◆衆院選2021・安佐南補選直後の楽観ムード一転、絶体絶命のピンチへ 被疑者県議・市議
参院選2019広島で、河井案里さん(当選無効)と夫で当時は衆院議員だった克行受刑者が県内の地方議員や首長にお金を配ったとして有罪が確定した事件。お金(賄賂)をもらった側の被疑者100人については、東京地検特捜部は、買収の事実は認定しつつも、「一方的にお金を渡された」などの理由で「不起訴処分」としていました。
実際に買収は認定された以上、贈賄側だけでなく収賄側も罰せられなければ法のもとの平等に反します。
そして、被疑者となった「収賄側」議員のうち、とくに高給をもらっている広島県議と広島市議は「起訴相当議決」までは、だれひとり辞職しませんでした。「俺は不起訴だったから無罪放免だ」といわんばかりの態度をとっておれる議員もおられました。
しかし、こうした状況に納得できない市民が不起訴処分となった収賄側の人々について検察審査会に申し立てをこない、2022年1月28日までに、審査の結果が分かりました。
河井案里さん・克行受刑者から賄賂を受け取っていたにもかかわらず、辞職しなかった議員や辞職はしたが、首長として影響力が強いとみなされた方など35人が「起訴相当」とされました。また、辞職した議員ら46人が「不起訴不当」とされました。検察はただちに再捜査を開始しました。「不起訴不当」とされた元地方議員の一人は筆者に対して「あの時(河井夫妻逮捕の前の捜査)で話した以上のことはない。何を話せばいいのかとまどっている。」とおっしゃいました。
◆争わない人は略式起訴、争う構えの人は正式起訴へ
そして、3月3日までに35人の被疑者のうち、6人の地方議員が辞職。東京地検特捜部は35人のうち、「自分は案里さん・克行受刑者に買収された」と認識している人は「略式起訴」、認めずに争う構えの人については、正式な起訴を行う予定です。
衆院選2021広島3区では与党が圧勝。さらに案里さんが長年県議をつとめた地元の安佐南区の補欠選挙で、金権打破を訴える野党共闘候補が、自民党新人はもちろん克行受刑者の元秘書も下回る惨敗だったことから、統一地方選挙2023でも「俺は、私は大丈夫。どうせ、有権者は支持してくれる。」となめていたとしか思えない行動をとっておられる方が少なくありませんでした。
衆院選2021では、「河井さえ批判していれば大丈夫」と楽勝ムードだった野党が広島都市圏における野党の歴史上最悪の大敗を喫しました。しかし、今度は(ほとんどが自民党所属の)収賄県議・市議が絶体絶命のピンチに追い込まれました。
◆安倍晋三さんに忖度、収賄県議・市議とは「司法取引」?
そもそも、参院選2019では、当時の総理の安倍晋三さんが、自民党現職の溝手顕正さんの大昔の発言をうらんでいたこともあって、河井案里さんを地元の自民党組織の反対・懸念を押し切って強引に擁立した経緯があります。安倍晋三さんの秘書も多数広島に入られました。1億5千万円が案里さん陣営に振り込まれたことについても、総裁の安倍さんが何も知らなかったはずはありません。克行受刑者から「安倍さんから」と言われて30万円を渡された筆者の知人の議員(辞職済み)もおられます。本来であれば、安倍晋三さんについても、買収資金を提供した疑い(これも公選法では犯罪です)で捜査してしかるべきです。しかし、東京地検特捜部は、それはしなかったのです。
東京地検特捜部は、案里さん、克行受刑者のみを立件し、「川上」の安倍晋三さんは捜査せず、「川下」の収賄県議・市議らには温情をかけたのです。公選法事件では認められていない「司法取引」をしたと言われても仕方がない客観的な状況があります。
◆逆説的だが収賄議員は徹底的に法廷で戦うべき
被疑者の県議・市議のみなさまに申し上げたい。こうなったら、中途半端な情状酌量期待の辞職をすべきではない。あるいは、中途半端な略式起訴など甘んじて受け入れるべきではない。むしろ、正式な裁判で判決が確定するその日まで、職にとどまりながら、徹底的に戦っていいただきたいと思うのです。あらいざらい、全てをしゃべる。そのことで、自民党政治の暗部も、そして検察の問題点も明らかになるからです。
筆者は、収賄県議・市議のみなさんに対しては、これまでは、潔く腹を切られたらどうか?と勧めてきました。これには理由があります。筆者自身、それなりに、事件発覚前の収賄広島市議の皆様とはお付き合いがありました。
西日本大水害2018のボランティア活動中、熱中症でぶっ倒れた筆者を手厚く事務所で救護してくださった市議。
気候変動問題などで、筆者の陳情を受けて熱心に動いてくださった議員もおられます。もちろん、過去の選挙で筆者が一定の得票をしてきたことも背景にあるのでしょうが、真面目に動いてくださったことには感謝しています。だからこそ、醜態はさらしていただきたくなかった。ちなみに筆者が男女共同参画分野で師匠とあおいできた女性地方議員は案里さん逮捕直後の2020年6月にお辞めになっています。
しかし、あなたがたが、検察審査会が「起訴相当」を出すまで居座られた以上は、信念をもってたたかうべきだとおもいます。さもなければ、単に給料ほしさに居座っていただけ、とみなさざるをえません。こういう状況であわてて情状酌量期待の辞職や、略式起訴など甘んじて受け入れるなど、情けないでしょう。
◆検察の裁量狭めるためにも国会議員による地方議員へのカネ配りは明文で禁止を
実は、国会議員が地方議員にカネをくばることは、政治資金規正法にもとづいて「寄附」として届ければ現状では合法なとされてしまいます。ですから、過去にも公然と国会議員が地方議員にカネを配るようなことは、自民党京都府連でも行われていたし、野党でも散見されます。河井案里さん・克行受刑者夫妻の場合は届出をきちんとしなかったことがやましいカネだという傍証になり、検察の立件を後押しした面はあります。
しかし、根本的には明文で禁止すべきでしょう。検察の裁量が広くなる現状は改めるべきです。
そもそも、地方議員が国会議員、特に与党議員からお金をもらったら、国にガツンと物申すことができなくなります。広島の場合なら、県や市は核兵器禁止条約推進であり、中央政府は反対です。「黒い雨」被爆者救済であれば、県や市は、住民のために国に対しては自ら受け入れた高裁判決を遵守して全ての被爆者の救済を求めるべき立場です。他方で国は疾病のある被爆者のみ救済、しかも長崎は除外で被爆者の分断をはかっています。
このように、国と自治体では利害の対立があるわけです。自治体議員たるもの、国会議員からカネをもらっては住民のための仕事ができるのでしょうか?
筆者は参院選広島再選挙2021でも、この観点から国会議員のカネ配り明文禁止を訴えています。これに対して当選した立憲民主党議員はこの問題についての態度を曖昧にしておられました。単に自民党を攻撃するために河井事件を利用するように有権者に映ってしまったことが、衆院選2021や県議補選における広島の野党惨敗の一因になったようにも思えます。
◆日本の司法をめぐる文化は時代劇「大岡越前」の世界から進歩なし!
日本の司法をめぐる文化は時代劇「大岡越前」や「遠山の金さん」からほとんど進歩がないと、今回の河井事件でも痛感しました。
第一に警察・検察に逮捕されたり、捜査の対象になったりしただけで悪人という固定観念を国民もマスコミももってしまいます。その背景には検察が起訴したらほとんど有罪という実態があります。検察官と裁判官を「お奉行」が兼務していた大岡越前や遠山の金さんとほとんど変わっていないのです。
そして、検察の判断で起訴するかどうか決める起訴便宜主義も問題です。
これらの結果、以下のようなことが起きています。
1.温情で不起訴にしつつ、自発的な「切腹」を期待するケース
2.相手が大物で忖度して手を出さないケース
3.いわゆる検察ファシズムの疑いのあるケース
1.は、真相をうやむやにする結果を招きます。今回の河井事件における収賄県議・市議についていえます。ただし、収賄県議・市議が、自発的な「切腹」をせず、検察審査会も起訴相当議決を出したためにこの構図は崩れつつあります。
2.については、安倍晋三・昭恵さんについていえるでしょう。数多くの犯罪の疑いが指摘され、告発もされているが、検察は本人をまともに捜査していません。
3.については、戦前の帝人疑獄と1940年代末のいわゆる昭電疑獄があげられます。いずれも検察によるフレームアップとされています。帝人疑獄では、当時のリベラルな政治家がイメージダウンし、極右政治家の平沼騏一郎の影響が強い検察が軍部暴走を後押しした形になりました。昭電疑獄では、当時の日本社会党中心の政権の多くの閣僚が逮捕されてイメージダウンし、日本の左派・リベラルが後退したといえます。そのことが、現在まで永続する自民党による事実上の一党独裁体制の背景になりました。
◆河井事件収賄者35人「起訴相当」契機に広島・日本もイスラエルを見習い、文化を変えよう
諸外国ではどうでしょうか? 日本と同様の西側で、日本と同じF15戦闘機を採用していることでも有名なイスラエルについて見てみましょう。イスラエル検察は、当時の総理のベンヤミン・ネタニヤフ被告を起訴しています。詳しい説明は省きますが、ネタニヤフ被告夫妻は安倍晋三さん・昭恵夫妻とほぼおなじような国政の私物化をしました。妻のサラ・ネタニヤフ元被告は罰金刑が確定しています。ベンヤミン・ネタニヤフ被告自身は総理の職にとどまりながら、裁判をたたかいました。結局、判決が確定する前に、ネタニヤフ被告は選挙で野党共闘に打倒されましたが、起訴されたから辞任ということはしませんでした。
検察は、大物でも忖度せずに起訴する。いっぽうで、国民やマスコミは「推定無罪」にもとづき、被告人も職にはとどまることを許すのがイスラエルの文化なのです。
これからは、日本でも検察は、大物でも容赦なく起訴していくべきです。セットでいわゆる過剰な身柄拘束をともなう人質司法もやめるべきです。もちろん、ゴーン被告のような逃亡事件を防ぐ策を充実させつつです。いっぽうで、国民・マスコミは被疑者・被告人は推定無罪とみなす文化を同時並行でつくっていくべきです。そうしないと、いわゆる検察ファシズムになってしまうからです。
上記のような改革は、自民党の長期政権下ではなかなか難しいものはあります。しかし、今回のように、検察審査会を活用しつつ、被疑者・被告人の人権に配慮する文化を国民自らがつくっていくことは可能です。
河井事件の収賄県議・市議「起訴相当」を契機に広島も日本も「大岡越前」的司法文化から卒業しようではありませんか?
そのためにも、くどいようですが、被疑者の県議・市議のみなさんには、中途半端に情状酌量期待の辞職はせずに、最後まで検察とたたかっていただきたいのです。そうでないと、これまで職にとどまったのは、「有罪がわかりきっているのに単なる給料ねらいで職にとどまっただけではないか?」と思われるだけです。その想いは何人かの被疑者となった広島市議・県議にはお伝えしており、闘う決意である、とのご返答をいただいています。
【追記】広島地検は3月14日一転して、河井克行元法務大臣から現金を受け取った公選法違反の罪で広島県議ら34人を起訴した。
◎[参考動画]【速報】「起訴相当」の広島県議ら34人を起訴 河井元法務大臣の参院選買収事件(ANN 2022年3月14日)
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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