ロシアのウクライナ侵攻による戦闘は長期化しています。最近ではキーウ(キエフ)周辺からロシア軍が後退する一方で、東部の2州での戦闘が激化していると伝えられています。
◆広島でも反戦運動の反面、核武装論も勢いづく
こうした中で広島市でも、ロシアのウクライナ侵攻に抗議する行動が行われています。4月10日には、若者たちの3日程度前の呼びかけにより、原爆ドーム前に多くの人が集まりました。
一方で安倍晋三さんや「維新」による「核共有論」なども物議を醸しました。「核共有論」については、自民党でさえも、正式な党の見解として否定をしています。しかし、最近、「金正恩主義」とでもいうべき主張が街頭で接する有権者の方からも目立つようになりました。
この4月10日も、別の場所で街宣をしたあと、原爆ドーム前にかけつけようとした筆者に対して、以下のような主張をしつこくされる方がいらっしゃいました。「これからはアメリカには頼れないから、日本が独自に核武装して自衛するしかない。」ということです。
これは、そのまんま、朝鮮の金正恩総書記の主張です。金正恩総書記の主張は大まかにいえば、以下のようなものです。
「アメリカにやられないようにするには、我々は核兵器で対抗するしかない。」
アメリカをロシアや中国に入れ替えれば、この「おっさん」の主張とまったく同じになります。
◆イラク戦争で加速した「金正恩主義」
冷戦崩壊でソビエトや中国の後ろ盾がなくなった以上は、アメリカにやられないようにするには、核兵器をもつしかない。そう金正恩総書記が考えるのも思考回路として「わからなくはない。」
実際、2003年のイラク戦争は、アメリカはイラクに大量破壊兵器がないにも関わらず、「ある」と決めつけて攻撃しました。金正恩総書記の父の金正日が「イラクは核兵器がないからアメリカにやられた」と考えたとしても不思議ではありません。実際、イラク戦争後に朝鮮は核兵器開発を加速させているのは皆様もご存じのとおりです。
◆「5大国はまとも」という国連・NPTの建前と実態のかい離
アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス。この5大国は第二次世界大戦の主たる戦勝国であることを背景に、国連安全保障理事会の常任理事国となっています。また、1968年に発足し、1995年無期限延長が決まったNPT(核拡散防止条約)で核兵器の保有を既得権として認められた国でもあります。両方のことには明らかに密接な関係があるといえます。
この五大国は「ある程度はまとも」だから、拒否権や核兵器の保有といった大きな力をもたせておいてもよかろう。また、大国同士なら、いわゆる核抑止力もはたらくだろう。
上記のような建前で、20世紀後半の国際秩序は動いていた、といって間違いないでしょう。5大国以外の国でとくに北半球の国は多くがアメリカかソビエトかにつき、どちらかの核の傘に入りました。
もちろん、実際にはヒヤリとする場面もありました。たとえばアメリカは朝鮮戦争で核兵器を使おうとしました。また、キューバ危機は有名です。その他にも核兵器という刀の柄に手を掛けたことは、何度かあったことが明らかになっています。実際のところは、たまたま、核戦争が幸運にも起きなかっただけかもしれません。ただ、核兵器の実戦使用は、ヒロシマ、ナガサキにおけるアメリカ。そして、アルジェリア独立戦争における実験と称したフランス軍による使用。これでとどまっているのも事実です。核兵器使用に反対する世論が大きいこと。それを考慮する程度の合理性は5大国の為政者にあったこと。これも事実でしょう。
他方で、冷戦時代、核は使わなくても、集団的自衛権と称した侵略も米ソ双方やっていました。そして、核兵器を独占する5大国への不満もつねにありました。「君たちは非核兵器国の安全を保障してくれるのか?」と。
◆イラク戦争契機に建前と実態のかい離拡大、そして「金正恩主義」の勃興
こうした建前と実態のかい離は、21世紀に入ると拡大していきました。911テロ後、アフガニスタンを侵略したアメリカ大統領のジョージ・W・ブッシュ被疑者はさらにイラクに先制攻撃。これは「大量破壊兵器がある疑い」で一方的に行ったものでした。そして、多くの市民が犠牲になりましたが、大量破壊兵器はありませんでした。「共犯者」の英国首相・トニー・ブレア被疑者は謝罪して政界を引退したものの、ブッシュ被疑者はまったく謝罪もせず補償もされませんでした。そして、中東は荒れ、ISが興隆。ISの鎮圧に手こずった米英は、結局、ロシアによる手荒なシリア空爆作戦を黙認することになります。このことで、プーチンが勢いづいた面は否定できないでしょう。そして、ロシアのウクライナ侵攻です。
そんなこんなで大国の信用は地に墜ちています。そうしたなかで、金正恩主義ともいえる考え方が日本をふくむ世界各地に広がるのも支持はしませんが「理解」はできます。
◆反米・反グローバリズムの一部に食い込む金正恩主義
また、反米主義・反グローバリズムの考え方の皆様の一部にも「金正恩主義」がくいこんでいる感じがします。街頭などリアルでも、筆者の食料安全保障強化や脱原発は支持しつつ、核武装して自衛するべき、という方に遭遇する頻度も以前に比べて増えています。アメリカへの反発の勢いあまって、という感じも受けます。もちろん、過剰なグローバリズムは脱却するべきでしょう。しかし、「金正恩主義」で大丈夫なのでしょうか?
◆収拾がつかなくなる金正恩主義
では、全ての国が「(核兵器をもつ)大国から防衛するために核兵器をもつ」などと言い出したらどうなるでしょうか?
おそらく、大混乱になるでしょう。日本だけがNPT/国連の例外だ、などということを納得する人はいないでしょう。「日本がもつなら俺も」と言い出す。実際に、過去にはアルゼンチンや南アフリカ共和国なども核兵器を開発していました。それを非核地帯条約加入にともない、放棄しているのです。昔のアルゼンチンや南アフリカ共和国のようなことを多くの国がやりだしたらどうなるか?合理的でない指導者が核のボタンをもつ確率もあがる。そして、おそらく、核兵器を使ってしまう国も出てくる。一度使われてしまえば、使用への心理的なハードルが下がる。そして、気がつけば地球滅亡、になりかねません。やはり、核兵器は禁止しかない。5大国も朝鮮などの小さな国も持たないようにしないといけないのです。
◆加害国であった過去 日本は忘れず核兵器禁止条約推進を
そもそも、日本が独自に核武装しようとすれば、国連憲章の敵国条項に抵触します。日本は袋叩きにあうこと必定です。日本は第二次世界大戦の敗戦国であり、アジアへの加害国です。そのことを忘れて独自に核武装など、袋だたき必定です。いわゆる反米や反グローバリズムは構わないのですが、日本が加害国であることを忘れて頂いては困ります。
日本の近隣にはASEAN・東南アジア諸国連合があります。すべて核兵器禁止条約に署名しています。あのミャンマーでさえです。最近では連携して米中両方にモノを言うようになっています。
NPT体制は核兵器廃絶を進めるものではありません。しかし、取りあえず、野球でいえばファウルボールでゲームセットを逃れるイメージで捉えれば良いでしょう。その上で、緊張緩和を、ランナーをコツコツ貯めていくイメージで進めていくべきです。
日本はとりあえず、核兵器禁止条約の締約国会議が6月にあるのですから、ぜひ、参加するべきでしょう。そうなると岸田総理の人気も上がって、参院選で広島の野党は筆者も含めて苦戦はまぬかれませんが、それはそれで仕方がないことです。党利党略ではなく、日本があるべき方向にすすむことが大事なのですから。
◆ウクライナ 1秒でも早い停戦を!
戦闘が長引けば長引くほど、核兵器をふくむ、力で問題を解決しようという考えが広がっていきます。正直、冷戦崩壊後、アメリカが調子にのりすぎて新自由主義グローバリズムで暴走した反動で、アメリカべったりの文脈の力の論理は、かつてほどは力がないかもしれない。
しかし、「金正恩主義」ともいえる「大国に対抗するために核武装」という考えは勢いづく恐れが日本国内はもちろん、世界でもありえます。わたしが街頭でお会いした「おっさん」のような方が一般市民の立場で発言する程度なら、笑い話でまだ済むかもしれない。しかし、朝鮮以外でも、国家の為政者が暴走して核を持ち出すようになってからでは手遅れです。あらゆる手段で1秒でも早くとりあえず、戦闘を停止することが大事です。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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