河井克行議員夫妻の大型買収事件で現金を受領していた広島の地元議員35人が今年1月、検察審査会で「起訴相当」と議決されて以来、「起訴相当」とされた議員の辞職が相次いでいる。現在、東京地検特捜部が再捜査を行っているという。
そんな事件について、筆者が個人的に注目しているのが、捜査の指揮をとる東京地検特捜部の市川宏部長の動向だ。今年1月に就任したばかりの市川部長は、筆者が10年余り前から取材している「冤罪疑惑事件」に深く関わっているからだ。
◆冤罪疑惑事件で新特捜部長は捜査と公判を担当
その「冤罪疑惑事件」とは、当欄でも何度か紹介した東広島市の女性暴行死事件だ。
2007年に東広島市の短期賃貸アパートで会社員の女性が何者かに顔面や頭部を執拗に殴られ、亡くなっているのが見つかったこの事件では、女性の不倫トラブルの相談にのっていた探偵業の男性M氏が逮捕された。その逮捕の決め手は、現場のアパートの室内でM氏のDNA型が検出されたことだった。
しかし、M氏は逮捕後、現場アパートに事件当日に立ち入ったことを認めたうえ、「アパートに立ち入ったのは、女性に不倫トラブルの相手方との示談契約書の書き方を教えるためだった」と説明。この説明を否定する確たる証拠は存在せず、それ以外の有罪証拠もめぼしいものは皆無。M氏は懲役10年の判決が確定したが、一貫して冤罪を訴え続けていたこともあり、現在も地元では冤罪を疑う声は少なくない。
市川氏は当時広島地検に在籍しており、この事件の捜査と第一審の公判立会を担当した。1つの事件で捜査と公判の両方を同じ検事が担当することは珍しいから、仮にこの事件が本当に冤罪だった場合、市川氏の責任はその他多くの冤罪事件で検事が負うべき責任より重いと言える。
しかも、この事件には、きな臭い事情がある。それは、「M氏以外の真犯人」が存在する可能性を示す証拠がありながら、警察と検察が隠蔽した疑いがあることだ。
◆真犯人の隠蔽疑惑も
当欄では既報の通り、広島県警はM氏を逮捕後もしばらく複数犯を前提に捜査を展開しており、「M氏の共犯者」と「M氏に車を貸した人物」を見つけるために大がかりな聞き込みを重ねていた。これはつまり、この事件が本当は複数犯であり、M氏が普段乗っていた車以外の車が事件に使われたことを示す有力な証拠が存在したということだ。
しかし、その「M氏以外の真犯人」が存在する可能性を示す証拠の存在は、M氏の裁判では一切隠されたままだったのだ。
この事件の捜査、公判を両方担当した市川氏がその裏事情を知らないはずはない。それはつまり、市川氏は重大事件で冤罪の疑いのある男性を犯人にするため、別の真犯人を隠蔽する不正に関与した疑いを抱かれても仕方がない立場だということだ。
東京地検特捜部の新部長が、かつて自分自身も不正を行った疑いのある広島の地を舞台にした大型汚職事件の再捜査でどんな指揮をとるのだろうか。何か気づく点や新しい情報があれば、今後も当欄で紹介したい。
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《殺人事件秘話10》冤罪・東広島女性暴行死事件 隠された「別の真犯人」の証拠(2018年1月8日配信)
▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。