神奈川県真鶴町の松本一彦町長が町職員だった2020年2月、選挙人名簿抄本などを盗み出し、みすからが出馬した町長選で利用した問題を調査していた「選挙人名簿等流出に係る第三者委員会」は、4月28日、「報告書」を公表した。報告書は、松本町長と元職員、それに松本町政が誕生した後に選挙人名簿を受け取った町議らを刑事告発することが相当と結論ずけた。
これを受けて真鶴町は、「関係当事者に対する刑事告発及び損害賠償請求を行います」とする談話を発表した。談話の発信者は、「真鶴町長 松本一彦」となっており、型式上は松本町長が自身を含む関係者に対して刑事告発することになった。起訴される可能性が高い。
◎報告書の全文 https://www.town.manazuru.kanagawa.jp/material/files/group/29/daisansyahoukoku.pdf
この事件は、デジタル鹿砦社通信でも既報してきた。概要は次の記事に詳しい。
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報告書は、関係者が該当する可能性がある犯罪について、次のように述べている。
松本氏については、窃盗罪、建造物侵入罪、守秘義務違反の罪、公職法上の職権濫用による選挙の自由妨害罪及び買収(供与)罪が各成立し、尾森氏(注:選管職員)については、地公法上の守秘義務違反の罪、公選法上の職権濫用による選挙の自由妨害罪が各成立すると解されるものである。また、青木氏(注:町議)、岩本氏(町議)については公職選挙法上の被買収罪、刑法上の証拠隠滅罪が成立する可能性がある。
青木氏と岩本氏は、松本町長が自らの町長選で使った選挙人名簿(投票行動の有無を明記したもの)などの複写を受け取った後、焼却したり、廃棄したりしていた。それが原因で、「証拠隠滅」の可能性を指摘された。
一方、同じように名簿類を受け取った森敦彦議員は、それを警察に届け出ていたので、刑事事件に連座した可能性は低いとされた。
◆親密な人間関係が生んだ馴れあい
この事件では、真鶴町の市民グループがすでに松本町長らを刑事告発している。(受理されたかどうかは、不明)。第三者委員会の報告を受けて、真鶴町も刑事告発に踏み切ることで、事件の捜査が本格化する可能性が高い。
松本町長が選挙人名簿を持ち出した時の様子を、報告書は次のように述べている。
(注:当時、町職員だった松本町長は文書を盗み出した後、)文書保管庫から約100メートル離れた町役場に移動して、町が管理しているコピー機を利用して、約1時間かけてその選挙人名簿全部のコピーを取った。コピー後、持ち出した選挙人名簿の妙本は文書保管庫の持ち出した場所に戻し、コピーした文書は自宅に持ち帰って保管した。松本氏は、自身の選挙に際し、選挙人に選挙用はがきを郵送する際に宛名書きのため、当該名簿を利用したが、その選挙後も名簿を廃棄せず、保管していた。
この名簿を2021年の町長選の際に再コピーして、選挙管理委員会の尾森氏を通じて、一部の町会議員に提供したのである。
報告書は今回の選挙人名簿等の流出事件が起きた背景に、「関係当事者の遵法意識の欠如、関係当事者の馴れ合い意識、そして町としての情報管理体制の不備にあるものと結論」ずけている。人間関係が親密な小さな自治体の役所にありがちな体質を指摘している。実際、松本町長と尾森職員は竹馬の友だった。
第三者委員会の委員は、次の3氏である。
今村哲也(関東学院大学法学部教授)
加藤勝(弁護士 神奈川県弁護士会)
板垣勝彦(横浜国立大学大学院教授)
真鶴町民の間からは、「第三者委員会を設けてもうやむやになるのではないか」との声も上がっていたが、関係者が法廷に立たされる可能性が高くなっている。
なお、松本町長は辞任を表明していない。
▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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