◆国民の4分の1が避難民に
ロシア連邦による大量虐殺が明らかになりつつあるウクライナから、すでに420万人をこえる人々がポーランドやモルドバなどの隣国、ヨーロッパに避難している。国内での移動をあわせると、国民の4分の1が避難民となっている。
第二次世界大戦いらいのジェノサイドが明らかになったいま、ウクライナ避難民の受け入れは、21世紀世界の責務といえよう。
わが日本政府も林芳正外相をポーランドに派遣し、避難民の受け入れに乗り出した。これまで牛久や大村の収容施設でアジア人を「殺してきた」(2017年ベトナム人男性・2021年スリランカ人女性)入管行政も、ウクライナ避難民にはビザ発給など入国のハードルを下げる措置を採るという。今回の措置に先行して、人が親族を頼って入国している。
◎[参考動画]夢かなえるため家族とも別れ……避難民受け入れの課題(ANN 2022年4月4日)
◆なぜ20人なのか?
ところで、林外相が連れ帰ったのは、わずか20人なのである。
移送には政府専用機(B777・予備機)が使われたのだが、同機の登場可能人数は防衛省によれば150人である。B777は350~450人が搭乗可能だ。政府専用機は会議室やベッドなど機能性や居住性を重視した改装によって、それでも150人が搭乗可能なのだ。あまりにも少なすぎるではないか。
ヨーロッパの最貧国といわれるモルドバでは、一家で難民2人を引き受け、政府がその費用を援助している。ポーランドでは人口160万人のワルシャワ市が、60万人の難民を引き受けているのだ(ポーランド全体では250万人を受け入れ)。激動の歴史をたどってきた東ヨーロッパならではの、相互扶助・協同の精神が発揮されているといえよう。
ウクライナから距離のある極東の島国とはいえ、キーウ(キエフ)と京都、オデーサ(オデッサ)と横浜が姉妹都市であるなど、日本とウクライナは親密な関係にある。福島原発事故・チョルノーブィリ原発事故という両国に共通した体験から、原発災害防止の分野でも研究・交流が活発であった。
◎[参考動画]政府専用機に乗ったウクライナ避難民20人が羽田空港に到着(ANN 2022年4月5日)
◆選考基準を明らかにしない外務省
いっぽう、外務省は避難民の選考方法やその基準を明らかにしていない。20人という、ヨーロッパ諸国が数十万・数万単位で受け入れているのに比べれば、申しわけ程度の人数になった理由も明らかにしていない。
林外相の記者会見での弁は、「政府専用機の予備機に日本への避難を切に希望しているものの、自力で渡航するのが困難な20人の避難民を乗っていただくことにしました」であった。
なるほど難民認定が年に数十人単位(申請者数は4000~7000人)のわが国にしてみれば、404人も避難民を受け入れたうえに、政府専用機を利用させてまで受け入れたのだ。これで欧米並みの人権国歌として、世界に理解されるはずだ。ということなのかもしれない。
ところが、である。民放テレビの現地報道では、ポーランドの日本大使館に何度も連絡してみたが、応えは「現在調整中です」というものだったと報じている。これはどうしたことなのだろうか。希望者は多数いたにもかかわらず、外務省は何らかの方法で調整、すなわち一方的に選抜したのである。選抜理由が明らかにできない以上、避難民受け入れを国内外にアピールするパフォーマンスと指摘されてもやむを得ないのではないか。
◎[参考動画]日本へ避難したいが……政府専用機同乗の対象基準は?(ANN 2022年4月4日)
◆受け入れに積極的な地方 申しわけ程度の中央政府
政府専用機での移送をわずか20人に絞った政府にたいして、受け入れの準備がないからではないかと観測する向きもある。ところが、600以上の民間団体・企業・自治体が、すでに受け入れの名乗りを挙げているのだ。
政府は公益財団法人のアジア福祉教育財団難民事業本部に委託し、生活費や医療費などを支給するいっぽう、企業や自治体の支援については内容を整理し、避難民の希望も聞き取りながらマッチングを行う方針だという。佐賀県や天理市など、受け入れ人数を明らかにした自治体もある。
アジア福祉教育財団難民事業本部は、もとはインドシナ難民救済事業として出発した政府委託の民間団体である。今回の避難民は、入管が管轄する「難民」ではなく、在留期限を1年単位(6か月の生活費支給)で更新するとされている。その意味でも、あくまでも特例措置なのである。
民間では就労もふくめて、多数の受け入れが準備されているにもかかわらず、岸田政権の及び腰はいかがなものか。安倍晋三や菅義偉とはちがって人の話は聴くが、動きのにぶい政治であると指摘しておこう。
◎[参考動画]ウクライナ人をサハリンなどへ強制移住 ロシア軍(ANN 2022年3月26日)
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。