横浜副流煙事件「反訴」の第1回口頭弁論が、10日、横浜地裁で開かれ、原告の藤井敦子さんが「(被告らは)事実的根拠のない所見を記載した診断書に基づいて高額請求に及んだ」として、裁判所に厳密な事実検証を求める上申書を口頭陳述した。

被告の作田学・日本禁煙学会理事長ら4人と、代理人の山田義雄弁護士、片山律弁護士は欠席した。原告側からは、藤井さんと古川健三弁護士とが出廷した。

※被告は、第1回口頭弁論に関して欠席が認められている。

山田・片山の両弁護士が提出した答弁書

この事件は2017年11月にさかのぼる。藤井さん夫妻と同じマンションに住むAさん一家(夫妻と娘)が、藤井家の煙草が原因で「受動喫煙症」に罹患したとして、4518万円の損害賠償を起こした。しかし、藤井家からは、副流煙はほとんど漏れておらず、たとえ漏れていたとしても、気象庁の風向きデータによると、藤井家が風下になることが多く、A家への煙が流入していたとする主張には根拠がなかった。さらにA家3人の診断書のうち娘のものを、作田医師が診察せずに交付していたことが分かった。もちろん娘と面識はなかった。これは医師法20条違反である。

つまりA家の3人は、違法行為の下で作成された診断書を根拠として、4518万円の金銭請求を行ったのである。喫煙の禁止を請求しただけならともかく、高額の金銭請求を行ったのだ。

それが訴権の濫用にあたるとして、藤井夫妻は前訴の判決が確定した後に、A家の3人と診断書を作成した作田医師に対して約1000万円の損害賠償裁判を起こしたのである。

ちなみに藤井夫妻の地元、横浜市青葉区の青葉警察署は、2022年1月、作田医師を虚偽診断書行使の疑いで横浜地検へ書類送検した。横浜地検は、不起訴としたが、検察審査会が「不起訴不当」の議決を下した。

今回の民事訴訟は、A家による損害賠償裁判、藤井夫妻らによる刑事告訴に続く第3弾である。法的措置の前段の時期を含めると、事件は勃発から6年目に入っている。

◆山田弁護士、「今なお重大な健康被害を被っている」

被告の訴訟代理人山田弁護士(A家の3人の担当)は、10日に裁判所へ提出した答弁書の中で、「被告Aらが、原告らの喫煙によって今なお重大な健康被害を被っていることは厳然たる事実である」と述べ、現在も健康被害の原因が藤井さん夫妻にあるという事実を摘示している。

しかし、藤井敦子さんは、喫煙者ではない。夫の将登さんは、喫煙者であるが、自宅では1日に2、3本吸う程度である。しかも、喫煙場所は、防音装置がある密封性が高い音楽室に限られている。

前訴の確定判決で、Aらの健康被害と藤井将登さんの喫煙との間に因果関係は存在しないことが確定している。従ってAらの健康被害はタバコ以外に原因がある可能性が高い。

片山律弁護士(作田医師の担当)は答弁書の中で、作田医師の医師法20条違反を認定した前訴・横浜地裁判決について、「判決記載内容の限度で認め、その余は否認ないし争う」と述べている。今後、作田医師の医療行為が医師法20条に違反しないとする主張を展開する可能性が高い。

また藤井夫妻らが起こした刑事告発については、「虚偽告訴等罪を構成する可能性もあるため、被告作田においては、同罪についての告訴も検討している」と述べている。

原告の藤井敦子さんは、自宅で英語を教えている

【藤井敦子さんの上申書全文】

私は前訴において被告となった藤井将登の妻、藤井敦子です。この上申書では、本件裁判の被告らが、前訴(平成29年(ワ)第4952号事件)で請求した4518万円の根拠とした3通の診断書により、私たち原告がどのような被害を受けたかを述べさせていただきます。これらの診断書は被告・作田学医師が作成したものです。そのうちの一通は医師法20条に違反して自ら患者を診察しないで交付された違法なものでした。

事実的根拠のない所見を記載した診断書に基づいて被告らは高額請求に及んだのです。

平成29年12月5日、A家からの1通の訴状が我が家に届きました。これを機として、以後、4年のあいだ私たちの生活は翻弄され続けました。

長年にわたり、盆踊りやお神輿、高齢者の歌の会など多くのボランティア活動を行っていた私は、裁判に巻き込まれた後、これらの活動を中止せねばならなくなりました。裁判に時間を費やさなければならかった事情もありますが、「被告藤井家」の噂が地元で広がっており、誤解や噂がさらに伝播するのを恐れたのもその理由のひとつです。

年老いた義父母に対しても、私は接し方で迷いました。90歳を過ぎた義父母に対して、息子将登が4500万円もの裁判に巻き込まれたなどと告げることは出来ません。伝えれば義母などショックで寿命を縮めかねないと思いました。従って、未だ義父母には、裁判のことを伝えていません。

提訴されるまでは、同じ団地に住む義母の所へ月に2回ほどお喋りに行くことが、私の大きな楽しみの一つでありました。が、裁判を起こされたことで、私は笑うことが出来なくなっていました。義母が「何かよくない事が起こっている」と察してしまうのを危惧して、私は会いに行くのをやめました。

一度だけ、控訴審で裁判所にいた時、うっかり義母からの電話に応えてしまったことがあります。すると、義母は私の声の様子がただならぬと察し、その後、随分長い間、「あの時何があったのか」と聞き続けました。

兵庫県に住んでいる実父には、事情を話しました。そして頻繁には帰省できなくなったことを理解してもらったのです。

4500万円という金額を他人から請求されるのは想像を超える屈辱でした。大きなストレスになりました。ちょうど住宅ローンを払い終える時期でしたから、また借金をせねばならないのかという不安にかられました。請求額全額が全額認められることは無いとわかっていましたが、一軒の家を買えるぐらいの金額ですから、一時も平穏ではいられませんでした。

提訴された日にインターネットで作田医師について調べると、作田氏は日本禁煙学会という全国規模の反喫煙団体の長であることが判明しました。また作田学という名前とともに「禁煙ファシズム」という言葉も検索で出て来ました。その人物が「藤井将登が犯人である」と根拠ない診断書を交付したわけですから、当然、日本禁煙学会の政策目的が背景にあると考えました。実際、診断書の中で作田医師は、被告家族が重篤な病気になったのは、私の夫によるタバコの副流煙だと事実摘示をしています。現場に来たこともないのに、憶測でこうしたことを所見として記述したのです。夫を勝手に「犯人」にして、「禁煙撲滅運動」のマニュアルどおりのストーリーに仕組んだことは明らかでした。

診断書は、警察がわが家の捜査をはじめる根拠にもなりました。前訴が提訴される前後、藤井家に神奈川県警青葉署が2度にわたり来訪して取り調べを行いました。最初に刑事が来たのは、平成29年8月25日でした。2度目は12月27日でした。夫をなんとか犯人に仕立て上げようとしていることは明白でした。その偏見の根拠となっていたのが作田医師の作成した事実的根拠のない診断書でした。しかし、刑事らは、診断書の所見と整合するような事実はなにも確認できませんでした。2度とも深く謝罪して、わが家を後にしたのです。

ちなみに被告A妻と前訴の原告代理人山田義雄弁護士が、当時の神奈川県警本部長斎藤実に対し、わが家を取り調べるように陳情を行っていた事実も判明しています。夫に対して最初に内容証明を送りつけてきたのも、3通の診断書が交付された直後でした。これらの診断書が常に事件の根底にあるのです。

前訴の控訴審において、被告・A夫がある資料を証拠として提出しました。それは我が家を4年間監視したことを裏付ける日記でした。そこからは被告A夫が日常的に、我が家の行動をチェックしていた様子が読み取れます。特に、駐車場に夫の車があるか無いかを確認していたことがうかがわれます。車が無い時に、「臭う」とA夫が感じれば、その原因は私か娘の煙草だと疑っているようでした。裁判の中で、私は、何度か「私と娘は喫煙者ではない」と被告側に伝えましたが、彼らには私達が嘘をついているとしか映っていなかったようです。

受動喫煙の被害についての記録をつけることは、日本禁煙学会の「お困りになったら、こうしましょう」というマニュアルにも明記されています。裁判を起こしたり警察を動かすための証拠が必要だからにほかなりません。そして提訴の段階になると、日本禁煙学会の医師が診断書を作成するのです。

私は、患者の自己申告だけを鵜呑みにした診断書の作成は絶対にやってはいけないと思います。

まして客観的な証拠がないのに、自己申告だけをそのまま書いた診断書を根拠に裁判で法外に高額な金銭を請求することは訴権の濫用に該当します。診断書は、医師が患者本人を直接診察して、客観的な事実だけを記入するのが原則です。作田医師は、その原則を踏み外しました。

裁判所にはこの点に鑑みて、慎重に審理していただきたいと思います。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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おかげさまで創刊200号! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年6月号

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』