があるのだ。しかし、作田医師はそれを怠っていた。

福田家は、隣人に対して高額訴訟を起こしてみたものの、訴因となった事実に十分な根拠がないことが分かったのだ。当然、訴えは棄却された。控訴審でも福田家は敗訴して、2020年10月に前訴は終了した。

これら一連の経緯については、筆者の『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』に詳しい。事件の発端から、勝訴までを詳細に記録している。

◆「ごめんなさい」ですむ問題なのか? 

その後、藤井さん夫妻は、2021年4月、数名の支援者と一緒に作田医師を虚偽公文書行使の疑いで青葉署へ刑事告発した。青葉署は告発を受理して捜査を開始した。そして2022年1月24日、作田医師を横浜地検へ書類送検した。現在、この刑事事件は横浜地検が取り調べを行っている。

このような一連の流れを受けて藤井さん夫妻は、福田家の3人と作田医師に対して約1000万円の損害賠償を求める裁判を起こしたのである。「支援する会」の石岡代表が言うように、この裁判は「禁煙ファシズム」に対するはじめての損害賠償裁判である。前例のない訴訟だ。

最大の争点になると見られるのは、福田家の娘・真希さんの診断書である。既に述べたように作田医師は、真希さんを診察せずに「受動喫煙症レベルⅣ」「化学物質過敏症」という病名を付した診断書を交付した。そして福田家は、この診断書などを根拠として、高額な金銭請求をしたのである。将登さんの喫煙禁止だけを求めていたのであればまだしも、事実ではないことを根拠に高額な金銭請求をしたのである。この点が最も問題なのだ。

訴因に十分な根拠がないことを福田家の弁護士や作田医師は、提訴前に認識していたのか?たとえ認識していなかったとしても、「ごめんなさい」ですむ問題なのか? これらのテーマが裁判の中でクローズアップされる可能性が高い。

◆訴権の濫用には「反訴」で

筆者は2008年から、高額訴訟を取材するようになった。その糸口となったのは、わたし自身が次々と高額訴訟のターゲットにされた体験があったからだ。2008年から1年半の間に、わたしは読売新聞社から「押し紙」報道に関連した3件の裁判を起こされた。請求額は、総計で約8000万円。読売の代理人は、喜田村洋一・自由人権協会代表理事だった。

最初の裁判は、1審から3審までわたしの完全勝訴だった。2件目の裁判は、1審と2審がわたしの勝訴で、3審で最高裁が口頭弁論を開き、判決を高裁へ差し戻した。そして高裁がわたしを敗訴させる判決を下した。3件目の裁判(被告は、黒薮と新潮社)は、1審から3審までわたしの敗訴だった。

3件の裁判が同時進行している時期、わたしは「押し紙」弁護士団の支援を受けて、読売による3件の裁判は「一連一体の言論弾圧」いう観点から、読売新聞に対して5500万円の支払いを求める損害賠償裁判を起こした。しかし、訴権の濫用の認定はハードルが高く敗訴した。喜田村洋一弁護士に対する懲戒請求も申し立てたが、これも棄却された。

筆者は訴権の濫用を食い止めるという意味で、不当裁判の「戦後処理」は極めて大事だと思う。とはいえ、訴権の濫用に対する「反訴」の壁は高い。日本では提訴権が憲法で保証されているからだ。米国のようなスラップ防止法は存在しない。

しかし、だからといって訴権の濫用を放置しておけば、自由闊達な言論の場が消えかねない。「反訴」したり、スラップ禁止法などの制定を求め続けない限り、言論の自由が消滅する危険性がある。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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◆衆院選2021・安佐南補選直後の楽観ムード一転、絶体絶命のピンチへ 被疑者県議・市議

参院選2019広島で、河井案里さん(当選無効)と夫で当時は衆院議員だった克行受刑者が県内の地方議員や首長にお金を配ったとして有罪が確定した事件。お金(賄賂)をもらった側の被疑者100人については、東京地検特捜部は、買収の事実は認定しつつも、「一方的にお金を渡された」などの理由で「不起訴処分」としていました。

実際に買収は認定された以上、贈賄側だけでなく収賄側も罰せられなければ法のもとの平等に反します。

そして、被疑者となった「収賄側」議員のうち、とくに高給をもらっている広島県議と広島市議は「起訴相当議決」までは、だれひとり辞職しませんでした。「俺は不起訴だったから無罪放免だ」といわんばかりの態度をとっておれる議員もおられました。

しかし、こうした状況に納得できない市民が不起訴処分となった収賄側の人々について検察審査会に申し立てをこない、2022年1月28日までに、審査の結果が分かりました。

河井案里さん・克行受刑者から賄賂を受け取っていたにもかかわらず、辞職しなかった議員や辞職はしたが、首長として影響力が強いとみなされた方など35人が「起訴相当」とされました。また、辞職した議員ら46人が「不起訴不当」とされました。検察はただちに再捜査を開始しました。「不起訴不当」とされた元地方議員の一人は筆者に対して「あの時(河井夫妻逮捕の前の捜査)で話した以上のことはない。何を話せばいいのかとまどっている。」とおっしゃいました。

◆争わない人は略式起訴、争う構えの人は正式起訴へ

そして、3月3日までに35人の被疑者のうち、6人の地方議員が辞職。東京地検特捜部は35人のうち、「自分は案里さん・克行受刑者に買収された」と認識している人は「略式起訴」、認めずに争う構えの人については、正式な起訴を行う予定です。

衆院選2021広島3区では与党が圧勝。さらに案里さんが長年県議をつとめた地元の安佐南区の補欠選挙で、金権打破を訴える野党共闘候補が、自民党新人はもちろん克行受刑者の元秘書も下回る惨敗だったことから、統一地方選挙2023でも「俺は、私は大丈夫。どうせ、有権者は支持してくれる。」となめていたとしか思えない行動をとっておられる方が少なくありませんでした。

衆院選2021では、「河井さえ批判していれば大丈夫」と楽勝ムードだった野党が広島都市圏における野党の歴史上最悪の大敗を喫しました。しかし、今度は(ほとんどが自民党所属の)収賄県議・市議が絶体絶命のピンチに追い込まれました。

◆安倍晋三さんに忖度、収賄県議・市議とは「司法取引」?

そもそも、参院選2019では、当時の総理の安倍晋三さんが、自民党現職の溝手顕正さんの大昔の発言をうらんでいたこともあって、河井案里さんを地元の自民党組織の反対・懸念を押し切って強引に擁立した経緯があります。安倍晋三さんの秘書も多数広島に入られました。1億5千万円が案里さん陣営に振り込まれたことについても、総裁の安倍さんが何も知らなかったはずはありません。克行受刑者から「安倍さんから」と言われて30万円を渡された筆者の知人の議員(辞職済み)もおられます。本来であれば、安倍晋三さんについても、買収資金を提供した疑い(これも公選法では犯罪です)で捜査してしかるべきです。しかし、東京地検特捜部は、それはしなかったのです。

東京地検特捜部は、案里さん、克行受刑者のみを立件し、「川上」の安倍晋三さんは捜査せず、「川下」の収賄県議・市議らには温情をかけたのです。公選法事件では認められていない「司法取引」をしたと言われても仕方がない客観的な状況があります。

◆逆説的だが収賄議員は徹底的に法廷で戦うべき

参院選2019広島に立候補した皆様

被疑者の県議・市議のみなさまに申し上げたい。こうなったら、中途半端な情状酌量期待の辞職をすべきではない。あるいは、中途半端な略式起訴など甘んじて受け入れるべきではない。むしろ、正式な裁判で判決が確定するその日まで、職にとどまりながら、徹底的に戦っていいただきたいと思うのです。あらいざらい、全てをしゃべる。そのことで、自民党政治の暗部も、そして検察の問題点も明らかになるからです。

筆者は、収賄県議・市議のみなさんに対しては、これまでは、潔く腹を切られたらどうか?と勧めてきました。これには理由があります。筆者自身、それなりに、事件発覚前の収賄広島市議の皆様とはお付き合いがありました。

西日本大水害2018のボランティア活動中、熱中症でぶっ倒れた筆者を手厚く事務所で救護してくださった市議。

気候変動問題などで、筆者の陳情を受けて熱心に動いてくださった議員もおられます。もちろん、過去の選挙で筆者が一定の得票をしてきたことも背景にあるのでしょうが、真面目に動いてくださったことには感謝しています。だからこそ、醜態はさらしていただきたくなかった。ちなみに筆者が男女共同参画分野で師匠とあおいできた女性地方議員は案里さん逮捕直後の2020年6月にお辞めになっています。

しかし、あなたがたが、検察審査会が「起訴相当」を出すまで居座られた以上は、信念をもってたたかうべきだとおもいます。さもなければ、単に給料ほしさに居座っていただけ、とみなさざるをえません。こういう状況であわてて情状酌量期待の辞職や、略式起訴など甘んじて受け入れるなど、情けないでしょう。

◆検察の裁量狭めるためにも国会議員による地方議員へのカネ配りは明文で禁止を

実は、国会議員が地方議員にカネをくばることは、政治資金規正法にもとづいて「寄附」として届ければ現状では合法なとされてしまいます。ですから、過去にも公然と国会議員が地方議員にカネを配るようなことは、自民党京都府連でも行われていたし、野党でも散見されます。河井案里さん・克行受刑者夫妻の場合は届出をきちんとしなかったことがやましいカネだという傍証になり、検察の立件を後押しした面はあります。

しかし、根本的には明文で禁止すべきでしょう。検察の裁量が広くなる現状は改めるべきです。

そもそも、地方議員が国会議員、特に与党議員からお金をもらったら、国にガツンと物申すことができなくなります。広島の場合なら、県や市は核兵器禁止条約推進であり、中央政府は反対です。「黒い雨」被爆者救済であれば、県や市は、住民のために国に対しては自ら受け入れた高裁判決を遵守して全ての被爆者の救済を求めるべき立場です。他方で国は疾病のある被爆者のみ救済、しかも長崎は除外で被爆者の分断をはかっています。

このように、国と自治体では利害の対立があるわけです。自治体議員たるもの、国会議員からカネをもらっては住民のための仕事ができるのでしょうか?

筆者は参院選広島再選挙2021でも、この観点から国会議員のカネ配り明文禁止を訴えています。これに対して当選した立憲民主党議員はこの問題についての態度を曖昧にしておられました。単に自民党を攻撃するために河井事件を利用するように有権者に映ってしまったことが、衆院選2021や県議補選における広島の野党惨敗の一因になったようにも思えます。

◆日本の司法をめぐる文化は時代劇「大岡越前」の世界から進歩なし!

日本の司法をめぐる文化は時代劇「大岡越前」や「遠山の金さん」からほとんど進歩がないと、今回の河井事件でも痛感しました。

第一に警察・検察に逮捕されたり、捜査の対象になったりしただけで悪人という固定観念を国民もマスコミももってしまいます。その背景には検察が起訴したらほとんど有罪という実態があります。検察官と裁判官を「お奉行」が兼務していた大岡越前や遠山の金さんとほとんど変わっていないのです。

そして、検察の判断で起訴するかどうか決める起訴便宜主義も問題です。

これらの結果、以下のようなことが起きています。

1.温情で不起訴にしつつ、自発的な「切腹」を期待するケース
2.相手が大物で忖度して手を出さないケース
3.いわゆる検察ファシズムの疑いのあるケース

1.は、真相をうやむやにする結果を招きます。今回の河井事件における収賄県議・市議についていえます。ただし、収賄県議・市議が、自発的な「切腹」をせず、検察審査会も起訴相当議決を出したためにこの構図は崩れつつあります。

2.については、安倍晋三・昭恵さんについていえるでしょう。数多くの犯罪の疑いが指摘され、告発もされているが、検察は本人をまともに捜査していません。

3.については、戦前の帝人疑獄と1940年代末のいわゆる昭電疑獄があげられます。いずれも検察によるフレームアップとされています。帝人疑獄では、当時のリベラルな政治家がイメージダウンし、極右政治家の平沼騏一郎の影響が強い検察が軍部暴走を後押しした形になりました。昭電疑獄では、当時の日本社会党中心の政権の多くの閣僚が逮捕されてイメージダウンし、日本の左派・リベラルが後退したといえます。そのことが、現在まで永続する自民党による事実上の一党独裁体制の背景になりました。

◆河井事件収賄者35人「起訴相当」契機に広島・日本もイスラエルを見習い、文化を変えよう

諸外国ではどうでしょうか? 日本と同様の西側で、日本と同じF15戦闘機を採用していることでも有名なイスラエルについて見てみましょう。イスラエル検察は、当時の総理のベンヤミン・ネタニヤフ被告を起訴しています。詳しい説明は省きますが、ネタニヤフ被告夫妻は安倍晋三さん・昭恵夫妻とほぼおなじような国政の私物化をしました。妻のサラ・ネタニヤフ元被告は罰金刑が確定しています。ベンヤミン・ネタニヤフ被告自身は総理の職にとどまりながら、裁判をたたかいました。結局、判決が確定する前に、ネタニヤフ被告は選挙で野党共闘に打倒されましたが、起訴されたから辞任ということはしませんでした。

検察は、大物でも忖度せずに起訴する。いっぽうで、国民やマスコミは「推定無罪」にもとづき、被告人も職にはとどまることを許すのがイスラエルの文化なのです。

これからは、日本でも検察は、大物でも容赦なく起訴していくべきです。セットでいわゆる過剰な身柄拘束をともなう人質司法もやめるべきです。もちろん、ゴーン被告のような逃亡事件を防ぐ策を充実させつつです。いっぽうで、国民・マスコミは被疑者・被告人は推定無罪とみなす文化を同時並行でつくっていくべきです。そうしないと、いわゆる検察ファシズムになってしまうからです。

上記のような改革は、自民党の長期政権下ではなかなか難しいものはあります。しかし、今回のように、検察審査会を活用しつつ、被疑者・被告人の人権に配慮する文化を国民自らがつくっていくことは可能です。

河井事件の収賄県議・市議「起訴相当」を契機に広島も日本も「大岡越前」的司法文化から卒業しようではありませんか?

そのためにも、くどいようですが、被疑者の県議・市議のみなさんには、中途半端に情状酌量期待の辞職はせずに、最後まで検察とたたかっていただきたいのです。そうでないと、これまで職にとどまったのは、「有罪がわかりきっているのに単なる給料ねらいで職にとどまっただけではないか?」と思われるだけです。その想いは何人かの被疑者となった広島市議・県議にはお伝えしており、闘う決意である、とのご返答をいただいています。

【追記】広島地検は3月14日一転して、河井克行元法務大臣から現金を受け取った公選法違反の罪で広島県議ら34人を起訴した。


◎[参考動画]【速報】「起訴相当」の広島県議ら34人を起訴 河井元法務大臣の参院選買収事件(ANN 2022年3月14日)

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

第三次世界大戦の危機が迫っている。

ロシアに詳しい軍事評論家の小泉悠(東大先端科学技術研究センター講師)によると、ロシアには戦術核兵器の先制使用によるデモンストレーション戦略があるという。ようするに、紛争や外交交渉が停滞したときに、戦術核の先制使用で局面を打開するというものだ。

具体的には、戦術核ミサイルを人口の少ない場所に打ち込み、核の脅威を紛争相手・交渉相手に思い知らせることで、局面を打開する。バクチのような戦略である。
今回のウクライナ侵攻の停滞は、まさに戦術核使用の局面に至ろうとしているのではないかと、小泉は指摘している(報道番組での発言)。

そしてその戦術核の使用が、NATO諸国との偶発的な交戦に発展する可能性が指摘される。戦術核といっても、広島型の数百倍の威力を持っているのだ。

そうであれば、第三次世界大戦の偶発的な勃発が目前にせまっていることになる。世界大戦の戦場はヨーロッパである。

二次にわたる世界大戦ばかりではない。中世以来のバラ戦争、ナポレオン戦争と、世界的な戦争は、ヨーロッパの帰趨をかけたものとして行なわれてきた。ヨーロッパこそ人類の価値観と近代文明の源泉であるからだ。超大国アメリカといえども、近代的な民主主義の価値観と民族的な淵源をヨーロッパに持っているからこそ、NATOという軍事共同体の根っこをこの地に置いているのだ。

逆に中東やイスラム圏の紛争(ソ連のアフガン侵犯・アメリカのイラク戦争)は、それがいかに苛烈であっても世界的なものにはならなかった。そこにわれわれは、ヨーロッパ中心史観・イスラムに対する潜在的な蔑視。あるいは辺境観が、われわれの中にあるのを思い知るわけだが、それはまた別個の問題として、いまは世界大戦の危機に警鐘を鳴らさなければならない。

◆ヒトラーを思わせるプーチンの「嘘」

プーチンはロシア国内で、ロシア軍について誤った報道をした者に懲役15年の罰則をともなう治安法を成立させた。これによって、欧米諸国のロシア現地報道陣は取材活動を停止した。わずかに市民のSNSによって、ロシアの反戦運動が伝わるのみとなった。

ウクライナ現地の事実関係も、これによって「藪の中」になりそうな気配だ。原発施設への攻撃(ロシアはウクライナの謀略と主張)、ロシア兵の死者数、政府系機関による政権支持率70%、人道回廊の封鎖をめぐるウクライナとの見解の対立など、事実関係をめぐる虚偽の疑いが大きくなっている。

アドルフ・ヒトラーの『マイン・カンプ』における明言を想起しておこう。

「政府や指導者にとって、嘘は大きければ大きいほどいい」
「大衆の心は原始的なまでにシンプルなので、小さな嘘よりも大きな嘘の餌食になりやすい」
「大衆はドラマチックな嘘には簡単に乗せられてしまうものだ」

まさにプーチンは、ヒトラーの教訓を踏襲しようとしているかのようだ。そのプーチンはクレムリン宮殿の地下にある軍事作戦本部に入りびたり、将軍たちに「何が起きている?」と落ち着かない日々を送っているという(米ABC放送)。プーチンも事実確認に汲々としているのだ。ネットをふくめた事実関係の取材・報道こそわれわれの責務であろう。

◆NATOの偶発的な介入も

いっぽう、ウクライナのゼレンスキー大統領は、NATOに軍事支援を要求している。ウクライナ上空の「飛行禁止空域」化が実施されると、これまたロシア軍とNATO軍の交戦。第三次世界大戦の引き金となる。

いまのところNATOはウクライナの要求を拒否しているが、戦闘機をふくむ兵器・軍事物資の援助はスウェーデン・フィンランドなど、各国で積極的に検討されている。

この場合も、NATO諸国の軍事基地・飛行場から飛び立った戦闘機がウクライナ上空でロシア軍機と交戦する可能性が高い。これもNATO軍が偶発的に紛争に介入することになり、プーチンはすでに警告を口にしている。

プーチンもゼレンスキーも、すでにあとには引けなくなっている。プーチンが敗北すれば政治的失墜はまぬがれず、ゼレンスキーが白旗を上げるのはウクライナにロシアの傀儡政権をもたらすであろう。

戦争は発動されたら、もう引けないのである。かつてユーゴ内戦が、国土を廃墟にして、隣人の殺し合い(民族排除と浄化)のはてに終焉したことをわれわれは現認してきた。おそらくロシア兵の累々たる死体とウクライナの主要都市の壊滅後に、フランスや中国の仲介で和平会議が訪れるであろう。けれども、世界はそこから何を教訓としてみちびき、ふたたびの騒乱を回避しうるのか。

アメリカによるアフガン出兵とイラク侵攻は、テロとの戦いや大量殺戮兵器という大義名分によって、世界は戦争が発動されるのを傍観した。

しかし第三次世界大戦の危機に、われわれはアメリカが傍観するのを目撃することになった。これもまた、世界の警察官が無力だったことを証明することになったのである。


小泉悠・東京大学特任助教「プーチンのロシア」(2)(日本記者クラブ 2020年3月9日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

◆ヒジ打ちの名手

過去、国内でヒジ打ち一発で勝負が付いた試合はどれぐらい存在するだろうか。あっけなく勝負が付く半面、感動的なフィニッシュも多く存在しました。

現在のキックボクシング界において、団体によってルールは微妙に異なるところは有りつつ、ヒジ打ち有効の団体と禁止されている団体等、または各々の試合毎に異なる場合もあります。

平成以降のK-1等のテレビ全国放送でヒジ打ち禁止の試合を放送されてから、多くの一般視聴者はヒジ打ちの認識が薄いという傾向が強くなっているかもしれません。

昭和40年代のキックボクシングブームで、沢村忠さんが主役の漫画「キックの鬼」主題歌でも「ヒジ打ちかわして」といった歌詞が含まれているほど創生期から間違いなく存在する技で、ヒジ打ちの名手・飛馬拳二さんの得意技としての存在感もありました。

低迷期を脱し安定期に入った昭和60年代のMA日本キックボクシング連盟では3回戦(新人戦)はヒジ打ち禁止。5回戦(ランカークラス)ではヒジ打ち有効としたルールが定着。後に復興した全日本キックボクシング連盟でも同様に、その後、新団体が設立されても、それまでに定着したルールを基に改訂されながら活動が続けられてきました。

サーティットvs伊達秀騎。ヒジ打ちで危なっかしい交錯を味わった伊達秀騎(1994年10月18日)

ヒジ打ちをしっかり学んだソムチャーイ高津(1991年頃)

◆ヒジ打ちのステータス

「早く5回戦に上がってヒジ打ち使いたかった」という選手も大勢居た時代は、「キックボクシングはヒジ打ち有りだよ」と教えられてきた昭和から平成初期世代で、ヒジ打ち禁止ルールはキックボクシングの存在意義が分からないという当時の選手も居ます。

ヒジ打ちは頭蓋骨陥没など危険が伴う過激な技であることは事実ながら、ムエタイから倣った基本的な技として、顔面を切る(皮膚を裂く)場合は負傷による試合続行不可能に追い込む手段となります。パンチで切れても同様の処置となり、偶発的なものでなく鮮やかに狙ったヒジ打ちで負傷TKOすることが警戒される存在感としたステータスとなっていくのでしょう。

ヒジ打ちは「しっかりガツンと当たらないと切れないので、パンチで言えば一発KO狙うくらいの勢いが必要」と経験者は言います。

パンチ同様に効かせて倒す(脳震盪起こす)ヒジ打ちは、至近距離でのアゴ狙いや側頭部へ狙い撃ちしてノックアウトに結び付ける選手も多く居ました。

1990年代にタイの地方へ遠征したソムチャーイ高津(格闘群雄伝No.7)は劣勢だった試合をヒジ打ちをヒットさせて形勢逆転させ、相手はかなり流血して2度のドクターチェックがあってもレフェリーは試合を止めず、地元選手を負けさせないが為の強引に行かせるパターンもあるのが昔の田舎ムエタイでもありました。

武田幸三を苦しめた北沢勝のしぶとさとヒジ打ち(2000年1月23日)

また、レフェリーの偏った判断でなくても、歯が頬を突き抜いていても続行した例もあり、視界がはっきり見えているかで判断する場合もあると聞いたこともあります。

切られたら瞬時に切り返す。そんな強引なタイのファイター型も居た昔の選手。ヒジで切られた瞬間、レフェリーに割って入られる前に、反射的にすかさずヒジ打ちで切り返す。それが成功しなくてもやるだけやってみる。執念で試合続行不可能道連れに持ち込む手段も見られた本場ムエタイです。

◆ヒジ打ち禁止の影響

日本においては負けている展開で、逆転狙いのヒジ打ちは最大限に重要視される打撃で、禁止されると困惑するという選手の意見も聞きます。

ヒジ打ち容認団体でも試合によってはヒジ打ち禁止ルールが用いられる場合もあります。ムエタイテクニシャンとの対戦ではヒジ打ち禁止ルールにすることで、形式上は公平さを保ちながら実質的ハンディキャップとしてしまう場合が暗躍します。

ヒジ打ちには拘っていなくても、しっかり習得しているオールラウンドプレーヤーでは、「距離感とかタイミングはヒジ打ちの代用としてヒザ蹴り、アッパー、左右フックなどあるので、特に問題無いです」と、意外にもヒジ打ちだけが禁止なら、あまり違和感は無いと言う選手も多く、「首相撲の規制や蹴り足を掴む行為の禁止、3回戦制の方が不利に傾く影響が大きい」という別の見方も浮上します。

K-1はヒジ打ちが無い分、高度なパンチとコンビネーション、テーンカオ(離れた距離からの突き刺すヒザ蹴り)を持った選手が増えたことはこのルール上の進化なのでしょう。

最近の画像から、大翔の縦ヒジ打ちが眞斗の眉間を切り裂く直前(2021年8月22日)

◆今後の方向性

ヒジ打ちであっけなく試合が止められるシーンは、テレビでは視聴者に伝わり難いものです。

更に「流血における過激なシーンはテレビ番組にはそぐわない」といった話を5年ぐらい前に聞いたことありますが、そう言えば昔のプロレスで“血だるま”という表現された大流血シーンは全く見なくなった気がします。

テレビ放映の在り方は昭和時代から大きく変わってきましたが、多くのスポーツ競技、エンターティメント番組、ドラマでも表れている過激さ制限の時代でしょう。

海外においても文化・風習によってヒジ打ちルールは有りと無しに分かれ、今後も共存していくと考えられますが、ムエタイと元祖キックボクシングは基本ルールから崩れないよう進化していって欲しいものです。

馬渡亮太vs大田一航。ムエタイスタイルの馬渡亮太もヒジ打ちを多用する選手(2021年8月22日)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

3月7日、久しぶりに高槻市の水戸喜世子さんのご自宅にお邪魔した。2月14日、仙台高裁で2回目の期日が開かれた「子ども脱被ばく裁判」の控訴審と、1月27日、3・11の原発事故の被ばくにより甲状腺がんを発症した6人の若者が東電を訴えた「311子ども甲状腺がん裁判」について、お話を伺ってきた。 (聞き手・構成=尾崎美代子)

 

水戸喜世子(みと・きよこ)さん 子ども脱被ばく裁判の会・共同代表。1935年名古屋市生まれ。お茶の水女子大学、東京理科大学で学ぶ。反原発運動の黎明期を切り開いた原子核物理学者・故水戸巌氏と1960年に結婚後、京大基礎物理研究所の文部教官助手就任。1969年「救援連絡センター」の設立に巌氏とともに尽力。2008年から2年間中国江蘇省建東学院の外籍日本語教授。2011年3月11日以降は積極的に脱原発・反原発運動にかかわる

◆「子ども脱被ばく裁判」5つの争点

水戸 2月14日の2回目の期日は、私は体調が悪くて行けませんでしたが、井戸謙一弁護士から頂いた期日報告に沿っておおまかに説明します。

1つ目は、国の意見の中に「1ミリシーベルトの被ばくをしない利益が法的保護に値しない」というのがあります。この1ミリシーベルト被ばくしても当たり前という国の言い分に対して弁護団は、1ミリシーベルトがどれだけ危険かと準備書面で反論しました。ICRP(国際放射線防護委員会)は、100ミリシーベルト以上浴びると癌で死ぬ確率が0.5%高まると主張しているので、それに基づいて計算すると1ミリシーベルト浴びると年間350人が死ぬことになる。

一方、日本の環境基本法は、大雑把に言って生涯それを飲み続けた場合に、10万人に1人がん死するようなものを「毒物」と規定しています。東京の豊洲市場の地下水が汚染され、ベンゼンが検出されたが、それをずっと飲み続けると10万人に1人以上が亡くなるということで大騒ぎになった。一方で1ミリシーベルト被ばくすると、10万人中350人の死者が出るという環境を放置していいというのが「法的保護に値しない」という内容で大嘘ですね。

2つ目は、「裁量論」についてです。判決では、安定ヨウ素剤を飲ませなかったのも、スピーディーを公開しなかったのも、授業再開も行政の裁量権の範囲内であるというものでした。つまり、法律で決められていることもあるが、決められてないこともある。放射線に関しては事故を想定してないから、決められてないことのほうが多い、そのときは、行政の裁量権に任すしかないというわけです。

── ヨウ素剤を飲ませる、飲ませないも、各自治体、現場の判断に任せると。

水戸 そう。でもそれは違うでしょう。命に関わる重要なことを行政が勝手に決めていい訳がないというのが、弁護団の言い分です。法の取り決めがない場合、では何を根拠にするかというと、1つは憲法、もう1つは国際法です。 それを準備書面の[5]で提出しましたが、未完成だったので、次回に改めて提出します。

── 国は、控訴人らによる「被災者の知る権利」の主張に対し、反論を拒否したとありますが、反論を拒否するとは?

水戸 「あなたたちは独特の理論を主張しているから、勝手にやってください」という態度だと、井戸弁護士は仰ってました。この裁判は、前に話したように、放射線についての国内法が整備されていないのですから国際人権とか憲法とか、もっと大きな土台の上でやっています。放射線に対する規制がないからなのです。環境基本法にもやっとこの間、放射線の項目をとりこむことはできたが「教室なら、この線量以下で」とかの基準とすべき具体的な数字は、今も一切出ていません。いかに安全神話のうえにあぐらをかいていたかということですよね。

「子ども脱被ばく裁判」裁判前集会(武藤心平さん撮影)

── 3つ目の、控訴人が「国賠訴訟」を追加したというのは?

水戸 子ども人権裁判は義務教育を受けている子どもが原告になって訴訟をおこしたが、もう中学生が4人しかいなくなった。それで裁判が自動消滅したら困るので追加訴訟を加えました。安全なところで義務教育を受けられなかったので損害賠償をしろと。でも、福島市、郡山市、いわき市は、裁判の途中で新たに追加するのは「違法だ」と異議を申し立ててきた。裁判長もちょっと首をかしげてます。次回却下されるかもしれないが、さらにしっかりと反論していくことになります。

4つ目が、危険な環境の施設で教育をしてはいけないという原告の要求に対して裁判長から、地方自治体の学校指定処分とどのような関係になるのか、子どもがいれば学校を作るという規則がある、でも今の学校では線量が高いから教育を行ってはいけないということの関係性はどうなるのですかと聞かれ、次回弁護団から説明することになりました。一時的に線量の低い地域に避難して教育を継続出来るのですから矛盾することではありません。安全な環境で教育をうける権利という教育基本法を根拠に反論していくでしょう。

5つ目は、原告の意見陳述で、Aさんが、無用な被ばくをさせられてしまったため、子どもに何か体調が悪いことがあると、被ばくと結び付けて考えてしまうという苦しさについて述べられました。

「子ども脱被ばく裁判」街頭で訴える(武藤心平さん撮影)

◆「311子ども甲状腺がん裁判」甲状腺がん発症者6人による生身の訴え

 

「311子ども甲状腺がん裁判」報告集会の様子

── 先日、東電を提訴した6人の訴訟ですが、弁護団は子ども裁判とほぼ一緒だそうですが?

水戸 ええ、私たちは無用な被ばくをさせられたこと、安全な環境で教育を受ける権利を争っていますが、6人の訴えは生身の訴えですものね。一見理念的にみえた子ども脱被ばく裁判が突如リアリティを伴って立ち現れた思いがして衝撃でした。6人は実際に甲状腺がんを発症し、全員が2回から4回の手術を受けている。経緯は子ども裁判の主張と完全に一致するので、脱被ばく子ども裁判弁護団は全員入り、ほかに海渡弁護士なども加わり、弁護団がつくられています。17歳から27歳までの若者が自分の人生をかけて法廷に立つのですから、何としても勝利したいと思います。

── 提訴後の報告会に私も出席しました。皆さん、10年間孤立していた。先日、井戸弁護士と河合弁護士が出席した日本外国特派員協会の記者会見で、6人の方々は河合弁護士のところに相談にきたと仰ってましたが。

水戸 崎山比早子さんが代表で河合弁護士に関わっておられる「3・11 甲状腺がん子ども基金」などでも繋がる機会はあったんでしょう。福島県立医大は嫌だからと避難先の病院で見てもらっている人もいるし、患者さんは孤立していて、繋がるのは本当に困難だったと思います。その意味でも氷山の一角ですね。「黒い雨裁判」の原告を足を棒にしてつないで歩いた高東征二さんのご苦労から学ばねばと思います。

── 今後、子ども裁判と6人の裁判はどのように闘われるでしょうか。

水戸 全く別の裁判として展開されるのは当然ですが、私は、子ども裁判には、絶対「黒い雨裁判」の成果を取り込まないと勝てないと思っていて、子ども裁判の通信に書かせて頂きました。まだ弁護団のなかで話しあわれてはいませんが。

「黒い雨裁判」の一番のポイントは、黒い雨には明らかに放射能が含まれていて、降った地域の野菜を食べたり、空気を吸って内部被ばくしたことを認めたこと。広島県がとても偉いと思うのは、アンケート調査を何度もやり、降雨地域で病気になった人が非常に多いという事実をつかんだこと。これは外部被ばくだけでは全く説明がつかない。だから残留放射線を浴びた人、食べ物や空気から放射線を吸った人が内部被ばくしたということを、広島地裁も高裁も認めたわけです。地裁は、国の決めた11の疾病にり患していることを根拠にしたが、高裁は、内部被ばくは晩発性だから、今そういう病気がでていなくても、いつでてくるかわからないから、黒い雨を浴びた人全員被ばく者と認定した。そうしないと、一般のがん患者と放射線によるがん患者の区別は今の医学では因果関係を証明できないと思います。本質の到達出来ない時には、現象から迫るのは科学の手法であると、武谷三男の三段論法論で説かれていますけどね。

6人の裁判は「311甲状腺がん子どもネットワーク」が中心に支援していますが、私たちの子ども裁判も実質的に支援していきます。6億円超の損害賠償を求めていますから、訴状の印紙代だけでも大変な額になります。裁判をおこすということは本当に大変。でも一人1億円なんて、若い人の一生涯のことを考えると、小さな額だと思いますよ。 とくに親はどんなに辛いかと思いますよね。私たちの力不足を若者たちにお詫びしたいです。今回のウクライナもそうですが、私は、大人の愚かさのために、無邪気な子どもたちが犠牲になることだけは本当に耐えられません。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)3月11日発売開始

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

《グラビア》福島第一原発現地取材(写真・文=おしどりマコ&ケン
《グラビア》希釈されない疑念の渦 それでも海に流すのか?(写真・文=鈴木博喜

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力は即刻廃絶すべきもの

樋口英明(元裁判官)
原発問題はエネルギー問題なのか

中村敦夫(俳優/作家)
表現者は歩き続ける

井戸謙一(弁護士)
被ばく問題の重要性

《インタビュー》片山夏子(東京新聞福島特別支局長)
人を追い続けたい、声を聞き続けたい
[聞き手・構成=尾崎美代子]

おしどりマコ(漫才師/記者)
事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
犠牲のシステム 数兆円の除染ビジネスと搾取される労働者

森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream〈サンドリ〉代表)
「いつまで避難者といってるのか?」という人に問いかけたい
「あなたは避難者になれますか?」と

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
沈黙と叫び 汚染水海洋放出と漁師たち

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈最終回〉
語られなかったものは何か

《講演》広瀬 隆(作家)
地球温暖化説は根拠のないデマである〈前編〉

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
原発は「気候変動」の解決策にはならない

細谷修平(メディア研究者)
《新連載》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈1〉
真の暴力を行使するとき――『人魚伝説』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
機を見るに敏なんて美徳でも何でもない

板坂 剛(作家/舞踏家)
大村紀行──キリシタン弾圧・原爆の惨禍 そして原発への複雑な思い!
 
佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
“騙(かた)り”の国から“語り部(かたりべ)”の国へ
絶望を希望に転じるために いまこそ疑似「民主国」ニッポンの主客転換を!

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈15〉
森友学園国有地売却公文書 改ざん国賠・『認諾』への考察

再稼働阻止全国ネットワーク
国政選挙で原発を重要争点に押し上げよう
7月参議院選挙で「老朽原発阻止」を野党共通公約へ
《全国》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《全国》石鍋 誠(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
《六ヶ所》中道雅史(「4・9反核燃の日」全国集会実行委員会)
《東海第二》野口 修(東海第二原発の再稼働を止める会)
《反原発自治体》反原発自治体議員・市民連盟
《東海第2》披田信一郎(東海第2原発の再稼働を止める会)
《東京》佐々木敏彦(東電本店合同抗議行動実行委員会)
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《伊方原発》秦 左子(伊方から原発をなくす会)
《規制委・経産省》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
《読書案内》天野恵一(再稼動阻止全国ネットワーク事務局)

《反原発川柳》乱鬼龍

季節編集委員会
我々はなぜ『季節』へ誌名を変更したのか

私たちは唯一の脱原発情報誌『季節』を応援しています!

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B09TN1SL8X/

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